第5話 水の加護



「いったいどういうことなんだ? 冒険者カードの不具合かなんかか?」


とうさまたちと同じく冒険者仲間であるダストさんが受付のおばさまにそう聞くと


「私にもわかりません…こんなこと初めてですので…。冒険者カードの不具合なんて聞いたこともありませんからねぇ…」


そう言って

カードをあちこち触ったり裏返したりして怪訝そうに見ている。


「だって能力値が完ストどころか[∞]だぜ? いくら紅魔の血を半分ひいてるからっておかしくないか?」


その場に居た一同が首をひねって

頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべている中、


「はははっ」


っと

突然とうさまが笑った。


それにつられる様にして

隣に居たかあさままで声をあげて笑いだした。


「ふふふふっ ほんとですねカズマ」


続いてダクネスかあさままで。


「ははははは。 確かにこれは…あいつらしいな。 ははは まったく」


そして

お互いの笑い声に堪えきれなくなったように、三人で顔を見合せて笑いはじめる。本当に心の底から楽しそうに、三人ともお腹を抱えて。


それを見ていたまわりの皆さんが呆気にとられていると、ダストさんが声を荒げて


「なんだよ三人して。何がおかしいんだよ? 説明しろよ! 説明を」

「あぁ ダスト。悪かったよ。 あぁそうだな。説明するよ」


とうさまが皆さんを振り返った。



****************




「このことに初めて気づいたのはめあねすが3歳の時だったかなぁ? ……そうそう。いつものようにめぐみんと爆裂散歩に行くついでにさ、弁当持って、いつかあいつが浄化した貯水源に行ったんだ。

その日は凄く暑くてね、めぐみんを木陰に寝かせといて、俺はめあねすに泳ぎを教えようと思って、海パンに着替えてたんだ。そして、さぁ行こうぜめあねすって振り向いたら、めあねすが居ない。

めぐみんも爆裂後で木陰にぐったりしてたからめあねすを見てない。

もしかしてモンスターに拐われた!?って焦ってあちこち探したけど見つかんなくてさ。

したら

貯水源のほうからぶくぶくって音がするじゃないか。実際青ざめたぜ」


とうさまは本当に怖かったと言う風に嘆息した。


「急いで飛び込んで、その泡のほうに向かって泳いでいって、潜ったら………めあねすが底に居たんだよ」


「沈んでたんだろ?溺れて。」


ダストさんのその言葉にとうさまはふるふると首を振ると。


「底に居たんだ」


とうさまは可笑しそうに続ける。


「水底をよちよちと歩きながら、俺を見つけると満面の笑顔で手を振ってた」

「「「は~!?」」」


皆さんがまたも一糸乱れずツっ込んだ。


それにはかあさまが続ける。


「私はめあねすが生まれた時からなんとなく気づいていたんですけどね。

彼女はおおよそ乳幼児がかかるような病気をしなかったのですよ。

突発疹だとかおたふく風邪だとかね。

おそらく風邪すらもひいたことないですよ。私の知る限りなかったです。

それより何よりも、子供の勲章でもあるはずの、ほんの小さな切り傷や擦り傷なんかするでしょう?普通に?

それすらも、振り向いた瞬間になくなってるんです。

私の娘は人類ではないのかと、一時毎日疑って悲しんでいました」


「…やっぱり…そうでしたか…」


ウィズおばさまがため息をつきながら、どこかなぜだか嬉しそうに呟く。

それにはダクネスかあさまが続く。


「私がめあねすに授乳している時、めあねすが私の心臓あたりに触れると、なぜだかとても懐かしいような、愛おしいような不思議な既視感を毎回覚えるんだ。

まるで旧い親友と向き合っているような…。

そしてそうすると増して母乳の出も 良くなる」

「ちょっと待てダクネス!? 何かがおかしかったぞ?今のエピソード」


キースさんが慌てたようにツっ込んだ。


「どこがおかしい? 心暖まる母子の逸話だろう!?」

「だってお前…処女だろう? 授乳どころか、母乳すら出るわけがないじゃねぇかよ?」


そんなダストさんの言葉に顔を真っ赤に染めたダクネスかあさまが


「ん―っ! こんな公の面前で私を辱しめるとは……なかなかのもんじゃないかダスト。お前もカズマに劣らず相変わらずの鬼畜ぶりだな安心したぞ」

「お前も変わらねーなぁ」


ダストさんがおぞましいものを見る様に言って捨てる。


「でもなんで処女のダクネスが授乳なんてしてんだよ? ってか、カズマもめぐみんもバカ夫婦揃ってこいつに何てことさせてんだよ!?」


それにはとうさまが。


「めぐみんは母乳がなかなか出なかったからなぁ。元々の容量が少ないからな。困ってたとこ、試しにダクネスのをくわえさせたらまぁ出るわ出るわ。

おかげ様でめあねすは産みの母に似ず、育ての親に似て、こんなにナイスバストになりました」


とうさまは心底嬉しそうに私の胸を指す。


「私の胸になんか言いたいことがあるなら後でじっくり聞こうじゃないか!? というか、カズマ私の胸大好きで堪らなくて寝ても覚めてもずっと離さないくせに。もう明日から当分触るのも見るのも禁止にしますからね」

「すいませんでしたぁぁぁぁっ」


泣きながら土下座するとうさまを横目に、ダクネスかあさまが


「大丈夫だカズマ。私がちゃんと毎日抱いて吸わせてやる」


「「子供の前で何言ってんだお前らは!?相変わらずだな!?」」


頬を真っ赤にしてうつむく私を指差して皆さんが盛大にツっ込んでくれた。



****************



そしてとうさまが実に嬉しそうに

楽しそうにみんなを見渡してゆっくりと話し出す。


「アクアだよ。あいつが居るんだ。めあねすが生まれた時からずっとめあねすを護って、いつもそばに居てくれてるんだ。」


その言葉が


その場に居た一同の顔をさーっと一気に

おだやかな微笑みに変えた。

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