第12話 火種

 南の果ての海の、そのまた果てに、二つの島があった。

 島の名前は、大きい方がパパンガ島、小さな方がペリンガ島。

 二つの島の住民は、とても仲良く暮らしていた。


 大きい方のパパンガ島には、豊かなジャングルと澄み切った湖がある。もちろん、果物や魚もたくさん獲れる。住民は畑を耕し、おまけに家畜まで飼っている。

 人々は温暖な気候と豊富な食料とに大変満足していた。


 一方、小さな島のペリンガ島には、パパンガ島のような豊かな大地もなければ池もなく、その日の飲み水にも事欠く次第だ。

 ところが、ペリンガ島の人達は何不自由することなくここで暮らしていた。そう、ペリンガ島には島の外れにマグマが湧き出る穴があったのだ。

 パパンガ島には、それが無かった。


 ドロドロのマグマは、穴からあふれ出し、川のように一本の細い帯をつくって海まで続いている。

 やがてマグマは海の中で、大量の水蒸気と共に真っ黒な石へと変わっていく。

 ペリンガ島の人達は、このマグマを大いに利用した。

 つまりは、マグマを火種として使ったのである。

 炊事の時の煮炊きはもちろん、部屋の灯りにも、祭りの時にも火種は必要であった。時には、死者を葬るためにもそれは使われた。

 ところが、パパンガ島にはそれが無かったのだ。

 火の起こし方など知らない島の人々にとって、このマグマの火は、まさに命の炎だったのである。


 パパンガ島の人々は、何としてもその火種がほしかった。

 最初に、たくさんの美味しい果物をペリンガ島に持っていくと、小さなマグマの火種と交換してくれた。パパンガ島の人々は、それを大切に島へと持って帰り火種として使った。

 ところが、しばらくすると嵐が島々を襲った。

 嵐が過ぎ去ると、パパンガ島にあったちいさな火種のマグマもすっかりと消えてしまっていた。


 パパンガ島の人々は、今度はたくさんの魚や貝を竹かご一杯にして持っていった。

 すると、ペリンガ島の人達は大変喜び、少し大きなマグマの火種と交換してくれた。

 しかし、それもパパンガ島の人々全員に分け与えるには少なすぎる。

 パパンガ島の人々は、抱えきれないほどの穀物と貴重な家畜の肉を携えて、ペリンガ島へと向かった。


 ペリンガ島の人達は、マグマの火種を定期的にパパンガ島へ運ぶ代わりに、パパンガ島からは島で獲れる、これらの食料や水などを定期的に持って来ることを望んだ。

 もちろん、パパンガ島の人々は了解した。


 それからも、パパンガ島の人々とペリンガ島の人達は、このマグマの火種と豊かな食べ物のおかげで、共に仲良く便利で裕福な暮らしをしていた。

 ところが・・・



 ところがある日、パパンガ島の北の崖の外れに大きな穴がポッカリと開き、そこからポコポコとマグマが湧き始めて来たのである。

 パパンガ島の人々は、みな手を叩いて喜んだ。と、同時に島の人々は、皆あることを考えた。

 「もう、ペリンガ島まで火種のマグマをもらいに行かなくても良いんだ」と。


 その日からパパンガ島の人々は火種に困ることはなかった。

 当然、船を漕いでペリンガ島へ行く必要もなくなったのだ。

 やがて、パパンガ島の人々はペリンガ島の事など忘れ始めていた。


 困ったのは、ペリンガ島の人達である。

 なにせ、この島では農作物はおろか、飲み水すら確保することが難しいのだ。

 ペリンガ島の人達は、なぜパパンガ島の人々がたくさんの食べ物や美味しい飲み水を持って来てくれないのか分からなかった。ただ、約束を破ったパパンガ島の人々が、段々と憎らしくなってきた。

 ペリンガ島の人達の中には、パパンガ島に戦争を仕掛けようと言う者まで出てきた。

 もう、島の長老でも彼らを止めることはできそうもない。


 まったく困ったものだ。

 ペリンガ島もパパンガ島も、また新たな火種を抱えることになったわけだ・・・

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