妖、人、日常、怪奇。人間と妖が生きる日々の、ひとつひとつの物語。

日常の隣、人の世界に共にあるもうひとつの世界。ほんの少し手を伸ばした先に見える、不可思議な彼ら。
特別な力があるというよりは、ただその彼らの傍にほんの少しだけ近い少女。彼女が見てきた世界をゆっくりと丁寧に語った物語は、非常に美しいです。
ひとつずつの経験が並ぶようなお話たちは、ひとつ手に取るに丁度いい絵巻物にも似ています。少女が歩む通学路、散歩道。本当にささやかな日常すら美しく語るような文章と、そこにするりと怪異が紛れ込む世界の近く見える心地は奇妙です。ただひたすら、雨の匂い、土の香り、木の葉の音、空の高さといったものを四肢に巡らせるような感覚。
ふと隣を見上げればなにかあるのではと思うような日常と怪奇の世界を、手に取って試しに眺めてください。

諦めるのでもすべてを変えてしまうのでもない少女の選ぶ物語は、雨の匂いすら優しく、季節や時間を愛させてくれるでしょう。

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