第6話

ついさっきまで狂気に蝕まれていた心はこの一瞬で一気に我と還り、刻みつけられたその苦しみは何事にも変え難い怒りへと変貌を遂げた。


旅人はその怒りを一心不乱に己の剣、己の刃に充て、その矛先を『奴』に向けた。


そして『奴』に獣の如く襲いかかろうと近付いた時に旅人は『奴』の正体に気がついた。


『奴』は少年だった。少年の中でもまだ13歳にも達してない少年であった。だが旅人にとってそんな情報など取るに足らない事実でしかない。例えそれが少年だったとしても、少女だったとしても、神様だったとしても、相手は40人を優に超える罪無き者達を只事ではないやり方で殺した大虐殺者なのである。もうその心には人らしい感情など残っているわけもなく、もはや悪魔に憑依されたようなものだ。生かす必要性など何も無い。むしろここで殺らなければ再び惨劇が起きてしまう。旅人はそんな義務に駆られて剣を少年へと突き出し、闘争の幕を開けた。


そうすれば必然と少年は火炎魔法を駆使して旅人に抗う。しばらくの間、炎と剣の真っ向とした対立が続いたが、旅人の抜きん出た剣術の圧倒的優位に火炎魔法はなす術などなく、少年は角へと追い詰められた。もう誰も旅人を止めることなどできない。鬼のような恐ろしい形相に1ミリでも動けば息の根を止めてしまうぐらいにまで少年の首に対して突き出された剣。旅人の任務の達成は目前であった。しかしその時であった。旅人はふと少年の顔を見た。気づけば旅人は何もすることができなかった。刃を前進させてしまうことなどできなかったのだ。


少年の目に光はなかった。

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