第17話 Lepidolite

「お待たせ、タケル…」

 水晶みあが車に戻ると…タケルの姿は無かった。

「タケル?」

 辺りを見回す水晶みあ…周囲に人影はない。

 運転席側のドアの外にタバコが数本落ちている。

 タケルが吸ったのだろう…。


 車の鍵は付けっぱなし…。

(コンビニでも行ったのだろうか…)

 とりあえず、車の助手席でタケルを待つ。


 10分もすると水晶みあの心に不安が湧き上がってくる…。

(もう…タケルは戻ってこないんじゃないか…)

 水晶みあの目から涙が溢れる。

(タケル…タケル…)

 業務用の携帯を取り出して店に電話する。

「店長?タケルが居なくなったの…」

「えっ?飛んだの?」

 こういう業界ではたまにあること…店の金を持って逃げる奴は過去にも居た。

「違う…居ないの…」

「あぁー解った…代わりのドライバー回すから…」

「そういうことじゃないのよ!」

 自分と店長の認識のズレに苛立つ水晶みあ

 通話は一方的に切られて、ほどなく別のドライバーが迎えに来た。

 1人はタケルが乗ってきた車に移動して水晶みあを乗せたまま店に戻った。


「探してよ!」

 水晶みあが店長に詰め寄る。

「はぁ~金持って逃げたわけじゃないんだ…探すって言ってもさぁ~」

 タケルのことなど、どうでもいいのだ。

 警察の介入のほうが正直、面倒くさい。

「それより、次、入ってるからさ、すぐ行ってよ、ねっ」

「タケルを探してくれるまで行かない!働かない!」

 水晶みあの剣幕はヒートアップしていく。

「あぁ~解ったよ…あのあたりに1人探しに出すよ…だから仕事はさ…ねっ」

 無言でドアをバタンと閉めて、次の男の元へ向かう。

「あぁ~あ…次の客は災難だな…クレーム来そうだ…おい、誰か探して来い」

 店長がアゴで指示すると、一番若い男に視線が集まる。

「あぁ…行ってきます…何時まで?」

「しらねぇよ!形だけでいいから探すフリくらいしてこいバカ!」

 怒鳴られて、足早に若い男は出て行った。

「まったく…逃げるにしてもよぉ~…なぁ」

 店長が他のスタッフに同意を求めた…。


 水晶みあは車でも機嫌が悪かった。

 後部シートに座り、足で誰も乗っていないシートを後ろからゴンゴンと蹴っている。

「着きました…あの…いってらっしゃい…」

 水晶みあに恐る恐る声を掛けるドライバー。

 降りるときに無言でガンッとドアを蹴り上げる水晶みあ

 そのまま、ツカツカとホテルに消えて行った。


 2時間してホテルから出てくる水晶みあ

 機嫌は直ってない…直る訳も無い…。

「お疲れ様でした…」

 ドアを開けるドライバー、まるで高級店のホステスのような扱いだ。

「で?見つかったのタケル」

「あぁ…いや…なんの連絡も受けてないですけど…」

「電話くらいしなさいよ!」

 水晶みあがドライバーの髪を掴んで車に叩きつける。

「すいません…」

 タケルの行方は解らないまま水晶みあは帰路についた。



 Lepidolite…『名前もギリシャ語で「鱗」を意味する。剥離しやすく装飾品向け。石言葉は精神の安定』

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