先生!このクラスには降魔師がいます!

@Ryohey

第1話 先生!このクラスには降魔師がいます!

けたたましい爆音と共に、

砕け散った校門を

高原高校2年2組の生徒達は、

全員総立ちで誰一人言葉を発せずに

眺めていた。

砂煙の中から現れた

黒服の群衆が校舎に入っていく。

外の音も聞こえなくなり、完全な静寂を

迎えた後、口々に各々の感想を話し出す。

櫻木 桃子は隣で見ていた、辻 弘昌ひろまさ

の肩を叩いて話し掛けた。

「ねぇ!ちょっと!すごかったね!

ドラマの撮影かな~」

「さ、さぁーな。でもなんかやばくね?」

「え、何?辻くんビビってる?」

「びってねーし!」

ピンポンパンポーーン

と、聞き慣れた放送の音が鳴る。

『あー。皆さん。どうも。校長です。

えーとですね。とりあえず落ちつ───へぼぁっ!』

『エホン。いいか。よく聞け地球人共。

俺は第12支柱悪魔ダバロビスだ。

今日からここは、我が第12支柱悪魔団の

活動拠点になった。理由はともかく、そう言うことだ。明後日までにはまず、貴様らを滅ぼす。』

ピンポンパンポーーン

「滅ぼす。まじか。ウケるっ!!」

と、クラス随一のチャラ男

金森 遼太郎りょうたろう

机を叩きながら笑う。

それを見た周りの生徒も一斉につられて

笑いだす。

───と。次の瞬間だった。

クラス中のガラスと言うガラスが

一斉に割れた。

その異常現象に先程の笑い声は悲鳴へと変わった。

「え、何?これガチなやつ?」

「おいおい~まじかよ。遼太郎どーにかしろ。」

「いやいやいや!お前が何とかしろよ。辻!」

「ちょっと~皆まじで信じてんの?」

藤沼 琴葉ことはが長い茶色の巻き髪を

手で流しながら言った。

「藤沼ちゃん~強がってんじゃないの?」

「何よ、金森のクセに。」

「いや、どーゆーこと?」

「おい、皆!ガラスの破片で怪我はないか?

ガラス片で怪我しないように!触らず!」

と、注意換気しているのはクラスの

学級委員長の保原たもつばら吉弘よしひろ

である。七三に分けてピシッと決めた髪型に、

銀縁眼鏡という、いかにも多くの漫画家が

描くであろう優等生テンプレである。

「いやー真面目だねぇ~たもっちゃんは。」

と、遼太郎が椅子の上でだらしなく言い放つ。

「お前が不真面目すぎなんだっつーの!」

すかさず、辻がツッコミ入れる。

ダンッ!

という強めの音で教室の扉が開いた。

入ってきたのは赤い目が書かれた

仮面のようなものを被った

紫の頭で角が二つ生えていた直立二足歩行の

人のようで人ではない雰囲気を醸すそれが

入って来た。

『俺は第12支柱悪魔団員のパステルだ。』

「あのーこれって何かの映画の撮影ですか?

それともドッキリですか?そーゆーもう

いいんで、帰らして下さいよ~

ドラマの再放送録画してないんで。」

と、前嶋 由佳ゆかが不満げに言う。

『…』

パステルは人差し指を立てると

何かブツブツ言い出した。

するとその指先から紫の光線が飛び出した。

その光線は、

由佳のツインテールの右側を焼き落とし、

後ろで鏡とにらめっこしていた、

岡本 成海なるみの手鏡をも燃やした。

『貴様らよく、そんなに余裕でいられるな…

まぁそれも今のう───ぼきゅ!?』

全て台詞を言い終わる前にパステルは

遼太郎に殴り飛ばされていた。

『ちょ、え、まじ?いや、え?』

「おい、おっさんてめぇ、なるみんの

鏡弁償しやがれやっ!」

「ちょっと!あたしの髪は!?」

「あ、ありがとう!遼太郎くん!

でもこれ100均だから気にしないで!」

「ね?あたしの髪は?ジュッっていったんだけど。」

『きっさまぁぁぁぁっ!』

またしても人差し指から紫の光線を放った。

が、しかし。遼太郎はそれを避けて

左ストレートを赤い目のような模様に打ち込んだ。

ドムッという鈍い音と共にその丸い頭部に

遼太郎の拳がめり込んだ。

「必殺、遼太郎leftパンチだ。効いたろ?」

『ほっほぐぅぅ…』

パステルは敢えなくその場で気絶してしまった。

「すっすげぇ!!遼太郎!技名ひねりないし

ださいけど!」

「すごい!すごい!遼太郎くん!技名ださいけど!」

と、口々に遼太郎を賞賛する声が上がった。

「おいおい~お前ら~技名には触れんなよ~おい~」

「うむ!素晴らしい左ストレートであった。」

と、保原も賞賛の拍手を送った。

「んで?こいつどーする?焼く?煮る?」

遼太郎はパステルの角を握りながら聞いた。

「焼いても煮てもまずそうだな。ここは刺身か?」

辻がアゴをさすりながら答えた。

「いや、ちょっと待って何で食べる前提?」

と、桃子が突っ込んだ。

「あー。ももちゃん食べる?」

「いや、いいよ。金森くんが食べなよ。」

「んじゃーまずは角から~」

「「いやいやいや!」」

今度は辻と桃子が同時に突っ込んだ。

「ん?何かこいつ持ってるぞ?」

遼太郎はパステルのコートをまさぐると

紫のペンとよく分からない言語で書かれた

紙が出てきた。

辻と桃子と保原と藤沼は近くに寄ってそれを

覗き込んだ。

「何だろね。」

「ちょっと、辻。邪魔。」

「てめぇの胸が邪魔なんだよ!」

「悪かったわね?」

「ねぇ、貧乳の前でそーゆーこと言うの止めて?」

と、桃子が眉をひそめる。

「ふむ。これは…魔方陣のようだな。」

「ん?たもっちゃんこれわかんの?」

遼太郎が紙をひらひらさせて聞いた。

「どれ、かしてみてくれ。」

保原は遼太郎からその紙を受け取った。

「あ、ねぇ、その変なペンのキャップ

虫眼鏡みたいじゃない?」

「おっ、ほんとだ。」

遼太郎はペンを持ち、覗いてみる。

「特になーんもねぇな。」

「何と書いてあるかさっぱり分からんな。」

首をかしげたまま、その紙を遼太郎に返した。

「なーんだろな──ん!?」

「え、なに!?」

「お!こりゃあすげーや!この文字何て

書いてあるか読めるようになったぜ!」

「え、すご!」

「ほぉわぁーまじか。俺にも見せろよ。」

「ん。読むのだりぃから読んで。」

「んー?なになに?ダンゴムシでも

分かる悪魔召喚法。通称降魔術。ステップ1

魔方陣を描く。ステップ2呪文を唱える。

この時、指定された位置に指定された人数分

の詠唱者がいること。だってよ。」

「ダンゴムシ呪文唱えれねーだろ。ウケる。」

と、言って遼太郎は笑った。

「てゆーか、ガラス割った後から

何もしてこないね。あの人?殴り飛ばしたから

ヤバイかもって思ったけど… 」

「さーなぁ。寝てんじゃね?」

「侵略してきて寝るとか神経いってるわね。」

「悪魔に神経あんの?」

「てか、このお面みたいなの外れんのか?」

「知らね。辻、剥がしてみて。」

「まっかせろ!」

辻はパステルの仮面に手を掛けても引き剥がそうと

した。しかし、どれだけひっぱっても外れなかった。

「これくっついてるわ。」

「悪魔って言うのもガチかよ。」

「ふんっ。信じられないわ。」

「藤沼ちゃん~みたろ?ビーム!

あれはガチなやつっしょ。」

「うっ…」

「目には目を。悪魔には悪魔を。」

「ん?どした?たもっちゃん。」

「やってみないか?降魔術。」

「え?まじ?」

「あぁ。悪魔を召喚して、闘わせよう。」

「え、何?それ何モン?何クエ?」

「一か八か。悪魔が味方になってくれるかもしれない。」

「敵だったらどーすんの?」

「それまでだな。」

「えっ!いや、えっ!?」

「んー。まぁやってみよーぜ!」

辻が少年のような目で訴えかけてきた。

「んだよ辻!楽しそうにしてんな!」

「遼太郎は楽しそうじゃねーのかよ?」

「あ?楽しそうに決まってら!」

「ちょ、ちょっと~ほんとにする気?」

「ったりめーよ。」

「今はそれしかこの状況を打開する案はない。

呼び出せるのはプギョーという悪魔だな。」

「何か…かーわいいー」

と、桃子が嬉しそうに言った。

「とりま、チョークで魔方陣?書いて見よーぜ。

誰か、こーゆーの上手いやついる?

美術部いたっけ?」

「魔方陣…と美術が関係あるか分かんないけど…」

と控えめに言ったのは美術部の

雨野 佐江だった。三編みした髪を触りながら

恥ずかしそうする目が赤縁眼鏡の奥に見えた。

「んー。じゃあ!よろしくぅ!」

遼太郎は赤いチョークを手渡すと

チョークの粉を手を擦って払った。





数分後、紙に書いてあるのとそっくりな

魔方陣が教室の床に描かれた。

「えーと、とりあえず6人いるっぽいぞ?」

辻が保原に紙を見せながら言った。

「ふむ。この大きい一番外側の円周上にある

6つの小さな円に一人づつ立って、

この下のに書いてある呪文を一斉に唱えれば

よさそうだな。誰か6人出てきてくれ。」

そこで、出てきたのは

遼太郎、辻、保原、藤沼、

桃子、そして先程鏡を燃やされた成海であった。

一先ず、紙に書いてある呪文を

日本語訳にして別の紙に書き、

各々付箋やノートにそれを写した。

「うむ。皆、準備はいいか?」

「おっけー!」

「よゆー!」

「いいよ!」

「早くしてよね。」

「バッチシ!」

周りの生徒が固唾を飲むなか

それは始められた。

「3…2…1…開始!」

保原の合図で呪文の詠唱が始められた。

ピッタリと息が合った詠唱で

かなり上手くいっている。

しかし、それなりに長い文で

書いてあることも滅茶苦茶であった。

『…ダブロカブヌツオリコリヤ──ぐぎょ!』

と、何と全員同じタイミングで同じように

噛んでしまった。

「あちゃーまた始めっからかよ~」

遼太郎が舌を出して嫌そうにする。

「ふぅ。仕方ないな。」

「あたし喉乾いた~」

と言って成海がお茶を手に取ろうとした

その時だった───

まばゆい紫の光が魔方陣の中心から

放たれると、凄まじい音を立てて、

紫色の煙が辺りを立ち込めた。

そして、そこに写し出されたシルエットが

段々と明らかになっていった。

「すっすげぇ!!」

それは天井までに達していた。

そして、煙が晴れ現れたのは──

黄色い目をした紫色の鬼のような

まさに悪魔と言ったようなもので

禍々しい形相をしている。

大きな耳に4本もある角。

大きな手には鋭い爪もある。

『クーーーハッハッハッハッァ!

俺の名は超上級悪魔デロルバグナ!

んぁっ!久々すぎて体が重いぜぇ』

「何か…強そうじゃねーか!」

「だな。殺されねーよ…な。」

「あの、デロルバグナ氏。我々が

召喚したのは、プギョーという悪魔では?」

『あぁん?何だってそんな下級カス悪魔

呼ぶんだよ?』

「名前からしてよわそーだもんな。」

「して、一体降魔術とは…」

魔方陣が書かれた紙を眺め首をかしげた。

『ん?あぁ?プギョーの召喚呪文と

俺のやつはにてんだよ。俺のやつパクられたからよ。

途中まで一緒なんだよ。』

「と、言うことは…」

「俺たちが噛んだからこのすげーやつ

が来たってことかよっ!こりゃおもれー!」

「つか、呪文パクれんのかよ。」

『著作権とかねぇからなぁっ。』

「そーゆー問題!?」

『んで?何の用だ?』

「あの、デロルバグナ氏。実は

我々、悪魔を召喚したのは初めて何です。

どうか、色々とご教授願いたい。」

『んあ?何だ?それでいきなり俺を

呼び出したのかよ…

まぁいい。ほらよ。トリセツだ。』

と、デロルバグナは謎の黒い空間から

大きな本を取り出して、保原に手渡した。

『とにかくよ、詳しいことはそれに

書いてある。あーでもお前らにゃ読めねぇか。

魔界の言語で書いてあるからよ。』

「ん?じゃあこのペンの虫眼鏡でみりゃいんじゃね?」

遼太郎はペンを左右に揺らした。

『んあ?デビルペンじゃねーか。』

「あ、これ名前あんだな。ほらよっ!」

遼太郎は保原の方にデビルペンを投げた。

『んで?召喚主は誰なんだよ。』

「召喚主?」

『ん…あぁ。俺達、悪魔は召喚されたときに

召喚したやつの一人だけの指示に従うことに

決められてんだよ。その指示を出すやつの

ことを召喚主っつーんだ。』

「たもっちゃんでいんじゃね?」

「俺も保原に賛成だわ。」

遼太郎と辻が保原を推した。

他の者たちもその意見に頷くことで

賛同の意を示した。

「そうか…それならば僕がやろう。

僕が召喚主の保原吉弘です。」

『言っておくがな、お前を召喚主と俺が認識

した時点でお前は俺の専属降魔師だ。

俺以外の悪魔は呼べねぇから気を付けろ。

あぁ。

降魔師っつーのは悪魔を呼べるやつの事だ。

んじゃあ、用件を聞こうか。』

「はい。単刀直入に言います。

この学校を侵略してきた、悪魔達を撃退

していただけないでしょうか。」

『ほぉーん。了解したぜ。んで?

どこにいるんだ?そいつは。』

「んー。どこだろな。校長室とかじゃね?」

「うむ。その可能性が高いように思える。」

「放送の時に校長先生といたしね。」

『校長室?がどこか知らんが…まぁとっとと

連れて行けぇ。』

と、その時、またしても勢いよく扉が開いた。

手下の悪魔かと皆が思い、

一瞬の緊張が教室に漂う。

「お前ら!大丈夫かっ!!ってどぉうわぁぁぁ!?」

「あ!ヤマセン!」

そこに現れたのは、屈強な悪魔ではなく、

中肉中背、アラフォーの男、山之辺やまのべ

和博かずひろ。ここ、2年2組の担任だ。

生徒からヤマセンと呼ばれている。

「いやいやいや!何だそれ!悪魔か!?

お前ら離れろ!一体何がどーなってんだ!?」

「大丈夫ですよ~センセー!」

「櫻木?な、どういうことなんだ?」

「先生!このクラスには降魔師がいます!」

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