第20話 夕ご飯用意して待ってるよ。

ヴィクトリ国 城内―


「あー、どうしよう。どうしよう。」


頭を抱えてセントが悩んでいた。


「大丈夫よ、小隊まで動かして探してるんだから・・・」


フレアがぽんぽんと姫の頭を撫でる。


「いや、見つかったとしても軍を私が勝手に動かしちゃってる時点でアウトよ・・・ニキとの国境付近に軍を送るなんてこのあとどうなるか・・・じゃなくって!シャーリーよシャーリー!あぁもう私が連れてっちゃったからぁーてかあの子純粋すぎよどうしよう・・・」


ここにクーでもいたら、うろたえる姫はかわいいなぁとか考えてたんだろうな。


「あー、どうしよう!誘拐されてないかな?迷子になってるかな?シャーリーかわいいからきっとろくでもない男につかまってるよ!悪戯されてないかなぁ?エロ同人誌みたいに!」


「うん、うん・・・ん?最後なんて言った?」


「てかごめんなさいフレアー!シャーリーがー!」


セントは血みどろの手で顔を抑えながら訴えた。


「あんたさぁ…少しは落ち着きなさいよ。シャーリーは心配だけど、着替えて風呂入ってその髪と体についた血を洗い流してきなさいな。」


ドンっ!


扉が開いて一兵士が入り込んできた。


「失礼します!至急ご報告したいことが!」


姫に敬礼してセリフを続ける。


「金髪の少女をニキ国の軍服が連れ去ったのを見たとの目撃情報がありました!」


その言葉に2人は驚く。


「はぁ?ニキ軍?なんで軍が少女をさらうのよ?姫をさらうならまだしも・・・」


フレアがその情報は本当かとため息をつく。


「あ、」


シンデレラ嬢が何かを思い出したかのように言葉を漏らした。


「ん?」


「もしかして、シャーリーは私の妹だと勘違いしてさらわれたのかも・・・」


セントの顔がみるみる曇っていく。


「あの時確かシャーリーは「セント」って名前呼んでたのよね。私の顔や家系を知らない人でも名前くらいは知ってたんだろうなぁ・・・もしかしたらそれで王族の身内の子だと思われてシャーリーは誘拐されたのかも・・・」


敵国の王女を誘拐なんて国際問題レベルの話ではない。戦争が起こる。


「あぁ、確かに・・・一国のお姫様と対等に口をきける年下の少女なんて妹に思われても仕方ないかもなぁ・・・」


フレアも頭を抱えて同意した。


「・・・やりますか、戦争。」


☆ ☆ ☆


ヴィクトリ国 玉座の間―


「馬鹿者。王族でも国の重要人物でもない一人の少女のために他国に戦争など持ちかけるな」


皇帝の巨大な椅子に右肘をついている男が一人。

ヴィクト・トパーズ・ギムレット・ローズ

セント・トパーズの父親だ。

肘をつき拳に顎を乗せ、その態勢でも磨かれた肉体と衰えぬ眼光が彼を王だと語っている。


「お父様!私のせいで一人の国民が他国に誘拐されたのよ!ニキ国は私たちの国の民を拉致したの!全軍使ってぶっ潰したいくらいよ!」


セントが強く言い放つ。


「それで戦争か?セント、少し冷静になれ。隣国に攻め込まれるリスクを考えろ。ニキ国とほかの国が手を組んでいたらどうなる?ニキに攻め入ってる間に逆にヴィクトリが他国に潰されてしまうわ。そもそもお前が招いた失態だろう。」


「そんなのわかってる!だから!・・・」


ふるふると怒りとやるせなさでセントが震えた。

対照的に国王は如何ともせず堂々としている。


「いいか、国軍を動かすのは許さん。お前についている100人の小隊はどう使おうとわしの知る由ではないが、たった100人ちょっとの人数で一国が落とせるか?」


「・・・」


「・・・お前に研究者の配属の最終決定権を与えはしたが、軍部の研究者をお前の小隊に移すことも許可せんぞ。ましてや国政や研究をずっと行ってきた者たちが戦場に行って戦えるわけないことを知らないほどお前も愚かじゃないだろう。」


「お父様・・・」


「それでも行くというなら、もうお前は一国の姫でもわしの娘でもなんでもない。国を脅かすテロリストとなんら変わらん。今ここでお前の全ての任を解く。」


・・・謝るべきだろうか。

父親に逆らったことに、自分でもわかっている無謀を貫こうとしたことに。

自分の命と、自分の小隊と、そしてこの国を危険に晒そうとした行為に。


「もう一度よく考えろ。明日までに考えが変わらないようなら、お前の任をすべて解く。あと、お前が戦場に出向いたとしても最前線には出るなよ?」


「・・・わかりました。お父様。」


セントが後ろを向き玉座から去ろうとする。


「セント」


声の方に振り返る。


「今度の夕飯、お前の大好きなシチュー作って待ってるぞ。」


ぷるぷると怒りと恥ずかしさでセントが震えた。


「お父様!嫌い!」


こんな城家出してやるー!というセントの叫びが城内にこだました。

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