第7話 流れを変える

 学校に着いた。まだ昼休みは終わっていない。昨晩、七夕の姉さんと過ごした部分だけを頭の中でプロの名試合さながらに反復再生させていた俺は、気がつくと空が白み始めており、ひどく驚いた。ストロークを打つ際、ガットにボールが触れている時間は千分の三、四秒と言うが、昨日の夜はそれより短くなかっただろうか。おかげで寝る暇もなかったからその分昼まで寝てしまったな、と一人胸の内で言い訳しながら中田先生に出くわさないように慎重に教室へ向かった。

 無事教室に着くと隣の席では渡見さんと西野さんが会話している。

「おはよー」

「おはよ。いつもながらに遅いねぇ」

「おはよう。来週からテストだけど大丈夫なの?」

 西野さんが笑いながら訊く。

「来週からテスト?本当に?」

「そ、だから今私も由美ちゃんにノート見せてもらってるの」

 渡見さんはのんびりと言う。

「咲ちゃん、もうちょっとノート取りなよ」

 西野さんは渡見さんがノートを写すのを見て笑っている。

「ごめん、いつも取ろうと思ってるんだけど」

「ついついぼーっと窓の外見ちゃう?」

 渡見さんの後を続ける。俺の見る限り、渡見さんはノートを取ろうと思っていると匂わせる行動を取ったことはない。

「失礼ねぇ。まあ、当たらずとも遠からずだけど。でも坂上くんだって遅れて来るくせに寝てるじゃん」

「返す言葉もございません」

 鐘が鳴り、男どもと田辺先生が同時に入って来た。

 それにしてもテストが一週間後に迫っていたとは迂闊である。すると、もう今日から部活動禁止期間じゃないか。学校に来た意味はあまり無かったな……

 漫然と授業を受けながら、そこまで考えてハッとする。

 部の創立から約一年、毎日参加し続けたせいで生活が部活に乗っ取られつつある。危険だ。あんなものに意味を求めて日々の生活を邁進したら、行きつく先は怖くてとても想像できたものじゃない。このまま依存していたら、俺の高校生活は軟式テニスボールの中身くらい空っぽになってしまうに相違ない。

 だから今はそんなことよりノートの事を考えなくては。何せ、こっちを確保しないと今すぐ高校生活がゲームセットになりかねない。誰に見せてもらおうか。やっぱり堀川さんだろう。

 そう考えると途端に元気になってきた。堀川さんのノートはきれいな字が並んでいるんだろうな。もしかしたら、堀川さんの家の匂いも漂ってくるかも、と一人で盛り上がっていると田辺先生がいきなり俺を呼んだ。

「坂上、玄宗皇帝の寵愛を受けた妃は誰だか分かるか?」

 何だ、そんなことか。スピードばっかりでたいして入らないフラットサーブのようにビックリさせるだけの質問だな。

「楊貴妃ちゃんです。国政を蔑ろにするくらいだからきっと余程可愛かったに違いない。俺も一目会いたいものです。そんな機会が訪れた折には、是が非でも彼女の大好物である茘枝を樽一杯に持参してアプローチをかけます」

 クラスには曖昧に笑うものが数人いただけで、どちらかというと驚いている者が多い。そうそう笑われてばかりもいられるか、と鼻を高くしかけると田辺先生が再び話し出す。

「そうか。でもそれなら玄宗も頑張ったぞ。何せ茘枝運搬のせいで交通が疲弊して、とある反乱が容易になったからな。この反乱を起こした奴は誰だ?」

 テニスでは戦略として、セカンドサーブでもファーストサーブのように威力を重視したサーブを打つことがあり、ダブルファーストと呼ばれる。田辺先生の質問はまさにダブルファーストが見事に決まったような塩梅だった。

「野郎のことは知りません」

 今度はクラスの大半が笑った。

「お前は、テストまでにその偏った知識をどうにかしておけよ」

 田辺先生は苦笑していた。


 〇


 帰りのホームルームが終わるとともに俺は席を立った。さあ堀川さん、ノートを見せてくれ、いやマンツーで勉強を教えてくれるならそっちがいいかも。サーブを打った直後にネットへ詰めてボレーで勝負をするサービスアンドボレーというプレースタイルがあるが、堀川さんの席に向かう俺の勢いは自分で打ったサーブも追い抜かんばかりである。

 しかし目の前に何かが立ちはだかった。なんと、中田先生だ。

「おい、坂上。お前はまた遅刻しやがったな」

「あ、大変申し訳ないです。以後気をつけます」

 だから、早くそこをどいてくれ。

「何だ、いつもの言い訳はなしか?」

「ええ、やっと気がつきました。言い訳ばかりで通る世の中じゃないということに」

 早くしてくれ、堀川さんがもう席を立っている。

「そうか、それならもう遅刻はしないんだな」

「いえ、言い訳はしません」

 ああ、堀川さんが教室を出てしまった。

「ふざけた奴だ。大体お前は……」ああ、堀川さんはもう昇降口へ行ってしまったか。「……社会人になってからだな……」もう確実に駐輪場へは着いているだろう。「……絶対に自分が困るんだよ……」もうだめだ、希望は潰えた。しかし、まだまだ中田先生の説教は決め球を打てない選手同士のラリー並みに続く。「……そうだろう、分かってるのか?」

「はい、すいません。努力します」

「そうだ。努力しろ」

 やっと解放された時にはクラスはもう空っぽになりかけていた。教室を出ると律儀に我門が待っている。なにゆえ我門なのか、誰か教えてほしい。そりゃあ、同じ部活動に所属しているからね。ですよねー。などと胸の内で一人芝居をしてみたが気分は一向に晴れなかった。

「七夕は楽しかったか?」

「ああ、この先一生忘れないだろうな」

 我門はへらへらと笑う。何を聞いたか知らないが、俺はもちろん姉さんとのことを言っているのだ。しかしこれは秘密でいい。俺と姉さんの他は誰も知る必要はない。

「それにしても、我らが担任のせいで堀川さんにノートを見せてもらい損なった」

「俺のを見せてやろうか」

「いらん」

 どうせ俺と五十歩百歩に違いない。

 昇降口に向かいながら渡り廊下の手前で何気なく一組から三組の教室が並ぶ廊下の方を見て、はたと立ち止まる。

「おい、何だあれ?」

「どうした?」

 数歩先に進んでいた我門が戻ってくる。

「ああ、木戸と大場じゃねぇか」

「そいつらの話している相手だよ」

「おお、橋本さんと鈴谷さんのことか?」

 俺は我門の胸ぐらを掴んだ。

「なんであの四人はあんなに楽しそうに談笑してるんだ?ええ、言ってみろ」

 そのままグラグラと我門を揺すぶる。

「落ち着け、そんなの楽しいからに決まってるだろ」

「ですよねぇ。このくそったれが」

 俺は我門を突き放した。

「いいのか、邪魔しに行かなくて」

「知るか。頼まれても行ってやらん」

「ま、誰も頼まねぇだろうけど」


 〇


 どんなスポーツにも流れというものがあるはずだ。個人競技たるテニスはその流れがより顕著に出てくる気がする。ちょっとしたきっかけで変わる良い流れと悪い流れ。プロの試合だって一本のサービスエースやウィナーから流れが変わったりするのだ。

 俺はというと、木戸たちが橋本さんたちと仲良く話しているのを見たせいで完全に悪い流れに陥った。四日もあったのに一度も堀川さんからノートを借りるチャンスを掴めなかったし、勉強には手がつかず、テストは惨憺たる結果だ。断じて責任転嫁ではない。流れが悪いのである。悪い流れをつくった木戸と大場が最も悪いのである。

 ようやく迎えたテスト最終日に、夏休み明けの体育祭のブロックが発表された。三学年全てが七クラスなので、縦割りでAブロックからGブロックまであり、クジか何かで全クラスのブロックが決められたようだ。

 大原高校は文化祭と体育祭を交互にやるので、二年の俺にとっては最初で最後の体育祭であったが、はっきり言うとあまり関心がない。文化祭もそうだが、どうも模範的な青春ゴッコとして目に映る。こうして今、ブロック表を見に来たのも、ただ教室の皆が見に行くのに何となくついてきた感じである。

「二年五組は……」

 Fブロックか。

 しかしそのまま三年の欄に視線を移した俺は驚いた。

 なんと、Fブロックの三年生は四組じゃないか。姉さんのクラスだ。

 たまたま一本先行した相手のサービスゲーム。0―15の状態で相手がダブルフォルトしたようである。これで0―30。チャンスの予感。

 昼休みに予感は具体化する。Fブロックのブロック長がやって来て、ブロック対抗ダンスについて「曲はまだ決まらないけれど、ダンスは女子ダンス、男子ダンス、ペアダンス、男女混合ダンスの大団円という流れでやります」と言い放ったのだ。ペアダンス。まさかのダブルフォルト二本目で、0―40。ブレークチャンス到来。『ああっと、ここでのダブルフォルトはいけません。坂上に大きな、大きなブレークチャンス』という実況の声が聞こえてきそうである。

 俺はそのまま即座に教室を飛び出して三年四組の教室へ向かった。実況は俺の頭の中で『チャンスを掴むか、坂上』と息をひそめている。

「姉さん」

 三年四組のドアを開けしなに大声で呼ぶ。三年四組も俺のクラスと同じで男子は昼休みを教室の外で過ごしているらしく、女子ばっかりだ。俺はすぐに窓際の後ろから三番目の席に座って、茫然とこっちを見ている姉さんを見つけた。

「姉さん、ペアダンス組もう」

 ずんずんと姉さんの席まで進んでいく。

「ちょ、陣ちゃん、いきなり何?」

「えっ、夏海って弟いたの?」

 向かいに座っている姉さんの友達が目を丸くしている。

「え、あ、違うの、違う違う」

 普段飄々としている姉さんが焦っている姿は軽く意識が飛びそうなくらい可愛い。

「頼む、姉さん」

「ちょっと、外行って」姉さんは俺の背中を押しつつ、振り返って「ごめん、ちょっと待ってて」と友人に告げる。

 姉さんに押されて廊下の端まで来てから、「さあ、姉さん」と再び呼びかけると、姉さんはどこに持ってたのか、丸めた教科書で俺の頭をぽかっと叩いた。

「学校でそう呼ぶの止めて」

「ごめん、口癖でつい。宮野先輩、お願いします」

「ペアダンスって体育祭の?あれって、ペアはその都度様子見てブロ長が決めるんでしょ」

「ブロ長は後で俺が説得するから、今は姉さんの許可をもらいに」

「ブロ長は由里ちゃんだよねぇ。んー……」姉さんは少しの間考え込むように首をかしげてから、「よし、ブロ長には私から言っとくよ。陣ちゃんに任せるとまた変なことになりそうだし。組んであげましょう」と言った。

「カモーン」と、脳内で叫んだつもりだったが普通に声が出ており、廊下にこだまする。「ありがとう、姉さん」

「その呼び方を止めないと組まないよ」

「ごめん、宮野先輩」

「でも陣ちゃん、私、夏休みは長めに旅行するから体育祭のダンス練習に出られるのは八月後半からだからね」

「全然構わない。それまでに完璧に覚えて俺が手取り足取り教えてあげますって。それはそうと、今回はどこに行くの?」

「今回?ふふふ、今回はスペインに行くのだぁ」姉さんは急に満面の笑みになる。「ああ、早くパエリア食べたい、サングリア飲みたい、アルハンブラ行きたい、プラドとソフィアを見て回りたい、ラ・マンチャの風車の前で写真撮りたい、色んなタパス味わいたい、アンダルシアの白い村を散歩したい、ガウディの建築を訪れたい、タラベラ焼のお皿を買い漁りたーい」

 姉さんは旅行への想像を膨らましてうっとりとなっている。俺は姉さんの可愛らしい顔を見ながら、いきおいスペインに嫉妬しそうだった。畜生、あの国はテニスも強いからな。

「姉さ……宮野先輩、くれぐれも暴漢には気をつけてくれよ」

「心配ご無用。そんじゃ、友達を待たせてるから行くよ」

「うん、また」

 二年五組への帰り道、危うくスキップしそうになる足を抑えつつ、脳内の実況と解説のやり取りに耳を傾ける。『いやあ、見ごたえのあるポイントでした。坂上、ワンチャンスでモノにしましたねぇ』『そうですね。自分から積極的に展開していきましたね。ちょっとリスクの高いプレーかなと思ったんですが、よく集中してました』『決めた時は思わずカモンが出た坂上、1セットダウンで迎えた第2セットは先にブレークしました。セットを取るための大きな一歩。この後、どのあたりに注目していったらよろしいでしょうか?』『そうですね。やっぱりこの後の自分のサービスゲーム。これをキープしないと先程のブレークが活きてこないので、そこをしっかりとキープできるか、ここがまず注目です』『はい。相手のサーブをブレークした後の自分のサービスゲームですね。さあ、この後の坂上のサービスゲームに注目していきましょう。このままいい流れにのれるか、坂上』。

 そう、流れは変わったのだ。テストが終わったので、明日から夏休みまで授業は半日。夏はテニスをそこそこに体育祭のダンス練習を楽しんで、姉さんと素晴らしいペアダンスを踊る体育祭で秋を迎える。

 ブレークバックされる余地など、どこにもない。


 〇


「宮野先輩とペアダンスを組むって、マジか?」

「ああ、そうだ」

 部室へ向かいながら、いつもは頼みもしないのに幸せ撒き散らしてくる我門に、仕返しとして昼休みの出来事を告げた。

「あの大原高校に咲く大輪の花に手を出すとは。お前、体育祭までに死ぬかもな」

「ところがどっこい、俺には幼馴染というワイルドカードがあるんだよ。本戦出場は確約済みなんだ、これが」

 部室の戸を開けると、木戸、大場、日野、そして四元さんが揃っている。

「四元さん、今日も俺のために来てくれたのかい?」

「一度も坂上くんのために来たことなんかない」四元さんは七夕で日野が手に入れた大きいテニスボールをいじって遊んでいると思ったら、「このボールに顔書いていい?」と、さっさと俺との会話を打ち切って日野に訊く。

「いいよ、別に」

「やった。可愛くしとくね」

 四元さんはマジックでボールに顔を書き始めた。

「せやけど、よくそんなもんあったな。それって、あれやろ、よくファンがプロにサインとかねだるボールちゃう?」

「そうだね。実際、俺もあの屋台で見たのが初めてだよ」

「あの屋台ねぇ」

 木戸と日野と大場が同時に俺を見る。

「何だよ?」

「傷は大丈夫か?」

「黙れ」

 練習は徐々に効果をあげ始めていた。本当に徐々に。けれども試験前の部活動禁止期間のおかげですっかり元どおりだ。どうせ戻るならボールが後頭部を直撃する前まで戻って欲しい、と俺は球出しのボールを追いかけながら幾度となく思った。

「陣、全然テニス戻る気配ないやん」

「そう焦るな」

「お前が一番焦るべきだけどな」

「坂上、実はどうでもいいとか思ってない?」

「阿呆、思ってるわけねぇだろ。練習試合の屈辱といい、屋台での失態といい、一体どれだけの辛酸を舐めたか」

 ああ、思い出すだけで身を切られる気分だ。

「実力が戻んないと、これからも辛酸を舐め続けることになるしな」

 練習試合や屋台級の苦渋が待っていると思うと、俺は俄かに気分が悪くなってきた。

「畜生、何かいい方法はないのか」

「しゃーない、とっておきを教えたるで、陣子」

「何ですか?コーチ」

「まずは仰向けになってグリップを胸で挟むんや」

「え、こ、こうですか?」

「せや。したらラケットをこう動かすんや」

「や、だめ、コーチ、そんなところラケットで擦っちゃ、やあ」

 俺と木戸は即座に立ち上がり、そのまま吐き気と闘いながらトイレに駆け込んだ。

「あー、あかん、あかん。昼の弁当が喉元まで戻ってきよったわ」

「食後は特に危ないな」

「お前ら何のためにそれやってるの?」

「まさに百害あって一利ないな」

 三人から陣子の放課後秘密特訓(R18指定)ゴッコの批評を聞いていると、上杉先生がやって来た。何やら手に紙をひらひらとさせていて、いい予感がしない。

「青松地区の個人戦と平津加ジュニアのドローが出たぞ」

「おお」

 木戸たちはさっそく先生からドローを受け取ってしげしげと眺める。

 青松地区テニス大会の個人戦は青松地区にある高校の二年生までが出場できる。勝ち上がってもそれより上はない、地区止まりの大会だ。開催は七月後半である。

 平津加ジュニアとは夏休みに桃浜テニスコートで催される中高生向けのテニストーナメントである。十四歳以下、十六歳以下、十八歳以下の年齢別で、開催日は八月の頭だ。

 それを思い出した俺は驚愕した。県の新人戦の前に二つも大会があることをすっかり忘れていた。しかも最初の大会まで二週間もない。これ以上どう恥をさらせというのか。正直言うと棄権したい。俺は気持ちを落ち着けるために一度その場を離れ、四元さんの作ってくれたお茶をジャグからコップに注いだ。

 そしてそのお茶を飲みつつ戻って平津加ジュニアのドローを見た瞬間、お茶が球出しマシーンから出るボールのように勢いよく口から噴き出した。

 なんと第一シードに坂上陣の名前がある。

「何してるん、汚いやないか」

「何で俺が第一シードなんだ?」

「何でって、そりゃあお前、去年優勝したじゃねぇか」

「十六歳以下のトーナメントにも出られるのに、わざわざ十八歳以下のやつに出場して、1ゲームも落とさずに優勝したんだよ、坂上は」

 くそ、どうも最近は過去の不必要に華々しい活躍によって、現在の俺がどんどん追い詰められる傾向にある。

「まあ、なんだかんだ、全員十八歳以下に出たんやけどな」

「日野も第三シードだな。さすがベスト4に残っただけはある」

「木戸と大場の名前がねぇぞ」

「俺らはダブルスしか出てないからな」

「こっちや」

 ダブルスのドローを見ると、木戸・大場は第一シードだ。

「まさか、青松の方もいい結果残してたりするのか?」

 急に怖くなってくる。

「優勝者が何ゆうとるんや。青松も平ジュニも大原が単複制覇やろが」

 俺は再びお茶を噴いた。練習中にあんな阿呆なことをやっていながら、大原はそんなに強いのか。何だか他の学校の方に申し訳ない。そして、せっかく作ってくれたお茶を噴き出したのは四元さんに申し訳ない、と思っていると四元さんが荷物を持って歩いてきた。

「四元さん、どこ行くの?」

「暑い、帰る」

「そんな。暑ければそのブラウスを脱いでくれても一向に構わないよ、俺たちは」

「ちと、練習に集中できなくなるかもしれへんけどな」

 四元さんがありったけの『バカじゃないの』という感情を込めてこっちを睨んだので、俺はラリーで逆をつかれた時のように動けなくなった。四元さんはそのまま再び歩き出す。

「いや、ごめんよ。悪かった。だけどそれで帰るなんてちょっと冷たいじゃないか……」

「バイトがあるの」

「あ、左様でございますか。いってらっしゃいませ」

「ふん」

 やはり君はそのつんけんしたところが最高だよ、と言いそうになったが、言ってしまうと四元さんが今後二度とマネージャーに来てくれなそうな気がしたので止めておいた。

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