第3話

 放課後になったので、俺は病院へ向かう。


 受付で病室を聞いて、それで病室へ向かえば、そこには灰ヶ峰椿姫がベッドの上にいた。


「どうも」と彼女はこちらへ会釈する。


「調子はどうだ?」


「はい。大丈夫です」


「それはよかった。あとどのくらいで退院できそうなんだ?」


「さあ。でも、近いうちにできるみたいなことは聞いてます」


「退院したらどうするの?」


「あのー、甘木さん、でしたっけ? その人が退院したら芥子川学園に編入しろって」


「俺たちのいる学校だな」


「そうなんですか? それなら、安心です」


 安堵した顔をする灰ヶ峰。


「あの」小さく声を出す灰ヶ峰。「ありがとうございました」


 お礼を言われた。


「何が?」と俺は首を傾げる。


「助けてくれて」


「ん、ああ。まあ、命令だったし」


「それでも、ありがとうございます」


 言って、微笑む灰ヶ峰。


 俺はただ命令で彼女を保護したに過ぎない。けれど、彼女はそれで喜んでくれている。


 嬉しかった。


 もし、俺が〈大罪セブン〉に入ったら、もっと灰ヶ峰みたいな奴を救えるのだろうか。


 今、俺が抱いているものが正義だとしたら。


 俺は、正義を執行するべきなのか。


 正義とは?


 そんな答えのない疑問に答えられるはずもない。


 そもそもこの世界には答えのない疑問が多すぎるのだ。だから、俺たちは悩むし、悩むことで成長する。


 誰かが言った。


 人間は考える葦である、と。


 人間は考える生き物なのだ。その疑問に答えがあろうとなかろうと。


 無理くりに答えを導き出したって、それは屁理屈でしかなく、この世界は屁理屈でいっぱいだ。


 だが人間は、俺は考えるのだ。


 答えがあるかどうかなんて知らないけど、考えるのだ。答えを見つけるために。


 なるほど。


 あらゆる疑問に屁理屈でも答えを導き出すために、俺は前に進むのだ。


「早く元気になれよ」


 言って、俺は立ちあがる。そろそろ帰るとするのだ。


「学校で待ってるから」


 俺は病室を出た。

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