第10話 強き者、優しき者

「ああ、何てこと! ハーヴィ!」

 その場で泣き崩れるケニーをアグレイが叱咤する。

「泣いている場合じゃねえ。敵が来てるんだぞ」

「ちょっと、アグレイ。そんな言い方!」

「キクはケニーを守っていろ。俺が戦う」

 キクが食ってかかるがアグレイは取り合わない。キクの非難を無視して岩魔と〈完蝕〉の群れへと走り出した。

「キク君、残念だが〈完蝕〉されてしまっては救うすべはない。僕達にできるのは、早くあの姿から解き放ってやることだけさ」

「……分かっているわよ。アグレイが正しいのよね。でも、やっぱり……」

「そうだな。誰しもアグレイ君のような強さを持てはしない。彼も、ただ強いだけでなく、意図的に強くあろうとしているのだ。その辺は分かっているだろう?」

 キクは応えなかったが、その横顔に理解の色が浮かんでいるのを見届けて、ユーヴは懐から万年筆をとり出した。

「さて、僕もアグレイ君に加勢しなくては」

 そう言ってユーヴもアグレイに続いた。

「あの二人の言っていることが分からないほど、あなたは愚かではないはずですわ。そうでしょう、キク?」

 リューシュが弩を構えながらキクに並んだ。

「アグレイのように強くはなれない人もいるのは事実ですわ。そういう人に寄り添ってあげるキクのような人も必要ですの。詩人メルロの言う『甘くてもいいさ。それだって優しさの一つの形態に過ぎない』ですわ。……今は、ケニーさんの横にいてあげてくださいな」

「うん。分かった。ありがとう、リュー」

 キクは頷くと、ケニーの肩をしっかりと抱きしめた。ケニーの肉体は細かく震えていて、ともすれば灰のように溶けてしまいそうなほど儚げだった。

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