第16話呪われた人形

 街に人形館という好事家が経営する展示館がある。館と言うより、普通の民家を改造した小さな見世物小屋にすぎない、表の看板には大きく人形館と書かれ、電話帳にも人形館と紹介されている。

 入館料は二百円と安く、作品を書く参考にするために訪ねることが多い。

 展示物も入館料の割には充実している。テレビなどで話題になるような髪が伸びる少女などのような有名な人形などはないようであるが、話題になった人形の写真などは雑誌から切り抜かれて所狭しと壁に貼られている。 著作権のことなど高齢の館長には問題ではないようである。それでも様々な人形がある。西欧人形、日本人形、南方系の人形。

 陶器製、木製、ガラス製、布製など所狭しと陳列されている。この館に収蔵をされたことに経緯が書き記されている。入り口付近に展示されている太った人形と痩せた一対の西欧人形にまつわる物語である。太った人形は布製であり、痩せた人形は陶製であった。

 人形の持ち主は二人とも彼女は隣町の薬品問屋に勤めていた。太った人形の持ち主はやせて華奢な体つきの、まるでモデルのような魅力的な女性だった。だが彼女は痩せていることが嫌だった。周囲の女の子は、みんなふくよかで丸みかかった体形をしていたのである。先輩も彼女より後に入社してくる娘もそうである。問屋で力仕事も多く、彼女の華奢な身体では抱え切れない箱もある。だから職場では軽んぜられていると感じていた。後に入ってきた女の子にも先を越されるのである。

もちろん悔しくて仕様がないが、諦めるしかなかった。

 彼女はいじめの対象になった。ところが職場で唯一、友人ができた。太っているが、華奢な女の子に彼女の方から話しかけてきてくれた。痩せた陶器製の人形の持ち主であるが、彼女も不器用で他に職場に友達はいなかった。


 二人はクリスマスの日に人形の交換を行う約束をし、そして二人は尊敬の気持ちを込めて、それぞれ人形を用意し、約束の場所に急いだ。痩せた女の子は太った友人にふくよかな布製の人形を、そして太った女の子は痩せた友人に敬意を込めて陶器製の華奢な人形をプレゼントとして選んだのである。

 同時に箱を開けた二人は泣き出しそうな顔になった。二人とも自分の体形の欠陥を指摘されたように勘違いしたのである。互いに友人から人形の受け取りを拒否した。そして準備した人形を箱に乱暴に納め持ち帰ったのである。

 悲劇が起きたのは、その夜である。

 唯一の友に辱めを受けたと思い詰めた二人は、同じ時刻に、それぞれ睡眠薬を飲み、手首を切り命を絶ってしまったのである。人形の服に点々と付着する黒いシミが、その血痕である。

「そんなつまらにことで、死を選んだのか」とつぶやいた。いつ、背後に立ったのか気付かなかったが、館長が私の質問に答えた。

「それが青春です。日ごろ孤独に閉ざされた二人は激しい感情にもてあそばれて死を選んでしまった。二人とも追い詰められて極限状態だった。他人には小さな衝撃でも二人には魂を破壊するには十分な衝撃だった。二人が死を選ぶ原因となり、血を浴びた二体の人形は、それぞれの遺族から当館に寄付され、今は仲良く隣同士に安置してあります。だが若い二人の血を吸った人形であり、魂を吸い取った人形であり、当館としては毎年、クリスマスイブの日には慰霊の行事をかかすことはありません」

 と館長は説明をした。

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