第7話プレゼンテーション
「………そろそろ反省したか闇巫女よ」
「うう、下ろしてください魔王様。私は、良かれと思って………」
「良かれと思って我輩に豆をぶつけたのならそっちの方が性質が悪いわ馬鹿者! 大体何が『オニハソト』だ!」
「時節に乗ろうと思って………」
「遅いんだよ! もうとっくに過ぎてるだろうが!」
「しかし、流行りに乗るのは大切ですよ。豆も半額でしたし」
「お前の乗り方は雑なのだ。来月とかに読んだらわけが解らんだろ」
「えー? じゃあ、寿司でも食べに行きましょうか? 800字以内で語りましょうか?」
「だから、そういうところが雑なのだ………大体我輩にはそれほど寿司エピソードは無い。精々が、【あがり】と注文したら皿一杯のガリが出てきたくらいだ」
「ちょっと面白いですねそれ」
「あとは、我輩の滑舌の悪さかな? 赤貝を頼んだらサラダ巻きが出てきたことがあった」
「それは単に注文の取り間違いでは………」
「その程度だからな。それより、お前も準備をしろ闇巫女よ」
「そのためには是非とも下ろしてください。豆をぶつけただけで逆さ吊りは酷いと思います。スカートだったらどうするのですか?」
「足首が嫌か? 別に首を吊るしても良いのだぞ」
「鬼! 悪魔! 魔王!」
「事実の羅列だな、単に………」
………………………
………………
………
「魔王様、【
「どうも魔王様におかれましては、ご機嫌麗しゅう………」
「ふ………。世辞は止せ」
「あ、良い? んじゃ適当に話を」
「体裁は守ってくれ」
「我が儘でやんすね、相変わらず」
「当たり前だろ、ここがどこで我輩が誰だか解らんのか?」
「え? 魔王様は数いる商売相手の一人で、ここは遠くて面倒な僻地でやすが?」
「本当に強かだよお前は………」
「先祖代々の教えでやすからね。『魔王様との取引は悪魔で対等に、且つ面白さ重視で』と」
「お前の先祖を焼き殺しておくべきだったよ」
「というわけでこの、セイロンティ家八代目、ウィルは『ちょっと高いかもしれないけど、面白いものなら買ってもらえるんじゃないかな』を信条にしておりやすので」
「それを相手に伝えちゃ駄目だなあ多分」
「そう言えば。闇巫女さんあれどうでした? 豆」
「あれはお前の差し金か」
「効果ありませんでしたよセイロンティさん。魔を祓うというのはデマでは?」
「祓うつもりだったのかお前は………下克上でも狙っとるのか?」
「効いたら面白いかなって」
「『魔王様に特効在り、大豆豆!』………これは、イケる………?」
「誇大広告だよ!」
………………………
………………
………
「全く、今回は忙しいのだぞ。重要な話なのに、下らんことで時間を使わせおって………」
「そう言えば、今日はなんの話なのですか? セイロンティ家の若頭を呼びつけるなんて、大事ですね」
「ちょっと大事な話し合いがありまして。
………魔王様、どうです、決意はしていただけましたか………?」
「ふん。何度も言うがな、ウィルよ。我輩はお前の意見には反対だ。何故そう新しいもの新しいものに飛び付くのだ?」
「ど、どんな話なのですか? お二人の気迫を見るに、相当重要な議題とみましたが………」
「ふ、丁度良い。闇巫女よ、この愚かな若造に歴史と由緒というものの重みを教えてやるが良い」
「いやいや、闇巫女さん。貴女のように聡明な女性であれば、このウィルの意見に賛成いただけましょうぞ?」
「と、仰ると?」
「決まっておろう。次回の、回復手段についてだ」
………………………
………………
………
「私がご案内してるのは、これ。
「あら、お洒落な瓶ですね」
「そうでやしょう? 女性店員の意見を参考に作りやしたからね、色合いも形もこだわっておりやす」
「ふん、装飾過多と呼ぶのだそんなものは」
「………ということは、魔王様のご意見は………」
「無論、『やくそう』だ」
「………………………」
「ほらぁ、こうなるでやしょう?
もう時代遅れなんでやすよ、草なんて。大体、どうやって使うかご存知で?」
「勿論だ、飲むのだろう?」
「え、飲むんですか? 磨り潰して患部に塗るのでは無いのですか?」
「何を言っているのだ、戦闘中に磨り潰す時間などあると思うのか?
口に放り込んで良く噛んで飲み込む。これで完璧だ」
「えぐみとか酷いじゃないですか、口の中とんでもない臭いになりますよそんなの。
大体、きちんと洗ってあるのですか? 衛生面に不安がありますよ」
「大丈夫だ、その時は毒消し草も飲めば良い」
「そんな無茶な………」
「ほらね、使い方でさえ統一出来てないでやしょう? こんなんじゃあ、マトモに効果を発揮できるわけがありやせんよ。
あと、具体的に何だと思いやす、薬草って?」
「『やくそう』な? イントネーションに注意してくれ、大事なことだからな。
それに、何って………、何が?」
「種類ですよ、草の」
「『やくそう』だろ」
「そんな名前の草は無いんですよ魔王様。似たような効果がある草を、まとめてそう呼んでるだけなんでやす。だから、地域によって値段とかもまちまちなんすよ。統一出来ないんすよ」
「むう………」
「それに、草っていうのも何て言うか、前時代的ですよね。シャーマンとかが使いそうです。
僧侶やら治癒魔術師やらがいる時代ですから、薬という形をとる方がイメージにそぐいますよ」
「馬鹿な! 昔から、回復と言えば『やくそう』と決まっておろう!
苦味? 良薬口に苦いもんだ、我慢しろ! 低級魔族にやられたら落とせと配ったり、宝箱に10個束で入れておいたり、イメージといえばこっちの方がイメージがある!」
「何でそんなに頑ななんですか? こう言っては何ですが、ポーションの方が手軽ですし、管理も楽じゃないですか。薬師も要りませんし」
「………さては魔王様。
味が、苦手なんでやしょう?」
「ギクッ」
「今口でギクッて言いましたか魔王様?」
「ははは、おやおや魔王様。魔王様には未だちょっと、この味は早かったかな?」
「馬鹿にするな! ただちょっと、その、苦いというかなんというか………」
「………」
「そんな目で見るなよ本当に苦いんだぞ?! 勇者どもの下手な魔法よりも効いたわ!」
「えっと、良薬口に苦いもんだ、でしたか?」
「グゥッ!」
「我慢してくださいよそのくらい」
「何で体力の回復手段なのに我慢が必要なんだよ!
………そうだ、甘くしろウィル。イチゴとか、リンゴ味とかにしろ。それならイケる」
「子供ですか! ………あ、でも、味つきっていうのは面白いです。どうですかセイロンティさん?」
「一応薬なんでやすが………」
「薬だからこそ、飲みやすさを考慮しなくてどうする! 我輩としてはワイン味やエール味もあっても良いと思うくらいだ」
「生搾りミカンサワー味とかどうですか?」
「ふ………ややミーハーな印象だが、良しとしようではないか」
「何が『良しとしよう』ですか、もはや薬じゃあないでしょその味は」
「そうは言うがな、ウィル、それに闇巫女よ。本当に、本当に苦いのだそれは。
本当に
「え? えー………、はは………」
「飲んでないなさては! 何か話が噛み合わないと思ったのだ! 作った奴が飲んでないなんて有り得ないぞ!」
「いや、だって、材料で割りと味は解るじゃないですか。何か苦そうだなってくらい」
「貴様解っててやったのか!!」
「落ち着いて下さい魔王様。そんな、薬くらいでムキにならないで下さい」
「じゃあお前、飲んでみろ」
「え」
「ほら、見た目は良いのだろ?」
「………、ふ、良いでしょう。このくらい大したこと………うぇっ」
「ほら見ろ!」
「こ、これはひどい………もしや毒なんじゃ?」
「そんな大袈裟な………」
「………」
「………」
「え、あ、な、なんでやすかお二人さん。そんな怖い目で………ちょっ、やめ、止めて………うおぇぇぇ」
「ほら見ろ、ほら見ろ!」
「薬草の苦味とえぐみとかが何故だか強調されて、口一杯に草を突っ込んだみたいな、うぅ、薬草そのものより不味くなっている………うぇ」
「何故食レポ風なんだ………案外余裕あるな」
「………魔王様。魔王様も、どうぞ」
「いや、我輩は味知ってるし………、こら、近付けるな臭いだけでヤバイんだから止めろ止めて止め、
うおぇぇぇおぼろろろろろ」
………………………
………………
………
「………魔王様。新商品『魔王特効
「もうどうでも良い………うぅ………」
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