第7話 誰が殺したクック・ロビン

誰が殺したクック・ロビン(1/6)

    誰が殺した クック・ロビン


     それは私よ スズメがそう言った


       私の弓で 私の矢羽で


         私が殺した クック・ロビンを――――


     

     ★        ★       ★



 誰があの子を殺したか、って?


 そう聞けば、「あたしが殺した、可哀想なあの子を」とでも答えるとでも思ったのかな、刑事さん?


 なに、変な節回しだって? あら嫌ね、知らないの? マザー・グース。イギリスの童謡。有名よ。それなのに……本当に知らない? ふうん、刑事って無教養なのね。小説とかに出てくる警察は教養に富んだ人が多いってのに。それとも、あなたが若いだけ? だから、何にも知らないってこと?


 ……ちょっと、そんなに怖い顔をしなくたっていいじゃない。別にあたし、刑事さんを誤魔化そうだなんて思ってもないのよ。もちろん、精一杯協力するよ。でも、その前に刑事さんの隣にいる方を紹介していただけますでしょうか? ……え、探偵さん? わあ、何か感激! 警察と探偵が組むなんて、それこそ小説の中だけだと思ってたけど、違うんだね!


 お名前は? ……椎葉さん。下の名前は? 壮一郎? じゃ、「椎葉探偵事務所から来ました、椎葉壮一郎です」とか言っちゃうのかしら? ええ、依頼人の綺麗な女の人に。そうそう、当然、影がある女性よ。探偵に相談するべき謎を抱えてるんだもん。夫が失踪したとか、事件に巻き込まれた可能性があるとか。


 でもでも、実はその女性ひとがあらかじめ夫を殺してたりするんだよ。探偵を頼むのは、言わば偽装工作ってわけ。え、偽装工作ってどういうものかって聞かれたって、あたしにはわかんないよ。その女性じゃないんだし。


 あはは、でもこの事件のことはわかりますよねって聞く? ううん、そうじゃない、いい導入だと思う。若いのにやるぅって思っただけ。え、あたしも若く見える? やだなあ、こう見えてもう三十越えてるんだよ? 若いって言われるのは嬉しいけど、刑事さんみたいな大学出たての新人みたいな人に言われても嬉しくないよ。お世辞って丸わかりだもん。


 ま、そっちの探偵さんに言われるなら話は別だけど。探偵さん、あたしよりは上でしょ? それくらいの人に言われるとちょっと嬉しい。それにごめんね、刑事さん。あたし、探偵さんの顔のほうが好みなんだ。ね、事情聴取だっけ? これ終わったらどっか行かない? 美味しいお酒飲めるところ、知ってるんだ。え、この後も仕事? うーん、残念。じゃ、あとで連絡先教えてね。教えてくれなくてもいいけど。え? だって、ネットで検索すれば出てくるでしょ。だって探偵事務所やってるんだから。


 あ、ごめんごめん。また脱線したね。それで……あの子のことか。可哀想なクック・ロビン。無教養な刑事さんはおいといて、探偵さんは知ってる? 「私が殺した クック・ロビンを」の続き。


 そう、続きがあるの。この詩はとっても長いんだから。いろんな虫や動物が集まって、可哀想なクック・ロビンのお葬式を出すって詩なんだから。


 でね、こう続くの。「誰が見つけた 死んだのを見つけた それは私よ ハエはそう言った」って。あ、さすが。探偵さんはやっぱり物知りだね。


 ……でも、あの子の場合はハエじゃなかった。ハエが匂いを嗅ぎつける前に、あたしが見つけたの。……やだ、涙出てきちゃった。だって、あたし、あの子のこと大好きだったんだよ。目が覚めると、いっつもお姉ちゃんお姉ちゃんってまとわりついてきて。


 子供って、あのくらいの年齢が一番可愛いよね。え、あの子が何歳だったかなんて考えたことなかったけど……五歳くらい? うん、それくらいじゃないかな。だってまだオシッコ漏らすこともあったし。五歳じゃしょうがないでしょ?


 ……探偵さん、すごいね。なんでわかったの? うん、そうそう。あたしが起きると、いっつもあの子、オシッコ漏らしてるの。そうじゃないときなんかなかったんじゃないかな。ううん、別にあたしはそういうの苦にならないから後始末をしてあげるんだけど。他のやつらはね……うん、片付けるのが嫌だから、あたしに押しつけてたのかもしれない。あいつら、面倒なことが起きると、絶対にあたしに対応させるんだ。この刑事さんとの話だってそうでしょ? あいつら、面倒くさいから出てこないんだよ。


 でも、どうでもいいよ。言ったでしょ、あたし、あの子のこと好きだったんだ。だから、あの子が寝てる時間なんかに起きちゃうとすることがなくって。そう、だから美味しいお酒を飲ませてくれるところ、知ってるんだよ。そそ、こっそり部屋を抜け出してね。


 ……いやいやいや、それは教えないよ。だってミキが嫌がるもん。見た目は派手かもしれないけど、ミキって実は真面目なんだ。だから、無理。


 なになに? あたしがミキのことを好きかって? 探偵さん、変なこと聞くんだね。あの子の話じゃなかったの? いや、まあ、ほかならぬ探偵さんの質問だから答えるけどさ。


 ……別に、って感じ? うん、ミキは弱っちいし、だからあんまり出てこないし、だからどうでもいいっていうか。あたしの存在がミキのおかげ? いや、そんなことは思ってないよ。ってか、何、それ? あたしはあたし、ミキはミキ。そりゃ関係ないとは言わないけどさ、そういうもんでしょ、普通。


 例えばさ、探偵さんがシェアハウスに住んでるとして、他の人のことをすごく気にする? しないよね? ってか、そんなこと気にしてたらやってけないでしょ? あたしたちだってそういう感じだよ。同じ家には住んでるけど、そこまで干渉しないって言うか。


 え、じゃミキに会ってみたいって? うーん、それはどうかな、言ったでしょ。ミキって臆病なの。だからあたしたちもこうなってるわけで……まあ、とりあえず呼んではみるよ。あたしも、あの子を殺したのが誰か知りたいし。でも、出てくるかどうかはわかんないからね? それでもいい? じゃ呼ぶよ。

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