寿司職人になるということ

@sss

第1話


私の名前は長田真也。恋人の奈緒の実家に挨拶に来ていた。奈緒の父康夫と二人で話すことに。康夫は寿司職人だった。


「君は寿司を握ったことがあるか?」


「あります。子供の頃ですが、職人さんと同じ材料で握りました」


「どうだった?」


「あまり美味しくなかったです。形は褒めてもらったんですけど、食べてみると何か足りなくて」


「そう。職人のようには握れない。なぜだと思う?」


「それはやはり職人は何年も修行して……」


「うむ。崩れたら寿司にならないから少しは練習が要る。だがな、握るだけだぞ?そんなに差が出ると思うか?」


「それは……」


「教えてあげよう。実は、私達寿司職人はただの人間ではないんだ」


「どういうことですか?」


「職人が寿司を握る時、指の汗腺からある物質が分泌されるんだ。それが寿司の表面に付着して旨味を感じさせるのだ」


「なるほど……それは生まれつきの体質なんですか?」


「まあ当たらずとも遠からずだな。見た方が早い」


康夫は机に置かれた銀色の容器を開ける。中身は黄土色のスライム状の物体だ。


「これが私の体にも入っている」


「はあ……」


「職人になる者はこれを飲むんだ」


「すると指から旨味の物質が出るんですか?」


「その通り。これを飲めば旨い寿司が握れる。君にも飲んで欲しい」


「喜んでお飲みします。しかしそれではなぜ何年も修行なさるんですか?」


「それは長生きしそうか見極めているんだよ。宿主に早死にされては困るからね」


真也は一瞬言葉の意味がわからなかった。


「宿主?」


そのとき康夫は「しまった」という顔をした。


「いやなんでもない。とにかく君もこれを飲むんだ」

「嫌だっ」


危険を察知した真也は立ち上がり部屋を出る。廊下には奈緒がいた


「何かおかしい!逃げるぞ!」

「逃げられないわ」


奈緒が道を塞ぐ。真也は振り返り廊下を駆け抜ける。裏口に着いた。


しかし時すでに遅し。辺りは寿司職人に囲まれていた。


……


私の名前は長田真也。寿司職人だ。

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