猫の戦い方

/十八/


 初合わせからすでに一時間、刀使いは焦っていた。


 尻尾使いはあれから、市街地にへと逃げ込んだ。それはいい、予想していたことだ。

 しかし、それによって起こる、尻尾使いの行動の変化は読めなかった。


 壁を走る、屋根から屋根に飛ぶ、狭い道路を速度を落とさず走る、身軽な装備を生かして跳ぶ。


 移動のバリエーションが多すぎて、相手の行動を把握出来ないのだ。


 陸上戦の立体機動はCATの十八番だ。

 最高速度を維持しながら市街地をパルクールさながら跳梁跋扈する様は、まさしくニンジャと言うにふさわしい。

 金属をほぼ使わない機体構成がさらに重量・出力比の崩壊を起こし、加速度の限界を超える。


 なんだ、あの動きは!


 追っているのは自分のはずなのに、何故か追われている感覚に襲われる。


 背中が重い。背負っているオオソデが自分の身体を遅くしているのはわかりきっていた。


 その時、全方位センサーみみが高速接近する何かを捉える。

 オオソデが自動防御機能で防いだ。

 ……それは、尻尾使いが装備していた長身のナイフだった。

 意識外からの攻撃。刀使いは焦る。隙を突いた攻撃。どこから。確かに追っていた。どこで逆転した。

 奴はあの速度で走っている。自分は追う側だ。何故見失った。



 尻尾使いの声が聞こえる。建物と建物に反響して、全方位センサーみみでは把握できない。


『刀使い。お前、を知らないだろ?』


 図星、だった。

 刀使いは、仮想空間で奥歯を噛みしめる。


『立体機動ができない猫なんて、ただの人型兵器だ。

それならただ速くて硬い戦車を用意した方が効率的だからな』


 刀使いは常に平面に近い地上でしか戦っていなかった。そこでしか戦えないからだ。

 武術とは、人間という躯に最適化された戦闘術だ。

 武術において、足場というのはとても重要な要素だ。

 足を地に着け、腰を落とし、足運びにより生まれる気を上半身に伝える。

 両腕の力など、そこから生まれるエネルギーに比べれば、遙かに小さい。


 そういう意味では、武術とCATは相性が悪い。


 立体的な機動、出力に対して軽すぎる機体、不安定な足場や環境を前提とした運用。

 すべてが、人間とは違う。

 人型だが、猫と人を掛け合わせたような兵器。それが、CATだ。


 つまり、刀使いはただ大きくなった人間のような動きしかできないのだ。

 人工筋肉によって幾分のブーストが掛かるが、そんなものは達人同士にとって何の意味もない。


 刀使いは悟った。尻尾使いには敵わない。

 CATでの戦闘では。


 刀使いは大小多数の建物が倒壊している場所を抜け出し、移動する。


『お、どこに行くんだよっ、と!』


 尻尾使いが長身のナイフを刀使いの背中に投げる。刀使いは器用にも半身を後ろに向けてナイフを両断した。


 ヒュウ、下手な口笛が尻尾使いから聞こえた。


 電力が切れかけの刀を戻し、今度は左右別々で刀を持つ。


 ならば、自分の領域に引き込めば良い。


 仮想世界でちらり、とインジゲーターを確認する。


 残り五十%と表示されていた。

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