第9話 再会

 一階は駐車場で二階がファミレスになっている場所をのぞく巨大クモ。背中のいくつもの穴に人の足が見えた。赤色に光る複眼は確実に鉄パイプを持つ老夫婦を捉えている。頭を突っ込むが入れなかった。

 背中から二対の触手を出した。せつな、陽炎が飛び込んで触手を切り裂き、目を撃つ。

 吼え声を上げてのけぞる巨大クモ。

 スピードを落として立ち止まる三神。

 巨大クモと三神は身構えた。遠巻きににじり寄り同時に動いた。その動きは老夫婦には見えなかった。

 触手の速射突きを間隙を縫うようにかわすと両腕を剣に変えて腹部を突き刺し、胸を何回もえぐって飛び退いた。

 巨大クモはよろけ地響きをたて倒れた。

 荒い息の三神。

 「危ないところをありがとうございました」

 老夫婦は頭を下げた。

 「無事ならよかった」

 三神は深呼吸すると笑みを浮かべる。彼はクモの背中によじのぼり穴から出ている足を引き抜いた。

 「助かった・・・」

 男性はホッとした顔になる。

 三神は背中の穴から出ている腕を引っ張る。すると女性が出てきた。

 駆けつけてくる沢本達。

 「倒したのか」

 つぶやく沢本。

 「このクモの魔物はすばやくて中級のハンターや魔術師が苦労するんだ」

 朝倉がささやく。

 「私も初級のハンターの時は苦労したもの」

 大浦と三島がうなづく。

 「もしかして背中の穴にいたのは全員ハンターか?」

 朝倉が気づいた。

 「そうです。私達はまだ見習いで雑踏警備していたら襲ってきて気がついたら穴の中でした」

 男性がすまなそうに答えた。

 「無事ならいいさ」

 三神はふらっとよろけた。彼は何もなかったように周囲を見回す。

 「おまえたちは先にシェルターへ行け。あとは我々がやる」

 沢本は地図を渡した。

 見習いハンター達はうなづくと老夫婦と一緒に立ち去る。

 三神は住宅街の方を見る。

 あの時空の亀裂の近くにあいつはいる。なぜかわからないが本能で感じる。

 「三神」

 不意に呼ばれて振り向く三神。

 「おまえは傷だらけだ。というより韋駄天走りで消耗している」

 沢本は詰め寄る。

 「なんでですか?」

 目を吊り上げる三神。

 「いいからおまえは休めと言っている」

 壁に手をつく沢本。

 無言になる三神。

 でも自分はまだ戦える。

 「三神。最寄のシェルターに行こう」

 朝倉は腕を引っ張る。

 しぶしぶ三神はついて行く。

 「あの亀裂を造った奴はどこから来た?」

 朝倉は口を開いた。

 「千葉沖から来た。シャノンと一緒にいたら亀裂から飛び去った。だからあいつの心臓をえぐりにいく」

 何か決心する三神。

 自分の家系は邪神ハンターである。恥はかけない。

 「簡単に言うなぁ」

 あきれる朝倉。

 「あいつはあの亀裂のそばにいる。あいつ自身が亀裂の発生源だ」

 言い切る三神。

 「なんでそう言い切れる?」

 朝倉が核心にせまる。

 「あいつはここの世界の人間じゃない。時空侵略者で科学だってここより進んでいる。なら発生器はあいつ自身であいつも人間ではなくて魔物だ」

 三神は答えた。

 なんで言い切れるのがわからないが感じる。

 「人間でないってなんでわかる?」

 「わからないけど本能。家系のせいかもしれない。俺の父親はTフォース日本支部の司令官だ。父は最前線に赴くのが常で口癖も「ハンターや軍人は早く死ね」というのを聞いていた。それで何度も重症を負っているが誇りに思っている。俺は父を越えたいし、乳も時空の歪みや亀裂を本能で嗅ぎ取れる能力を持っていた」

 「だからって低レベルのハンターで魔術が使えないおまえが行くのは自殺行為だ。死んだら元の子もない」

 「死ぬ気で命を張らないといけない。誰かがやらないといけないから俺は行くんだ」

 三神はロープを出すと動いた。

 「わあっ!!」

 朝倉は声を上げてひっくり返る。気がつくと手足を縛られていた。

 「悪いけどジッとしてられない。敵はそこにいるんだ」

 三神はトラックの荷台に押し込めると駆け出した。


 六年後の現在。

 「本当に六年前の自分は最低だな。魔人に一人で挑むって」

 資料から顔を上げる三神。

 資料では魔人である笹岡に一人で戦いを挑んで互角に戦ったが頭部に何ヶ所かの裂傷と破片がいくつか刺さり、体にも六十ヶ所以上の深い裂傷を負って倒れていた。

 笹岡を倒して時空の亀裂は消えたが頭部の損傷は思ったよりも深く家族と子供時代の記憶がいくつか消えていた。

 それでも六年前の自分は病院でかすり傷ですと言っていた。完全に頭のネジは外れてるしイカれていた。

 「博多駅前で陥没?」

 長島は携帯メールをのぞく。

 「陥没?」

 間村達が振り向く。

 翔太はTVモニターをつけた。

 「速報が入ってきました。博多駅前の道路で陥没事故が発生しています。死者はいない模様です」

 男性キャスターは報告した。

 「羽生さんと田代さんは福岡署にいるよね」

 あっと思い出す大浦。

 「エリックさんと和泉さんも羽生さんと一緒よ」

 三島がわりこむ。

 「あの陥没の断面・・おかしくないか?」

 朝倉はTV画面を指さした。

 「なんで?」

 翔太と間村が聞いた。

 「あの穴は下水本管だろ。水が流れ落ちないってありえない」

 朝倉は疑問をぶつける。

 「本当だ。そういえばそうだ」

 間村達は声をそろえた。

 TV画面の陥没穴は直径三〇メートル位で道路が崩れ土砂壁と電気ケーブル穴と下水管本管が露出している。ニュースだとあの下には地下鉄のトンネル工事をしているという。

 「トンネル工事で封印されていた物を掘り起こしたのか?」

 身を乗り出す沢本。

 三神の脳裏をフッと何かがよぎる。それは笹岡だった魔人と自分が戦っていた過去の記憶である。互角に戦っているが一人では無理で攻撃を何度も受けた。

 「あいつだ・・・時空の亀裂が出現する」

 三神は思わず声を上げる。

 「そんなバカな」

 間村達がつぶやく。

 陥没穴から光が伸び上空に渦巻きが出現。光の柱が太くなり輝いた。

 「あいつの心臓をえぐらないと!!」

 三神は思わず立ち上がる。

 いきなりつかむ芥川。

 「なんだよ」

 振り向く三神。

 「どうやってえぐるの?」

 芥川は疑問をぶつけた。

 「・・・そういえばそうだ」

 あっと思い出す三神。

 作戦もないし、亀裂をどうやってふさぐかなんて考えてない。

 「そのために俺達がいるんだろうが」

 間村は強い口調で言う。

 「一人では生き残るのは難しい。ならチームなら生き残れる」

 はっきり指摘する沢本。

 「・・・一人だといろいろ限界がある事はわかったんだ。協力をお願いします」

 もじもじしながら手を差し出す三神。

 「もちろんするさ。そう決まったらあの亀裂を出現させた奴の尻を蹴っ飛ばそうぜ」

 朝倉は目を輝かせ三神の腕をつかむ。

 「また決まっていないが亀裂の元はあの光の柱の下にあるだろう。原因はトンネル工事にあると見ている」

 沢本は博多駅前の地図を指さす。

 「あいつはトンネル工事現場にいる」

 三神はTVモニターの陥没穴を指さす。

 「地上班とトンネル班に別れて出発だ。まだ李鵜達やペク達もいるし、アレックスも横須賀基地にいる。そいつらも呼ぶぞ」

 間村が言った。


 一時間後。博多駅前

 大通りの周囲に規制線をはる警官達の姿があった。

 「羽生さん」

 翔太は声をかけた。

 羽生と田代、エリック、和泉が駆け寄る。

 振り向く三神達。

 「ここから周囲十キロは避難指示が出ている。少なくとも周囲一キロの住民は退去して無人だ」

 羽生は周辺地図を出した。赤い丸の地域は避難完了している地域になっている。

 「これが地下鉄のトンネル工事の図面と場所よ」

 田代が図面を見せた。

 「よく手に入ったな」

 感心する間村。

 「いろいろコネを使ったの」

 田代がしれっと言う。

 「三神。俺達も行くぞ」

 アレックスが近づいた。

 「アレックス。リドリーとフランとリヨンを連れてきたんだ」

 少し驚く三神。

 「あの渦から「瘴気」が出ている。魔物が続々と出てくるでしょうね。手伝うわ」

 李紫明が李鵜達と一緒に駅前広場に近づく。

 「地上から出てくる魔物は私達がなんとかする」

 和泉は何か決心したように言う。

 「わかった。俺達は地下トンネルへ行ってくる」

 三神はうなづいた。

 

 地下鉄工事現場出入口から入る三神達。

 トンネルは列車が横に三列並ぶほど広い。工事段階だから作業スペースに工事用機器と作業機械が置かれている。図面だとここは駅のスペースになる。

 三神は周囲を見回す。

 芥川のチームは別の工事用出入口から合流する事になっている。

 すると駅スペースに先客がいた。フジツボだらけの暗褐色の体にのっぺらぼうの頭部。人間もどきだ。どこかにリーダー格の赤い一つ目の奴がいる。

 人間もどきがライフル銃を連射するのとアレックスの機関砲が同時に連射される。アレックスの銃弾は正確に人間もどき達の頭部を貫通した。

 ペク、キム、李鵜、烏来、李紫明が動いた。銃弾の間隙を縫うように掌底を弾き、パンチや蹴りを繰り出しならが駆け抜ける。

 三神が動いた。青い稲妻をともなった残影があっという間に百人を越える人間もどきの間を通過した。彼が振り向き立ち止まるとコアや頭部をえぐられた人間もどき達の死体が転がっていた。

 沢本が飛びかかる人間もどきの間隙を駆け抜けた。人間もどき達は袈裟懸けに斬られ足元に転がった。

 三島と大浦は呪文を唱えた。

 トンネルを飛びまわるコウモリの群れを燃やしていった。

 貝原は一〇対の触手を背中から出して先端を拡声器に変えて音波を発射。命中すると人間もどきの頭部が破裂した。

 駆け回りながら泡を投げていく朝倉。

 泡が人間もどきに命中すると青い炎が噴き出して崩れた。

 翔太はつかみかってきた人間もどきを長剣に変形させた時空武器で突き刺しなぎ払う。

 佐久間や間村達は空を舞うコウモリや三本足の鳥の魔物を撃墜していく。

 三神達はトンネルに入った。

 しばらく行くと別のトンネルがあった。

 「これは図面にはないぞ」

 沢本が指摘する。

 翔太はトンネルの壁に触れた。せつな脳裏にある映像が入ってきた。笹岡らしい男が教室ほどの大きさの機械を操作しているといった物だ。たぶんそれが原因だろう。

 「たぶん笹岡が造ったんだと思います。彼はこの時代にある物でこの時空の亀裂を造った。時空フィールドまでは造れてない」

 翔太は困惑しながら口を開く。

 「時空フィールドを造れていないなら僕達で壊せる」

 不意に声が聞こえて振り向く翔太達。

 作業用トンネルから出てくるオルビス、芥川のチーム。

 「でも時空フィールドを造れていなくて渦が出現しているなら壊したらブラックホール現象が起きるのでは?」

 アレックスが聞いた。

 「そこはリンガムやアーランに頼んで時空バリアを博多駅前に持ってくるように頼んだ」

 オルビスは笑みを浮かべる。

 「それならよかった」

 朝倉がうなづく。

 「行くぞ」

 間村は促した。

 笹岡が勝手に掘ったトンネルをしばらく進む三神達。

 トンネルを抜けるとそこは体育館ほどもある広さの空間だった。そこに円陣を組んだ量子コンピュータとスーパーコンピュータがずらりと並んでいる。ドーム状の天井は穴が開き、そこから光の柱が伸びている。

 「巡視船「こうや」また会ったね」

 笹岡は振り向いた。

 「なれなれしく呼ぶなよ」

 三神は声を低める。

 「刑務所から脱獄したんだろ。どこの刑務所なんて聞かない」

 アレックスがはっきり言う。

 「いたのは時間刑務所だ。あそこは地獄だった。俺は元の世界へ帰らせてもらう」

 笹岡は声を低める。

 「時空管理局はおまえを捕まえるだろうね。逃げられないよ」

 オルビスははっきり言う。

 「ガキに何がわかる。俺は観光で遊びに着ただけ」

 「何が遊びに来たんだよ。破壊に来ただけだろうが」

 黙っていた貝原がわりこむ。

 「巡視船「いなさ」だろ。引きこもりになってうつ病になったね」

 笑みを浮かべる笹岡。

 「黙れよ」

 目を吊り上げる貝原。

 思わず腕をつかむ沢本。

 「俺は元の世界に帰る前にここも破壊してやるんだ」

 笹岡は目を吊り上げ、掌底を向けた。赤い光線が放出され三神達は飛び退いた。壁に命中して火柱が噴き出た。

 笹岡は左右の掌底を向けて赤い光線を乱射。天井のタイルが落ちた。

 李鵜と烏来、ペク、キムの飛び蹴りを受け払う笹岡。

 佐久間と間村は片腕の機関砲を連射。

 笹岡の手前で銃弾は弾かれ落ちた。

 翔太は時空武器を長剣に変えてジャンプ。

 笹岡は片腕で剣を受け止め、蹴りを入れた。

 受身を取る翔太。地面を転がる。

 笹岡は持っていた短剣を振り下ろす。

 ガキッ!!

 沢本の日本刀に弾かれ、朝倉が翔太を抱えて飛び退いた。

 笹岡は日本刀を弾き、持っていたライフル銃を振り向きざまに連射。赤い光線をジグザグに走りながらかわす三神、オルビス、芥川。

 氷見のかかと落としを受け払う笹岡。

 室戸と霧島は片腕の機関砲で機械を撃つ。しかし手前で銃弾は弾かれた。

 「バリアだ」

 オルビスが気づいた。

 「オルビス、芥川。僕とならバリアの内部に入れる」

 翔太はひらめいた。

 「ここで一気にカタをつける」

 笹岡は宣言する。

 彼の体全体が赤いオーラに包まれて背も高くなり、皮膚は赤色に変わり筋骨隆々の体格になる。背中から十本もの立派な角が生えた。頭部には雄牛のような角が生え、身の丈は四メートルの巨人がいた。

 「戦闘力が上がった」

 李紫明が気づいた。

 李鵜、烏来、ペク、キム、李紫明は深呼吸して身構えた。五人の体が青いオーラに包まれる。

 李紫明はにらんだ。

 耳障りな軋み音が聞こえ、金属のウロコが生えてプロテクターや胸当てに変形しているのがわかる。船と融合するなんて思わなかったけど受け入れるしかない。

 翔太は時空武器をライフル銃に変えた。

 芥川とオルビスを包む鎧が硬質化して胸の六角形の模様が青く輝く。

 「三神。補聴器を外していいぞ。あとは俺達が援護する」

 沢本は指示を出す。

 「わかった」

 三神はうなづき、補聴器を取った。せつな、音がよけいに聞こえ、レーダーに脅威度と敵の数が捉えられる。地上にも魔物はいるがそれは地上にいるエリックや羽生にまかせればいい。無数の音が聞こえるが精神を集中した。体から軋み音が聞こえ、金属のウロコが生えてプロテクターと鎧状に変形した。

 笹岡が動いた。

 三神、利紫明、ペク、キム、李鵜、烏来が同時に動く。その動きは残影と影がパッとパッと動いて交差しているにしか見えなかった。

 オルビスと芥川が動いた。青い影と複数の残影が何度も交差して笹岡が蹴られ壁にたたきつけられた。

 笹岡は跳ね起き、掌底を向けた。

 床や壁のブロックが外れて飛び回り、そのブロックから赤い光線が発射される。

 赤い光線をかわす沢本達。

 「時空フィールドを造ったのね。すごい科学力ね」

 佐久間は冷静に指摘する。

 「でもあくまで時空フィールド内部だけだ。その外では発揮されない」

 フランが言う。

 朝比奈、リヨンとリドリーは長剣でブロックを切断していく。

 「ブロックを操る電波はあのパソコンだ」

 貝原は光の柱の背後にある量子コンピュータの位置を送信した。

 「私なら時空フィールドの内部に入れる。これでも時空魔術師のはしくれだ」

 高津は名乗り出る。

 「手伝うわ」

 三島と大浦もうなづく。

 「僕はあの機械を止める」

 翔太は何か決心したように言う。

 三神達は笹岡と戦っている。なら自分が解除するしかない。

 「俺が連れて行く」

 朝倉は翔太を脇に抱えた。

 高津は呪文を唱えた。青いベールのような物に包まれる朝倉、三島、大浦。

 空手チョップをする氷見。空飛ぶブロックは真っ二つに割れた。

 笹岡の鋭い蹴りとパンチを受けて李紫明、ペク、キム、李鵜、烏来は地面にたたきつけられた。

 笹岡が再び動いた。オルビス、芥川はスピードを上げた。三神の飛び蹴り。

 笹岡は壁にたたきつけられた。オルビスのパンチと芥川の蹴りを受け払いそして膝蹴りした。

 三神の速射パンチを放った。

 笹岡はそれをすべて受け止め、鋭い蹴りを入れた。

 三神はスーパーコンピュータに激突した。

 オルビスのかかと落としが笹岡に命中。

 芥川の回し蹴りに笹岡は壁に激突した。

 「ぐはっ!!」

 三神は口から緑色の潤滑油をしたたり落ち腹部を押さえた。電子脳に腹部とわき腹の内部機器と金属骨格が損傷と表示される。

 メキメキ・・・

 三神は鋭い突き上げるような痛みにのけぞる。内部で血管ケーブルや配管が蛇のようにのったくり蠕動しているのがわかる。

 アレックスと沢本が彼の背中にケーブルを接続した。

 「アレックス。隊長」

 三神は顔をしかめる。

 「俺達が援護すると言っただろう」

 沢本は周囲を見ながら言う。

 「オルビスと芥川にもエネルギーをわけなければいけないけどそれは後だ」

 アレックスはさとすように言う。

 三神はうなづいた。ほぼ空っぽだった燃料タンクや予備電源、補助タンクにエネルギーが満たされていくとともに内部機器の損傷の傷がふさがり痛みもやわらぐ。

光の柱の背後へ近づく翔太、高津、三島、大浦の姿が見えた。

笹岡は両目から赤い光線を発射した。

フラン達は駆け回りながらかわした。

「動けるか」

沢本とアレックスは接続ケーブルを外す。

三神はうなづくと走った。

笹岡は両目から光線を乱射。掌底から光線を乱射した。

三神はその間隙を縫うように駆け抜け片腕の機関砲を連射。

笹岡の周囲を青い残影が動き回り、腕を撃ち落とし、体に何発か命中するがすぐにふさがり、腕が生えた。

その動きは笹岡やアレックス達には見えなかった。四方八方の壁や天井から機関砲が連射されているにしか見えなかった。

オルビスと芥川の青い光線が笹岡の頭部と胸を貫通した。

笹岡がよろけたが体勢を立て直し動いた。

笹岡の速射パンチをかわすオルビス。彼の鋭い蹴りを受け払い、芥川の速射パンチをすべて受け止める笹岡。

三神の飛び蹴り。

笹岡がスーパーコンピュータに激突した。彼は口からしたたる黒い液体をぬぐうと動いた。三神はその速射パンチをすべてかわし鋭角的な蹴りを受け払った。

笹岡の背中にオルビスと芥川の片腕の剣が突き刺さる。彼はニヤリと笑い背中から触手が飛び出た。

芥川とオルビスの体を何本もの触手が貫通。二人はくぐくもった声を上げる。

笹岡は三神の蹴りやパンチを受け払い、膝蹴り。三神は壁にたたきつけられた。

笹岡は芥川とオルビスを自分の手前に持ってくると片腕の剣で何度も突き刺し、出ているパイプや配管、ケーブルを引き抜く。

芥川とオルビスはもがきのけぞる。

笹岡はコアに手を伸ばした。せつな、腕や触手が切断された。

沢本の日本刀が胸に刺さった。

笹岡の背中から別の触手が生えたが腕はやっと骨が形成され始めている。

翔太は時空武器を鍵に変えて制御機器に差し込んでタッチパネルを操作する。機械の液晶パネルの言語は日本語に変換されていく。たぶん時空武器のせいだろう。表示されている文字はどの言語にも属さない見たこともない文字だったがなぜか自分の頭には翻訳されているのだ。

「そのコードと基盤を組み替えて」

翔太は目を半眼にして指示を出す。

「了解」

朝倉、三島、大浦は指示通りに基盤を組み替え、プラグを差し替えた。

笹岡は翔太達の方を向いた。

三神と笹岡が同時に動いた。何度も交差して振り向いた。

「俺はここでやられは・・・ぐはっ!!」

笹岡は黒い液体を噴き出し、片膝をついた。

ズン!と突き上げるような激痛にわき腹を押さえる三神。わき腹や胸にバックリ口を開けた深い傷口から緑色の潤滑油がしたたり落ち、内部の部品と配管とケーブルが飛び出ているのが見えた。

自分には生身の部分はない。生きた機械部品で出来ている。配管やケーブルは血管のように蠕動運動をして脈動しているのが嫌でも感じるし、内部の小さなポンプやケーブルが蛇のように這い回り、金属骨格も軋み音を立てて組織閉鎖して金属の芽が伸びていくのを感じた。

「巡視船「こうや」それがおまえなんだよ。もっと苦しむんだよ。そいつら同様に」

笹岡は胸や腹部を押さえよろける。背中の角が五本落ちた。

「それはおまえだって同じだろ」

芥川は胸を押さえ身を起こす。

メキメキ・・・

この体は嫌いだ。

鋭い痛みにのけぞる芥川。胸当てや腹部のプロテクターが歪み軋む。傷口がなかなかふさがらない。それはオルビスも同じなのかくぐくもった声を上げた。

「深遠の石を組み込んだ剣を使ったんだ。破片があっちこっちに刺さっただろう」

笹岡はよろけ片膝をついた。

オルビスは口から青い潤滑油を噴き出す。

唐突に光の柱がやんで渦の動きが止まった。

「時空フィールドが消えた・・・」

笹岡がわめいた。

沢本とアレックスの片腕の剣が笹岡の胸に突き刺さった。

空間を制御していた重力が元に戻り、飛び回っていたブロックが落ちた。

渦巻きが反転して紫色の光が部屋に差し込み上空の渦巻きへ吸い込み始めた。

「退避だ!!」

間村が叫んだ。

「テレポート」

高津が呪文を唱えた。

笹岡を残して全員テレポートした。

「バカな奴ら。あんなのすぐに変えられる」

笹岡は胸を押さえよろけながらモニターに近づいた。

「ここだけと俺だけ?」

目を丸くする笹岡。

あのガキはコードとプロトコルを変更したのだ。時空フィールドは崩壊するがここだけと自分が吸い込まれる事で消滅すようにプログラムが変えられている。

「バカなああぁ!!」

掃除機のように上空の渦巻きに吸い込まれる笹岡。彼だけではなく瘴気や瘴気から出ていた魔物や人間もどきも一緒に吸い込まれ、閃光と衝撃波とともに消えていった。

青い光とともに博多駅のバスターミナルに姿を現す翔太達。

「行き先は君のいた世界だよ。ついでに時空管理局に気づいてもらえるように警告ビーコンを発信したんだ」

翔太はつぶやいた。

「それはすごいな」

貝原と朝倉が感心する。

自衛隊やTフォースの医務官が駆け寄ってくる。

担架に載せられる三神、芥川、オルビス。

付き添いで翔太、沢本、三島、大浦、朝倉が迎えに来たオスプレイに乗り込んだ。

「俺達は片付けを手伝うぞ」

間村は声を張り上げた。

「そのつもりだ」

フランとリヨンは答える。

「片付けが終ったら報告ね」

リドリーはうなづいた。


ガッシャーン!!

天井のガラスを突き破り、笹岡はゴミの山に落ちた。

「ここはどこだ?」

笹岡は身を起こしホコリを払った。傷は治っているし、元に戻っている。

乱雑に散らかった部品や本棚。フラスコやビーカーが棚に並ぶ。

「ここは俺の研究所じゃないか」

笹岡はニヤニヤ笑う。

これで研究を続けられる。またぶっ壊しに暴れられる。

唐突にいっせいに電気がついた。

そこに群青色のピッタリフィットするスーツを着た一団がいた。

「時空管理局である。時間協定第二五〇条違反で逮捕する」

隊長らしい男は逮捕状を見せた。

「バカな・・・」

絶句する笹岡。

「二一世紀の世界で暴れられると思ったのか?残念だね。誰かが誘導ビーコンを作動させたからすぐわかった。迷わないように誘導ビーコンを持っていたのが運のツキだな」

隊長はうろたえる笹岡の腕に腕輪をつける。

「しまったぁ」

頭を抱える笹岡。

「時間刑務所ではなく永久牢獄行きだ。時間刑務所の仲間や手引きした者、買収した者は逮捕して永久牢獄行きになった」

隊長はピシャリと言った。

わめき手足をばたつかせる笹岡を護送車両に部下達は乗せた。


この体は・・・嫌・・

ギシギシ・・・

誰かがケーブルを体内に挿入して接続しているのが嫌でもわかるし、また体が新しい部品を作り出しているのを感じだ。

「・・・痛い・・嫌・・・」

芥川は身をよじりのけぞる。手足を拘束具で縛られているのか動けない。胸当てや腹部にえぐれた深い傷口がいくつも口を開けて内部の機械や歯車が見えた。主要ケーブルや配管が飛び出ていて激しく蠕動しているのが嫌でも目に入る。そして胸当ては呼吸する度にへこみシワシワになる。鋭い痛みに身をよじると深いシワが入り、内部の機械にケーブルが何本も接続されて金属骨格が激しく軋み歪んでいるのが見えた。

「いやああぁ!!」

芥川は暴れのけぞった。

”私との付き合いが長くなるわ”

「しきしま」がささやく声が電子脳に聞こえた。嫌でも船魂の存在を感じた。

「痛い・・・」

オルビスのくぐくもった声が聞こえる。

芥川は痛みにのけぞりながら隣りのベットでもがくオルビスが見えた。彼の傷口からシドや平賀はピンセットで紫色の石の破片を抜いているのが見えた。あの石のせいで傷口がふさがらず内部のケーブルや配管が蠢き、金属骨格がひどく歪んでいるのが見えた。

「深遠の石の破片を取り除いている」

誰かの声がエコーがかって響いた。

「大丈夫よ」

見覚えのある顔が見えた。シドや平賀である。アーランやリンガムもいる。

平賀の手の暖かみが胸当てのセンサーを通じて感じる。懐かしい暖かみ・・・

金属の背骨にケーブルが接続され視界が歪み何かなんだかわからなくなった。


ここはどこだ?

どこかで見た事のある科学者が近づいてくる。でも思い出せない。

 科学者はイスに固定されている男に近づいた。男の体は傷だらけで腕の金属骨格が見えるほど皮膚がえぐれ、腹部や胸の傷口からさまざまな大きなケーブルが見え部品や機器が見えている。

 「こめかみと後頭部のバックアップ装置に電気ドリルで穴を開ければ記憶は消えていく」

 科学者は悪魔のような笑みを浮かべる。

 「米軍に近すぎたんだ君は。三神君。父親は君を売ったんだ」

 「親父が?」

 「父親はなんと言っているのか「魔術が使えない息子を憎らしいと思っていた。役に立たない息子と言っていたんだ」

 「確かに子供の時に聞いた」

 三神はおぼろげながら思い出す。

 いくら訓練しても魔術が使えないもんで兄と妹をかわいがり、自分は相手にもされなかった。父や母に振り向いてほしくて格闘技を習い、ミュータントの異種格闘技ジュニアの部から出場してきた。何度か優勝したが家族は振り向かず、それは海上保安官になってもそれは抜けずに地下闘技場に出入りするようになり常に優勝していたし、保安官同士の競技会でも相手の保安官を病院送りはいつもだったし気にしてなかった。全部、父親の注目を集めたいとか家族や周囲の者達を見返したいという気持ちから来ている。

 「思い当たる事があるだろ。つらい記憶は私は消せるんだ」

 ささやく科学者。

 「そんな実験をやっていたんだ」

 「ミュータントと乗り物を分離する実験は失敗した。それは中止になり記憶を消す事は成功している」

 「そうなんだ。あれはガセネタだったんだ」

 「米軍の邪魔はするなという警告だ」

 科学者は三神の頭をつかみ、電気ドリルを後頭部に突き刺した。

 「ぐああぁぁ!!」

ハンマーで殴られるような激痛にのけぞる三神。頭の中で火花が散り、花火が舞った。


 「わあっ!!」

 三神はベットから飛び起きた。

 「気がついたんだね」

 翔太は目を輝かせる。

 「ここは?」

 三神は周囲を見回した。

 「ここはTフォース横浜病院だ」

 沢本は答えた。

 「おまえは三日間寝ていたんだ。オルビスも芥川も「深遠の石」の破片が六十ヶ所以上刺さっていたから平賀達が取り除いてまだ寝ている」

 朝倉が説明する。

 「笹岡は?」

 あっと思い出す三神。

 「時空の亀裂を生み出す装置は破壊した。あいつは二十五世紀の世界に送り返した。変な発信機があったからそれも作動させた。たぶん信号を聞きつけて時空管理局が向かったと思う。推測だけど」

 翔太は首をかしげた。

 「それならよかった。また来たら刑務所に送り返すだけだ」

 三神は視線を窓の外にうつした。

 「博多駅前の陥没穴は埋め戻し作業が始まっている。笹岡が勝手に開けたトンネルは消滅したからあの渦巻きの中に吸い込まれたと思っている」

 沢本は資料を渡した。

 三島はTVモニターをつけた。

 「避難指示は解除されて羽生さん達は警視庁に戻っているわ」

 大浦が口をはさむ。

 TV画面では工事関係者や工事車両が集まり、下水がたまった穴にセメントを投入しているのが見えた。

 「隊長。みんなありがとう」

 三神は笑みを浮かべた。

 六年前は一人でひたすら突っ走って瀕死の重傷を負って記憶が一部消えた。消えても気にしなかったがそれは後悔している。といっても自分には三年前の記憶は戻らない。

 「でもよかった」

 翔太は三神に飛びついた。

 「やめろよハグは・・・。でも誰も失わずに済んだし記憶も消えなかった。ただ俺といると巻き込まれる」

 三神はうつむく。

 「僕は三年前の君なんか知らないし、ロマノフの宝事件で出会った時からその姿だったし気にしてない」

 翔太はフッと笑う。

 「付き合いは長くなりそうだ」

 三神は笑みを浮かべた。


 数日後。

 横浜港から出る巡視船「やしま」「かいもん」「つるぎ」「こうや」「あそ」

 「あれ煙だ」

 朝倉が本牧埠頭を鎖で指さした。

 どこからかサイレンが響く。煙は狼煙程度のものだったが見る間に黒煙になる。

 三神の電子脳にある映像が飛び込んでくる。火の玉や火トカゲを従えた放火魔が複数で現われるという映像だ。

 「行かないと・・・あいつらやばい」

 三神は五対の鎖を船体から出した。せつな、沢本の鎖が巻きついた。

 「やめろ!離せ」

 三神はジタバタもがいた。

 「どこへ行く?消防車は出動している。邪魔するな」

 注意する沢本。

 「あいつらってなんだ?」

 朝倉がわりこむ。

 「あの放火魔だ。あいつらが複数で現われている。消防士じゃ手に負えないから俺は心臓をえぐりにいく」

 三神は声を荒げる。

 「一人じゃ無理だから仲間を呼ぶ。消防船が呼んだし、監視船や警備船で魔術が使える奴をもっと呼んだ。指示したら補聴器を外すんだ」

 沢本は三神を離した。

 「わかった・・・」

 しぶしぶ三神は答えた。

 「貝原を連れてくれば消防無線を聞けるけどここからでも状況は悪くなる一方ね」

 大浦が危惧する。

 黒煙から火柱が何本も上がっている。

 「一応あの引きこもりも呼んだけど」

 三島が口をはさむ。

 横浜港を離れ本牧埠頭に近づく五隻。

 「僕を呼んだ?」

 巡視船「いなさ」がわりこむ。

 「貝原。来たんだ」

 朝倉が珍しそうに言う。

 「あの炎は電波というより音で合図やコミュニケーションを取っている」

 貝原は耳を澄ませながら指摘する。

 何隻もの消防船と民間船が接近する。消防船は普通の船だがレストラン船やしゅんせつ船はミュータントである。

 「長島、夜庭。水は出せるのか?」

 三神が聞いた。

 「消防船じゃないけど氷の魔術くらい使えるから来た」

 長島と夜庭が答えた。

 地上では何十台もの消防車がやってきて消化剤を撒いている。消防士達が忙しく行き交っているのが見えた。

 燃えている燃料タンクから飛び出す火トカゲと火の玉の群れ。

 「ブリザド」

 三島、大浦は呪文を唱えた。放水銃から氷の粒を伴った水が放水される。

 火の玉と火トカゲの群れが凍り、海の中に沈んだ。

 三神と朝倉は燃料タンクに這い回る火トカゲを機関砲で撃ち落した。

 「ウオーターカッター」

 長島は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて海水が一ヶ所に集まり槍のような形になり地上を這い回る複数の炎の蛇に命中した。

 三神の電子脳にフッと映像がよぎる。燃料タンクに複数の放火魔がいるがそれはUFOに乗ってきたエイリアンというものだ。

 自分でもなんでそんな映像になったのかわからないが火トカゲといい火の玉、蛇といい全部炎をまとっている。たぶん彼らのいる世界や惑星がそういった進化をしたといってもいいのかもしれない。

 「隊長。あの燃料タンクが本体だ。放火魔は時空侵略者だ」

 三神はビシッと錨で指さす。

 「俺達が引きつける。埠頭から引き離せ」

 沢本は消防船や監視船に指示を出した。

 沢本は三十五ミリ機関砲を連射。

 「ブリザド」

 三島と大浦、長島は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて氷の槍や炎に包まれた燃料タンクに突き刺さった。

 炎に包まれた燃料タンクから炎の触手が何本も飛び出し、ドラゴンの形になって宙に浮いて埠頭から離れ、海面スレスレを飛ぶ。

 「貝原。耳ツンにしろ」

 沢本は指示を出した。

 「やってやる!!」

 貝原は船橋の窓の二つの光を吊り上げ船橋構造物から八つの拡声器を出した。

 ドラゴンがオーボエのような重低音の咆哮を上げて触手を振り下ろした。

 貝原はジグザグに航行しながらかわし、音波を最大音量で発射。正確に命中してドラゴンがよろけ触手で耳をふさぐしぐさをする。

 「三神。行け。俺達が援護する」

 沢本は二対の錨を出した。

 「了解」

 三神は操縦室から補聴器を外した。せつな、いろんな音が聴覚装置に入ってくる。頭をハンマーでたたかれたような痛みに舌打ちしながら精神をドラゴンに振り向けた。レーダーに脅威度の順番に火の玉、火トカゲが表示されるがそれは隊長達にまかせればいい。

 船体全体が青いオーラに包まれ三神は動いた。その動きは消防士達にも長島達にも見えなかった。

 ドラゴンの周囲を稲妻をともなった残影が動き回り、触手が何本も切断され、ドラゴンの尻尾や穴が開くたびに火トカゲや火の玉が飛び出しよろけた。

 消防士達や消防船の保安官達がどよめく。

 火の玉や火トカゲを凍らせる大浦と三島と長島。

 泡を投げる朝倉。

 逃げ出す火の玉の群れに泡が命中して消えていく。

 ドラゴンが小さく縮小して四つに分裂して人の形になった。

 三神はスピードを落としてドラゴンから離れた。

 沢本は二つの錨を振り下ろした。水柱が何本も上がり放火魔達は巻き上げられたちまち凍りついた。

 朝倉は二対の錨で突いた。

 ヒビが入り砕け散る放火魔達。

 よろける三神。

 また燃料タンクと補助タンクが空だ。自動的に予備電源に切り替わる。損傷ヶ所と船体の状態が電子脳に表示される。

 本当に自分は機械だな。

 朝倉は鎖を伸ばして「こうや」の船体にまきつけ引き寄せた。

 沢本は燃料ケーブルを接続した。

 歓声を上げる保安官達と消防士達。

 「朝倉」

 埠頭の突堤に駆け寄る女性消防士。

 「柴田」

 朝倉は声を弾ませ接近した。彼は元のミュータントに戻り突堤に上陸した。

 「ひさしぶりね」

 柴田は笑みを浮かべた。

 「本当にひさしぶりだ」

 いきなり割り込んでくる中年の消防士。

 「高浜隊長」

 柴田が振り向いた。

 「誰?」

 貝原がつぶやいた。

 「記憶がない」

 三神は答えた。

 六年前の資料で読んだが横浜のマンション火災現場で出会っている。そこで放火魔と戦った。勝手に首を突っ込んだ形になり彼女と出会った。しかしあまりにもそっけない態度で自分は帰ったのだ。あの時の自分は慢性戦闘中毒者だった。

 「沢本。君らに見せたい物がある。消防署に案内する。そこのレストラン船としゅんせつ船もだ」

 高浜は声を張り上げ手招きした。


 三十分後。横浜中消防署。

 隣りの倉庫のシャッターを開ける高浜。

 「こっち」

 柴田は手招きする。

 顔を見合わせる三神と貝原。

 「僕達も来たけどいいのかな?」

 困惑する長島と夜庭。

 倉庫に入る沢本達。

 シャッターを閉める高浜。

 ブルーシートを取る柴田。

 「虹色の綿毛だ」

 声をそろえる三神達。

 ビン詰めの綿毛が数十個あり、ドロドロに解けた鉄や塵になった木片。ありえないほどらせん状にねじれた車や自転車が置いてある。テーブルには時空の亀裂と都市の幻影や二重の丸い虹や丸い虹が五個も出ている写真まである。

 「すげえな・・・」

 長島と夜庭が感心する。

 「我々も消防局も火災をただ消していたのではない。火災調査団を結成して調査していたんだ。・・・といっても結成されたばかりなんだ。消防士や消防団から時空の亀裂が見える者や特異能力者を集めた段階だ」

 高浜は重い口を開いた。

 「普通の火災ではない事象がこの三年で増えているの。東日本大震災が発生してからは時空の亀裂や赤いオーロラが発生している」

 柴田はタブレットPCを見せた。

 「赤いオーロラ?君は時空の亀裂が見えるのか?」

 三神は高浜を押しのけた。

 「見えるわ。赤いオーロラは亀裂が出現する前触れ。あれが出ると放火魔が現われる。あいつらは人間じゃない。エイリアンよ」

 柴田ははっきりと言う。

 「あいつらは時空侵略者だ。あいつらのいる世界や惑星はああいう進化をしなければ生きられなかった。摂氏二〇〇度なんていう生物はいないからな」

 三神は核心にせまる。

 「あいつらは音を使ってコミュ二ケーションをしている。その音の中継地点は太平洋から来ている」

 貝原は壁の地図を指さした。

 「高浜。海上保安庁は海からやってくる敵と戦っている。沿岸警備隊チームも特命チームも時空の亀裂や海からやってくる脅威に対処するためにある。そしてカメレオンの情報収集艦が現われた。どこかに司令部があると見ている。放火魔の連中を呼び寄せたのはたぶんカメレオンだ」

 沢本は指摘する。

 「火災調査団があるなら時空監視所の調査団と合同捜査してみれば?」

 それを言ったのは朝倉である。

 「ぜひそうしたいです。この放火魔の正体と赤いオーロラの正体が知りたい。あと対処法もあればいいです」

 柴田は身を乗り出す。

 「よし許可する」

 高浜はうなづいた。

 「高浜、柴田。保安署のヘリポートに自衛隊のオスプレイが迎えに来る。翔太や他のメンバーも紹介する。行き先はお台場の時空監視所だ」

 沢本は笑みを浮かべた。


 二時間後。お台場

 ヘリポートに着陸するオスプレイ。

 台車を押す柴田、高浜、三神、朝倉。

 沢本達はエントランスに入った。

 研究所に時空監視所調査団チームや佐久間達や羽生達が顔をそろえている。

 「模型漁船がいる」

 柴田が指をさした。

 「模型漁船じゃないもん」

 第五福竜丸は不満をぶつけた。

 「海上保安庁のSSTもいるのか」

 高浜が少し驚く。

 「ようこそ。時空監視所へ。所長をしているアーランです」

 銀髪で色白の女性が名乗った。

 「高浜です」

 「柴田です」

 二人は顔を見合わせる。

 「オルビスとリンガム。シド博士と平賀博士です」

 翔太は紹介した。

 「椎野です。隣りは稲垣です」

 「来宮亜紀です。隣りは雅人」

 「ランディです」

 「長島です。隣りは夜庭で飛鳥丸。福竜丸の友人の住吉丸、福寿丸、小林丸」

 長島は紹介する。

 「こんなにメンバーがいたんだ」

 戸惑う高浜と柴田。

 「特命チームと沿岸警備隊チームの名簿」

 アーランが名簿を渡した。

 「すごいですね。空母のミュータントや巡視船のミュータントがこんなにいるって」

 柴田が感心する。

 「火災調査団よりすごいかもしれない」

 高浜はうなづいた。

 「消防局が持っている押収物がこれね」

 アーランがコンテナをのぞいた。

 リンガムやオルビス達がテーブルや作業台の上に載せていく。

 「木が炭化して鉄が溶けてねじれるって普通ならありえないわね」

 佐久間はねじれた鉄骨を見ながら口を開く。

 高浜はノートPCに接続してスクリーンに投影した。そこにはありえないほどねじれた車や自転車の映像が出る。その映像の他に赤いオーロラや二重の丸い虹や都市の幻影、虹が五個も出ている映像もあった。

 ビン詰めの虹色の綿毛をながめる平賀

 「これらの現象は「時空の揺らぎ」だね」

 シドは推測する。

 「そしてこの現象が起こると時空の亀裂からいきなり現われるのがこいつらだ」

 高浜はスクリーンを切り替える。

 本牧埠頭に現われた放火魔や別の場所の現場では稲妻の塊、工場らしい場所で黒色の鎧で接合部や間接は赤く光る巨人や岩のような骨系質の体に腹部はサイバネティツクスーツという生命体が映っている。

 「この放火魔はソリア人よ。黒色の巨人はカイロス人。岩人間はガロア人。みんな時空侵略者ね」

 リンガムは分析した。

 「エイリアンか。うすうすそうでないかと思っていた」

 高浜は腕を組んだ。

 「このねじれた自転車や物体は時空フィールド形成で生じた歪みに巻き込まれた。この稲妻はヴァイラス人。稲妻型の生命体で他の生物を乗っ取り自分ごのみに改造する」

 アーランが稲妻の塊の映像を指さす。

 「ソリア人は体内温度が二〇〇度の生命体。カイロス人は別名「溶岩生命体」と呼ばれ、体内温度が一〇〇〇度の生命体。いずれも寒さや氷、水が弱点だよ」

 オルビスが指摘する。

 「ガロア人は集合意識で仲間同士は繋がっているけど炎が弱点ね」

 リンガムが指摘する。

 「原因はカメレオンとサブ・サンだ。そのせいで時空の亀裂が起きやすくなっている」

 翔太は画面を切り替えた。

 そこには世界地図が出て世界の主な核実験跡が表示された。

 「我々消防局もどこに時空侵略者が出現するのか調査したんだ」

 高浜は東京湾と相模湾の地図を出した。時空侵略者の出没は海岸部と湾内部である。都内と関東に集中している。

 「火災調査団は都内と神奈川県内の消防署と消防団で特異能力を持つ消防士や消防団員で結成されたばかりで、時空の亀裂を感知できる能力者は限られる」

 柴田は困った顔をする。

 「火災調査団を結成して調査といっても時空感知能力の高い人間やミュータントと火災調査官を入れて調査していた」

 高浜は後ろ頭をかいた。

 「火災現場で時空の亀裂が出現しているのに気づいたのは三年前からよ。最初は横浜でそれが都内と東京湾に拡大した」

 柴田はスクリーンを切り替えながら写真を見せて説明した。

 「日本だけじゃなく沿岸地域で起こっているとなれば他の国でも起こっていないか調査する必要がありますね。太平洋から来るならどこかにアジトがありカメレオンの司令部か基地がある」

 それを言ったのは佐久間である。

 「これをほっといたらいずれは大挙して亀裂から侵入される。奴らはどこが侵入しやすいかを下っ端を使って探っている。消防士や消防団なら突破しやすいと思ったんだろうな。そしたら思わぬ抵抗に驚いて手探り状態かもしれない。そしたら強力な刺客を送ってくる」

 間村は地図を見ながら指摘する。

 「そうすると消防士や消防団じゃ太刀打ちできなくなる。奴らは地球より進んだ科学力を持っているから消防車なんて簡単にへし折るし、自在に亀裂を使って侵入する」

 室戸が口をはさむ。

 「予備自衛官や即応予備自衛官を消防署に入れた方がいいと思うよ。予備でもA級S級ハンターはいるし派遣できる」

 霧島が提案する。

 「それは感謝する」

 高浜はうなづく。

 「消防局がそこまでなっているとは思わなかった。警視庁も考えた方がいいと思うな」

 それを言ったのは羽生である。

 「警視庁や警察からは今の所はそういうのは起きていなくてもいずれ起きるとみている。いずれは事件現場に時空侵略者が出現してもおかしくないと思っているけど、上層部は何の話もないわ」

 危惧する田代。

 「東京消防庁が異変や奴らの企みに気づいたから俺達は集まったんだ」

 黙っていた三神は口を開いた。

 「君の口からそれが聞けるとは思わなかった。驚きだ」

 感心する高浜。

 「俺は三年前の任務で記憶がない。六年前にやってきた魔人事件も記憶がなくなっていたし家族や子供の頃の記憶も三年前に一緒に活動していた仲間すら覚えない。博多の陥没事故に現われた時空の亀裂の原因を作った六年前の魔人が戻ってきても記憶はフッとよぎっても記憶がない」

 重い口を開く三神。

 「記憶がなくなったのは本当だったのね」

 柴田がわりこむ。

 三神はうなづいた。

 「本牧埠頭での戦いを見たが隊長の指示にしたがっていた。それに特命チームや沿岸警備隊チームに選ばれたのは知っている。それだけでも成長といえる」

 高浜は三神の肩をたたいた。

 黙ってしまう三神。

 「記憶は戻らないの?」

 柴田が聞いた。

 「俺はもう記憶も仲間も失いたくないし記憶は戻らなくてもいいと思っている。結局・・・六年前の資料や笹岡を見ても思い出さなかったからこだわってない。またやってきたら刑務所に放り込めばいいし、時空侵略者も自分のいた世界に送り返せばいいと思っている」

 真剣な顔になる三神。

 これが答えだし、自分には時空を歪められる程の韋駄天走りができる。なら時空の亀裂をふさぐのも任務だ。

 「あなたがそう思うなら私達も協力するわ」

 柴田は笑みを浮かべた。

 「貝原。消防署との連絡役をやらないか?」

 ひらめく沢本。

 「え?僕が?」

 ひどく驚く貝原。

 「火災調査団との連絡役だ。君には音を操れる能力がある。火災現場に現われる時空侵略者がどこと通信をしているのか傍受とそれを探るのが仕事だ」

 高浜は肩をたたく。

 「海保と消防じゃぜんぜんちがうし消防ホースなんて持った事がない」

 困惑する貝原。

 「だから連絡役と通信、傍受担当なんだ」

 高浜は言った。

 「すいません」

 いきなりわりこんでくる五人の消防士の男女。

 振り向く沢本達。

 「東京消防庁からきました時雨(しぐれ)です。隣りは柳楽(やらく)です」

 童顔の消防士は自己紹介した。

 「私は火災調査官の五十里(いかり)隣りは消防団の下司(しもじ)」

 中年の消防士は口を開いた。

 「紹介する。火災調査団「スクワッド」のメンバーだ。他にもいるけどこの四人が一番能力が高い。合同捜査もできると思っている」

 高浜は後ろ頭をかいた。

 「時雨、柳楽だっけ?僕と同じ仲間だね」

 オルビスは近づいた。

 「柳楽の方は体だけね。手足はマシンミュータントで心臓があって人間」

 芥川は二人の周囲を歩き回る。

 「柴田。あなたの片腕は私と同じ仲間の物ね。誰が移植したの?」

 リンガムは柴田の腕をつかんだ。

 「サマーセット博士。私は三年前の事故現場で魔物が襲ってきて五〇人以上の消防士とレスキュー隊、救急隊員と負傷者は魔物に食べられて、私は片腕を失った。気がついたら病院でサマーセット博士が機械の腕を私にくれたの」

 柴田は思い出しながら視線をそらす。

 「この事件ね」

 佐久間はスクリーンを切り替える。

 八王子の高尾山のふもとの高速道路で三年前に多重事故が発生。そこに駆けつけた消防士達は負傷者もろとも時空の亀裂から現われた魔物の餌食になった。そこにいた野次馬も犠牲になり生き残った野次馬が撮影した動画が凄惨さをものがたっている。動画にはトラックが時空の亀裂に吸い込まれ時空フィールドが発生して近くにあった看板や車やバイク、自転車がらせん状に捻じ曲がり、巨大ムカデと大蛇が飛び出しすばやい動きで丸呑みにしていく映像だ。

 「そういえばある時、おじいさんが話したんだ。三年前に八王子で時空侵略者が侵入してきた事件があって五〇人以上亡くなったというのを。自分は警告を受けていたけど警備と警戒を指示しただけで動かなかったのを後悔しているって」

 翔太はあっと思い出す。

 あの時の祖父の顔は苦悩に満ちていた。慎重すぎる性格で後手後手に対応が回ってしまうのをうけて三年前に退官したというのを聞いた。

 「サマーセット博士は私の恩師だ。科学者でもあった彼は優れた外科医でね。宇宙漂流民の保護する活動もしていた。任務の中には間に合わなくて腕や足だけやコアをえぐられて死んでいるという事もある危険な任務だ」

 シドは重い口を開いてスクリーンに映す。

 白いヒゲに白髪の老人が映る。

 「何歳ですか?」

 稲垣がわりこむ。

 「彼は人間で九十歳。昨年亡くなった」

 シドが答えた。

 「あなたの腕。死んでなくて生きている。使えば使うほど生きた機械に侵食されて融合の苦痛が近いうちに起きるよ。あなたは金属生命体と人間のハーフになる。私達とちがうのは機械と金属の心臓に変わる。寿命はマシンミュータントと同じ位になる」

 はっきり指摘するリンガム。

 「そんな・・・」

 愕然とする柴田。

 「融合の苦痛も近いよ。亜種族でも私達の仲間。サポートもするし支援もする」

 リンガムは笑みを浮かべる。

 「心配するな。俺達と同じになるんだ」

 そっと肩をよせる三神。

 泣き出す柴田。

 「時雨。どこで拾われた?」

 オルビスが聞いた。

 「僕は三十年前に太田と葛城博に拾われた。

太田の知人の時雨の家に養子になった。時雨家の祖父は戦車のミュータントで父親は消防士で息子と娘は自衛隊と警官だった。だから僕は消防士を選んだ。ブレインから衝撃波発生装置をもらった。正確には波動なんだ。太田から、邪神ハンター訓練を三歳から受けて衝撃波を武器やバリアにして自在に使えるまで仕込まれた。彼は厳しかった」

どこか遠い目をする時雨。

「太田教官は厳しいよ。俺達もヘロヘロになるまでしごかれた」

肩をすくめる朝倉。

「死んだ太田教官が宇宙漂流民の保護をしたりかくまったり・・・知らなかった」

沢本はため息をつく。

「太田教官はA級邪神ハンターでマシンミュータントだ。簡単に殺せない。殺せるのは相当なプロだ」

三神がつぶやく。

演習の時は新入りのミュータントが束になってもかなわなかった。それを殺したという事は犯人は親しい者かよっぽどのプロだろう。

「柳楽。君は?」

オルビスが聞いた。

「僕は普通の人間で暴力団の構成員をしていた。五年前に見知らぬ奴らに拉致されて人体実験されて心臓を宇宙漂流民の胴体に、手足をマシンミュータントの物に移植する改造手術をされていたところを太田やTフォース長官になる前の葛城博に助けられた。太田は恩人だ。恩を返したいから消防官になった」

 柳楽は重い口を開き視線をそらす。

 柳楽と時雨は消防士の作業上着を脱いだ。

 柳楽は上半身は人間の体で肩口から手先は機械の腕で、胸には大きな傷跡がある。

 時雨はサイバネティックスーツに覆われ、篭手とショルダーパット。胸当てが赤色で胸にはオルビスやリンガムと同じように六角形の模様がある。

 「本当に三十歳?中学生じゃなくて?」

 佐久間が怪しむ。

 「僕は三十歳です」

 時雨は困惑しながら免許証を出した。

 「本当だ」

 納得する佐久間と沢本と羽生。

 三神はまじまじ見つめる。

 オルビスやリンガム、芥川も十分に幼顔が残るが時雨はもっと童顔で背丈も一七〇センチ位でオルビスもその位の背丈だ。たぶん宇宙漂流民の特徴かもしれない。

 「僕は元々はこんな顔でした」

 柳楽は戸惑いながら写真を見せた。

 「え?」

 困惑する三神達。

 そこにはヒゲを生やし、スキンヘッドの男が映っている。でも今の彼は幼さが残る顔になり、髪はフサフサだ。たぶん人体実験と宇宙漂流民の体のせいだろう。

 「君が葛城長官の息子さんだね。君らの事は聞いている。ここが協力しよう」

 五十里は笑みを浮かべ翔太と握手をする。

 「下司だっけ。あなたスナイパーで賞金稼ぎをやっているのに消防団に入っているのね」

 佐久間はタブレットPCを見せた。

 「私はヒマになったから帰国して消防団に入った。そしたら四年前に太田に声をかけられた。彼とは知人の関係だったの」

 下司は答えた。

 「まあいいけどおかしなマネしたら心臓をえぐるだけ。今は少しでも人材がほしいわね」

 佐久間は腕を組んでにらむ

 下司は腰に手を当ててにらんだ。

 「ここは協力しよう。ケンカなら外でやれ」

 高浜は注意した。

 「今日は顔合わせね。本格的に戦いは始まっている。全力で戦い奴らを追い出す」

 アーランは決心したように言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る