第7話

奇奇怪怪の一日が終わりを告げる。後から考えると今日という日は今までに比べて本当に激しい一日だったと思う。賞金首を早く捕まえられたことはそう珍しいことではなかったが、今回は賞金首自体が特殊だった。あそこまで狂気的な殺人鬼を私は見たことはない。これからああいうものを沢山見て行くとなるとまるで終わりなき悪夢の永い続きをみているような気分になって胸が苦しくなる。あそこまで徹底的に人殺しを行う意図とはいったい何なのだろうか。そもそもの話ではあるが彼は何故酒場の人間を皆殺しにしたのか。強盗目的の殺人なら見たことはあったが、ただ人を殺す為にここまで派手にやらかすものなのか。わけが解らなくなってきた。


解らない事といえば自分の行動だ。今日の自分の行動が未だに自分で理解できていないし、理解できる可能性が見えない。何故『奴』を保護しようとでも思ったのか。いくらそれが幼い子供だったとしても彼は立派な犯罪者であり、立派な狂人であるはずだ。

なのに、私という愚か者は何故彼を宿屋まで隠し通してまで彼を保護しようと言う気に駆り立てられたのか、彼に助ける意義など存在したのか、全くもって分からない。これが彼の持つ力なのだろうか?

とりあえず彼を自警団にばれない様に秘かに処理しなければならない。そうでなければまるで私が彼の悪行を補助したように見られかねないからだ。だがさっきから何度もこのことを試みたが一向にできやしない。

やることになんら問題はなくむしろ今がチャンスであるのは既知のことである。しかしやろうとするたびにあと一歩が踏み出せない。まるで私の心が私自身を束縛してるような気分だ。

そういえば酒場で戦闘のときからそうだった。あと一突きで彼を倒せた筈であったのになぜ気絶させる程度で済ませてしまったのか。なぜ彼の瞳だけに目が行ったしまったのだろうか。考えれば考えるほど分からない。


彼がいつ動き出すのかも分からない。今はまだ気絶しているからベッドに寝かせて無理やり封をして彼の動きを止めているが、彼がいつ目覚めるのか、いつ封が切れるのか分からない。今はそれが一番の懸念事項だ。


そういえばさっきから書いていて気付かなかったが何故急に『奴』を彼と呼ぶようになってしまったのか。彼は私と親しい間柄ではない筈だ。ますます自分の行動に疑問を感じる。


とりあえず私に対するこの束縛の意味を探らなければ――


旅人の日記の今日の分はそこで終わっていた

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