じゃんけん寿司

はくたく

第1話 じゃんけん寿司


 その戦いは、食事時を外さねばならない。

 他の客の迷惑になるからだ。


「ここか……」


「ああ。俺たちの戦場だ」


 久しぶりに五人の友と再会した俺は、近所でもっとも有名な回転寿司店に来ていた。


「いらっしゃい!!」


 紫の暖簾をくぐると、威勢のいい声が俺たちを迎える。


「どれからいく?」


「最初は小手調べだ。これでいこう」


 友人が手に取ったのは、オレンジ色の皿。


「二百六十円か。よかろう」


 他の友人たちも、それぞれ同じ色の皿を手に取る。

 そして、寿司をつまみつつ談笑。

 だが、皆の表情は少しずつこわばっていく。勝負の合図は全員の皿から寿司が消えた時なのだ。

 一番遅かったヤツの口に、サーモンマヨ炙りが放り込まれたその瞬間。


「せーのっ!!」


『ジャンケンホイ!!』


 出し遅れは負け。


「ぐあっ!?」


「よっしゃ!!」


 悲鳴と歓声が交錯する。

 パーが二人。

 チョキが四人。

 俺はパー。


「決着を付けるぜ!! ジャンケンホイ!!」


「あいこでホイ!!」


「うあああああ!!」


「あぶねえ……首の皮一枚だぜ……」


 負けた俺の前に皿が六つ積まれる。

 積まれた皿の勘定は負けたヤツが持つのだ。これが俺たちの戦い。


「次だ次だ!! 次の勝負行くぞ!!」


 この勝負。何故か勝敗は偏ることが多い。

 今回も負けのこんだ俺の前に、色とりどりの皿が四十枚近く積まれた。他のヤツは多くて十数枚。

 回転寿司とはいえ、これはキツい。


「まいったすれば、皆で半分くらい持ってあげてもいいんだがね?」


「冗談じゃねえ。このまま一人で沈んでたまるか。大将!!」


「へい!!」


「この店で一番高い寿司は?」


「……フグの白子焼きですかね。二千百円です」


「よし。それいこう」


「マジか」


「ていうか、あんたが勝っても皿が減るわけじゃねえぞ」


「いいんだ。大将!! フグ白子六人前!!」


 しばらく後。

 フグ白子の乗っていたグリーンの皿六枚は、俺の前にあった。

 かくもスリリングなじゃんけん寿司。ぜひ一度お試しあれ。


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じゃんけん寿司 はくたく @hakutaku

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