9話-寄り添って咲く花の名



今日は久しぶりに名東区から外に出る日。

あの日以来ずっと名東区にいた私は、いつもより入念に準備を済ませ、最後に鏡に向かって笑顔を作る。


名東区から出たくない訳では無いが、以前起きたとある事がきっかけで、名東区の外に行くと時間と共にお腹が痛くなってしまう体質に悩まされている私、東野メイは、少しの不安と大きな楽しみを小さな胸に秘めていた。


今日はまた「あの人」に会える。



いつもと同じ空のはずなのに、なんだか違って見える今日の空を見上げながら、私は待ち合わせ場所へと急いだ。





2人でプリクラを撮ったあの日以来、毎日のように連絡を取りあってはいたものの、いつも忙しそうなあの人とは、もう会えないんじゃないかと思った事もある。


そんな少し寂しい気持ちを紛らわせるように、待受画面の2人を眺める日々を過ごしていた私の心が踊ったのは、つい先週の事だった。


夜にメールチェックをしている時に、あの人からのメールが届いていると不思議と安心するようになっていた私は、その日も受信BOXに名前があるのを見て、内心嬉しく思いながらメールを開く。


メールの内容は食事のお誘いで、あの人らしい丁寧な文体からも愛らしさが伝わってくる。


「もちろんなのです!」と返信を送り、メールを保護フォルダに入れた私は、その日から今日までの日々を普段より明るく過ごせた気がした。



そんな私が待ち合わせ場所に到着したのは、約束の時間のおよそ10分前で、時間を確認するために手に持った携帯電話があの人からの電話を知らせたのは、その直後の事だった。


「もしもし、おはようございます!」


「おはよ。メイちゃん、左見てー。」



そう言われて左に視線を向けると、鮮やかな緑の髪にトレードマークの髪飾りを付けた女性が、停車中の車の運転席から手を振っていた。


あぁ、やっと会えた。




不安な気持ちは、もうどこかに行ってしまっていた。

昨日までとは違う今日が訪れるような期待と共に、私はドアを開いてこう言う。


「おいなごちゃん、お久しぶりなのですっ」

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