第54話 田舎の幽霊、都会へ行く!

 ある時、田舎の幽霊が、都会に住み着く幽霊のところに遊びに行った。

 田舎の幽霊とは、私たちが一般にそう思っている、いわゆる額に三角形をした天冠てんかんを付け、白い着物を着た足の無いそれである。

 一方都会の幽霊は、スーツも来ていれば靴も履いている。しいて幽霊であるということを立証するならば、背中にと突き刺さった複数のナイフから、今も赤々とした血が滴っていることぐらいである。


 「ところで都会の。こんなまっ昼間から、わしらは人間のもとへ姿を現してもよいものなのか?」

 田舎の幽霊は、都会の幽霊のことを、いつもこうして『』と呼ぶ。

 「何を言っているのか田舎もん。すでに都会では夜の11時を回っておるわ」

 そういう都会の幽霊は、田舎の幽霊のことを、少しの軽蔑を込めて『』と呼んでいる。


 「夜の11時でも、このように明るいというのか? 何やら目がチカチカとするようじゃのう」

 目をしばたかせながら田舎の幽霊が手探りで道へとすすむと、若い女とぶつかった。俗に言うコギャルというやつである。


 振り返るコギャル。

 「痛っ! 何このおっさん、その頭のバンダナ変じゃねえ? ちょー受けるんだけど!」

 「・・・・・」

 その反応に、田舎の幽霊は今更以上に顔面が蒼白そうはくとなる。

 「と、都会の。な、何じゃ今のは。目の周りが真っ黒で唇が白かったが、新手の幽霊か?・・・」


 「あれは、コギャルという人間の仲間じゃな。まあ、あまりあいつらには関わらん方が良い」

 都会の幽霊も、彼女の後姿を煙たそうにと見詰める。


 「おっ、おじさんたちもかなり気合入ってんね~?」

 今度声を掛けて来たのは、どうやらパーティー帰りの若者らである。だいぶ酒も回っているようだ。

 「見ろよ、このナイフから流れる血なんか、リアル―――っ」 

 もう一人の若者が都会の幽霊を指差す。

 「それだったら、こっちのおじさんの顔なんて、本当に死んだ人の顔みたいだぜ。やっべーっ!」

 「やっ、やっべえ?・・・」


 「今夜はパ―ティ―、ぱ~っといきましょうかあ!」

 そう言うと、彼らはポケット中から何やら取り出すと、夜空に向かって一斉にその紐を引いた。

 「パンっ、パンっ、パンーっ」

 そのクラッカーの音に、今度こそ田舎の幽霊は完全に腰を抜かしてしまった。


 「パ―ティ―、最高―っ!」

 田舎の幽霊が振り返った時には、若者らはまた夜の街へと消えて行った。


 「い、今のは?・・・」

 目を丸くして尋ねる田舎の幽霊に、都会の幽霊は頭を抱えながら答える。

 「都会では、若い人間どもが、ああやってバカ騒ぎをしているんだよ。あいつらは本当に怖いもの知らずで・・・」


 この言葉に、田舎の幽霊の中では何かが弾けた。

 「怖いもの知らず?・・・ ならば、本当の怖さというものを教えてやろうじゃないか」

 言うや、田舎の幽霊は辺りを見回しながら、都会の幽霊にひと言尋ねる。


 「ところで都会の。柳の木はいったいどこにあるのだろうか?・・・」

 

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