御託

ベジタリアンの一部は差別主義者

 動物を口にせず、植物だけを食すベジタリアン。理由は色々で、健康の為、宗教の為、そして、動物が可哀想だからと言うものまであります。

 短編集の『食べると言う事』と言う作品は私の意見を反映したものですが、ここで改めて論じようと思います。


 私は、菜食主義に反対です。


 健康の為だと言っても肉体の構造上、動物性の食品は必須です。人間の目は側面ではなく、前に付いています。肉食か雑食の生物なのです。一時的な食事制限なら納得出来ます。心の内で、『ああ、肉が食べたい』と思っているなら納得です。

 肉食、若しくは雑食である人間は、肉を食べないと体に異常を来たします。実際、うちの父親は宗教上の理由で動物を殆ど食べず、そのせいで涙や唾は出なくなり、皮膚は荒れ放題です。それが人体の構造なのです。人は、肉を食べて消化出来る体になっているのです。


 神様がいるのだとしたら、神様が人間をそう作りました。だから幾つかの宗教で、動物を食べてはいけないとする事にも納得がいきません。とある宗教では特定の動物を不浄なものとし、とある宗教では神や神の使いとして崇めています。(しかし神様は、豚を食べても牛を食べても美味しく感じる舌を与えてくれました。)

 区別も、時として差別です。誰かを蔑む事は勿論、誰かだけを特別扱いする事も、他の誰かに対する差別を行っていると思います。人も動物も植物も、命は全て平等だと私は思っています。


 だから、動物が可哀想だと言うベジタリアンは一番許せません。


 人を初め、恐らく全ての生物は自分と近い存在に親近感を覚えます。反対に、遠い姿の者には関心を持たず、時として敵対心を抱きます。

 例えば、目の前で何かの生物が殺されたとします。それが犬や猫、ましてや人なら目を塞ぐでしょう。しかし食べ物として認識されている豚や牛、魚が殺されても、然程の罪悪感はないでしょう。生食を好む人間なら、よだれを垂らすかも知れません。

 そして虫や、目に見えない微生物に関しては、その手足を引きちぎろうか頭をもぎ取ろうが、犬や猫の指1本を引き千切った事よりも嫌悪感を覚えません。

 …その延長線にあるのが植物です。彼らは動物とは、全く違った構造をしています。虫の頭をもぎ取る男子を非難する女子は、髪飾りを作る為に花をもぎ取ります。

 私には、矛盾した心理にしか見えません。


 動物が可哀想だと訴えるベジタリアンは、植物が可哀想ではないのでしょうか?彼らも種から成長し、芽を出して茎を伸ばし、そして葉を広げて太陽の光を浴びます。美しい花を咲かせ、実を実らせて子孫を残そうとします。

 彼らも紛れもなく、生きています。脳がなくとも、言葉を話さなくとも、間違いなく生きています。植物の成長を録画し、それを超早送りで見れば分かるはずです。彼らも与えられた命を、精一杯に生きています。

 実をもぎ取られても叫ばない。葉を千切られても抵抗しない。それが罪悪感と繋がらないのでしょうか?でも、彼らは食される事を望んでいないはずです。

 ベジタリアンの一部は、動物も植物も同じく生き続けたいと思っている事を悟らなければなりません。


 ガンジーの菜食主義も、正直気に入りません。彼は牛乳や地に落ちた実など、つまり生命の糸から自然と切り取られたものしか口にしませんでした。(ちなみに、うちの父親も似ています。動物性脂肪は入っていますが、牛乳は飲みます。そして卵は食べます。父親曰く、卵のうちはまだ、命が吹き込まれていないそうです。)

 牛乳は、お裾分けを貰ったと考えれば納得出来ます。でも落ちた実(や卵)は、決して生命の糸から途切れたものではなく、次の生命を繋げる為に落ちたものです。




『だったら、何も食べてはいけないのか?』と言う質問が返って来ますが、私が言いたい事はこれではありません。そこで偽善者になろうとするなと言う事です。植物だけを食べているから、私は酷い事をしていない…そんな考えは通用しません。どんな生物であろうと、平等に、正々堂々、一生懸命に生きています。

 しかし、どんな生物だって食事は必須です。誰かの命を奪い、若しくは少しだけ分けてもらう方法でしか生き続けられません。


 つまりは牛の肉を食す事も、植物の葉を千切って食べる事も、全ては平等な行為なのです。動物が可哀想だと思うベジタリアンは、植物にも慈悲や罪悪感を覚えるべきです。



 大切な事は、食べ残さない事。口にした全ての命に感謝を捧げ、自分の命の継続の為に犠牲になった相手に、敬意を払う事。私はそう考えます。

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