ゴッドエンチャンター

仏田 八兵衛

第1話 黒スライム 


「はぁ、マジ疲れたし。フラフラするし、シャワー浴びたらさっさと寝よう。マジキツイ。あのクソ実行委員長というか妹よ、僕にばかり仕事押し付けやがって。はぁ」


一週間後に控えている高校生最後の体育祭。僕は運動神経悪いから体育祭とか正直参加はしたくないが、応援が楽しいのだ。少しひねくれていると思う。高校まで普通電車で行く距離なのだが、僕は自転車通学なので疲れる。まぁ、三年間も続けたらルーティンの一部だし疲れない。だけれどやっぱり扱き使われた後は結構来るものがある。

体育祭の実行委員長(妹)から仕事を押し付けられ遅くまで居残りさせられる。


同じ高校に兄妹が揃って体育祭の実行委員になり、僕は自称ボッチからパシリへと昇格する。これは奇跡なのだろうか?だが、流石にここまでの扱いを受けると我慢の限界なので帰ったら...それより早く、早く寝たい。


家に着いたのでカーポートの端っこに自転車を止める。

ティッシュで鼻水を拭いながら籠からバッグを取り出し、肩にかけドアを開け家の中に入る。


やっぱり、家の中が一番好きだな。


通学バックの重さでふらつきながら二階にある自分の部屋にバックを投げ捨て、制服をハンガーに掛け寝る用の服をタンスから取り出し、一階に降りる。


「母さん。夜ご飯いらないから、自分の部屋で寝てるね」

「はーい、分かったー」


テレビを見ていた妹に声を掛けようとしたが、もういいや。めんどくさいしと思いお風呂場に服を脱いで入る。


毎回鏡を見るのだが、いつ見ても自分の体は瘦せていると思う。学校では、よく食べる方だが全く太る気配がない。小学生の頃からよく食べる方だが、ホントに太らないので女子からその話をすると羨ましがられるのだ。

...高校にはいってからは女子とはあまり話してないけど。


お風呂場の窓を全開にしてシャワーを浴びる。毎回思うだが夏のシャワーって微妙だよね。冬の場合は、悴んでいるところ温かいお湯を掛けるとジーンとなってシャワー浴び終わったらお風呂場の窓全開にして、髪以外は自然乾燥。なんかこれが良いよね。最初の頃、これを始めた中学2年生の頃は、風邪を引くぞと言われていたのに今となっては全く注意されない。この歳だから当たり前かもしれないが...。アレだな、独自の健康法だな。...まぁ、今風邪なんだが。アハハハハハハハッは、は...はぁ。風邪でもネタを考える頭は常に回っているようだ。流石!...ハイになってるわ。

頭冷やそう。



シャワーを浴びていると後ろから奇妙な音が聞こえたので振り返る。カビが動いていた。


「は?」


カビが一か所に集まり、水滴、湯気も一か所に集まる。黒色のぐじゅぐじゅとしたゼリー状の気持ちの悪いものが現れた。


「スライム?カビ?菌類?」


気持ちの悪いスライムのようなものが顔の方に跳んでくる。


「?!」


何より驚いたのが、僕の顔まで届くジャンプ力。というか、黒色のスライムの跳躍はジャンプなのだろうか?


黒色のスライムが顔面に張り付き、ニュルニュルとしたものが鼻と口に入ってきた。


急いで黒色のスライムに手を入れ探す。中学校生活ネット小説(主に異世界もの)を読んでいた僕は核というものがある事を思い出し、必死に探す。

核を見つけて握りつかみ取り壁にぶち当てる。それでも壁に張り付いてジタバタしていたので、殴る、殴る、殴る、殴る。核を殴っていた為、拳から血が出てくる。だが黒色のスライムの核は傷すらつかない。


だが、僕は何かに当たりひっくり返る。頭を打ちそうだったので急いで手でクッションにし、頭を守る。手はもうボロボロだ。本気で殴る、そして痛みのせいで立ち上がれない。黒色のスライムが鼻から入り込む。最後に一言だけと思い全力で叫ぶ。


「助けて!!」


口を開けたせいで口からも入ってくる。


苦しい。ああ、苦しい。苦しい。


意識が朦朧とする。


痛みも苦しくもない。最後に妹の顔を本気で殴りたかったな...。やっぱり可哀想だから止めて置こう。


あれ?意識していないのに、立つ。体も拭かず俺は台所の包丁を持ちだしニヤリと笑う。


は?何やってんの?というか僕なの?


包丁を持ち妹に近づく。


「何やっての?お兄ちゃん?それより服着なよお兄ちゃん」


僕の体を見て嘲笑うように言う妹にはイラつくが、まずい。

僕は必死に体を動かそうとするが、全くいうことをきかない。

僕は妹目掛けて包丁を振り下ろす。妹はそこに置いてあった僕のタブレット(ゲーム用携帯)を盾にする。

タブレットは鈍い音をたて壊れる。


......。妹の命には代えられない。だけど許さんぞ黒スライム!数年費やしてまで頑張ったゲームデータがぁぁ!ふざけるなよ!黒スライム!

膠着している妹に包丁を振り下ろそうとしたところでプツンと音がする。

一瞬の暗転。

気が付くと僕は一面真っ白な場所に立っていた。


「や!不幸な凡人君!」


後ろから明るい声が聞こえてきた。後ろを振り返ると神々しい白い服で金色の髪をしたこの世の美というものを結集したような程美しい顔立ちの人、その隣にいるの人は黒いローブで中の人の体格が解らないほどブカブカの服で右手には自分の身長以上に大きい大鎌を持っていた。フードを被っていて顔は見えないが、見るば見るほど寒気がする。

例えるならパルテナの○の女神パルテ○の金の飾りを外した人と人間バージョンの死神だ。


「ま、眩しい。というか若干心に傷を付けるの止めてくれません?自分は凡人君ではなく労働者を目指す高校生ですよ」


「失礼しました。後世間一般では、凡人=労働者です」と死神くんが一歩前に出て言った。


「私は、死神の長をしている、ヘルズです。此方の死神にしか頼れない女性の名はゴッドです。本命は聞いたことがありませんが自称であること確かです」


「やっぱりそうなんですね。ところで死神さんはなんで自称ゴッドさんの隣にいるのですか?」


「私、死神が居ないと役に立たないゴッドさんを置き去りにして話を進めましょう。私が説明します」


自称ゴッドが頬を膨らませるが、ヘルズさんは完璧にスルーしている。


「まずは、あなた末路さんがこの場所にいる理由からお伝えします。末路さんは黒いスライムから殺されましたね?地球風に言うならば汚染物質に近い存在です。我々神の間では一年に一度神たちが集まり会議を開きます。現在は会議というより、報告会と言った方が正しいですけど。その報告会で二体の神の意見が対立して、神二体が少し本気を出して、地球にまで被害が及びました。そして後始末、尻拭いを任されたのが私と自称ゴッドさんです。ここまでで質問ありますか?」


ないと言った風に首を横に振る。


「自称ゴッドさんが居る理由はこの空間を作成できるからです。私は作成できませんので。そして私が居る理由は、死者とアクセスできるからです。そして少しだけですが地球とのアクセス権限を持っています。なので、末路さんをここに連れて来れたのです」


「じゃ。今から私の番ね!」と張り切った口調自称ゴッドが話始める。


「神達が話し合った結果お詫びとして新たな人生をプレゼントすることが決まったのです!」


何故か胸を張り自慢げに言う。


「剣と魔法の世界ですよ!」


「自分って死んだら、また地球で人生を繰り返すんですよね?それなら剣と魔法の世界なんて危険なところにも行かなくて済みますし」


「え?何で知ってるの?」みたいなヒソヒソ話を始めた。何か本で読んだことがある。退行睡眠を行って前世を知れるとか。まさか正解だったとは思ってはいなかったが。どうやらお話が終わったようだ。


「チートを授けるからさ、異世界に行ってみない?(行ってくれないと上から何言われるか怖いからさっさと了承してくれないかな)」


小声で聞いちゃいけないことを聞いた様な気がする。が、気のせいだろう。だがチートが貰えるそうだ。男としてのロマンはある。剣で戦って、魔法を撃ち合って。でもどうしようかな。


「ね?滞在能力も授けてあげるからね?後死神の加護と神の御加護授けるからいいよね?」


でも危険なところに行けって言われて、喜んで行く奴なんているのだろうか?


「あ、あと自分のステータスが見れる力も付けるからいいよね?」


俺は威圧に負けて了承する。


「ふぅ。良かった。これで上から怒られなくて済む」


「何か言いましたか?」


全然何も言ってないよと焦りを見せながら否定する。


「ヘルズちゃん任せた!」


「では行きます。あなたは今からある男の子になります。名前は...まだ決まっていません。末路さんが決めて下さい。その子の年齢は5歳です。父親は聖教都市の英雄カルス・フォレスター、母親は聖教都市の12代目の聖女シリス・フォレスターです。父親と母親の隠し子として生まれ、教皇にばれ、父親は教皇に殺され、母親も教皇の刺客によって殺されます。母親は最後の力を使い、隠し子に5年間食料を取らなくても生きれる力を授け、遠くへ飛ばされます。努力だけで、周りの言葉を理解し4歳の頃に漸く言葉をしゃべれるようになります。末路さんがこの子の中に入った時から20日後に空腹が始まります。その前に生活の基盤を整えるのが最適です」


「え?それってめっちゃ不幸な人生じゃ「『”異世界転生”精神移動者斎藤末路、肉体保有者聖教都市の英雄よ12代目聖女の隠し子。神聖級スキル成長速度上昇を授ける。神聖級スキル我眼を授ける。賢者級スキル基礎能力上昇を授ける。架空神級スキル神・付与魔法ゴッドエンチャントを授ける。神の御加護、死神の加護を与える。付与魔法の才能を与え、短剣、弓、大鎌の才能を与える。以上で終わる。完!』聞け」


ゴッドが光っている手を合わせると視界が真っ白になる。


「って?」


『頑張ってね!応援してるよ!』


頭の中に声が響く。目を再び開けた頃には全く違う世界に居た。



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