出会えた場所は

aoiaoi

出会えた場所は

 静かな土曜の午後。

 冬子とうこは、いつものようにパソコンのキーを叩く。


 ふと、指が止まる。

 しばらくじっと画面を睨み据え——左手の華奢な人差し指を立てると、自分の唇に押し当てた。


「順調みたいだね、冬子。その指は、楽しんでる証拠」

 淹れたてのコーヒーのカップを机に置きながら、春翔はるとが話しかける。

「ん?……んー。そうね」

 画面から視線を離さずに、冬子は短く返す。

「僕にも見せて?」

「ん」

 冬子は、嫌がることなく少しだけ身体をずらす。春翔は流れるようにさらさらと彼女の打ち出した文字を追う。

「うん……なかなか面白いね。

 でも……ここで彼女がこの台詞を言うと、この先の展開がずいぶん変わってきそうだね」

「そこを迷ってるの。一見そう思わせて、さらっと裏をかくのもいいかと思うんだけど」

「なるほどね。でも、期待を裏切られた感じになると、読者をがっかりさせるんじゃない?」

「あんまり素直でも面白くないわ。春翔はいつも真っ直ぐで、とってもわかりやすい展開を好むけど……それじゃ、ダークなイメージを出しにくいと思う」

 春翔は、冬子のストレートな言葉に優しく微笑む。

「いかにも君が言いそうな言葉だね。……君のそんなストーリー展開が、僕とは違うなあって、ずっと思ってたんだ。昔から、そうだった」

「あなたの書く作品の柔らかで暖かなイメージも、昔と少しも変わらないわ。初めてあなたの物語を読んだ時からね」


 春翔は自分のカップのスプーンをくるくると回してゆっくりとコーヒーを啜ると、思い出すように呟く。

「君の作品はどれも、優しい中にピリピリとした辛さがあるような気がして。君ってどんな人なんだろう……だんだんと、それが気になって、仕方なかったよ」

「あなたは、青空や雲みたいにゆったりとした言葉を綴るから……どんなに伸びやかな心の人なのかと、ずっと想像してたわ」


 冬子は、春翔の運んでくれたコーヒーの湯気をふうと吹き、おかしそうに微笑む。

「——すごくドキドキしたのよ。あなたが、実際に会いませんかって、Twitterを通して声をかけてくれた時」

 春翔は少し照れ臭そうに人差し指で頰を掻いた。

「あの時は、君にDMを送るのにひと月以上悩んだんだ。とにかく実際に会って、話をしてみたくてたまらなかった。でも、もしも実際に会って関係が壊れてしまったら……そう思うと、少し怖くてね。

 けれど、会って驚いたよ。君が想像していたそのままの人だったから」

「驚いたのは私よ。あなたが、こんなにヒゲもじゃで大きなくまさんみたいな人だったなんてね」

そう言いながら、少し懐かしそうにお互いを見つめる。


「でも……不思議に、君のことをもう全部知っている気がしたんだ。

 君ならば、こんな場面でどう考えるのか。この景色を見て、どんなことを言うだろう。……君の心が、初対面なのに手に取るようにわかる気がした。

 君の作品は何度も読んだ。そして、応援コメントや近況ノートでもいろんな話をしていたせいなのかな」

「私もよ。……あなたなら、どんな言葉も、どんな想いも柔らかく受け止めてくれる。初めて会った時から、わかってた。——あなたと、コメントで何度も心の奥をやりとりしていたから。

 そして、何より——あなたの作品が、既にあなたそのものだった」


「それからは、二人で会うたびにいろんな話が止まらなくてさ」

「そうそう。デートなのに、主人公の台詞ひとつについて徹夜で議論したりね」

 二人でくすくすと笑い合った。




「——大好きです。カクヨムユーザーネーム"winter"さん」

「——カクヨムで、あなたに出会えてよかった。

 これからもよろしくね。ユーザーネーム『はる』くん」



 ふたりは一緒に微笑み、額をコツンと寄せ合った。








                      −fin.−


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