Ⅲ-Ⅲ

「いやはや、また会えて嬉しいよ! ちょっと無理して実体化していた甲斐があったってもんさ!」


「実体化、ですか?」


「ああ。アテナから聞いてるだろ? この世界が神を拒絶しようとしていること。お陰で神は幽霊みたいな状態になってるんだけど……ちょっと無理をすればこの通り、肉体を得られるのさ」


 言って、家の壁を叩いてみせるヘパイストス。元気そうで何よりだ。


 車椅子に乗ったままの彼に招かれて、俺とブリセイスは家の中に入る。


「……」


 見回してみる限りは普通の家だった。ヘパイストスのことだから、仕事場も兼用していると思ったんだけど。


 そのまま居間の方に移動して、俺達は椅子に腰を降ろす。


「さて、いろいろ聞きたいことはあると思うけど……僕からはまず、プレゼントをしたいんだ。君のために作った、新しい神器をね」


「おおっ、また作ってくれたんですか!」


「どうしても、我が父に作った盾を超えたくてさ。まあ色々付け足した結果、盾としての機能は失われてしまったんだけど……」


「とりあえず見せてください!」


「ははっ、分かった分かった。――じゃあブリセイス、ちょっと取ってきてくれないかな?」


 求められたブリセイスは二つ返事。怜悧な表情のまま、家の奥にある扉を開ける。


 微かに流れてきたのは熱気だった。そして高らかに鳴る金属音。どうやらそちらに、仕事部屋があるらしい。


 戻ってきたブリセイスの手には、片方だけの籠手があった。


「君のために作った籠手だ。サイズは合っていると思うから、心配しなくていいよ」


「……何か特殊な能力とか、あるんですか?」


 その道の神が作り出しただけに、自然と期待が高まってしまう。

 尋ねられたヘパイストスは不敵な笑みを浮かべていた。どうも相当な自信作らしい。……以前使った盾も凄かったが、彼の顔を見るにそれ以上の性能を持っていそうだ。


「簡単に言ってしまうと、空間そのものを固定化させる能力がある。籠手で触れて、相手の存在を強く認識するだけで発動するよ」


「おお、なんだか凄そうですね。持ち運びもしやすそうですし、今後の戦いで役に――」


「ヘパイストス様! 神子様! 大変です!」


 会話の流れを断ち切って、何度も何度もドアがノックされる。

 俺とヘパイストスが顔を見合わせていると、代わりにブリセイスが客人を迎えた。先ほど、村の入り口に来たうちの一人である。


 狼狽している様子の彼は、唾を吐くような勢いで喋り始めた。


「境界神域を超えて、帝国の連中がやってきました! 今度こそ村を潰そうって魂胆に違いありません!」


「……だそうだよ、ヒュロス。一つお願いしていいかな?」


「ええ、そりゃあもう」


 断る理由はない。

 何せ俺は英雄だ。世界に挑戦するような気合いこそ、俺達に必要な大前提。


 帝国だなんて、聞いただけで胸が躍る。

 きっと、蹴散らし甲斐のある相手に違いないのだから。

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