第6話 琉球3

「いってらっしゃい~♪」


ライ、尚 巴志、李 美麗は首里姫に見送られる。


「行ってきます。」


ライは返事を返し、ペコ。美麗は会釈した。


「いくぞ! お前達!」


尚は王子のプライドか妹が面倒なのか、さっさと進みたがっている。



3人は道を歩きながら話す。


「先に言っておくが、俺は妖怪は見えない。」


尚は正直に言うが、


「ええ!? じゃあ、なんで付いて来たんですか!?」


ライは突然のカミングアウトに驚く。


「王子の責務だ。」


尚は琉球王国の王子である。


「ハハハハハッ~♪ 日本人は楽しい人が多いのね~♪」


美麗は面白おかしくて笑う。


「うるさい!」


尚は少し気性が荒いのかもしれない。


「少年は妖怪が見えるのかい?」


美麗はライに聞く。


「はい。」


ライは道端の古家を指さし、


「そこの空き家に母親と赤ん坊がいます。それにしゃもじも?」


ライは目で見えるものを言う。


「乳の親(ちーのうや)とアカガンターと飯笥(みしげー)だ。」


尚は沖縄に伝わる妖怪を説明する。


「海辺にも人魚と、川辺にも何かいます。」

「ザンとブナガヤだ。」


尚は妖怪は見えないが、地元の妖怪には詳しかった。


「私には、少年の中にも1匹、少年の横に犬の霊が1匹見えます。」


美麗にはライの霊が見える。


「首里姫に命を助けてもらう時に、ガジュマルの古木を植えられました。」

「キズムナーか。」


首里姫はライの命の恩人である。


「犬はハチです。昔、飼っていたペットです。」

「かわいい。」


美麗は犬の手を取って戯れる。


「ワン~♪」


ハチも遊んでもらって嬉しそうである。


「あ、バナナ!」


ライはバナナを見つける。


「あれは芭蕉だ。」

「なんだ、違うのか。」


ライはガッカリする。


「ワンワン!!!」


いきなり、ハチが威圧的に吠え始めた。


「どうしたハチ?」


ライが周りを見渡すと。ボ、ボ、ボ。火の玉が複数、現れる。


「火の玉!?」

「火玉・タマガイ・遺念火(いねんび)だ。」


火の玉の種類は多かった。プワ~ン。ちょっと大きな悪霊が現れた。


「今度は悪霊だ!?」

「マジムンだな。」

「あれがボスね。私が一撃で、全てを倒します。」


そう言うと、美麗は集中して霊力を高め、光に包まれる。


「5行秘術! 黄竜!」


見る見る内に、美麗の姿が黄色の大きな龍に変わっていく。


「ガオゥ!!!」


美麗は黄竜になった。


「わぁ!? 竜になった!?」


ライは人間が大きな竜になったのが信じられなかった。


「妖であったか!?」


尚も美麗の変身に驚く。


「ガオゥ!!!」


黄竜は黄色い炎を吐き出し、悪霊、火の玉を焼いていく。ボー!黄竜の炎で一瞬で妖怪を倒した。


「すごい!」


ライは始めて見た竜の破壊力に驚く。シュン。黄竜は人間の姿に戻っていく。


「妖怪退治、完了~♪」


少し疲れているが美麗は笑顔で言う。


「おまえ、妖怪だな!?」


尚は美麗を疑う。


「違うわよ! 人間よ! 明に伝わる秘術よ!」


美麗は弁解する。


「美麗さん、すごいですね。」


ライは感心している。


「大技だから1日1回しか使えないんだけどね~♪」


美麗がおどけていると、


「ワンワン!」


ライのペットのハチが鳴きだした。


「あ!? 火の玉が残ってる!?」


ハチが鳴いた先に火の玉が残っていた。


「黄竜の炎で焼けないなんて・・・。」


美麗は不思議に思う。


「でん、その火の玉の様子を、教えろ!」


尚が言うと、ライは火の玉を考察して、


「火の玉は・・・まったく動きませんよ。」


それを聞いた尚は、


「動かない・・・それは遺念火(いねんび)だな。」

「遺念火?」

「遺念火は悪さはしないが、無念が残っているんだ。」


尚は遺念火を説明する。


「そういえば、ボスを倒せば、妖怪は消えるはずなのに消えてないわね?」


美麗も不思議に思う。


「まさか、ボスは悪霊のマジムンじゃなかったのか?」


尚が言うと、


「ワンワン!」


ハチが芭蕉の方に敵意をむき出しで吠え始めた。


「あれは!?」


ライが芭蕉の方を見ると、ポン。琉球の真のボス、芭蕉精(バナナ)が現れた。


「こいつは俺がやる! でん、妖怪の場所を教えてくれ!」


尚は琉球空手・琉球古武術の使い手だった。


「でや!」


尚が手刀を振り回すが当たらない。


「前です! 右! 左! 後ろ!」


ライが指示を出すが、まったく当たらない。バナバナ! 芭蕉精がバナナで尚を攻撃する。


「ギャア!」


頭をバナナで叩かれて、尚は地面に倒れ込む。


「やれやれ、私が戦うしかないか?」


美麗が戦おうとするも、


「僕がやります。」


ライが一歩、前に出る。


「少年、大丈夫なのか?」


美麗は心配するが、


「姫の命令ですから、妖怪を倒して、生きて帰るって、承知したから。」


穢れが清められたライはニコっと笑う。バナバナ。ライの立っている目の前でバナナが踊っている。チャキーン。ライは真剣な表情になり、一龍雷剣を鞘から抜き構える。ギュ。柄を力強く握り、剣を振り上げバナナに突進して、


「海竜雷覇!!!」


剣を振り下ろす。ザパーン! 海から海水が竜の形になりバナナを襲い、ゴロゴロ、ピシャーン! 天の暗雲から雷がバナナに降り注ぐ。


「バナナ!!!」


芭蕉精は成仏した。


「少年、見掛けと違って強いんだな。」


美麗はライの大技にビックリした。


「焼きバナナ、食べますか?」


最後はこの展開にしよう。


「食べる~♪ 疲れた時は甘い物に限るな~♪」


美麗は焼きバナナを食べる。


「おいしい~♪」


ライは倒れている尚を見て、


「尚さんはバナナが嫌いになったんだろうな。」


ライは焼きバナナを食べながら思うのであった。


つづく。

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