俺の妹は寿司が食えない

神山イナ

俺の妹は寿司が食えない

 俺と妹と親父の三人暮らしである俺の家では、祝い事のたびに出前の寿司を頼む風習がある。

 十六歳の妹は、それをとても嫌がった。


 なぜならば、俺の妹は寿司が食えない。

 食えないというか、『魚』がしぬほど嫌いらしい。

 魚の柔らかい食感や、独特の臭みが苦手らしい。


 そんなわけだから、我が家では寿司を取るたびに父と妹が揉めるのだ。

 今日も祝いで寿司を注文したのだが、ちゃぶ台に置かれているそれを囲むのは、俺と親父の二人だけ。


 争いは既に起きた。


 苦手なものを無理強いする父親を、妹は「虐待だ!」と罵って家を飛び出した。

 食えないものを強要することが虐待に当たるのか疑問ではあるが、本人にとっては相当嫌だったのだろう。




「ただいま!」


 ……妹が帰ってきた。

 結局外が寒かったのだろう、妹はすぐに戻ってきた。



「よう、頭は冷えたか? さっさと寿司を食べなさい!」

 禿げたオヤジが出迎える。


「ああん、もう! こんちくしょー!」

 やけくそになった妹は、『玉子』や『かっぱ巻き』など、魚に侵されていないネタだけを口に突っ込んだ。


 それを見たオヤジは言った。


「『寿司』を食べなさい!!」



 妹は反論する。


「はっ!? いま食べたし! あんた目ん玉ついてんの!?」


「それは『玉子』だろうがっ! 『寿司』を食べなさいっ!」


「玉子もお寿司でしょ!? いま食べたもん!」


「『玉子』は『寿司』じゃないッ! 『寿司』は、『ご飯の上に魚を乗せた料理』のことだ!」


「しらねーよ、はげ! がんこおやじ!」



「うるさい!!!! 玉子とカッパは寿司じゃないんだよ!寿司っていうのはマグロとかイクラのことを言うんだ!DHAが豊富だから目ん玉にも良いんだぞコラア!はやく魚を食べなさーーーい!」




「イヤダアアアアアアアアアアアアッ!!」




 妹が寿司桶をひっくり返した。

 ネタとご飯が分裂し、ほこりだらけの床に散らばる。


 俺の妹は寿司が食えない。

 俺の親父は頭がわるい。


 この二人と食卓を囲む限りは、俺も寿司が、食えない。   





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