第二話
校長室より溢れ出る青白い炎の波。
熱さを持たない冷たい炎が世界の全てを包み込み、万象を焼き尽くす。
肉の焦げる不快な臭い。服は焼け跡一つ残されていないにもかかわらず、皮膚や肉に骨をも炭化する異常な炎に仁は鼻を鳴らす。
「子供騙しだな。いい年して悪戯が過ぎるんじゃないのか?」
「もう少し驚いたらどうなんだ? せっかくの遊戯が台無しだ」
嘲笑うような口調と共に炎の波は初めから存在しなかったかの如く一瞬の内に消えてなくなり、障害物のなくなった通路を進む仁の前には偉そうに豪勢な椅子に腰掛け、値踏みをするように彼を見据える冷たい眼差しの持ち主が一人。
傾国の美女と呼ばれてもおかしくない、不思議な美貌の持ち主はしかし顔以上に目立つ揺らめく尻尾は九本。
ふさふさかつもふもふな感触が愉しめるであろう豊かな毛に覆われた九つの尾は全て豪勢な椅子に座っている女性の臀部から生えているもの。
掌に青白い炎を揺らめかせている女性は不意にからかうような子供っぽい微笑みを浮かべると炎を操り、彼の目の前で破裂させる。
閃光手榴弾にも似た爆音と光。怯みこそしなかったが、五感の機能を一時的に麻痺させられてしまった仁は怒りを隠さず、犬歯を剥き出しにする。
「怒るな。年寄りの愉しみと思って受け流せ」
「年寄りなら年寄りらしく、もう少し威厳というものを持ったらどうなんだ」
「こう見えても昔に比べれば随分とおとなしくなったものだぞ。なにせ昔は少しばかりヤンチャが過ぎて、いくつかの国を滅ぼしてしまったほどだからな」
「お前みたいな年寄りに言い寄る権力者たちの気持ちがわからん。傾国の美女をやっていた頃も既に千歳を超えていたんだろう?」
「歳の話はするな。肌年齢は未だピチピチの十代を保っているが、それでも最近は気になる部分が出てきてしまっている。まったく、若い者に囲まれると自身が否応なく年寄りであることを自覚させられる」
「BBA無理すんな」
「殺されたいのか?」
「手駒を一つ失ってでも感情的に行動するのか?」
「フッ。手駒などと言ってくれるな。可愛い生徒を使い捨ての駒にするなどと、校長であるこの私が行うはずがないだろう?」
「リューグはよく使い捨ての駒にされているって嘆いているけど」
「適材適所というやつだ。それにあの男は下手をするとお前以上にしぶとい。幸運には恵まれていないが、悪運には恐ろしく恵まれている男だよ」
「それって良いことなのか?」
「さあな。酷い目には遭うが死に至るような事態は回避する。それが良いことなのか悪いことなのかを決めるのは本人だろう」
懐から取り出した煙草を口に咥え、眼前に一応ではあるが高校生の仁がいることを思い出した彼女は火を点ける前に灰皿で煙草を押し潰す。
「別に吸われたからって気にしないぞ。保険医だって校内でっていうか生徒の前で堂々と吸っているし」
「ありがたい、と言いたいところだが、私はこう見えても校長だ。その私が生徒の前で煙草を吸っては他の教員たちに示しがつかない」
「今更そんなことを気にするのか。とっくに手遅れだと思うが」
「手遅れだろうが何だろうが、吸わないと決めた以上は吸わない。それが私のルールだ。覆すことは例え我が伴侶となる者であろうと許さない」
「そんなこと言っているから婚期を逃すんだぞ。いやまあ、昔は好き勝手に権力者に媚びを売っていたみたいだけど」
「あの頃の私は結婚を軽視していたからな。穴があったら入りたいというか、昔に戻れるならあの頃の私を殴ってやりたい」
「創れるけど。タイムマシンくらいなら」
「……まあそんなことはいいとして、そろそろ本題に移ろう」
両手を組んで不敵に笑う彼女に仁は姿勢を正して直立不動の体勢へ移行する。
別段、姿勢を正す理由はなかったのだが、なんとなく姿勢を正したくなったから直立不動の体勢へ移行した。
そのことは彼自身も自覚しており、校長たる九尾の狐もまた彼の性質を理解しているので姿勢を正したことについて言及はしない。
「ネズミが二匹。近所の公園を徘徊していたらしい」
「駆除は俺じゃなくてもいいだろう。むしろ学生がやるべき仕事じゃない」
「確かにその通りだ。が、どうやら保険医がネズミの捕獲を望んでいる」
「だから弟子である俺にネズミ捕りをしろと?」
「彼女からのご指名でもある。可愛い弟子を頼りたいそうだ」
「断ったら?」
「特に何も。お前の言った通り、学生のやるべき仕事ではない。それに捕獲よりも駆除の方が優先されるべきだからな。まったく、懲りない奴等だ」
「懲りない、ってことは前にも来たことのあるネズミなのか?」
「さて、な。その辺りもできれば調査して欲しい。幸いなことにまだ直接的な被害は出ていないが、なるべく早めに対処するに越したことはない」
「やれやれ。で、報酬は?」
「学食のタダ券、三十日分だ」
「了解。まあネズミ二匹の捕獲程度ならそれくらいで十分だろう」
軽い敬礼を行ってから仁は校長に背中を向け、退出する。
去り行く生徒の背中を見送る彼女は扉が閉められてから煙草を咥えて一服。
紫煙が漂う校長室。間が悪いことに扉が開けられ、入って来たリューグに喫煙している姿を見られてしまったが、校長は気にせずに彼からの報告書を受け取った。
単身、学校を出て公園に移動した仁は子供たちの遊ぶ姿を眺めながらベンチに座り、自動販売機で購入した缶コーヒーを咽喉に流し込む。
平和な午後の一時。井戸端会議をしている主婦たちの声に耳を傾けながら彼はのんびりと空を見上げて一息つく。
「……平和だなー」
平日の真っ昼間。一人制服姿のまま、公園のベンチに座って缶コーヒーを啜る高校生に対して普通ならば冷たい眼差しが向けられるかもしれないが、良くも悪くも有名人である彼のことを眼中に入れている主婦はいない。
時折、無邪気な子供が仁で遊んだり、心を抉るような言葉を吐くものの、その程度のことでいちいち傷付くほど彼の心は軟ではない。
ただし耐えられることと痛みを感じないことは別問題。
傷こそ付かないが無邪気さ故の残酷なる発言に衝撃を受けた彼はベンチから離れ、缶コーヒーをゴミ箱に捨ててから茂みの中に身を潜めてむせび泣く。
男泣きをしている彼に容赦なく浴びせられる邪気のない罵詈雑言。
子供らしさ全開であるために反論することさえ許されず、けれど成長した時に報復のため、手帳に本日の出来事を記す彼の眼前に二頭のネズミが現れる。
「…………」
全長がおよそ一メートルを超えている巨大なネズミたちは何処から持ってきたのかわからない、しゃれこうべのような物を齧りながら仁と目を合わせ、何事もなかったかの如くその場から立ち去ろうとする。
が、仁を弄っていた子供たちが巨大なネズミを見逃すはずもなく、持ち前の旺盛な好奇心を発揮して二匹のネズミを取り囲む。
相変わらずの邪気無き瞳に穢れのない行動。されども相手は知性を有していようと常識を持たず、厳しき野生の中で生きてきた畜生。
子供たちの無邪気さなど意に介さず、近づいてきた獲物たちを食い殺さんと発達した前歯を剥き出しに彼等へ襲い掛かる。
「っと、そういうわけにはいかないんだな、これが」
割って入った仁は己の腕でネズミの前歯を防御。
鋭利に研ぎ澄まされた前歯は彼の肉を容易く貫き、骨まで達する。
が、そこまで。多量の血を噴出させることはできても骨に食い込んだ前歯はそれ以上、先に進むことができずに動きを停止させる。
突然の出来事に子供たちが硬直したのは一瞬。即座に危機的状況に置かれていることを理解した彼等は親たちの元まで逃げる。
「おー、危機感知能力は備えているかー。まあこの魔境で生き残るためには真っ先に身に着けておかなきゃならない能力だよなー。そして次が実力ですよっと」
骨を噛み砕こうとしているネズミの顎に掌底を入れ、よろめいたところで自慢の前歯を力で引っこ抜く。
へし折るではなく根元から力で引き抜かれたことで痛みの悲鳴を上げる巨大ネズミの背後よりもう一頭の巨大ネズミが彼を仕留めるべく、その頭に前歯を剥く。
「狙いは悪くない。悪いのは相手だったってことで」
頭狙いであることを看破した彼は自由になった両手でもう一頭の前歯を受け止め、両手に力を込めて前歯を握り潰す。
砕かれた前歯に後退る巨大ネズミを逃がさず、顎を蹴り上げて意識を断つ。
倒れて動かなくなった巨大ネズミを置き去りに、前歯を引き抜かれた巨大ネズミが眼前の脅威より逃れようと走り出すも、四つ足になった時点で頭にかかと落としを炸裂され、暗黒の中へ意識を落とす。
「ネズミは意外と厄介だからな。遭遇した時点で仕留められたことに感謝しないと。下手に逃がしていたら狩られるのはこっちかもしれないし」
捕縛のために持ってきていた縄で二頭の巨大ネズミを縛り上げ、仕事を終えた彼は意気揚々と学校に戻る。
「にしても、まさか本当にネズミ二匹の捕獲が仕事なんてな。てっきり暗喩の類いだと思ったのに。つーかなんなんだ、この巨大なネズミは」
答える者のいない疑問を口に出しながら保健室へ直行した彼を待ち受けていたのは普段通りの白衣を纏いつつ、両手が汚れないようにゴム製の手袋を装着している保険医とベッドに縛り付けられ、猿轡を嵌められている学生という光景。
保険医のことを知っている者ならば迂闊に保健室へ近づいたりはせず、更に見覚えのないその学生の顔から一年生と判断した彼は捕縛済みの巨大ネズミ二頭を部屋の隅に置くとその場から立ち去る。
「待て、バカ弟子」
「なんだ、アホ師匠」
「仕事、ご苦労だった。ネズミ相手だから苦労すると思っていたが、迅速な仕事ぶりに師として鼻が高く思うぞ」
「それはどうも。俺は弟子として何も知らない一年坊主で実験を行おうとしているアホな師匠に幻滅しているけどな」
「私の領域内に足を踏み入れた者を私がどう扱おうが勝手だろう?」
「そんな風に断言している時点でアンタは人として終わっているよ。そんなだから学会から追放されるんだぜ、わかっているのか、アホ師匠」
「師をアホアホいうものではない。それに私が学会から追放された理由は別にある。まったく、安定を望むのは勝手だが、進歩のためには危険を冒さなければならない時もあるということを理解していない頭の固い老害どもは始末に困る」
「お前よりはまともな精神の持ち主たちが集まっているって解釈で良いのか?」
「師匠をお前呼びするな、バカ弟子。公私混同するのは阿呆の所業だ。せめて公の場では敬語を使うことを覚えろ」
「それくらいはわかっている。けど、どうにも公の場であろうと敬語を使う気になれない奴ってのはいるもんだぞ。たぶん本能的にそいつのことを俺と同格か、格下と見ているんだろうな」
「師を同格、もしくは格下扱いするな。と、用意するべき薬はこんなものか」
フラスコの中で沸騰している珍妙な液体をビーカーに移している保険医の所業に縛られている生徒が必死に助けを求める。
仁にとって縛られている生徒は赤の他人。助ける義務がなければ義理もない。
が、見掛けてしまった以上は弟子として保険医の暴走を止めるのは義務。彼を助けるためではなく、師の暴走を止めるために仁は彼女の手から薬を奪う。
「何をする、バカ弟子」
「アホ師匠、事前の注意事項を聞いていなかったこのバカな後輩にも非はあるが、だからといって実験していい理由にはならない。そもそもこの前、やり過ぎたことを咎められたのを忘れたのか?」
「覚えているとも。私にとっても苦い記憶だからな。だが、苦い記憶をいつまでも引きずっていては先に進むことなどできない。そうだろう?」
「その意見には賛成だが、単純な苦い記憶ってわけじゃなく、次に似たようなことをしたら更に苛烈なお仕置きが待っているってことを理解した方がいい」
「無論、理解した上での行動だが」
「救えないぞ、アホ師匠」
「救いなど求めていない。それともお前が代わりの実験体になってくれるのか? お前の体ならばその程度の薬には容易く耐えるだろうから、もっと強力な薬を試すことができそうだ」
「協力する気なんてない。というかこの薬は一体何の薬なんだ? 耐えられるってことは体に悪影響を及ぼす薬なのか?」
「悪影響、というわけではない。ただ、強心剤を少々強くしただけのものだ。人間ならば耐えることはできないだろうが、人外ならば耐えられる――と思う」
「人外でも耐えられるかわからないような危険な薬を作ったのかよ」
「興味本位で薬草を調べていたら偶然発見した配合だ。そして完成したならば試してみたくなるのが人の性というものだろう?」
「だったら自分で試せよ。他人の体を使うな」
「万が一のことがあっては大変だからな。それとも私の治療をお前が引き受けてくれるのか? 我が最愛のバカ弟子よ」
「必要に迫らせたら治療してやる。タダで、とは言わないけどな」
拘束具を外され、自由と取り戻した男子生徒は早口で仁に礼を述べると一目散に保健室からの脱出を図る。
貴重な実験体を逃がすまいと保険医が罠を発動させようとするが、これ以上の面倒事は避けたい仁の手で罠の発動は阻止され、男子生徒は無事、魔窟たる保健室から逃げ出すことに成功する。
「やれやれ。今時、元気な若者を捕まえることは難しいというのに」
「それは昔から困難だったと思うが。好んでお前に協力するような変態はこの学校でも極めて珍しいし」
「そうでもない。昔は私の体目当てに近づいてくる者たちもいた。まったく。あまり名を広めるものではないな。私のことが知られてしまったせいで、この体を以てしても近づいてくる男がいなくなってしまった」
「確かに何も知らなければ欲情するような体付きなことは認めるが、近づいてきた男たちを片端から捕まえて実験を行おうとしたら否応なく悪名が広まるだろうに」
「それでもなお異性を落とそうとするのが男という生き物であろう。軟弱者が増えてきた中で、それなりに見込みのある我が弟子よ、お前は私を口説かないのか?」
「生憎と。育ての親に欲情するほど盛ってないものでな。それにアホ師匠の私生活を見ていれば百年の恋も冷める。いい加減、自立してくれませんかね」
「バカなことを言うな。全自動で家事の全てを引き受けてくれる便利なものを何故わざわざ手放さなければならない?」
「そんな風に甘えているからいつまでも家事が何一つできないんだよ。せめて自分の部屋の掃除くらい、自分でやってくれませんかね」
「そんなことに時間を費やすくらいなら研究に時間を費やすべきだ。違うか?」
「違う。って、断言しても聞く耳を持たないアホ師匠です」
「わかっているではないか、私の愛するバカ弟子。というわけで作品共々今後も私の世話を頼むぞ」
「ハァー……」
聞こえるような大きなため息を吐き出した彼は事件を解決したことを校長に報告するべく保健室を後にする。
予想外に早く終わったため、校内は現在授業中。
乱入してバカ騒ぎすることも一考したけれど、後で教師陣に絞られることは目に見えており、せっかくの食券が貰えなくなることを危惧した彼は自制する。
代わりに――というわけではないのだろうが、床に這い蹲った彼はカサカサと地面を這って移動を開始。
匍匐前進などとは比べ物にならない高速移動。黒光りするGを連想させる動きを維持したまま、壁を伝い、天井をカサカサと這う。
見る者に嫌悪感を覚えさせる珍妙な動き。されど授業中に廊下へ出る生徒は極めて少なく、悍ましいものでも見るような瞳で見つめられることがないため、虚しさを覚えた彼は天井を這うのをやめて着地、徒歩で校長室に向かう。
「失敗したなー。せめて放課後だったらまだ生徒が残っていたかもしれないのに」
頭を掻きながら校長室の扉を開けると噴き出す青白い炎が視界を覆い尽す。
同じことの繰り返しに老いを感じた仁は憐れむような眼差しで校長を見つめ、二十歳にも達していない若造に憐れまれた九尾の狐は犬歯を剥き出しにする。
「もう少しくらい年寄りを労わったらどうだ?」
「労わっているぞ。その証拠にこの憐みの眼差しを見るがいい」
「フン。そういうのを労わりとは言わない。とはいえ、ご苦労だったな。無事にネズミを捕獲できたようで何よりだ――」
言葉を止めた校長の視線の先にあるのは前歯に齧られ、傷付いた仁の腕。
出血こそ既に止まっているが、痛々しいその腕の傷に校長は眉を顰める。
「治療はしてこなかったのか? 保健室に寄ったのだろう?」
「そのつもりだったけど、アホな師匠の相手をしている内に治療する機会を逃してしまった。弟子である俺が言うのもなんだが、どうしてこの学校はあんなのを雇っているのか、不思議でならない」
「暴走を止められるように傍に置いておく、と以前にも説明したはずだが。それはそれとして傷を見せてみろ。致命傷でなければ私の妖術で治せる」
「必要ない。それより報酬は?」
「報酬よりも治療が先だ。生徒に怪我をさせたまま放置した、などということを世間様に知られては私が困る。さっさと傷を見せろ」
「ヘイヘイ」
言われた通りに傷付いた腕を差し出せば、校長は躊躇わず彼の傷口を舐める。
見た目は文句なしの美女である彼女に傷口を丁寧に舐められれば、多少なりとも興奮を覚えるのが普通の反応かもしれないが、校長の年齢と性格を知っている彼の心が揺れることはない。
「……少しくらいは反応してもいいのではないのか?」
「BBA無理すんな」
「生意気だな。そういうところは師にそっくりだぞ?」
「そりゃまあ育ての親でもありますから? 似ている部分が出て来るのは仕方がないことだと思います?」
「フン。悪いところばかり似ていると将来、苦労することになる」
「既に苦労しておりますのでご安心を」
恭しく――丁寧過ぎて嫌味に見えてくるような動作で頭を下げる彼に校長は朗らかでありながら剣呑さを漂わせる微笑みを見せ、束になった食券を投げ渡す。
宙を舞う食券の束は己の意思を持っているかの如く、仁に捕まるまいと抵抗するように彼の腕が届くギリギリ外側を優雅かつ華麗に舞う。
尤も、それは仁が移動しなければの話。
手の届かない場所を泳ぐ食券の束に堂々と近づいた彼は次にどの方向へ食券が逃げるかを予測、腕を伸ばして見事空中で捕まえてみせる。
「お見事」
「悪戯も程々にした方がいいぞ、もういい年なんだから」
「年齢のことは言わない方が世渡り上手になれると忠告してやろうか?」
「それも必要ない。気を許している相手以外にはこんな態度は取らないからな」
「生徒の信頼を得ている点は教育者として誇りに思う――か?」
苦笑する校長に背を向け、念のために食券が木の葉の類いではないことを確認した彼は校長室を後にする。
少しばかり時間を掛けた影響でもうすぐ五時間目が終わりを迎える時刻。
急いで教室に戻れば教師が出て行く前に乱入することが可能。が、そんなことをして何の意味があるのか、冷静に考えてしまった彼は不意に己の行い全てに虚しさを覚え、窓の外から体育の授業をしている下級生たちの体操服姿を眺めながら黄昏るように息を吐き出した。
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