第四話

 踏みつけられ、身動きが取れなくなった仁は柔軟性に優れた己の体を駆使して理香の体を見上げ、体操服姿の彼女へと拝むように両掌を合わせる。

 幼馴染みでなければ――幼馴染みであっても容認し難い不気味極まりない行動。

 慣れているとはいえ、仁の奇怪なる行いに理香はもう一人の幼馴染みへと助けを求める視線を向ける。

 が、助けを求められたもう一人の幼馴染みは下級生、同級生、上級生の女子たちに囲まれてほのかな苦笑いを浮かべながらも一人一人丁寧に相手をしており、女子に囲まれている東間を男子生徒たちが嫉妬と羨望が入り混じる瞳で睨んでいる。

「アイツ、また女子に囲まれているわね」

「子供の頃から変わらないよなー。そのせいでストーカーとかが大量発生した時とか対処の苦労したけど」

「ほんと、幼馴染みの男どもがどっちも手の掛かるバカっていうのは大変ね」

「手が掛かるのは男だけじゃないけどなー」

「何か言った?」

「いいや、別に」

 あからさまな態度で口笛を吹く彼に犬歯を剥きつつ、足を退けると仁は踏みつけられた背中を擦りながら立ち上がり、真正面から堂々と理香を観察する。

 先程までとは打って変わって真剣そのものな瞳。まばたきする時間すら惜しむように理香を直視している彼に、照れるように理香が半歩下がる。

「な、なによ。何か言いたいことでもあるの?」

「いいや。ただ、カメラを持ってきてないから脳内に焼き付けようかと」

「何を脳内に焼き付けるつもり!?」

「無論、理香のブルマ姿を。ちなみにブルマ姿と言っておりますが、体操服そのものにも結構な萌えを感じ取っております」

「殴るわよ!」

「望むところだ!」

「望まないでよ!?」

 握り締めた拳で彼の顔面を殴るべきか否か。

 仮に殴ったとしても誰にも咎められない――どころか殴られた当人が親指を立てつつ称賛の言葉を吐き出すであろうことは容易に想像でき、だからこそ彼を殴りたいという衝動を必死に抑えつけている。

「おお、流石は理香ちゃん。己を律するのが上手ですな」

「道場で心身を鍛えられているから。それにこの程度のことで自分の心を暴走させるようじゃお義父さんに失望されちゃうもの」

「師範も甘いようで厳しい人だからなー。この前、ちょっとした野暮用で道場に忍び込んだだけで無茶苦茶な特訓を強いられたし」

「野暮用? アンタが道場に来るなんて珍しいじゃない」

「ああ。師範代の写真が欲しいという依頼があって、しかもプライベート写真なら通常の三倍の価格で買い取ると言われたのでカメラを片手に」

「盗撮は犯罪だって、教わったわよね?」

「うむ。未遂だからOKなのだ。ついでに師範にこってりと絞られたから、どちらかといえばマイナスだったのだ。依頼も失敗に終わっちゃったし」

「当然の報いよ。反省しなさい。……で、いつまでまばたきしないで私のことを見つめているの? 瞳が渇いて充血し始めたように見えるんだけど」

「この両目が壊れるまで。だってほら、俺ってば理香のことが大好きだし」

「バッ――」

 鈍感系主人公のように都合よく聞き逃すことのできないほど堂々と、真正面から宣言された理香は真っ赤になって震える。

 その様子に愛らしさを覚えた仁はカメラを持って来なかったことを心の底から悔やみ、己の愚行を呪う。

「ああ、念のために言っておくけど俺の好きはLikeじゃなくてLoveの方だから。まあ今更、改めて言われなくてもわかっていると思うけど」

「ッ~、アンタは、どうしてそんなことを正面から言えるのよ!」

「無論、羞恥心を母の胎内に置き去りにしてきたからさ! ところで理香ちゃん、練習をサボりまくっていることに対して顧問の先生が青筋を浮かべているのですが」

「えっ? あっ!? や、ヤバッ!? ぜ、全員集合!」

 体育館中に響き渡る理香の叫びに我を取り戻した生徒たちが整列。

 一糸乱れぬ見事な連携。されどその程度で顧問の先生の機嫌を取り戻すことはできず、三十分の説教の後、紅白に分かれて練習試合が行われる。

「しっかしうちって男子バスケ部も女子バスケ部も中々高レベルだよなー」

「身体能力が高い生徒が多いからね。身体能力を無視して体格差だけで勝とうとする生徒もいるけど」

「大きいだけで勝てるほどバスケは単純な競技じゃないぞ」

「そんなこと、僕に言わないでよ。あと、ずっと見開かれている両目から涙が溢れているから、いい加減に目を休ませてあげたら?」

「確かに。理香の存在しない胸部はどれだけ激しい動きをしようと揺れ動くことは決してないと言える。しかし例え胸部が揺れずとも彼女の勇姿を見つめ続けることが俺のぎぶりょがは!?」

 直撃したバスケットボールから伝わる衝撃が想像以上だったのか、事前に身構えていたにもかかわらず受け身を取ることさえ叶わないまま吹き飛ばされる。

 なお、彼に向かって全力でバスケットボールを投げた理香は投げた後に自身が仁へとボールを投げたことを自覚し、謝罪しながらボールを回収する。

「成る程。つまり今のは無意識の行動だったのか。デリケートで気にしている部分の話は聞き逃しても体が勝手に動く、か。理香も結構恐ろしいね」

「凄まじく他人事として語っております東間君、幼馴染みの顔の形が変形しそうになったことについて一言、お願いします」

「自業自得」

「無慈悲過ぎるお言葉をありがとう。お礼に今夜、三十通ほど不幸な手紙を贈呈させて頂きまする」

「不幸の手紙じゃなくて?」

「不幸な手紙です。何故なら不幸なのは俺だから。俺の不幸さを存分に記した手紙をユーの家に送り届けることで少しでも俺の痛みを、苦しみを、憎悪を理解してもらおうとするのが今回の企画なのです」

「企画なんだ」

「Yes」

「練習試合を見終わったらどうする? 僕としては喫茶店にでも行って何か軽く食べたい気分だけど」

「割り勘なら付き合いまする」

「自分だけ多く頼むつもりだね。図々しいことこの上ない」

「そう思うのなら東間君も多めに頼めばいいと思います。なお、金額が俺の注文した物を上回った場合、割り勘ではなく個人で支払うことになるのでご注意を」

「あらかじめ断言する点は潔くて好感が持てるよ。理香がスリーを決めた」

「ほほう。中々上手いですな。そしてブルマが眩しい」

「本心からの言葉だから注意するのも躊躇う現状。他の子のブルマが視界にすら映っていない点もいっそ清々しいよね」

「何を当たり前なことを。俺にとって価値があるのは理香のブルマ姿。有象無象のブルマなど売って金に換える程度の価値しかない」

「本気なのか冗談なのか微妙な発言。だけどあまり堂々と宣言しない方がいい発言であることは確かだね」

「無論、お前以外に聞かせるつもりはない。もしもパパラッチに嗅ぎつけられたとしても、そのパパラッチは聞いてはいけないことを聞いたとして処分する」

「具体的には?」

「捕縛して保険医に引き渡す」

「ああ。確かに死ぬよりも酷い目に遭うことになりそうだ。畜生外道の行いだね」

「全ては俺を怒らせたパパラッチが悪い。おっと、相手も負けじと華麗かつ豪快なダンクシュート。流石は三年生。一年ほど先に生まれただけのことはある」

「河童として種族的に力があるのは知っているけど、陸上であそこまで華麗な身のこなしを身に着けるのにどれだけの時間を費やしたのか、想像を絶するかも」

「試合は割と拮抗。上級生と我等が同級生の力が拮抗している以上、勝敗を決めるのは一年共の力次第かねー」

「さあ。取り敢えず、どっちも頑張れー!」

 技の白組、力の紅組。

 技術と作戦で勝利を掴もうとする白組に対して紅組は正面からの力勝負で相手を捻じ伏せようと試みる。

 どちらが優れているのか――否、どちらの方が正しい戦術と言えるのか、その答えは誰にもわからない。

 強いて言えば勝利した組が正しかったと言えるだろうか。点を取られては即座に取り返す試合はしかし完全なる力押しで挑んでいる紅組の方がスタミナの消耗が激しかったのか、段々と点差が開いていく。

 それでも食らい付く紅組に対して白組が気を抜くことはない。点差が開いているといっても逆転できる範囲である以上、気を抜けば呑み込まれ、逆転を許す。

 だから白組は試合が終わるその瞬間まで油断も慢心も抱かず、必要以上に熱くなることもなく淡々と点を取り続け、付け入る隙のない彼等に対して紅組に逆転の術は存在しなかったため、最終的に107対80で試合が終了する。

 敗者となった理香は練習試合とはいえ悔しさを隠そうともせず、着替えを終えると仁たちを連れて帰路に就き、近くの喫茶店に立ち寄る。

「あー、もう! 悔しい!」

「その台詞、これで何度目だ?」

「これでちょうど十回目だね。悔しいのはわかるけど、もう少し声を小さくして言って欲しいよ」

「悔しいんだから仕方ないでしょ! やっぱり最初に仁へボールをぶつけたのがいけなかったのかしら?」

「あれは痛かった。半端なく痛かったぞ」

「自業自得って言葉を辞書に書き込んでおいた方がいいよ」

「俺の辞書に自業自得という言葉はバカな!?」

 先読みされたことに驚愕する仁を無視し、やって来たウェイトレスにメニュー表を開きながら注文を行う。

「私、とんこつラーメン特盛りで」

「僕はワッフルをお願いします」

「じゃあ俺はこの『焼きたてパンケーキレインボーソースを添えて』で」

「畏まりました」

 恭しく軽く頭を下げたウェイトレスを見送り、一人だけとんこつラーメンを注文した理香に男子二名から懐疑的な視線が向けられる。

「……なによ」

「女子としてとんこつラーメン特盛は如何なものかと思う」

「いいじゃない。お腹が空いたんだもの。私はアンタたちと違って激しく動き回ったんだからしっかりカロリーを摂取しないと」

「太るぞ」

「摂取したカロリー以上に動いているから、太る心配はないわ。……ちょっと筋肉が付き過ぎている気もするけど」

「大丈夫だろう。胸部がそれ以上硬くなることはな」

 音を置き去りにする速度で放たれた拳が頬を掠め、生じた風圧で裂かれた頬から血の雫が伝い、垂れ落ちる。

 慈悲なき警告は一度切り。次はないことを告げる瞳に見つめられた仁は微笑みながら許しを請う。

「ゴメンナサイ。俺が悪かったです。どうか許してください」

「次言ったら顔面にぶち当てるから」

「うい」

「返事ははい」

「はい」

 変わらない――進歩のないやり取りを完全なる他人事として眺めていた東間は密かに持ってきていた読みかけの小説の熟読を開始。

 ライトノベルと呼ばれる奇想天外な日常を送る主人公の生活に同情しながらも都合よく異世界に転生することなどあり得るのかと首を傾げ、しかし内容そのものはとても面白いので多少のご都合主義には目を瞑る。

「大体アンタはいつもいつも他人のことなんてお構いなしに行動して」

「フッ。それはそうだろう。むしろそうでなければ俺は俺でなくなる!」

「開き直るな!」

「開き直らなきゃやってられないんだ!」

「逆ギレするな!」

「なんでもかんでもするなするなって言う方が間違っていると思います!」

「なに子供染みたことを言っているのよ!」

「高校生は未成年だからまだ子供だもん!」

「大人ではないことは確かだけど、それは小学生並の言い訳よ!」

「失礼が過ぎるぞ、理香! 今時の小学生はこんな言い訳とも取れないようなくだらない妄言をほざいたりはしない!」

「自分で小学生以下って認めて恥ずかしくないの!?」

「お客様、あまり騒がれるようでしたら力尽くで外に放り出しますが」

「すみません」

「ゴメンナサイ」

 騒ぎを聞きつけたウェイターの覇気がない、同時に背筋が寒くなるような冷たい声に謝罪し、見つめ合ったまま沈黙する。

 視線を交わらせたまま微動だにしない若い男女の姿を疑問に思いつつ、取り敢えず騒ぐ気配はなくなったからかウェイターは店の奥に姿を消す。

 見つめ合う二人は視線だけで罵り合い――といっても仁が一方的に暴走して理香がその都度ツッコミを入れているだけだが――やがて疲労した理香が視線を外すと仁はガッツポーズを取り、勝利の美酒に酔う。

「アンタ、虚しくならないの?」

「結構虚しい」

「あっそ」

「お待たせ致しました。とんこつラーメンとワッフル、それに『焼きたてパンケーキレインボーソースを添えて』でございます」

「わーい」

 テーブルの上に並べられる三つの料理。

 湯気を立てているとんこつラーメンを豪快に啜る理香と、ライトノベルを熟読したまま写真ほど大きくはないワッフルを片手に持って齧る東間と、ナイフとフォークを用いて音を立てることなくパンケーキを切り分け、静かに食べる仁と。

 一番暴走していたはずの人物が一番テーブルマナーを守っていることに理香は何かが間違っているような気がするも、空腹を訴える腹を満たすために特盛りのとんこつラーメンを胃の中に流し込む。

「汁が飛んだぞ」

「あっ、ゴメンナサイ」

「仁にとってはご褒美じゃないの?」

「お前は俺を何だと思っている」

「変態」

「変態」

「幼馴染みたち二人が揃って俺のことを変態扱いします。こんな時は一体誰に相談すればいいのでしょうか。誰か教えてください」

「笑えばいいと思うよ」

「東間、アンタが何を言っているのか、私には理解できないんだけど」

「理香、食事中にしゃべるのはマナー違反だぞ」

「そうだよ、理香。ちゃんと反省しないと」

「…………」

 口を閉ざした理香の瞳に宿る怒りの炎に気付かない素振りを見せながら男二人は黙々とスイーツを口に運ぶ。

 口内に広がる甘い香りと味。少し濃過ぎるために飽きが来るのが早いという欠点こそあるが、飽きが来るまでは楽しめる味に顔を綻ばせる。

「ご馳走様」

「おっ、早いな、理香。だが早食いは体に毒だぞ?」

「食べている時にしゃべるのはマナー違反じゃなかったの?」

「誰かそんなことを言ったか?」

「僕は知らないよ?」

「理香、ダメじゃなイカ。ありもしない幻想を語るなんて、正気を疑われるぞ?」

「ねえ、殴っていいかしら? っていうかこの胸の内に湧き上がる熱い炎を収めるためにはアンタたちの顔面に拳を突き刺す以外に方法がないと思うんだけど」

「暴力反対!」

「暴力反対!」

「暴力じゃなくて愛の鞭よ。私からの愛情の印」

「なら東間にのみ与えてくれ。俺は愛を与える側。東間は愛を受け取る側」

「理香、和解しよう。そして二人で仁を倒そう。僕たち二人が力を合わせれば醜悪なる魔王、仁を倒すことができるはずだよ」

「却下。私は第三勢力。アンタたちが仲間割れしようと知ったことじゃない。同盟を結ぶ気もないわ」

「それでこそ理香、俺が愛する女!」

「仁、このままだと僕たちがボコボコにされるってわかっての発言なの?」

「死ぬ前にたい焼きを山ほど食べたかった。もちろん、尻尾まで餡子がたっぷり詰まっている美味しいたい焼きを。ただしカスタード、てめえはダメだ」

「ダメなのは仁の頭の方みたいだ。もうダメだ、おしまいだ」

 拳を鳴らす理香。現実逃避に没頭する仁。棒読み口調で絶望する東間。

 騒ぐ三人はここが喫茶店であることを忘れて戦争を始めようと立ち上がり、半ばキレ気味のウェイターに全員纏めて店から追い出される。

「あっ、これ、お勘定です」

「ありがとうございます」

 店外に追い出されてから財布を開き、律儀にお金を支払う仁にこれまた律儀に頭を下げて店内へ戻るウェイター。

 物理的に傷付けられなかったとはいえ、店内で騒ぎを起こそうとしてしまったことを反省する理香と東間の背後で仁は瞑想に耽る。

 蹲る三人の高校生を物珍しそうに眺める通行人は少数。

 その少数も内一人が仁であることを認識すると興味をなくしたように立ち去る。

 が、それでも注目を集めることは恥ずかしかったのか、立ち上がった理香は服に付着した汚れと埃を払い落とし、咳払いを行って場を仕切り直す。

「と、取り敢えずそろそろ帰りましょう? もしくは公園にでも寄る?」

「後者で」

「僕もまだ帰りたい気分じゃないかな」

「それじゃあ公園に行きましょう。というか一刻も早くこの場から離れましょう」

「もう、理香ちゃんってばせっかちなんだから。もう少しくらいここでみんなからの熱い視線を集めようじゃなイカ」

「じゃあ仁だけここに残れば?」

「ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ」

「それってデマだって聞いたことがあるけど」

「ウサギは本来、猫のように孤高を望む生き物だから、むしろ集団で活動することは早死にするリスクを背負うだけなんだよ。つまり小学校は積極的にウサギを殺そうと檻に閉じ込めて無理やり集団活動を強要しているんだよ!」

「へえー」

「トリビアをありがとう。でも熱弁することじゃないわよね」

「というかそれって本当なの?」

「さあ? 俺ってば機械専門で生物系の知識はあまりないからよくわからねえ」

「適当ね」

「所詮、人間が勝手に定義しているだけのことだからな。何が正しくて何が間違っているかなんて時間経過でコロコロ変わるし」

「後々、新たに見つかる真実も多い――?」

 理香と同じく立ち上がり、服に付着した汚れと埃を払い落としている最中、東間は辺りを見回す。

「どうした?」

「いや、誰かに見られているような気がして」

「またストーカー? これで何人目よ」

「今年で三十七人目。ちなみに理香ちゃんは二十六人だぞ。そして俺は貫禄の零!」

「自慢できることなの?」

「ストーカーがいないということは自慢できることだろう。下手な犯罪に巻き込まれる可能性も低いし」

「そりゃそうだけど」

「ううん。ストーカーとはちょっと違うような、それに見つめられているのは僕じゃない気がする」

「じゃあ理香ちゃんのストーカー?]

「私は何も感じないけど、言葉が通じないなら物理で制裁する必要があるわね」

「……うーん?」

 確証がないのか、首を傾げる東間は首を動かし続け、全方位を見回す。

 しかし彼等を見つめている人物は発見できない。ストーカーならば物陰に身を潜めているのが当然だとしても、どの方向から見られているのかもわからない。

「まあ見られていようと実害がないなら放っておいても問題ないだろう」

「それに実害があるとしても返り討ちにすればいいだけだものね」

「相手が女の子なら優しく撃退しないといけないよ」

「俺に襲って来なければ」

「誰かは知らないけどこのバカにだけは襲い掛からない方がいいわよ。老若男女関係なく服と下着を剥ぎ取られるから」

「子供だけは完全な犯罪になるからやめてよね」

「正当防衛に大人も子供も関係ない」

「言っていることは案外まともなんだけど、やろうとしていることはゲス過ぎて素直に賛同できないわね」

「右に同じ」

「ゲスゲスゲス」

 不気味かつ不快な笑い声を漏らす仁と視線をそのままに、公園へ移動し始める。

 振り返ってもいるのは通行人と仁だけで追跡者はいない。が、視線が離れることもないので追跡されていることは確実。

 しかしストーカーたちのように粘り付く視線ではない、見守るような温かい視線であるためか、見られていることがわかっていても特に不快感を覚えることはなかったため、無理に正体を探ろうとはせず、理香との雑談に興じた。

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