第51話 夢

 「最近、奇妙な夢を見るんだ」

 書斎のデスクに座って、私はパイプをくわえた。


 「ほう、それはどんな?・・・」

 友人は私の背中に向かって、ひとこと尋ねる。


 「最初のうちは漠然としていたんだが、この頃では、それが少しずつ鮮明になっているんだ」

 「鮮明に?・・・ と言うことは、具体的に君はその夢を覚えているというんだね」


 「ああっ、ただそれが私には恐ろしいことのように思えてならない」

 私はパイプの煙を深く吸い込むと、今度はそれを静かにと漂わせた。


 「で、それはどんな夢なんだい? 30年来の友人でもある僕には、それを聞かせてはくれないか・・・」

 友人は片手にしたブランディグラスをゆっくりと回す。


 「ひどく恐ろしい夢なんだ。何でいつもこんな夢が繰り返されるのか、私には見当もつかないのだが・・・」

 「正夢では?・・・」

 

 友人のひと言に、私は大きく反論をする。

 「そんなはずはない。私がそんなことをするなんて・・・」


 「で、君はその夢の中で、どんなことをするのだい?・・・」

 「聞かないでくれ!」

 私は友人の問いを無下むげさえぎった。


 「だがしかし、夢というものは、君の心の根底にある深層心理を表していると言っても過言ではないのだろう。だとすれば、君が見たその夢は、まさしく君の願望と言ってもよいのではないのかな?」

 「願望?・・・」

 そんなはずはない。いや、そんなはずがあってはならないだろう。


 「今だって、この時間が夢ではないかと思っているぐらいなんだ!」

 「と言うことは、その夢の中には僕も出てくるということかい? ならば、余計にと知りたいではないか、その君の夢とやらを・・・」


 私は、ゆっくりとデスクの引き出しに手を掛けた。


 「恐らくは、君が見た夢と言うのは『正夢』。だとすれば、君はその夢を実現すればよいだけの事・・・」

 「もう言わないでくれ!」


 「だが、しかし・・・」

 「頼む、言わないでくれ・・・」


 私はデスクの引き出しを静かに引いた。


 「それにしても、君はどんな夢を見たというんだ・・・」


 そういう友人に向かって、私はデスクの引き出しの中のピストルを握る。


 「夢の中の僕も、こうやって君を酒を飲んで・・・」

 「だから、もうやめろと・・・」


 「友人の僕にも話せないのかい?・・・」


 「いや・・・」


 そう呟くと、私は振り向きざま、友人に向かってその引き金をきつく握っていた・・・

 


 

 

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