第8話イメージ問題

「………というわけで、南部の大峡谷を騒がしていた邪竜は退治しました」

「うむ、ご苦労。………近くに人間の町もあったようだが?」

「ご安心を、到達前に討伐いたしました故。とはいえ貴重な竜種、殺さず、調教して砦の守護者にでもしようかと考えております」

「ふむ。竜退治は冒険の華、生け贄騒ぎやレベルアップ、希少な素材、盛り上がりも期待できるな。

 それで良い。流石は偉大なるグレイトランバルト将軍。完璧な采配だ」

「恐れ入ります」

「………………………」

「む、闇巫女か。どうした、挨拶せぬか」

「あ、し、失礼しました!」

「構いませぬ。何せ武骨な身ですからな、女子に親しまれはしませぬ。

 寧ろ拙者こそ礼節を知らず、戦の中で過ごしてきた身です故、お気になさらず」

「すまんな。何せ巫女だから、お前の覇気に当てられたのかもな」

「覇気など………そのような」

「ふ、謙遜は止せランバルトよ。

 剣皇、不敗の将軍、南覇王………我輩が耳にするだけでも、お前の評判は天井知らず。武勇伝にも暇があるまいよ。

 我輩以外にお前に勝てる者など居らん。我輩に何かあれば、次期魔王はお前だろう」

「………魔王様、お戯れはお止し下され」

「はは、すまんすまん、気を悪くしたか。

 お前にそんなつもりがないことは、我輩も良く解っておる。だからこそ安心して、こんな話も出来るというもの。お前の忠義ぶりを疑ったわけではないのだ」

「光栄の至り。しかしお気をつけください、斯様な戯れ言、本気にするような不埒な輩が居らぬとも限りませぬ故」

「うむ。その時にはお前にも一肌脱いでもらうぞ、我が最強の剣士よ」

「御意に。では、拙者はこれにて」

「なんだ、忙しない。どうだ、良い酒があるぞ?」

「いえ。部下たちが未だ残務処理に駆け回っております故御容赦を」

「ふ、そうか。全く真面目な男だな、お前は。少しは遊びも覚えろ」

「恐縮です」

「まぁ良い。奥方にも宜しく伝えてくれ。ではな」

「はっ、失礼します」


………………………


………………


………


「………ランバルト様は、帰られました?」

「む? 何処にいっていたのだ闇巫女よ。

 常に反抗勢力との最前線にいるような男だからな、のんびりしている暇が無いのだろう。折角の機会だというのに………」

「いやあ、あの方を前にすると、その、ちょっと」

「何だ、本当に緊張していたのか? 魔王軍最強と名高いから無理もないが、徒に力を誇示するような男ではない。そう怯えずとも気楽に接して、」

「いえ、そういうことではなくてですね、魔王様。………あの方は、その………?」

「ん? そうだが?」

「その、ちょっとイメージと違うかな、って」


………………………


………………


………


「イメージとは、何の事だ?」

「いえ、だから、いわゆる小鬼ゴブリンに対する世間一般のイメージですよ」

「ほう、そんなものがあるのか。それは是非聞きたいな、今後の参考になるだろう。

 小柄な肉体ながら、いや、だからこそ技術に特化した種族。魔法道具を自在に操り、独自の武術や魔術を修める者も多い魔族の中のオールラウンダー。

 人間どもに与えている恐怖もかなりのものであろうな、はははははっ!」

「雑魚です」

「ははは、は、え?」

「いやだから、雑魚です。最も序盤で出会う下級モンスターにしてやられ役の代名詞。ドジで、のろまで、どこか抜けている、どちらかというと親しみをもって描かれることの多いキャラクターですね」

「そんな馬鹿な、何かの間違いではないのか? 奴等の目は節穴か?

 武器防具を使いこなし、独自の文化まで持つような連中だぞ? 遠い異界の地では太守として国を治めた不死身のゴブリンまでいたというではないか、それが雑魚? 馬鹿な、有り得ん。もしや、巧妙な情報操作か?」

「いえ、そんなことはないですよ。多分………」

「だとすれば何だ。ランバルトは極端な例かもしれんが、奴の部下とて一流揃い。そもそもこの魔王城を設計したのもゴブリンだぞ?」

「この城ゴブリン製なんですか?!」

「何せ器用だからな、芸術的な才能に恵まれた者も多い。

 ほら、【風読みの洞窟】の石像を動かすトラップがあったろう? あれもあいつらだ」

魔石ジェムを用いること無く水圧と気圧とで稼働するあの仕組みを? 凄いですね」

「元はエルフやドワーフと同じく精霊だからな、魔法に対する親和性が桁違いだ。何冊か魔導書を執筆する者もいたはずだ」

「そうなのですか、それがどうしてあんな、語尾にゴブゴブ付けるようなキャラクターに?」

「ごぶごぶって何?」

「ゴブリンの語尾です。何々だゴブー、という感じで使われますね」

「何だその馬鹿っぽい話し方は」

「私、結構似てませんか?」

「本物が解らん。………いや、本物はそんなこと言わないんだけどね?!」

「ランバルト様が、『報告致しますゴブー』」

「ぶふっ」

「『拙者、武骨ですからゴブー』」

「くっ、ふふ、止めろそれ、なんかじわじわくる………ぶふふ」

「似てますか?」

「………うぉっほん、別に? ちょっと、ほんのちょっと面白いだけだ」

「………さっき笑ってましたよね?」

「まさか」

「………………………」

「なんだその目は。

 全く、良いか? 闇巫女よ。我輩は魔王、魔族を統べる闇の王だ。その我輩が、配下の、それも実力的にはナンバー2の誉れ高い男を馬鹿にするような話で、笑うわけが」

「『光栄の至りゴブー』」

「ぶふーっ!!」


………………………


………………


………


「………魔王様、近頃何やら、拙者の顔を見て笑いを堪えるようなそぶりの者が多いのですが………」

「い、いや、何故だろうなぁ我輩ちっとも解らんぞ~? ところで今日は良い天気だよね?」

「………闇巫女殿?」

「ぷぷぷぷぷ」

「………………………」

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