3話 友情の芽② 岸野さん

 話が途切れそうなるのを感じた。これはまずい。せっかく話す機会があるんだ。何か続けないと。


「そういえば、いままで岸野さんとそれなりに喋っていたけれど」


 元々の姿に戻ることを考えれば、浅い交流のままでもいいはずだった。だけど、仲良くなった先が読めない。だから、女友だちを作る事に躊躇ちゅうちょしてしまっている。


「もっとおしゃべりたいよね?」


 うん、でもいいのかな……。 いま仲良くなっても、元に戻れば、またやり直しになるかもしれない。

 少し間を置いてから喋った。


「そうなんだけど、どういう付き合い方をしたらいいんだろう……?」

「ふだんの菅原さんは、男子と仲がよくて楽しそうだと思う。けど同性の子にも、積極的に話したほうがいいんじゃないかな」


 彼女の目は真っすぐとぼくを捉えていた。けっして馬鹿にした言い方ではなことを物語っている。

 が、その言葉にドキりともする。半分は「ゆき」のことでも、半分は自分のことでもある。


 たとえこれ以上、女子と仲良くするように言われても、元の姿に戻った時、半端な付き合い方になってしまいかねない。けど岸野さんとなら……。


「岸野さんは素直で優しい子だと思う。仲良くなれるかな? できれば、自然体で付き合えたいよ」


 岸野さんとは元々仲がよかった。たまに話すくらいだけれど、ちゃんと会話ができるのは、彼女くらいだった。だからこそ、岸野さんが友だちになってくれたら、どれだけぼくの心の支えになるだろうか。


「ありがとう。わたしもそう思うよ」


 岸野さんは澄んだ声で、はっきりとぼくに言った。素直な喜びがわいてくる。


 ぼくが次の言葉を発するのに恥ずかしくして、少しウジウジしてしまう。けど意を決して拳をぎゅっと握ってから言った。


「よろしくね」


 笑顔になっているだろうか。作っているようだけれど、出来るだけ爽やかな笑みを見せる。

 不安とは裏腹に、岸野さんはぼくに微笑み返してくれた。


「菅原さんのこと、もっと教えてね」


 その言葉を聞いたぼくは、気づかなかった心のシコリのような物が取れた気がした。

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