白いスーツの男

7


所轄目黒警察署での捜査会議は比較的、淡々としたものだった。


奥行き八メートル、横は十メートルほどの刑事課の会議室は中央に幾つかテーブルが並び、左手の壁際にスティールの戸棚。対面には打ち合わせ用のホワイトボード、そして奥にスライド映写用のスクリーンのロールが天井からぶら下がっているという簡素な部屋で、テレビの刑事ドラマなどで見るものとそう変わりはない。


折り畳み式のパイプ椅子も沢山ある。本庁の会議室よりは狭いが、二十人や三十人程度ならば楽に収容できるスペースだろうなと花屋敷は思った。


警視庁捜査一課からの応援組である花屋敷と石原を含め、スーツを着た若い捜査員や年輩の捜査員、白衣を着た警察医に至るまで、ざっと見積もって20人近くは室内にいるだろう。


捜査指揮を執る本庁のキャリアと磯貝警部の二人はまだ花屋敷達とは合流していなかった。もちろん件の人物は花屋敷の旧友である早瀬一郎警視の事である。


昨日の夕方頃、目黒暑管内でドラッグを所持した少年達による傷害事件があったとかで早瀬警部ともども、刑事課の何人かの刑事が応援に回されていた。花屋敷の上司であり、班長の磯貝警部もそちらに回されている。


花屋敷の隣では石原が黙々と手元の手帳にメモしている。目黒署の刑事達もそれぞれ腕組みをしたり石原のようにメモをとったりしていた。

花屋敷はいつものように不機嫌ともとれる仏頂面で捜査資料を斜め読みしていた。


ポリッシャーとワックスでツヤツヤに磨かれたリノリウムの床には、蛇がのたくったように機材のケーブル類が広がっている。

パソコンからプロジェクターへ。そしてスクリーンへ次々に事件に関する写真が写し出されていく。


鑑識からの報告では特に目新しい事項はなかった。


残された例の手帳の筆跡は間違いなく川島由紀子本人のものである事。

そして彼女の携帯電話の方からも特に怪しいと思われる人物との電話やメールのやり取りは確認できなかった。


通話記録やメールの内容はほとんどが女友達との他愛のない学校でのやり取りで、川島由紀子が特定の異性と親しく付き合っていたというような痕跡はなかった。


花屋敷は捜査資料にある携帯電話に登録された番号や発着信履歴にある名前、そしてメモリーのリストをざっと眺めてみた。


女友達の電話番号や発着信履歴が圧倒的に多い中、担任の教師の電話番号だけでなく校長や教頭の名前まであるのが少し気になった。

これに関しては石原も首を傾げたらしく会議中に質問したが、新聞部での取材用に外部の人間と交渉するにはどうも学校の許可がいるからということであるらしい。


12年前の監禁刺殺事件。

そして川島由紀子が墜落死した今回の事件。

花屋敷は本庁の刑事として意見を求められ、黒魔術に関係していると思われる過去の事件の資料を示し、今回の事件ともども不審な点はもう一度洗い直す必要があるのではないかと一応、意見具申してみた。


しかし、本庁からやって来た古井という管理官の答えはそっけないものだった。


学校という特殊な環境下で奇妙な自殺が二件あるからといって、また黒魔術や魔術師といった耳慣れないキーワードがいくら一致しているからといって、過去の自殺と本件との関連性は薄いだろうというのが古井管理官の主張だった。


花屋敷は区役所の職員のような、どこかそっけない古井の対応に僅かに落胆した。

確かに過去の事件の被疑者は既に死亡している。それも十二年も前の話だ。

未解決事件ならまだしも、今更ほじくり返す必要はないという事も判る。


女子高生監禁刺殺事件。通称SE207号事件は状況証拠やその他から、やはり被疑者である武内誠以外の犯人は想定できない。

だが、過去の事件と今回の飛び降りは花屋敷には偶然とは思えなかった。もちろん確たる根拠がある訳ではない。


先程からぼんやり会議を見ている限りでは、今回の川島由紀子の自殺は多感な高校生にはありがちな自殺事件として処理されそうな雰囲気であった。

花屋敷の不満とは裏腹に、古井は淡々と会議を進めた。


「決め手になるのはやはり死因でしょうね。自殺であるにせよ事故であるにせよ、彼女の死は些か不審な点が多い。その点について警察医の方はどうですか?」


鉄面皮ともあだ名される管理官の古井誠警視は感情のない声でそう言って、傍らの白衣を着た老監察医に向けて問いかけた。


「よいしょ…と。それでは解剖記録の方を見てもらいましょうか」


白衣を着た、タクさんの愛称で皆から呼ばれている警察医の山瀬卓三はのんびりとした口調で大儀そうに腰を上げると、表紙になぜかドクロのロゴマークが入った黒いファイルを手に取った。解剖医にしては飄々としていて風変わりな老医である。


「えー、あの人形のように美しい死骸の死因と死亡推定時刻については、当初から見積もられていた死因と殆ど変わりはありません。

屋上から飛び降り、全身を強く打った事による外衝性ショック死。頭部損傷による脳内出血、それによる失血性ショック死とみてまず間違いありません。

まあ、地面に接触する間際まで笑っていたという話ですから、死亡直前まで意識は当然あったものと見られます。

通常バンジージャンプやスカイダイビングのような能動的な飛び降りと違い、自殺しようとする人間の投げやりな意識は、落下の際に気絶するのが殆どですがね。

いやはや、何とも…。常軌を逸した怪談のような恐ろしい話です。

当然、被害者は即死ですな。

生活反応、胃の内容物の消化状態と直腸内温度の測定結果から、死亡推定時刻は夕方の16時40分頃と見積られます。このことは目撃証言とも一致する話ですし、一、二分の誤差はまず問題ないといっていい範囲でしょう」


タクさんはそこで目を細め、鼻をムズムズとひくつかせたかと思うと、突然クシュンと派手なクシャミを一つした。


「…あぁ、失礼失礼。季節の変わり目か、どうにもクシャミが止まりませんでな。流行りのインフルエンザにでも罹っとらんといいんですが。

ホッホッ…医者の不養生はいけませんねぇ。皆さんも気をつけましょう。

…ああ、そうそう!インフルエンザといえば被害者の川島由紀子さんも風邪を引いていたようです」


…何だろう。花屋敷は何かが引っ掛かった。


「ほう…無関係でしょうが一応聞いておきましょう」


いちいちカンに障る尊大な態度で、古井はタクさんを促した。


「喉に若干の炎症の形跡が見られました。

昼食を食べた後にでしょうが風邪薬か何かを服用した可能性があります。

成分分析の詳しい結果はまだですが、おそらく家庭用常備薬の成分であるアスピリンやブロムヘキシンといった、まぁ中毒性や副作用等はあまり関係ないような物質ばかりでしょう」


「まぁ、事件には関係なさそうですね…。

…で、そろそろ知りたいのですが、なぜ被害者は笑いながら飛び降り、死後に至っても笑っていたと先生は考えますか?

馬鹿げた目撃証言だし、実際ただの見間違いか錯覚だろうとは思いますがね。

いくら自殺事件といえど、その辺りを明確に知りたいと世論は願うでしょう?

マスコミへの記者会見で発表する以上、この件に関しては私もぜひ聞いておきたいのでね」


眼鏡の銀色のフレームをくいっと押し上げ、古井はタクさんにそう切り出した。


古井の目の奥がにわかに輝き出したように見える。まるで芸能人気取りだ。

花屋敷は溜め息をついた。俗物というのはどこにでもいるものである。これを機に、この管理官のことは『俗物メガネ』とでもあだ名してやることにした。


山瀬医師は申し訳なさそうにグレーの総髪をガリガリと掻いた。


「申し訳ありません。

あの珍しい事例に関しては医者としても皆目わからないというのが実情です。

私もまだまだ修業が足りないようで…。もちろんいくつか仮説はありますが…」


山瀬は僅か言葉を濁した。


「神経症の症状の一つに、痙攣性顔面弛緩というものがあります。

これは精神的に追い詰められたり緊張状態が長く続くといったストレスを感じた患者の顔面の筋肉が弛緩し、笑ったようになってしまう症状です。

いじめの原因にも繋がりそうですけどね。

しかし被害者は大声で笑っていたと言いますし、単純に狂っていたと無責任に判断してしまうにしても、彼女が精神科へ通院していた経歴はありません」


山瀬はそこで一旦言葉を切って咳払いをして続けた。


「外部から頭部へ加撃が加えられた形跡…いわゆる他殺の証拠となる陥没痕もありませんでした。

つまり飛び降りてしまうほど精神的な錯乱をきたすような頭部への外傷などの証拠も今の所ない訳です。

あの症状とも違うしなぁ…。アレでもないし…」


タクさん…もとい山瀬医師は自説を披露しながらも、段々低い声になっていき、しまいには一人で考え込んでしまった。

プロの監察医も頭を抱えるこの不可解な謎は未だに解ける気配はないようだ。


「ま、いいです」


古井は面倒くさそうにぴしゃりと場を取り直した。

手元のハンドマイクを引き寄せると古井警視は部屋にいた捜査員全員を見渡した。


僅かの間、目を閉じて充分に間を持たせてから古井は二の句を告げた。


「本件に対する私なりの見解を述べます。これは同時に本庁からの正式な命令であり、決定事項であると受け取ってもらいたい。

被害者、川島由紀子は自殺。

今後はこの前提を元に被害者が自殺するに至った背後関係を洗っていく捜査を優先して…」


「申し訳ないが、その必要はありません」


突然の朗々とした声に部屋にいた全員がはっとして入り口の方向を見た。低い声質だが力強く、若々しい声だった。


そこには季節感が皆無といってもいい白いロングコートに身を包んだ背の高い男が一人立っていた。


襟足の長い、ストレートの黒髪をオールバックにした、全体的にやや細面な顔の輪郭。鋭角的な細い眉。二重瞼の怜悧な黒い瞳。

黒縁の細い眼鏡を乗せた、整った鼻梁。真っ直ぐ伸びた背筋と厳格な雰囲気を身に纏った、いかにも理性と論理を重んじる人物といった風情である。男は後ろ手にドアを閉めた。


男は一通り部屋を見渡し、怜悧なその視線を中央の古井警視へと向けた。


ついでに白いコートの男は花屋敷をチラリと見やる。


花屋敷は心中でニヤリとほくそ笑んだ。男も僅かに目を閉じ、うっすら微笑んだように見えた。


面白い展開になってきた。まずはお手並みを拝見させてもらおうか。早瀬一朗。


「いきなり現れて突然何だ!私の方針が必要ないとはどういう意味だ、早瀬?」


「どうもこうも言葉通りの意味ですよ、古井管理官」


恐れ知らずにも、階級など物ともしない口調で早瀬一郎警視は答えた。


悠然とした動作で男は急な事態に動揺している古井の横へと歩んでくると、古井の手元にあったハンドマイクを手に取った。


「な、何をする!」


騒がしく喚き立てる先輩警視などには目もくれず、早瀬一郎はゆっくりと部屋にいる人物達を一人一人見渡していき、まずは深々と頭を下げた。


「この部屋にいる捜査員と鑑識班に検死に携わった関係者の皆さん、まずは遅れてきた事と連絡の不備をお詫びする。申し訳ない。

本日付けで皆の捜査指揮をとる事になった警察庁犯罪捜査研究所の早瀬一郎だ。

以後よろしく。

早速だが、只今の責任者代行の命令と指示は全面的に撤回させてもらう。

本庁の都合でコロコロ命令を変えるようで、現場の皆には混乱させるようだが、事後の指揮は予定通り私が執る」


場の雰囲気が俄かにざわめき始めた。そんな中、一番動揺の色を見せたのは、やはりこの男だった。


「ふざけた事を言うな!

私は本庁警務部からわざわざ君の監視と代理人としてやって来たんだぞ!?大体この事件は誰がどう見ても自殺じゃないか!

皆、惑わされるな!現場の指揮は私が執る!」


古井は口角泡を飛ばし、もはや半狂乱の体で喚き散らした。花屋敷は不謹慎にも溜飲の下がった思いだった。

早瀬は古井の言動に大袈裟に眉をひそめ、溜息をついてみせた。彼自身もこうした身内同士の見苦しいしがらみなど、うんざりなのだろう。


「古井さん、もう少し捜査員達との情報の共有と本庁上層との定時連絡を徹底してもらいたいものです。

昨日の夕方頃、ドラッグを所持した少年達による傷害事件があったのをご存知ないのですか?」


「それがどうした!今回の川島由紀子の事件とはなんの関係も…」


「…ないとでも?

ところが大アリだったのですよ、これが。事態は常に変化するものです。臨機応変に対応できぬキャリアに対して上層部がいかに冷たいかは古井さんもご存知のはずでしょう?」


古井は早瀬の思わぬ不意打ちに、『関係ない』の『な』の部分であんぐりと口を空けて固まってしまった。


「…さて、長い前フリだが何しろ込み合った事情のある事件なのでよく聞いてくれ。

倒れていた不良達のうち四人は痛めつけられ方が特にひどく、前歯を折られた者や鼻を潰され骨折している者もいた。

この四人が問題なのだが、彼らは発見当時、一カ所に折り重なるようにして倒れており、側にはドラッグが置かれてあった。この四人については現在、準覚醒剤取締法の容疑で緊急逮捕し、警察病院で厳重な監視下の元に事情聴取を行い、引き続き入手ルートの解明を急がせている。

…さて、ここからが肝心なのだが少年達の話によれば恐喝目的で聖真学園の生徒を痛めつけるつもりが、いきなり現れた男に返り討ちにされ、自分達のリーダー格の少年共々拐われたと供述している。

この返り討ちにした謎の男については現在、磯貝警部以下数名に身許を探ってもらっている。

少年達によれば、この男は年齢27才前後の長身の男で服装は上下に黒のスーツ。赤いネクタイを着用しており、そして自ら探偵だと名乗ったそうだ」


「問題なのは、そもそも少年達が襲った生徒が聖真学園の生徒であるという事だ。不良の一人から有力な話が聞けたのが、つい先程の事だ。

聖真学園にはなんでも援助交際をする売春グループが存在しており、川島由紀子はそのメンバーの一人だったらしい節がある。

また、このグループは客にセックスの際ドラッグまで使用する者もいるらしく全容解明が急がれる」


とんでもない話になってきた。

暴力に売春に誘拐にドラッグ?

花屋敷は思わず身を乗り出し、旧友の話に聞き入っていた。


「すみません!ちょっと待って下さい!質問してもいいですか?」


その時、隣にいる石原が手を挙げた。


「構わない。遠慮なく質問してくれ。何だろうか、石原君?」


早瀬は既に捜査員の名前まで掌握済みのようである。


石原も俄然やる気が出てきたようで、急がしく書いていたメモを片手に真剣な表情で立ち上がった。


「襲われた…というか倒れていた少年達が所持していたドラッグについてなんですが、具体的には何だったのでしょうか?」


「いい質問だ。

発見された薬物はラッシュにスピード、パープルハートと呼ばれるアンフェタミン…いわゆるアッパー系の興奮剤ばかりだ。

これだけならいかがわしいインターネットのサイト等で個人が売買しているケースが殆どだし、入手ルートを探るのはそれほど難しくはないのだが、不良達が求めていた本命のドラッグというのが、その売春グループが所持している可能性がある」


「あ!そうか…。

少年達のそもそもの動機が高校生売春グループにドラッグの所持を告発材料にして恐喝し、それを横取りすることだったとしたら…」


「そういう事だ。

薬物が浮上してきた以上、本件をただの自殺事件として簡単に処理してしまう訳にはいかなくなってきたということだ」


にわかに室内には緊張が走る。花屋敷は早瀬の人心掌握の仕方に密かに舌を巻いた。早瀬の真摯な態度からは捜査員と同じ視点、同じ立場で事件にぶつかろうという気概がビンビンと伝わってくる。


そこには階級意識を越えた信頼関係を大事にしようとする早瀬のキャリアらしからぬ、どこか人間くさい一面が出ている気がした。そして、そうしたものが存外人を動かせるものだ。


花屋敷の予感は外れた。いい予感もたまには当たる。


「山瀬先生、引き続き司法解剖の成分分析の方をお願いします。川島由紀子の直接の死因は墜落死ですが、この事件…どうもキナ臭い感じがしてなりません。

…お願いできますか?」


「はいはい、了解致しました。お任せ下さい。

しかし何といいますか、現場がいよいよ活気づいて参りましたな。不謹慎ですが、こんな展開の方がやる気が出るというものです」


「先生もお若いですね。そのパワーを現場でも宜しくお願いしますよ」


早瀬はニヤリと笑い、再び部屋にいる一人一人を見渡していった。


「…では早速だが今後の分担を割り振らせてもらう。今後は些細な疑問も残したくはない。12年前の監禁刺殺事件ともども、洗い直していくのでそのつもりで。

私も一捜査員として捜査に参加する。現場でのやり方は君達の方が詳しいし、先輩であるからこの若輩者を指導してやってくれ。

意見や要望、足りない所は階級の上下に関わらず積極的に本部に具申してほしい。

まず私の携帯電話の番号だが…」


***


昼時に近い時間だというのに自動販売器のコーナーには誰もいなかった。


それを確認すると休憩所の椅子にだらりと身体を沈め、早瀬一郎はふうっと大きく溜め息をついた。


知らず片手が自然とネクタイを緩めようとしていた事に気付き、慌てて彼は自重した。


「さすがキャリア。なかなか堂に入った猿芝居だったぜ」


近くで早瀬の様子を窺っていた花屋敷はニヤリと微笑みながら、白い紙コップに入ったコーヒーを彼に差し出した。


「ふっ…ぬかせ。ああでもしなきゃ初動捜査の軌道修正は不可能だったんだ」


ヒラの刑事の気安い口調などまるで意に介さず早瀬はカップを受け取った。花屋敷も大きな身体をどっかりと隣に沈める。


「久しぶりだな早瀬。いつ以来になるかな…」


「最後に会ったのが中田の結婚式だから二年一ヶ月と12日ぶりだ」


細かい事まで実によく覚えているものである。この男は昔からそうだった。


「大学生の時は合コンの度にヘラヘラと女をはべらせて、夜の歓楽街を闊歩していたあの男が今や警察庁のエリートとはな…。世の中、何が起こるか全くわからんから恐ろしい」


「ふっ…驚いたのは私も同じだ。最初に聞いた時は大笑いしたぞ。お前が警視庁の捜査一課、それも私の管轄である強行犯係とは。

てっきり実家の洋食屋を継いで、その大きな体でトンカツでも揚げているものだと思っていた」


「死体の身許を追い掛けてるうちに親父も呆れ果ててな。店は弟に継がせたよ。

ヤクザな兄貴はトンカツより東京湾に浮かんだ他殺死体の引き揚げの方が性に合ってるようだ」


「ふっ…お互い因果で罰当たりな仕事を選んだものだな」


「まったくだ。

…で、これからどうする? 相棒は別動隊のようだし俺は本部で電話係か?」


「石原君には12年前の事件に詳しい人物に会いに神戸に行ってもらった。お前は私と行動を共にしてもらう」


「俺は構わんが捜査本部でもあるここを、ボスが留守にしていいのか?」


「後方支援と本部の指揮は本来は古井さんの役目だ。本人も了承してくれたし、俺もそこまで跳ねっ返りじゃない。構わんさ。

…さて、花屋敷。これから付き合ってもらいたい所がある」


早瀬はすっかり冷めきったコーヒーを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。


「なんだか嬉しそうだな。恋人にでも会いに行くような顔をしてるぞ」


「ご明察だ。ある意味恋人より会いたい人物かもしれん。ついでに言えば、お前もよく知る人物だ」


花屋敷は怪訝な表情で立ち上がると、空のカップを近くにあったゴミ箱に放り投げた。


「随分勿体をつけるな。

俺も知ってる人だって?誰に会うつもりなんだ?」


早瀬はニヤリと微笑んだ。


「聞いて驚け。今回の傷害事件の犯人の所だ」

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