第15話ワラ人形の呪いⅡ
ワラ人形に呪いを込めて木に五寸釘で打ち付けたのは誰であろうか。林の中とは言え、周囲には疎らであるが人家もあった。
草木も眠る深夜の丑三つ時である。五寸釘を打ち付ける音に、近所の者は誰も気付かなかったのであろうか。それに本当にワラ人形の呪いで人を殺せるのであろうかなどと考えていた。
ふたたび人形の館を訪れると、館長が待っていたとばかり話しかけてきた。その日も客は私だけであった。館長はその後の経過を話したくて仕様がなかったようである。いきおい込み話した。
「今度は刑事が数名で来て、ワラ人形の呪いで本当に人を殺すことができるのかと聞かれたのです。もちろんワラ人形の呪いが原因で死んだと言われる事例を説明してあげました」
半信半疑で館長の話に耳に傾けていた。
「ワラ人形を打ち付けた犯人が見つかったにちがいありません。だからワラ人形が殺人の道具として有効かどうかを確認にしたいのです」と館長は自信たっぷりであった。
例の三体のワラ人形がガラスケースから消えている。
視線の動きに気付き館長は疑問に答えた。
「警官が証拠品として持って帰りました」
そんなことがあって数日後のことである。 地方紙の三画を飾る怪談通信なる記事で三人の自死事件に関する、警察の現在の捜査状況が出ていた。簡単に引用する。
一家三人心中の怪 裏にワラ人形の呪いが
前文、省略。
警察は一家心中のあった家の裏の竹林の木にワラ人形を五寸釘で打ち付けた犯人を特定した模様である。容疑者は殺意を否定しているが、一家の主人とは同じ職場で働いていたこともあり、一家の主人に怨みがあったことや深夜に裏庭に忍び込みワラ人形を木に打ち付けたは認めている模様である。ただイタズラ心で少し困らせてやるつもりだけだったと主張している模様である。また当局が深夜にワラ人形を竹林の中の木に五寸釘で打ち付けたところ、音が周囲の竹に共振、反響し、正常な人間の感覚さえ狂わせかねない気味の悪い音を立てたということである。一家心中、あるいは主人の手による無理心中の疑いも残っているが。一家に悲劇をもたらしたことは明らかであろう。
この記事を一読すると、すぐに僕は人形館に駆けつけた。
館長は新聞の読んでいる最中であった。
言ったとおりだ。でも共振、反響などではない。人間の呪いがワラ人形を通じて実現した。
彼は老眼鏡の下にずらし、上目づかいに私の顔を覗き込ん、貴方も試しにてはみませんか言って、陳列台のケースの下の引き出しを開け、ワラ人形を取り出した。
そして語り続けた。
あなたも悩みがありそうですね。お試しになりませんか。このワラ人形は本当に効果がある。大願を成就させることができた容疑者も何度かこの人形館に足を運び尋ねていきました。そう言えばちょうど貴方ぐらいの年齢の方だったらしいですよ。そういえば年齢だけでなく顔つきも体形も貴方とそっくりでした。ワラ人形を譲ったかと聞かれるのですか。とんでもありません。お譲りはいたしませんでした。でもワラ人形の効果は証明されたのです。このワラ人形は効果てきめんです。しかも犯罪に加担したなどと警察に疑われる心配もありませんよと強く勧めた。
彼は自己の言葉の矛盾に気付かないようであった。
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