氷山エンジェルズ

夜花 竜

エンジェルズ


俺の通っている私立''氷山こおりやま高校''にはエンジェルズと呼ばれる4人組がいる。

学校1人気者で皆のアイドル的な存在である

花咲はなさきさくら

思いやりとしやなかな魅力で密かな人気を誇る

葉月はづきみどり

おしゃべりで子供っぽいがそこがまた可愛い

姫野ひめの黄華おうか

照れ屋さんでのんびりしていて目が離せない

音海おとみ蒼乃あおの

 そんな彼女達と俺、夜月やづき桐哉きりや波乱万丈はらんばんじょうな1日が今日も始まる。


「おっはよー!桐哉!」

 教室に入るなり元気な声であいさつをしてきたのは中学生時代からの仲である姫野黄華だった。彼女は氷山エンジェルズの一人だ。

「おはよう、今日も元気だな黄華は」

「元気なのが僕の取り柄だからねっ!」

 ''僕''と言っているが彼女は女性だ、いわゆる''僕っ子''というものらしい

「昨日の〇〇大冒険見た!?」

 黄華はジャングルとか洞窟を探検するような冒険番組が好きなのだ、昔からそういう番組がテレビで放送されると次の日の話題わだいになる

「見たぞ、今回は南極大冒険だったな、シャチがアザラシを追っかけているときは画面から目が離せなかったな」

「だよね!あとあと!ペンギンも可愛かったぁ」

 そのうち〜も面白いだの〜のほうがかわいいだのとなんやかんや話題は広がっていき気がつくと予鈴が鳴っていた。

 黄華との朝の会話も終わらせ、自分の席に向かう

「あら、おはよう夜月君」

「ああ、おはよう葉月」

 彼女は葉月碧、校内テストでは常にトップを取り、全国模試でもトップ10に入るような学力の持ち主だ。彼女の趣味は読書らしく、休み時間はほとんど読書についやしている

 一部の男子からは

「品があってとても美人」

「お姉さまと呼びたい」

「踏んでほしい」

 などと言った好評が上がっている、隠れファンの多い氷山エンジェルズの1人だ。

 朝のSHRも終わり、1時間目の時間割表を見る

そこで愕然がくぜんとした

「なぁ葉月、頼み事があるんだけど...」

「嫌よ」

「まだ何も言ってないんだが」

「どうせ、宿題を忘れたとかでしょ?」

 まさにその通りだった、今日の1時間目は数学の授業で宿題が出ていたことをすっかり忘れていたのだ。数学の担当は鬼教官とも呼ばれる

 鬼ヶ原おにがはら康介こうすけ、もし宿題を忘れた事がバレたら何をされるか分かったもんじゃない

「なぁ、頼む!この通りだ!」

俺は両手を合わせ頭を下げた

「い・や・よ!貴方(あなた)この前も忘れて私が見せたでしょう?」

 この前は英語の宿題を忘れていた、英語の担当は陽気な外国人ポールだったので忘れたことがバレても余り支障ししょうは無かったのだが、今回は訳が違う

「よーし、分かった、なら購買こうばいのカレーパンでどうだ!!」

 1時間目が始まるまで時間も無くなってきたので、最終手段カレーパンを使うことにした。

「なっ...カレーパンですって...!」

 碧は少し表情をやわらげ

「はい、夜月君」

 そういって丸っこく綺麗な数字が書いてあるプリントを渡してきた。

「約束を破ったら分かってるね?」

 にっこり笑って囁きかけてくる彼女

「あ、ああ、も、もちろんだ」

 金銭的きんせんてきに余裕がある訳では無いので、俺の今日の昼飯は100円で買えるアンパンに決まってしまった、ちなみにカレーパンは250円もする。

「そう?ならいいのだけれど」

 大好きなカレーパンが手に入ると分かって碧はご機嫌だ、足をすこしばたつかせて鼻歌まで歌っている。

 普段は余り表情を変えないため分かりにくいが案外単純ないい子なのかもしれないな

「ってこれ問題用紙が、違うぞ!」

「何を言っているの今日は25番のプリントよ?」

自分の書いていたプリントを見てみるとそこには''21番''と書かれていた。

「このプリントいつのヤツだ...」

 キーンコーンカーンコーン

「授業が始まるから返してもらうわね」

 碧は貸してきたプリントを自分の手元に戻してもらう、結局俺に残ったのは借金カレーパンだけだった


「起立、気を付け、礼」

「「「ありがとうございました」」」

「えー、夜月は放課後、職員室来るように」

 鬼ヶ原はそれだけ言い残すと教室を去っていった、一体なにを要求ようきゅうされるのだろうか、不安でしょうがない

「残念だったわね夜月君」

 微妙に笑いながら碧が話しかけてくる

「まぁ今回のことに懲りて宿題を忘れない事ね」

「そうするよ...3度目の正直って言葉もあるしな!」

 しかし既に読書をしている碧の耳に俺の声は届いてなかった


 全ての授業が終わり放課後になった、本来ならここで家に帰れるはずなのだが、残念ながら鬼ヶ原に職員室に呼ばれているため帰ることは出来ない、一応帰る支度したくはしておく

「さて、行くか」

「どこに行くの?」

「わっ!」

 かばんに教科書やらプリントやらを詰めていたので全く気が付かなかったが、いつの間にか目の前に花咲はなさきさくらが立っていた。

「な、何だ、桜か」

「私じゃ悪かった?」

「いや、驚いただけだ」

 桜は幼馴染おさななじみである。昔はやんちゃでよく先生に怒られていたが、今は氷山エンジェルズなどと、もてはやされている

「何ニヤニヤしてるの、気持ち悪いよ?」

 昔のことを思い出して思わずほおゆるんでいたのだろう、桜は少し引いている

「昔のことを思い出していたんだよ」

「昔のことね」

 何かを思い出したのだろうか、桜も少しニヤついている

「それはとりあえず置いといて、俺はこの後職員室に行かなきゃ行けないんだ」

「職員室?何をしたのよ」

本当のことを言えばきっと笑われるだろう、しかし嘘をつくことはできなかった、バレるとあとが怖いから

「宿題を忘れてな...鬼ヶ原に呼ばれてんだよ」

「全く、馬鹿ばかなんだから...」

 案の定馬鹿にされた。なにか言い返してやろうとも思ったが、桜は成績優秀せいせきゆうしゅうでオマケに学校一の人気者ときた、なら早く帰ってもらいたい。

「と、いう訳でお前と一緒に帰ることは無理そうだ、先に帰っていいぞ」

「えーなら私も一緒に職員室まで行くね」

「いつ終わるか分からないぞ?」

「私は大丈夫だよ、じゃあ行こうか」

 桜も職員室まで着いてくるようだ

 コンコン

「鬼ヶ原先生に呼ばれましたー」

「失礼します」

 俺とは違い桜はしっかりと職員室に入室にゅうしつした

「遅かったな夜月、花咲も来たのかちょうどいいお前たちに頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいことか?」

「頼みたいことですか?」

「1年の音海おとみ蒼乃あおのを知っているか?」

「ああ」

「知っています」

 音海蒼乃と言えば桜や碧と同じ氷山エンジェルズの一人だ

「実は最近あまり学校に来ていなくてな...お前たちに様子を見に行ってもらいたいんだ」

「家までか?」

「ああ、住所はこの紙に書いてあるからよろしく頼んだぞ」

 生徒の個人情報をこうも簡単に明かすなんて、先生として大丈夫なのだろうか

「いいのか?生徒の個人情報をこんな簡単に教えても」

「先ほど家主から許可はもらった、ということで2人で行ってきてくれ、音海を学校に再び登校させることができたら今回の件は無かったことにしてやろう」

 宿題を忘れただけでかなり大変なことになってきたぞ

「分かりました、夜月君と音海さんのために私も行ってきます」

 何故だか分からないが、桜もやる気になっている。

「はいはい、分かりました。行ってくるわ」

「頼んだぞ」

 俺と桜は教室に置いてきた鞄を取りに戻り、音海の家に向かって学校を出発した。




















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氷山エンジェルズ 夜花 竜 @yobana-23

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