第17話 LOOP

 彼女を送る日…。

 正直言えば嬉しくは無い。

 コンビニで買い物して隣の市まで送って…それで終わり。

 失うのは時間と金とガソリン…得るものは…何も無い。


「パンが食べたい」

 そういうから、隣の市へ本を買いに行ったついでに人気のパンを買ってきた。

 また夜には、この市を往復するのだが…。


 迎えの時間まで大分時間が余る、戻ってくる途中で眠気に襲われ、コンビニの駐車場で仮眠をとる。

 目を覚ますと迎えの時間まで1時間半…彼女のアパートの近くに移動して再び眠る。

「パン買ってきたよ」

 パンを渡すと、一口ずつパンをかじる彼女。

 食べきれないけど…全部食べてみたい。

 幼い子供のような欲求。

 パンは食べきれない程ある…だけどコンビニにも行く。

 コンビニスイーツを買い、予約したというカフェに行くと言いだす。

 カフェでも相変わらず、アレをこうできないか…長々と注文に時間をかける。

 メニュー通りに頼めない。

 久しぶりに、こういうところで彼女と食事をするのだが…相変わらずだ。


(僕は何をしているのだろう…)


 客でも…恋人でもない…彼女にとって僕は何なんだろう…。

 小銭入れ程度の存在。

 そう納得できれば、楽になれる…きっと…。


 結局、この日隣の市を2往復した。

 別に彼女のせいではないが…ただ…疲れた…。

 運転に…いや生きてることに…。


 彼女の食事と一緒だ。

 ひとくちだけ…メニューのすべてを食べて見たいだけ…。

 僕も、その一皿に過ぎないのかもしれない…。


 事務所に送った矢先に、彼女はホテルに移動していった。


 今は何も思わない…慣れたとかそういうことではないと思う。

 彼女が僕の『恋人』ではないと認識しているだけ。

 強がりかもしれない…でも…そう思わないと…。


 この夜は早く寝た。


 何も考えたくなかった…。


 なんとなく逢えばこうなるような気がしていた。

 彼女が悪いわけではない。

 僕が笑えないだけ。


 何も期待していない…何も期待できない…。

 財布の中に、バレンタインデーに貰ったメッセージカードが入っている。

 3枚目となった今年は彼女の本名で…。


 昨年のメッセージカード『桜雪おにいちゃん』

 そうなのかもしれない…彼女が求めているもの…僕に求めているもの…。

 そういうことなのかもしれない。


 それは…無垢なる悪意。


 繰り返される…Loop…。

 戦場はココに在る…心の中に…頭の中に…。

 救えない…救われない…誰にも…どうにもできない…。


 僕に唯一出来ること…スイッチを切ること…自身の電源を落とすこと。

 出来るはず…子供の頃からやってきたこと。

 目に映るものを脳に送らないこと…。

 彼女の笑顔を脳に送らなければいいだけ…。


 遮断…次はいつ開く…。

 頭で『かごめ…かごめ』が鳴り響くんだ…いつも…いつも…。


 籠目、籠目 籠の中の鳥は何時、何時出やる…

 夜明けの晩に鶴と亀が滑った 後ろの正面…誰?

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