第十七話 壊れた推理


「さて、整理しよう」


 夕食を村上宅で済ませた後の午後11:00。エミリーは割烹着を着たまま髪を後ろに結びテーブルの上で資料を並べ始めた。


 にしても良く似合っている。


「まず始まりだ」


 そう言って取り出したのは全ての始まり、KABUKI町のバラバラ殺人事件

 

「まずこの事件において死体は5体。その内4体が死刑囚の遺体だとその後の検死で明らかに。そして残りの1体が岩崎 薫だと判明」


 そして並べられたもう1つの資料、それはそれぞれの遺体の検死結果。


「そしてその遺体の全てから主要な内臓が消失していることが判明。そこから大規模な臓器売買の組織があることを想定」


 そして、と言って次に取り出したのは高橋 直樹の写真だ。


「組織に追われていた高橋 直樹から情報を収集。しかし結果として保護はできず射殺された」


 そう、まんまと裏をかかれ結局。高橋 直樹は殺されてしまった。


「しかし逃亡の際の証言により、元倉病院が臓器売買の拠点になっていることが判明」


 そして取り出したのは以前もらった元倉病院の資料、そこには詳細な入院患者数、そして患者の個人データ、担当医、往診、その他もろもろの資料が詰まっている。


「以前、岩崎 薫の友人であった看護師の証言にあった人物。斎藤という医師と落合という医師だ」


 確かにその名前は出てきた、しかしなぜその医師たちなのだろうか。俺はその看護師に最も接していた人物と質問したはずだ、普通に考えたら臓器売買に関わっている人物は多くの人との接触を避けるはずだろう。だとするならばホームズが俺に質問させた人物像に当てはまらないはずだ。


「純が胸ポケットに差していたボールペンの映像を見たとき、看護師の彼女は手を膝の上に組んでおり、目が泳いでいて、言葉もたどたどしかった。故に正確な考えをできてなく、まず彼女が『最も接していた医師』という質問に対して思ったのは『つい最近、岩崎 薫に接していた医師』ということだったはずだ。そしてまず私がターゲットに絞ったのは最初に出た斎藤医師だ」


 まぁ、はっきり言ってこれは賭けに近かったと言っていた。そして次に取り出したのは後藤 有香の診断記録と斎藤医師のここ数ヶ月の医師記録だ。


「斎藤医師のここ最近の医師記録と事件が発生する前の記録を照らし合わせてみた。他の患者に比べ後藤 有香の診察数が高い」


 隣にいる村上さんと一緒にその記録を見てみると確かに他の患者に比べ、後藤 有香の診察数の方がおよそ2倍くらい違う


「特に手術や大規模な検査があるわけでもないのにこの異常な数値はなんだろうと考えた時にある仮説に思い至った」


 斎藤医師は後藤 有香の血縁関係者なのではないかと。


「そして、子供の勘なのだろうが部屋に飾ってある医師や看護師の絵でも特に多いのが後藤医師の絵だ」


 そう言って見せたのは資料にあった斎藤医師の写真と俺が撮ってきた後藤 有香の部屋を見比べるよく見ると斎藤医師と思われる絵が多く飾られてあった。


「そして純が聞きこんでみたところドンピシャ。斎藤医師は後藤 有香の父親だ」


 それを聞いた村上さんは頭に手をやり、なんて因果なんだろうかと呆れたようにつぶやいていた。だがこれだけでは斎藤医師が臓器売買に手を染めている証拠にはならない。


「確かにその通りだ純。そこでこれを見てみろ」


 次に渡された資料は斎藤医師に来た医療的依頼書だった。


「おい・・・これって・・・」

「そう、これは死刑囚の死亡特定診断の依頼書だ」


 そこには警察署、および裁判所の署名による斎藤医師宛の依頼書だった。


「彼は組織が扱うには手ごろすぎる駒だったんだ。そしてそこに後藤 有香が入院してきた」


 決してこれも偶然じゃない。


「おそらくは組織に取引を持ち出されたのだろう『お前の娘に適合する臓器を最優先で提供しよう。その代わり組織への死体調達の仲介人をしろ』といった感じでな」

「そして、それに斎藤医師が応じた」


 後藤 有香はその病気の取り扱いの難しさから病院をたらい回しにされていたのだと資料にはある。もしそれが組織の誘導なのだとしたら多くの病院を調べ上げなくてはならない。


「以上が今回の事件の全貌だ。だが斎藤医師だけではない。組織の人間は他にも病院内に潜んでいるはずだ。感づかれた瞬間証拠を消しにかかるだろう」


 だから、これからの行動は十分注意し、私の言った通りに動け。



 事件解決まで残り一話・・・

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