方程式(映画、ビューティフル・マインドを見て

 先日、ビューティフル・マインドを見ました。古い映画です。ラッセル・クロウ(カメレオン俳優ですね…。素晴らしい!)やポール・ベタニー(大好きな俳優さんです。)、ジェニファーコネリー(デビュー当時は、こんな綺麗な人がいるのかと驚きました。今でもその美しさは健在!)が出演している作品で、実話を元にした映画です。


 だから先ずは、ネタばれに近い事を書きます。


 アメリカの数学者、ジョン・ナッシュは微分幾何学と言う、私にとっては意味不明な学問の研究で功績を残し、ナッシュ均衡と呼ばれる、これまた意味不明な理論を展開し、『非線形偏微分方程式論とその幾何解析への応用(もう、未知の世界の向こう側です)』に関する貢献などでノーベル経済学賞やアーベル賞などを受賞した人物です。

 しかし統合失調症に苦しむ人でもあり、視覚障害、聴覚障害を通して、存在しない人が見えたと言います。(若しくは治療していた病院がそう判断しました。)


 映画は事実を誇張したと思いますが、ジョン・ナッシュを演じるラッセル・クロウの周りには、3人ほどの架空人物が付き纏います。その3人はジョンが造った幻想の人物であり、彼の味方です。

 しかし同時に現実世界では、若しくは他人の目線からは、ジョンの障害でもあります。

 映画は現実と幻覚に苦しむジョン、そして彼の側で同じく苦しむ奥さんや友人を描いています。

 映画の最後でジョンは幻覚と現実の区別がつくようになります。しかしそれはつまり、未だに幻覚を見ていると言う証拠なのです。




 映画館で上映している頃に見たのですが、その時は若過ぎたので、余りピンと来ない映画だと言う印象だけが残りました。

 しかし先日、久し振りにこの映画を見て私なりの見解に至りました。


 話は飛びますが、韓国のキムCと名のシンガーソングライターが作った歌に、「数学が好き」と言うものがあります。『人と人との付き合いや、人生は難しい。だから数学が好きだ。』と言う内容です。

 数学は誰もが拒絶感を覚えるものでしょうが、導かれる答えは最初から決まっています。1+1=2、4×6=24なのです。(これは算数ですね…。)キムCは歌の中で、『人や人生もそうあったら良いな』と述べています。怠けている訳ではなく、苦しみ悩んだ挙句に出た、哲学的な答えです。

 映画の中のジョン・ナッシュも多分、同じ事を考えていたのだと思います。



 よく耳にする言葉に、『恋愛の方程式』とか『勝利の方程式』とかがありますが…果たしてその方程式は完璧なものなのでしょうか?


 結論から述べると、恐らく完璧な方式、計算式と言うものは存在する事でしょう。森羅万象の全てが、何らかの存在として明確なはずです。

 しかし方程式に出てくるXやY、そしてZ。…映画の中でもあちらこちらにそれを描いた場面が現れます。…恐らくジョン・ナッシュは、この存在に苦悩したのでしょう。



 仮に一人称、つまり自分自身がXだとします。そして二人称、相手がYだとします。Yは事業に失敗し、ホームレスとして生活を送っています。そこに、成功したXが現れます。

 ここで大きく2つに分けて、『A.力になってあげなければならない』、『B.情けは彼のプライドを傷付ける。止めておこう』と言う心理がXに働くと思います。

 そしてこれはYも持ち得る心理です。『力になって欲しい』、若しくは、『惨めな姿を見せたくない』と思うはずです。


 お互いがAの心理を持っていれば、若しくはBの心理であれば問題は発生しません。しかし片方がA、片方がBの心理だったのなら問題が生じ、2人は疎遠になる事でしょう。

 ここに三人称、つまり世間の目が加われば、正解…つまり真実は何なのかが分からなくなります。XとYが同じAの心理を持っていたとしても、世間がBの心理であれば『人に頼るな!』、『自分が足りなくて失敗したのに、甘え過ぎてる!』と、Yは皮肉を囁かれます。XとYがB、世間がAならXは『人でなし!』、『自分さえ良ければ良いのか!?』と避難を受ける事でしょう。

 そして更に言えば、人の心理や社会の視線はAとBで収まるほど簡単なものではありません。こうなるともう真実は、砂漠の中の砂になってしまいます。



 キムCが言うように数学は、式さえ正しければ導かれる答えは1つです。方程式も例外ではありません。そして『恋愛の方程式』や『勝利の方程式』も存在する事でしょう。

 しかしそこに含まれるXやY…。Zや、その他の仮定数値が難解なのです。

 その点から言うと、『何たらの方程式』と謳った書物の信憑性はゼロに等しいです。完璧な計算式はあるにせよ、X、Y、Zなどの仮定数値の実体は載っていないからです。

 載せられるはずもありません。人の心理は、一冊の本に収まるほど簡単なものではありませんから。


 だから恐らく、ジョン・ナッシュは幻想の人物を造り上げたのです。


 彼が作った方式は完璧でした。しかしそこに含まれる仮定数値の解明に苦悩したのでしょう。だから行動パターン、性格や感情、その人物の背景や環境、年齢(映画の中でジョンは幻想の少女が歳を取らない事に気付き、現実と幻覚の見分け方を体得します。)までをも完璧に設定した人物を造り上げたのです。

 そんなX、Y、Zがいたら、方程式の解析は完璧なものとなるからです。




 上で述べたAとBのパターンは、私が長く考えていた事です。答えが見つからず、ずっとモヤモヤしていました。

 でもこの映画を見て、すっきりした気になりました。(……。多分です。)

 結局、答えなんか見つかるはずもないのです。Xの正体も見抜けない私が、YやZの事を知る由もないのです。

 …人が、理想の上司や恋人を思い描く理由が分かった気がします。



 …神様がいるのだとしたら、とても羨ましく思えます。あの人は全知全能…。人を創り上げた存在なのですから、方程式を解くくらいは朝飯前の事なのでしょう。

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