第14話 南太平洋の前哨戦 つづき2

 「カメレオン接近。陸上部隊ね」

 アーランが警告する。

 「強行突破よ!!」

 佐久間が声を荒げる。

 三神と貝原は背中から六対の鎖を出した。先端は機関銃に変形する。

 タワーのある場所からたくさんの兵士が走ってくるのが見えた。みな首筋にタトゥがあり両腕が刃物で背中の六対の鎖の先端は機関砲に変形している。

 ギシギシ・・・メキメキ!!

 佐久間は背中から六対の鎖を出した。そのうちの二対の先端はバズーカーに変形する。

彼女の両手は金属の鉤爪に変わり、軋み音ともに体から金属のウロコが生えてプレートアーマーのように鎧化する。わき腹や腰部から何かの発射口が肉が割れる音とともに形成される。くぐくもった声を上げる。

 「佐久間さん。君も同じだな」

 三神が視線をそらす。

 「私も護衛艦「あしがら」は嫌い。でも受け入れないと生きていけない。私の場合もあなたと同じように時空の異変を感じると反応する」

 佐久間は思い切って言う。

 「俺もそうさ」

 三神は金属の鉤爪に変わった両手を見る。

 巡視船と融合してずっと悩んできた。でもその悩みは護衛艦や軍艦と融合したミュータントはみんな悩んでいる。自分が戦闘兵器かミュータントなのか。

 天井のハッチが開いて柴田が出てくる。

 金属が軋む音や肉が割れるような耳障りな音を立てて柴田の体から金属のウロコが生えて鎧のように覆う。

 「君も僕達みたいになったね」

 貝原が声をかける。

 「全身がサイバネティックスーツになった」

 柴田はオレンジ色の救助服の上着を脱いだ。そこに皮膚はなく白色のサイバネティックスーツに覆われ、紫色の篭手と腹部から胸までコルセット型の胸当てに覆われていた。

 「私だってこの体は嫌よ。敵がそこにいるから撃つの」

 佐久間の腰部とわき腹の発射口から小さなミサイルが発射。

 着弾して爆発の連続音とともに駆け寄ってきた兵士を吹き飛ばす。

 「このまま行くしかなさそうね」

 柴田は背中から六対の鎖を出した。先端は機関砲に変形。銃口から青い光線が発射。

 飛びかかってきた何体かの兵士を貫く。

 ハバルリグの機関砲が火を噴く。

 「他に道はなさそうだ」

 三神はそう言うと動いた。その動きは兵士達には見えなかった。青い稲妻をともなった残影が駆け抜けた。

 兵士達は胸や腹をえぐられ倒れていく。

 佐久間の両目が怪しく青く輝く。すると周囲に吹雪の竜巻が吹き荒れそこにいた兵士達を吹き飛ばす。

 柴田は片腕を放水銃に変形。勢いよく水が噴出し激しい水流で近づいてきた兵士達を押し流す。

 柴田の両肩の紫色のショルダーパットが生えて金属の耳宛に変形する。

 柴田はチラッと三神達を見る。自分だけでなく三人にも金属の耳宛がある。

 どうやら自分は金属生命体とのハーフに完全に進化したようだ。

 ハバルタグの船体から格納されていた腕を出してタワーをよじのぼる。

 「レビテト」

 佐久間は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて四人は宙に浮いた。

 青い光線と銃弾と赤い光線が激しく交錯する中をどんどん登って行くハバルタグ。

 タワーを登ってくる兵士達。

 三神が再び動いた。その動きは兵士達や銃座にいる五十里や福竜丸には見えなかった。青い稲妻をともなった残影が兵士達を蹴散らし、胸をえぐられ次々落ちていく。

 三神はハバルタグの側面をつかんだ。

 貝原は片腕の音波砲を連射。兵士達は耳を押さえて次々落ちていく。

 片腕の放水銃を発射する柴田。激しい水流で落ちていく兵士達。

 どこからか飛んできた岩パックマンの群れを五十里と福竜丸は機関銃の銃口を向ける。次々に撃ち落す。

 タワーのヘリポートに着地するハバルタグ。

 ヘリポートに高さ十メートルはあろうかというモノリスが建っている。そのモノリス上部から紫のもやが大量に吹き出している。

 船外に出る五十里、福竜丸、翔太、智仁。

 モノリスから出てくる八木と女。女はスキンヘッドで皮膚は異様に白く瞳は赤い。ピッタリフィットした赤い戦闘スーツに金色の刺繍が入っている。

 「八木」

 柴田は身構える

 「また会ったね」

 ニヤニヤ笑う八木。

 「本当に仲間になったね。じゃあ消す」

 柴田は片腕を機関砲に変形する。

 「あの女はヤン・ハカだ。サブ・サンの部下だ」

 佐久間と貝原が気づいた。

 ヤン・ハカと三神が身構えた。



 八木と柴田、五十里が遠巻きににじり寄りながら八木は背中から六対の鎖を出して銃口から赤い光線を連射。

 五十里は持っていた斧で光線を弾き、柴田は彼の周囲を駆けながら鋭い鉤爪でえぐる。

 八木はそれをかわすと何度も鉤爪で引っかいた。

 柴田が着用するシャツが破れ鎧化した体があらわになった。

 「君も金属生命体とのハーフになったね」

 八木がうれしそうに言う。

 「おかげでなかなか死なないの。五十里。あの人達と行ってくれる」

 柴田は鎧に突き刺さる金属の爪を引き抜く。

 「わかった」

 五十里はうなづくと離れた。

 八木が動いた。八木と柴田が同時に動いて速射パンチを放った。柴田はパンチを受け払い鋭い蹴りを入れた。

 床に転がる八木。敗れた服から鎧化した体が見えた。跳ね起きる八木。

 柴田のかかと落とし。

 八木は飛び退き、赤く光る鉤爪で引っかく。

 「ぐっ!!」

 柴田は腹部や胸を押さえた。えぐられた傷口から部品がいくつも落ち、ケーブルが飛び出ている。そして青い潤滑油が流れ落ちる。

 すっかり自分の体が機械になっている。

 八木に蹴られてひっくり返る柴田。

 馬乗りになる八木。

 「よくみろ。自分の心臓を」

 八木はささやき笑う。

 メキメキ・・ギシギシ!!

 胴体が何かが這い回るかのように激しく盛り上がり、焼きゴテで押し付けられるような激痛と鼓動音ともに傷口から見える心臓が青白く輝きながら機械と金属の心臓に変わる。激痛によじる柴田。

 「僕のフィアンセになってよ」

 八木はいきなり柴田にキスをした。

 バキバキッ!!ギシギシ!!

 柴田の体内で激しく体内機器が軋み歪み腕と両手が青白く光りその腕で八木の胸を貫いた。八木はその腕を引き抜く。

 「残念だね。ズレたよ」

 八木は笑いながら再びキスして背中の六対の鎖で突き刺した。

 柴田の髪は逆立ち、八木の腕を斬りおとす。

 八木の全身が赤いオーラに包まれ、何度も交差した。

 


 ヤン・ハカと三神が同時に動いた。何度か交差して三神はたたきつけられる。

 「私の動きについてこれるのはたいした巡視船ね」

 ヤン・ハカは笑みを浮かべる。

 「巡視船じゃない。ミュータントだ」

 跳ね起きる三神。彼は制御補聴器と制御腕輪、ベルトを外した。とたんに頭をハンマーでたたかれるような痛みと激しい耳身なりに舌打ちをする。頭を万力で締められるような激痛が走り、レーダーに敵の予想される動きと攻撃が表示される。

 ヤン・ハカと三神が同時に動く。稲妻をともなった青い残影と赤い影がパッパッと動き回り交差して二人が着地する。

 三神とヤン・ハカは遠巻きににじり寄る。

 さすが宇宙人だ。魔術や能力を使わずに科学力で操作しているが格闘術は本物だ。

 ヤン・ハカが動いた。彼女は自分の背後に動くのが見えた。三神はすんでの所で上体をそらしてかわす。彼女の拳がすぐそばをかする。拳には金属の爪が生えたグローブをはめている。補聴器を外したせいか動きが手に取るように見える。気をぬくとやられるほど相手の科学力は凌駕している。

 ヤン・ハカが再び動いた。

 三神は速射パンチをすべて受け払い、鋭い蹴りを受身を取った。彼女の後ろ回し蹴りからのレーザー銃を撃った。

 地面にたたきつけられる三神。

 「動きが見えない」

 佐久間と福竜丸、貝原が驚きの声が上げる。

 翔太は時空武器を弓に変えて矢を射る。

 九時の方向の陽炎が揺らいでヤン・ハカが出てくる。彼女の腕に矢が刺さっている。

 三神は口からしたたる緑色の液体をぬぐう。彼は傷だらけである。胸に銃創が二つあり、あとはアザや刃物で斬られた傷である。小さな傷からふさがるが大きな傷はまだふさがっていない。

 「我々の動きについてくるとはね」

 ヤン・ハカは口からしたたる青い液体をぬぐう。

 「まだ勝負は終ってないぞ」

 三神は身構える。

 「威勢がいいね」

 ヤン・ハカの体が赤いオーラに包まれ三神の体も青いオーラに包まれ、腕と鉤爪が黄金色に輝く。二人が再び動いた。赤い影と青い影が動き回っているにしか佐久間達には見えなかった。

 「すごい・・」

 絶句する智仁と五十里。

 「二人がぶつかっているように見えるけど三神は何百発のキックやパンチ、鉤爪で引っかいている。ヤン・ハカは科学力でその自身の格闘能力を上げて互角に戦っている。彼女の方は時間や空間を科学で操っている。時空の亀裂や綿毛がでないのはヤン・ハカがそれを打ち消す装置を起動している」

 佐久間は指摘する。

 「僕もそう思う。尖閣諸島の戦いでサブ・サンと戦ってわかったのは相手は地球の科学を大きく凌駕している。それを自在に使ってマトリックスのような芸当をやっている」

 三神とヤン・ハカは何度も交差して着地して振り向いた。

 「ぐはっ!!」

 胸やわき腹を押さえる三神。

 背中から生える六対の鎖が落ちて胸やわき腹を傷口が口を開けている。背中の大きな傷から緑色の潤滑油が噴き出した。

 メキメキ・・・ギシギシ・・・

 「ぐふっ!!」

 三神は肩で息をしながら片膝をついた。彼の体から骨が軋み、金属が軋むような耳障りな音が聞こえ、何かが這い回るかのように盛り上がる。鼓動音が聞こえ、緑色の潤滑油がたくさん流れ落ち広がる。

 「巡視船「こうや」苦しそうね。機械にも限界がある。だから我々はそれをカバーする装置を着用している。でもおまえ達は簡単に死なない」

 ヤン・ハカは笑みを浮かべる。

 「それがどうした」

 三神はよろける。腹部やわき腹から部品が散らばる。電子脳に自分の体と巡視船の状態と状況が示される。体の各部が損傷で傷口の穴や致命傷が赤い点で示される。

 メリメリ・・・バキバキ・・・

 口から緑色の潤滑油を噴き出す三神。

 金属骨格自体が軋み歪み、内臓機器も激しく歪んでいるのが嫌でもわかる。生きた機械がまた造り替えている。敵はまだいる。

 「もう動けない・・・ぐっ!!」

 鋭い痛みに身をよじるヤン・ハカ。彼女のわき腹に深い傷口が見えた。

 佐久間と貝原の飛び蹴り。

 ヤン・ハカはそれをすべてかわす。

 佐久間の速射パンチを受け払うヤン・ハカ。彼女の二対の機関砲弾をかわし、持っていた紫色のナイフで胸や腹部をえぐり、レーザー銃を連射。

 「ぐはっ!!」

 佐久間は腹部と胸の複数の傷口から緑色の潤滑油を噴き出しながら地面にたたきつけられる。くぐくもった声を上げて身を起こすと背中から四対の鎖が落ちて潤滑油と機械油が噴き出す。

 三神は鉤爪に精神を振り向ける。両手が黄金色に輝き動いた。

 ヤン・ハカのわき腹をえぐった。

 翔太は時空武器を弓に変え矢を放った。光る矢は四つに分裂した。

 ヤン・ハカが動いた。その動きは五十里には見えなかった。彼女は四本の矢をすべて受け止め、佐久間の飛び蹴りをかわすと、くだんのナイフで肩やわき腹をえぐり、貝原のパンチを受け払いナイフで腹部や胸をえぐる。

 くぐくもった声を上げて片膝をつく二人。佐久間の右肩と左わき腹がザックリえぐられ、歯車や部品がちらばる。

 「動きが見えない・・・」

 貝原は胸や腹部を押さえる。

 福竜丸の体当たり。床に押し倒されるヤン・ハカ。背中に円盤型の装置が貼りついている。

 三神は胸を押さえて膝をついた。たくさんの緑色の潤滑油が流れ落ちる。激痛で顔をしかめ歯車やネジがまた落ちていく。でもマシンミュータントはそれで死ぬように出来ていない。主要タンクと予備電源がダメになっても補助動力装置が起動している。

 メギギギ・・・ドクドク・・・

 三神は思わず胸を押さえる。補助装置が起動してそれが歪み軋み。傷口から飛び出したケーブルや配管が蠕動してコアが青白く輝いているのが見えた。

 動け・・・この体・・・。敵はまだいる。

 三神はヤン・ハカをにらんだ。

 ヤン・ハカのナイフを受け払う翔太。彼女の鋭い蹴りをかわし、レーザー銃を持っていた剣で弾いた。

 気を抜いたらやられる。自分が彼女の動きについてこれるのは時空武器のおかげだ。それはサブ・サンと戦ってわかっている。

 三神は精神を敵に振り向け動いた。黄金色の残影がヤン・ハカのそばを通り抜ける。彼女はその鉤爪をナイフで弾き、速射パンチを受け払い、レーザー銃を連射。黄金色の残影はそれをかわして膝蹴り。

 ヤン・ハカはひっくり返った。

 三神はよろけ膝をついた。

 ヤン・ハカの腕の装置が火花を上げ煙を上げた。彼女はあわてて両腕の装置を外す。

 口から緑色の潤滑油を噴き出す三神。くぐくもった声を上げて身をよじった。せつな傷口という傷口から潤滑油と機械油が噴き出したくさんしたたり落ちる。電子脳に各部の損傷具合が表示される。全部赤色で次に動いたら動けなくなるという表示だ。でも目の前には敵がいる。

 「私が相手よ」

 鋭い声が響き振り向く三神達。

 アーランが立っていた。

 ヤン・ハカはにらんだ。

 アーランの背後では自動モードのハバルタグがタワーを登ってくる兵士達を撃ち落していた。

 佐久間は三神に近づき、背中から接続ケーブルを出して三神の背中に差し込む。

 「ぐっ!!」

 鋭いナイフでえぐられるような痛みに三神は身をよじる。

 佐久間は肩をそっと寄せる。

 顔が歪む三神。彼女からエネルギーが吸入される。自分の体内にある燃料タンクとエネルギータンク、予備電源とタンクが空っぽなのに気がついた。

 「・・・ありがとう」

 三神はうつむく。

 「困っている船がいればエネルギーを分けるのは当然よ。でも傷口はふさがったけどまだ治ってはいない」

 佐久間は彼の肩に手を回して立たせる。

 「わかっている」

 三神はうなづく。

 自分の体は傷だらけで大きな傷はふさがったばかり。主要配管とケーブルは組織閉鎖して血止めしている状態。無理すればまた傷口は開いてしまうがでも動ければそれでいい。

 「モノリスの中に入るよ」

 翔太は視線をモノリスに移した。



 アーランとヤン・ハカは互いににらむ。

 「ずっと大昔よ。深海の民とカメレオンは一緒に同じ惑星に住んでいた。それを敵同士に別れさせて、扇動させて煽ったのはおまえ達だ。だってそうよね。あんた達も自分のいた惑星をうっかり破壊しちゃったよね」

 アーランは遠巻きににじり寄りながらはっきり言う。

 「あれはうっかりじゃない。先人達が統合する前の話さ」

 笑みが消えるヤン・ハカ。

 「同じ穴のムジナね」

 アーランが言う。

 「あれはうっかりだが統合してからは惑星は確保できた。不毛な惑星だが十分だからね」

 ヤン・ハカは身構える。

 「でもその惑星は宇宙漂流民の物だった。あんた達も落ちるところまで落ちたね」

 「そうでもないさ」

 ヤン・ハカが動いた。

 アーランは速射パンチをすべてかわし、鋭い蹴りや回し蹴りを受け払い、ひじ打ちからの掌底を弾いた。

 ひっくり返るヤン・ハカ。

 アーランは何度も踏みつける。

 転がりながらかわすヤン・ハカ。彼女は跳ね起きた。


 同時刻。マラカウ島

 建物の壁にたたきつけられるアクバと高浜。

 蹴られて柳楽や下司、時雨は転がる。

「さっきまでの勢いはどうした?」

バル・ジウと水谷は挑発した。

 「ここは僕達が管理している。邪魔するな」

 水谷は片腕を斧に変えて振り上げた。せつな、青い光線が貫き腕が落ちた。

 振り向くとミャオ、キタナ、モルシ、ゲータ、ミリガンが立っている。五人は衣服が破れ、その下は鎧化した体が見えた。

 「融合の苦痛が起きていてすごい痛いの。でもここは渡さない」

 ミャオは目を吊り上げる。

 「それはよかった。僕達と同じになるんだ」

 うれしそうに言う水谷。

 「金属生命体になったばっかなら破壊できる。始末する」

 バル・ジウが動いた。ミャオ、ゲータはその速射パンチを受け払い、ミリガンは蹴りを入れた。彼はそれを受け払い、キタナは飛び蹴りから開脚蹴り。水谷とバル・ジウは床や壁にたたきつけられる。

 ミャオはバル・ジウのパンチを受け払い自分の周囲に張り巡らしていたバリアを彼にぶつけた。

 よろけるバル・ジウ。

 ミリガンの速射パンチ。

 バル・ジウはすべて受け払う。モルシの稲妻をともなった飛び蹴りをかわす。キタナの氷のパンチを受け払い、モルシの炎のパンチをかわして紫色のナイフを抜いて動いた。

 「ぐはっ!ぐうぅ・・」

 ミャオ、モルシ、ゲータ、ミリガン、キタナの腕や足、腹部、わき腹にえぐられたような傷が複数ついていた。傷口から青色の潤滑油から噴き出した。

 水谷の片腕がバルカン砲に変形。時雨と柳楽は周囲を走りながら光線をかわし、片腕の刃物で刺した。

 水谷がよろける。

 柳楽は水谷の心臓をえぐり取る。

 バル・ジウは舌打ちすると動いた。その動きは高浜達には見えなかった

 高浜は日本刀でそのナイフを弾き、時雨と柳楽の腹部や胸をえぐり、持っていたレーザー銃で正確にミャオ、モルシ、ゲータ、ミリガン、キタナの胸やわき腹を撃つ。

 「ぐふっ!!」

 ミャオ達は片膝をつく。部品がちらばり青い潤滑油と機械油がしたたり広がる。

 バル・ジウが動いた。せつな、そのナイフを弾く不知火。

 「なっ・・・」

 バル・ジウが驚く。

 「実体を捉えたり」

 不知火はバル・ジウの胸を刺した。そして心臓をえぐった。

 時雨は片腕の砲身でコイル基部を撃つ。

 ドドーン!ドォン!!

 火柱と爆発音が響き、ドームから出ていた紫色の煙は消えた。

 

 

 福竜丸、三神、五十里、佐久間、貝原、翔太、智仁はモノリスの内部に入った。

 モノリスの内部に紫色の球体があった。著形は十メートルくらいだ。

 「もう動ける?」

 佐久間はケーブルを三神から外した。

 「ありがとう」

 三神はうなづく。

 エネルギーはもらったが傷口はふさがっただけ。損傷ヶ所が多すぎて回復が追いつかないのか完全には回復していない。

 「いろんな感情が入れ混じっている」

 五十里はつぶやく。

 自分にはパステルカラーで赤色や黒色の色だけでなく明るい青色や黄色、オレンジ色、緑色が多く見える。それがオープとなって舞っている。

 「怒りや憎しみ、妬み以外の感情があるならそれに賭けよう」

 三神はバックからキューブを出した。

 「いろんな信号はここから来ている。信号を切り替えられるさ」

 自分に言い聞かせるように言う貝原。

 「五十年前にこれと似たような物を見た気がする。でも覚えてない。でも僕にはアルキメデスの指輪がある」

 福竜丸が首をかしげながら指輪を出す。これも時空アイテムである

 「大丈夫だよ。解放したあげる」

 翔太と智仁は顔を見合わせる。

 翔太は時空武器を杖に変え、智仁は時空の円環を出した。

 佐久間は制御装置を外した。

 「精神を集中させるの」

 言い聞かせる佐久間。

 「わかっている。ボスがいる」

 三神は精神を球体に振り向けた。

 頭をハンマーでたたかれるような激痛に顔をしかめる。たくさんのささやき声が聞こえる。大半は子供のような声で遊ぼうと言ってくる。これは純粋な感情だろう。それを押しのけ命令する奴がいる。

 「信号が多すぎてパンクしそうだけど真ん中にボスがいる」

 顔をしかめながら言う貝原。

 「行くわよ」

 佐久間はカウントする。

 彼らは球体の内部に入った。

 佐久間、三神、貝原、福竜丸の電子脳にたくさんのささやき声が入ってきた。



 その頃。南太平洋

 空母「遼寧」イージス艦「蘭州」は小島の島影に隠れた。

 「国連軍討伐隊だ」

 「それも補給部隊だね」

 うれしそうに言う遼寧と蘭州。

 遼寧の甲板エレベーターが開いて内部から中国兵が出てくる。彼らは海に飛び込み駆逐艦やフリゲート艦に変身する。

 「突撃!!」

 遼寧と蘭州は飛び出した。

 するとそこにいた補給部隊が陽炎のように揺らいで消えた。

 「どうした?」

 どよめく駆逐艦達。

 「やっぱり来ると思った」

 港から近づいてくる護衛艦「あまぎり」「むらさめ」「みょうこう」とイギリス軍とオーストラリア軍の駆逐艦。フランス軍の駆逐艦も何隻もいる。艦橋の窓に二つの光が灯っている。

 「バカな!!」

 驚く遼寧と蘭州。

 上空を戦闘機の編隊が機首を並べて通過していく。

 「のこのことやってくるのはわかたんだ」

 もったいぶるように言う間村。

 「ミクロネシアにあるリゾート地は破壊したし跡形もない」

 室戸がデータを送信する。

 「国際法違反だ」

 「あれはカジノだ」

 遼寧と蘭州が反論する。

 「本当にそう思っている?あそこにはカメレオンばかりで造っているのは巣穴と基地だ」

 霧島が答える。

 「そんなの関係ない。政府の命令だ」

 遼寧が言い返す。

 「へえ~。命令で巣穴を造るのか。中国はもう死んでいる」

 イギリスの駆逐艦がビシッと指をさす。

 「おまえ誰?」

 遼寧が聞いた。

 「デアリング」

 自己紹介するイギリスの駆逐艦。

 「本当にポンコツだね。幻覚とリアルが区別がつかないなんてね」

 デアリングは英語で声を低める。

 「中国軍の兵器はみんな本家のパクリだというのを尖閣諸島の戦いで知っている」

 フランス軍の駆逐艦はフランス語で言う。

 「どうする?上空は戦闘機部隊がいて周囲には俺達以外にも艦船がいる」

 オーストラリア軍の駆逐艦が指摘する。

 「ポンコツすぎてレーダーが故障か?」

 バカにする間村。

 「どいつもこいつもバカにしやがって」

 「覚えてろ!!」

 遼寧と蘭州は捨てセリフを吐いて連れてきたミュータント達と去っていった。


 

 同時刻。モノリス内部

 いろんな声が聞こえる。実体がなく意識だけかもしれないが。

 翔太は杖を向けた。

 何個かのオープが赤色から青色に変わり消えていく。

 「思ったとおりだね。外側はすぐに変わる」

 智仁が時空の円環を向けながらうなづく。

 「内部はそうでもないぞ」

 五十里がわりこむ。

 「カメレオンも集合意識生命体として進化しているのだからつながっている」

 福竜丸が指摘する。

 「福竜丸。漁船に変身したみたいね」

 翔太が指摘する。

 「ここに入ったら勝手に漁船になった」

 不満をぶつける福竜丸。

 紫色のオープが多数接近して三神や貝原、佐久間の体内に入ってくる。

 「気をつけろ。こいつら入ってくる」

 貝原が注意する。

 「我々の中に入ってきたね。仲間になれ」

 別の声が響いた。

 「代弁者なんて嫌よ」

 はっきり言う佐久間。

 たくさんの黒色のオープが貝原や三神、佐久間、福竜丸の内部に入ってくる。

 「ぐああぁぁ!!」

 三神や貝原は体をよじり、胸を引っかいた。たくさんのささやき声が電子脳に響き、多数の鉤爪で引っかき回されるような激痛にのけぞる。その度に軋み音をたて盛り上がる。

 佐久間は目を剥いて体をかきむしる。

 福竜丸はもがき船体を鉤爪で引っかく。

 「僕達には手がでないみたいね」

 翔太が杖を向けた。

 黒いオープが四人から出て行く。

 時空武器や時空アイテムを持っている人間やミュータントは支配できない。でも安心できないのはカメレオンは集合意識生命体で繁殖や戦うために体がいるのだ。近いうちに人間やミュータントを乗っ取る装置を開発するかもしれない。

 「同じ機械生命体ならOKで人間やミュータントは支配できないか」

 五十里が斧を向ける。この斧もただの武器ではなく魔術武器である。

 貝原と三神にまとわりつく黒いオープ。

 「巡視船「こうや」「いなさ」仲間になってくれる」

 三神の頭に直接声が聞こえる。

 「断る」

 「やだね」

 三神、貝原は目を吊り上げる。

 「護衛艦「あしがら」そんなに嫌なの?代弁者になるのが?」

 疑問をぶつける女の子の声。

 「そんなのになってどうするの?」

 佐久間は片腕の機関砲を向けた。

 舌打ちする声。

 「もっと仲間がほしい。寂しい」

 別の声が聞こえる。

 三神達の脳裏に映像が入ってくる。

 それは遺体や部品がバラバラになった映像やゾンビの映像、フランケンシュタインのようにつぎはぎだらけの体の映像が入ってくる。

 「僕達は解放しに来たんだ」

 翔太は黒いオープをつかんだ。

 「フランケンシュタインみたいな怪物じゃない」

 智仁は時空の円環をオープに向けた。

 すると女性が現われる。その体はつぎはぎだらけである。女性は三神の腕をつかむ。

 女性のつかんだ手からプラグが何本も刺し込まれ、三神は叫び声を上げた。

 メキメキ!!

 女から入り込んだケーブルが自分の体内で這い回る。すごい違和感と心臓に焼きゴテを押し付けられるような激痛。胴体が激しく軋んだ。体内で配管やケーブルが激しく這い回りのたくるのがわかる。

 佐久間は手首からプラグを彼の首に差し込んだ。

 ”この痛みは幻よ”

 ”わかっている”

 知っているけどあまりにもリアルな痛みと苦しみ。彼らの悲しみや苦しみはとても受け入れられないが悔しい気持ちはわかる。

 「おまえにくれてやれる体はない」

 三神の体が青いオーラに包まれ女性は思わず放した。

 三神は女性の腕をつかんだ。

 「おまえがここのボスだ」

 彼は思わず抱きつく。

 ひどく驚く女性。

 「ここはおまえ達の住む場所じゃない」

 三神は女性の胸を突き刺し、キューブをその胸の穴に押し込んだ。

 女性を目を剥きのけぞり首筋のタトゥが消えていく

 ”ありがとう”

 女性の姿が消えて黄金色の球体に変わり大量の青色の煙とモヤを噴き出す。

 「信号の切り替えに成功」

 貝原は黒いオープを放した。そのオープはオレンジ色に変わった。

 「カメレオンと他の金属生命体とマシンミュータントの魂の切り離した」

 福竜丸はいくつかのオープを放す。

 「カメレオンは失敗に気づいた」

 五十里が指摘する。

 「知っている。僕達がモノリスに入った時点で他の惑星にいるカメレオンクイーンに信号は送信できなかった」

 「また作戦を変えてくるね」

 翔太と智仁がうなづく。

 「俺達は希望なんだと思う」

 三神が推測する。

 自分達は鋭いアンテナで助けてという声を聞いてここまでやってきた。カメレオンがこのモノリスを通じて乗っ取ろうとしてきたがそれは失敗した。

 紫色の空間がキューブから噴き出す青色のもやによって包まれ黄金色に輝き、佐久間達を包む。その後は真っ白になり何がなんだかわからなくなった。


 

 モノリスからの大量の煙がいきなり紫色から黄金色に変わった。

 「しまった。やられた」

 ヤン・ハカが悔しがる。

 アーランが動いた。ヤン・ハカの足をナイフで斬った。

 よろけるヤン・ハカ。防護スーツに穴があっちこっち開いているのが見えた。

 急速に空が晴れて太陽が顔を出した。

 「しまったぁぁ!!」

 太陽の光を浴び、地球の大気に触れたヤン・ハカの皮膚はヒビ割れ、壊疽を起こして砂のように崩れていく。

 それを見て柴田を蹴りとばす八木。彼はどこかへテレポートしていった。



 急速に青空が姿を現していく。

 李紫明と王海凧は小さな島に接近すると元のミュータントに戻った・

 李紫明がガラスが割れるような音に気づく。見ると王海凧の体にヒビが入っていく。

 「ワン・・・」

 李紫明が声を震わせる。

 「俺はあの環境でしか生きられないように改造された。改造した主が死ねば元素になって消えていくだけ」

 王海凧は諭すように言う。

 赤い海がうすくなって青い海に変わりパステルカラーのオープが飛び出て体にまとわりつく。

 黄金色の蛍光に包まれて浮き上がる彼の体。

 「どこに行くのよ」

 李紫明が思わず腕をつかむ。

 「俺の役目が終っただけ。時空侵略者はまた入ってくる。後は頼んだ」

 王海凧はペンダントを渡した。

 「これは初デートの時の」

 思い出す李紫明。

 ペンダントはハート型のトパーズである。いろんな場所でデートしたな。楽しかった思い出しかない。

 王海凧はかき消えるように消えていった。



 その頃。北京にある貴賓室

 部屋に異様に肌が白色の複数の男女が姿を現した。男女ともにスキンヘッドでピッタリフィットする戦闘スーツには金色の刺繍が入っている。戦闘スーツは藍色や水色、朱色、白色、紫色とちがう。

 「サブ・サンよ。カメレオンの作戦が失敗したようだ」

 白色スーツを着た女が報告する。

 腕を組む黒色スーツの男。サブ・サンは黙ってしまう。

 「大きなタイムラインが消えていく。小さなタイムラインが数十個ほど消えた」

 朱色スーツの男が難しい顔をする。

 「ヤン・ハカとバル・ジウが死んだ」

 水色スーツの男がわりこむ。

 「地球人もなかなかやるじゃないか」

 感心する紫色スーツの女。

 「感心している場合ではないぞ。タイムラインを連続で失うと言う事は我々は帰らなければいけない」

 困った顔をする藍色スーツの男。

 「大きなタイムラインがまだあるがそれを失うと三〇〇年後に賭けるしかない」

 白色スーツの女が顔をくもらせる。

 「おとなしくチャンスを待とう。負けたら帰るしかない」

 サブ・サンはため息をついた。



 何時間たっただろうか?

 肉が割れ骨が軋むような耳障りな音が聞こえる。自分から生身の部分がなくなっていく。

原因は機械の腕である。生きた金属生命体の腕は自分の体を蝕み、力を使えば使うほど機械に変わっていく。

 「お姉ちゃん」

 弟の祐樹に呼ばれて目を開ける柴田。なぜか草原を歩いている。人間の体に戻ってラフな格好でいた。

 ・・・幻といるのはやめろ。護れ。戦え

 あの声が聞こえる。

 どこから聞こえるのか知っている機械の腕である。

 フラッシュバックで自分の体がサイバネティックスーツに覆われ、造りかえられ乳房がなくなり腹部から胸までコルセット型の鎧に変わっていく。誰かが見ている。たぶんアーランだろう。

 「君は金属生命体とのハーフに進化した」

 祐樹は冷静に言う。

 「あんた祐樹じゃないね」

 柴田が気づいた。

 自分はアーランと一緒にハバルタグにいてストレッチャーに縛られている。タワーが崩れるのが窓から見えたのだ。融合の苦痛を起こした自分を載せて。

 「カメレオンクイーンね」

 柴田は声を低めた。

 「そうだよ」

 祐樹の姿が消えてすぐ横に現われた男はいきなり抱きついて胸をえぐる。

 柴田の体が青いオーラに包まれ鎧化して男の胸を貫いた。

 「残念だ。死ぬまでその体に苦しめ」

 男は笑いながら消えていく。現実に引き戻される感覚。今はアーランとタグの船内にいる。融合の苦痛を起こした自分をストレッチャーに縛って。

 

 柴田は激痛に身をよじり鉤爪で引っかく。なんともいえない感触。硬いゴムを引っかいているような感じだ。

 柴田は光る心臓に精神を振り向けた。

 目を開ける柴田。

 そこはハバルタグの船内だ。

 胸に視線を移すとサイバネティックスーツの体と厚さ五センチのコルセットの皮鎧が目に入った。

 操縦席でアーランは操縦桿を握っている。

 ハバルタグは振ってくる瓦礫をかわしながら島から離れた。


 

 数日後。

 パラオにあるマラカウ島にある瓦礫をショベルカーがすくい上げ大型トラックに載せた。

 部品や瓦礫を別のトラックに載せていく作業員達。

 ショベルカーに近づく男女。

 ショベルを操作していた中年のパラオ人は運転室から降りた。

 「セッツアー大統領。会えて光栄です」

 黒人女性はあいさつする。

 「あなたが国連のブラックリストに載っているジョコンダ議員と秘書のゼクですか」

 セッツアー大統領と呼ばれたパラオ人男性は腕を組んだ。

 ムッとするジョコンダ。

 瓦礫を片付けていた作業員達が駆け寄ってくる。

 「米軍のあの四人とアメリカ沿岸警備隊の二人も連れてきたんですね。レーダー網に穴が開いているのは聞きました」

 セッツアーはしゃらっと言う。

 「何か勘違いされていませんか?片付けの手伝いに来ました」

 ジョコンダは冷静に言う。

 「なんか役に立ちそうな物を探しにきたんですか?もうTフォースが持っていきました。ここにあるのは瓦礫だけです」

 当然のように言うセッツアー。

 笑みが消えるジョコンダ。

 「警備もいりませんよ。ポリネシア、ミクロネシア、パラオで沿岸警備隊は共同運営でやっていけるし、火災調査団南太平洋チームがいるしカバーできますしアメリカに帰られてはどうですか。私達は今、瓦礫除去で忙しいですからね」

 セッツアーはしれっと言う。

 「戻るわよ」

 ジョコンダはフン!と鼻を鳴らして立ち去った。


 

 プラグが差し込まれる痛み。体内のケーブルや機器が軋んでいるのがわかる。

 メキメキ・・・ギシギシ・・

 三神は耳障りな音、肺をつかまれるような息苦しさに身をよじった。

 自分には生身の部分はない。体が受けた損傷はすべて痛みや苦しみとして電子脳に送信される。できれば元のミュータントに戻りたいが一度融合すると分離は不可能。宇宙漂流民とはそこが違うのだ。

 体内の配管やケーブルが蠢いているのが嫌でもわかる。

 唐突に何かが背中に刺しこまれるような鋭い激痛に三神は飛び起きた。

 ベットから身を起こすと自分は医療用チョッキを着用している。背骨に沿って十本程のケーブルが接続されそれは壁の機器につながっている。

 「俺は機械だな・・・」

 つぶやく三神。

 「気がついたのね。私もさっき目を覚ましたばかりなの」

 「え?」

 三神が声のした方を向くと隣りのベットから起きる佐久間、柴田がいる。

 ベットのそばに李紫明、貝原、福竜丸、智仁と翔太が心配そうな顔で見ていた。

 「僕は三日寝ていたけど君と柴田さん、佐久間さんは一週間寝ていた。カメレオンのタワーと発電所、中継基地の破壊は成功した」

 翔太は壁の地図を指さす。

 「ここは横須賀海軍病院だよ。五十里さんさんは消防士として復帰してここにいない」

 智仁がわりこむ。

 「カメレオンのタワーのあった海域は元に戻り生態系も戻った。サブ・サンの部下であるバル・ジウとヤン・ハカは倒した。サブ・サンもカメレオンも中国軍もおとなしくなっている」

 李紫明が説明する。

 「それはそうでしょうね。サブ・サン達は手持ちのタイムラインが多く消えている。残る選択は自分の世界に戻るかあとのタイムラインに賭けるかね」

 佐久間が推測する。

 「しばらくは動かないだろうね。他の時空侵入者がいても知らん顔だろうね」

 福竜丸がわりこむ。

 李紫明はTVモニターをつけた。

 「速報が入ってきました。ブレガー国防長官が首相官邸に到着しました。その四日前はワシントンで三宅総理はスレイグ大統領と首脳会談を行いました。国連討伐軍の動きを見ての会談となりました」

 女性アナウンサーは報告する。

 「アメリカは嵐が過ぎ去ってから登場するのかという冷ややかな対応ですね。尖閣諸島の戦いでもアメリカは嵐が過ぎ去ってから修理したロナルド・レーガンを黄海に派遣しています」

 男性アナウンサーはうなづく。

 「アメリカは完全に傍観していますね。それ以上に中国政府は沈黙したままですが」

 「南太平洋のカメレオンの基地とタワーは破壊に成功。これ以降カメレオンに大きな動きはありません・・・」

 女性アナウンサーは言った。

 「ブレガー国防長官が来ているのね。彼は若い頃、「魔犬ブレガー」と呼ばれていた魔物使いよ」

 佐久間が指摘する。

 「人間だけど精霊との契約なしに魔物が操れて呼び出せる。十九歳で米軍に入隊した彼はその能力を駆使して戦場から戦場へ渡り歩いて米軍の中東方面の司令官になった。彼のそばにはいつも黒い大型犬がいた」

 福竜丸は写真を出した。

 「めちゃくちゃ魔物じゃん」

 智仁と翔太が声をそろえる。

 写真にはグレートデンのような大型犬がいるが両目は赤い。それがペットのようにブレガーのそばに座っている。

 「彼は葛城茂元長官にスカウトされて一時的に特命チームに入っていた事がある。一番彼があの政権の中で何が起こっているのか知っている人物よ」

 福竜丸が指摘する。

 「在日米軍の駐留負担や防衛協力だけじゃなさそうね」

 佐久間は腕を組んだ。

 「日米首脳会談もただの会議じゃないね。スレイグはいい所を取ろうとしている」

 貝原が腕を組んだ。

 「李紫明さん王海凧さんは?」

 智仁が聞いた。

 「彼は改造したヤン・ハカが死ぬと同時に消滅した。あの環境でしか生きられないように改造されていたからね」

 うつむく李紫明。

 「聞いてごめん」

 視線をそらす翔太。

 「いつかはそうなると思ったし覚悟していたからかまわないわ」

 肩をたたく李紫明。

 「サブ・サンと周永平はまたしばらく死んだフリをするのね。それもいつまでも通用しない。それも他の時空侵略者が現われても知らないフリを貫くつもりね」

 冷静な佐久間。

 「俺達はその鋭いアンテナで地球の危機を聞いた。「希望」だと思う。また動き出したら俺達は出動するだけだ。それまでは普通の日常に戻ったんだ」

 三神はフッと笑うと立ち上がる。せつな、鋭いナイフでえぐられる痛みと心臓に焼きゴテを押しつけられるような痛みにベットで身をよじった。

 「う・・ぐ・・」

 顔を歪ませ胸を押さえる三神。

 軋みながらケーブルや配管が血管のように激しくぜん蠕動して蠢いている嫌でもわかる。巡視船と融合してずっと悩んできた。この生きた機械は順応して融合の苦痛でどんどん造り替えていく。普通のマシンミュータントはそんなに何度も起きないが自分の場合は何度も起きるのだ。

 「無理したらダメだよ。佐久間さんも重症だけど、君と柴田さんが一番損傷がひどくてオルビスや沢本さん達がエネルギーや潤滑油を分けてくれたんだ」

 駆け寄る翔太と智仁。

 「え?」

 顔を上げる三神。

 「あのモノリスとタワーが崩れて僕達は気を失っていたのを間村さん達が見つけて「かが」に運んだ。三神さん、佐久間さん、柴田さんも重症で出血が一番ひどくてコアや心臓が止まりそうだったのを彼らがエネルギーを分けたんだ」

 貝原が説明する。

 「そうなんだ」

 医療用チョッキを見る三神。

 背中から一〇本のケーブルと胸や腹部からも何本か出ているケーブルは背後の壁にある量子コンピュータから伸びている。そのうちの何本かはエネルギーや補助装置の調整をしている。

 「一週間は病院よ」

 黙っていた柴田が口を開く。

 うなづく三神。

 「三神さんありがとう」

 智仁は頭を下げた。

 「俺は声を聞いたから行っただけ。ここまでこれたのはみんなのおかげだ」

 三神は手を差し出す。

 智仁と三神は握手をした。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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海上保安官 三神&朝倉 ペンネーム梨圭 @natukaze12

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