第2話 夜虹

 正月を迎えると一つ歳を取る。もはや歳を取らないジンタとの間に一歳の差ができる。この差が、自分が生きていく限り増えていくと思うと悲しかった。

 ツキツノの群れの、最後の一頭を仕留めたという場所には、大勢の人が集まっていた。山の多い領内では珍しくだだっ広い土地で、山の姿がよく見える。祭壇の内側に集まった人々は皆一様に装束を身につけ、厳粛な面持ちで場に臨んでいる。

 祭壇を設置して役目を終えたジョウメイは、彼らの佇まいを複雑な気持ちで眺めていた。言われた通りの役目が終わるとその場を追い払われる。様子をつぶさに見ることは叶わないが、今は行われることからその背景まで理解できる。

「今頃は《時空儀》が行われているはずだ」

 村にたどり着くと、ジケイが空を振り仰いで呟いた。

「子供一人を殺してまでやることが、今頃か」

 オドヤが皮肉っぽい笑みを浮かべた。ジョウメイは思わず周りを見回した。幸い人の姿はない。

「オドヤ、口の利き方に気をつけろ」

 ジケイが苦言を呈すと、

「悪かったな」

 オドヤが気軽さを装って応じる。今まで何度も行われてきた遣り取りのはずが、今は何とも言えない重苦しさを装っていた。

 ジンタが死んだことで罠をうまく作って仕掛ける者がいなくなった。本来なら四人一組で組まれる班の空席はやがて埋まるだろうが、友人としてジンタに代わることはできないだろう。

「これからどうするんだ。三人で狩りをしろって言うのか」

 オドヤが少し険しい声で訊いた。ジンタが死ぬ直前の口論を思い出して心配になる。

 難しいのは、自分たちではどうしてもうまい落としどころを見つけられないことだ。全ての原因が領主たちの都合に端を発しているのなら、ジケイにもオドヤにも責任はない。間に入れるのは自分しかいないのに、口論を止める力がないのが情けなかった。

「人手不足は考えてくれるはずだ」

 ジケイは短い返事をした。班の事情が変わってもやはり狩りはしなくてはならないらしい。オドヤは不満さを隠さなかったが、言葉に出すことはしなかった。

「何とかがんばるしかないよな」

 気持ちが不安定になっているのを感じて元気づけたかったが、

「ああ、他にねえからな」

 オドヤは投げ遣りに返事した。ジョウメイはそれ以上の言葉を紡ぐ気にはなれなかった。

 正月が明けて間もなく狩りが再開される。人員不足を鑑みたのか、ジョウメイたちはもっぱらキヨン狩りに回された。ツキツノに似ているが、足が速いだけで性質も臆病なため、狩りの難度は低い。傷にも弱いため、人手が足りず致命傷を負わせにくい班に相応しい仕事と思われたのだろう。

 キヨン狩りを終えるといつもの通りフムクリをホラクに運ぶ。いつもはジョウメイとオドヤの役目だが、狩りの時にけがをしたオドヤの代わりにジケイがフムクリを運ぶことになった。

「ホラクは寒いのかな」

 黙って歩くのが嫌で口を開く。

「あそこも同じセキナンカ領だからな、寒いに決まっている。もしかしたら雪害がひどいかもしれない。《冬隣の鎮》がちゃんとできなかったんだからな」

 クンツエのカモスが足りないせいで《冬隣の鎮》は不完全な形になったが、効果の範囲が狭くなっただけで、効果自体に問題はないと聞いた。しかしそのせいで、ホラクでは雪で家の屋根がつぶれるなどの被害が出ているようだった。

「あの連中が苦しんでも構わないが、全くいなくなられても困る。あいつらがいないと穢れの処理ができないからな」

 ジケイらしからぬ冷徹な発言に驚き、言葉を返しあぐねる内にホラクへ着いてしまった。

 櫓をくぐり、橋を渡って堀を渡り、入り口付近でフムクリ処理の者を呼び出す。

 服装を変えてはいたが、スズシが印象的だった女である。雪害の犠牲にはならずに済んだと思うと少し嬉しかった。

「お前は」

 ジケイが険しい声を上げた。それに応じるように少女は顔色を変えた。

 ジケイが少女を睨む。彼女は目を伏せ、ジケイの視線から逃れるようにフムクリをのぞき込んだ。

「このフムクリはきちんと処理します」

 少女は早く帰れと言うようにつっけんどんな態度であった。目を合わせようともしない。

「ジョウメイ、用は済んだ。帰るぞ」

 ジケイに急かされるまま、少女に背を向ける。ここ最近気持ちがささくれ立っているような感じはあったが、会ったことがないはずのホラクの〈エヒト〉にまで不機嫌さを露わにするとは思わなかった。

 さすがに気になってジケイの心情を推し量ろうと声をかける。気晴らしに遊びに行こうと誘うと、彼は立ち止まってジョウメイを見つめた。

「お前に気を遣わせるなんて」

 何故かジケイは恥じ入るように目を伏せた。また逆効果になってしまったのかと思って謝ったが、今度は苦笑を見せられた。

「いや、嬉しいよ。ただ年下のお前に気を遣わせるのは悪いと思ったんだ」

 ジケイの顔に、いつもの爽やかさが戻ったような気がした。オドヤと対立するのはいつものことだが、その理由は自分ではどうしようもないものだったし、ジンタの死で家族から責められることもあった。疲れていたのだ、仕方がない。

 改めて返事を訊くと、彼は少し迷ってから首を振った。

「しばらく一人にしてほしいんだ」

 そう言われ、ジョウメイは深く追及することを避けた。

 代わりに生絹の女とのことを訊く。何気ないことを訊いたつもりだったが、ジケイはさっと表情を険しくした。

「何でそんなことを訊く」

「いや、知り合いみたいだったから」

「深入りするな」

 オドヤと同じことを言ったジケイに、理由を訊く。

「オドヤが、〈エヒト〉の女に関わっちゃいけない理由はジケイに訊けって言うんだ」

 余計なことを、と言わんばかりにジケイは顔をしかめた。

「お前が狩人として働き出す前、〈エヒト〉の女とセキナンカ領を逃げようとした奴がいたんだ」

「それで、どうなったの」

 領の外へ無断で出ることは重罪で、死罪をも覚悟しなければならないと聞いたことがある。父からもうかつに外へ出ようとすると疑われるから気をつけろと言われていた。

「二人とも捕まって、引き離された。女は死罪、男はホラクへ追いやられた。今もどこかにいるはずだ」

 ジケイは淡々と言ったが、話に出てきた二人を責める気持ちが、隠しきれないたぎりとなって声の裏に宿る。今まで知らなかったジケイを見るような気分であった。

「あの女の人のことも知ってるの」

 一瞬ジケイは言葉を詰まらせ、頷いた。

「知り合いだ。嫌な知り合いだけどな」

 深入りを拒むような硬い声に続き、

「お前も〈エヒト〉に深く関わるなよ。コウザエさんの後を継いでカモス狩りの狩人になる、それができなくなる。家も家族も困らせることになるんだ」

 ジケイの語った未来にジョウメイはおののいた。歳を重ねたら当たり前のように父の足跡を追って狩人となり、辰組、酉組と上がっていくのだと思っていた。それが叶わない未来もあると、さらりと告げられたことは衝撃であった。

「仕事の時以外では関わらないようにするよ」

「それで良い。昔からのことや決まったことに逆らわず、外れたことをしない。それで良いんだ」

 頷きかけて釈然としないものを感じた。命じられたことを忠実に守ろうとした結果ジンタは死んでしまったのではないか。しかしそれを素直に言うとジケイを責めることになる。苦しんでいる仲間を更に追い詰めることなどできない。

 あの《時空儀》も、準備にも人が死ぬほど危険なことがわかったら、別のやり方を考えてくれるはずだ。二度とジンタのように死ぬ者が出ないようにとジョウメイは願った。


 夕暮れから火点し頃にかけて村がざわめきを帯びてくる。普段なら家の周囲に留まるはずの光が道沿いにも置かれて遠くまで伸びる。その神楽の会場まで続く光に誰もが導かれていった。

 年が明け、猟が始まってから間もなく、狩人たちの無事を願うための祭りが催され、神楽が奉納される。滞りなく狩りを行うためには必要なことであるらしいが、ジョウメイにとっては普段出歩かないようにきつく言われている時間に、皆で遊べるのが嬉しかった。

神楽が奉納された後、ひょうきん者がふざけた踊りを披露して笑いを誘い、めいめい思い思いに騒ぎ立てる。心細くなるほど密やかな冬の夜がいっとき温かく賑わい、大人に怒られたことさえ忘れてしまう。

 それができたのはジンタがいたからだ。何かを経験する時はだいたいにおいてジンタがいた。仲間と呼べる者は他にもいるが、彼らがジンタの穴を埋めてくれるわけではない。そう思うと寂しさはどこまで行っても消えそうになかった。

 賑わいの中で一人佇むのもまた寂しく、ジョウメイはジケイやオドヤを探した。オドヤはすぐに見つかった。神楽を真似た戯れをする仲間を囃し立てているところで、心なしか顔が赤かった。

 彼はジョウメイが近づくと、手を上げて呼び寄せた。

「お前も来いよ。楽しもうじゃねえか」

 気軽に誘ってくれたことで、空白がわずかに満たされたような気がした。ジョウメイは彼らに駆け寄る。温かな賑わいの中に飛び込んだ心地が、心細さを和らげてくれた。

 ジョウメイが加わった後も神楽の真似は続いている。神楽は本来なら神聖なはずだが、傘の上で球を回す大道芸のようなことが交じると性格が変わる。神への感謝というより神を巻き込んで遊んでいるように見えた。

 オドヤはその動きを囃し立てながら、白く細長い器を傾けて小さな器へ湯気の立つ中身を注いだ。湯のように見えたが、その割に香りが強い。米が炊けた時の匂いにも似ていたが、甘みより辛みの方が目立って感じる。嗅いでいるだけで体が浮くような感じがした。

「お前も飲むか」

 オドヤは訊くと同時に、ジョウメイにも液体で満ちた器を差し出してきた。匂いの強さに尻込みしていたが、オドヤから勧められると断り切れない。腹をくくって一気に飲み干すと一瞬目が回った。しかし思ったほど嫌な気分にはならない。それどころか何度も飲みたくなる。

「どうだ、良い酒だろ」

 酒と聞いて父が時々夕餉の後に飲んでいたものを思い出す。興味を示しても子供にはまだ早いと言って遠ざけるばかりであった。

 笑いかけてきたオドヤにジョウメイも笑い返した。この場の雰囲気は楽しく、ジンタの死さえ一時忘れそうになるほどである。

「ジケイも連れてきたら良いのに」

 ふと思いついて言うと、オドヤは何故か顔を曇らせた。

「あいつは楽しさに水を差すからな。真面目なばっかりでよ」

 冗談っぽくジケイの人柄を揶揄するだけではない、普段はうかがい知れないわだかまりを感じた。

 オドヤに言われるままジョウメイは飲み続けた。周りの男たちも同じようにしていて、いっそう激しく戯れを囃し立てる。

「お前強いな。俺が見込んだだけのことはある」

 そう言いながらオドヤはジョウメイの空いた器に熱いものを注ぐ。体中が熱く頭が揺れているような気がするものの、嫌な気分にはならない。笑みが止められないほどであった。

「楽しいか」

「うん。すごくね」

「そりゃあいいや。色々あったからな。ジンタが死んだのだって、元はと言えば上が無茶なことを言ってきたからだ。領主が全部悪いんだよ」

 オドヤが脈絡のないことを言い出した。内容は危険きわまりないが、それ以上に自分の思いを代弁してくれているのが嬉しく、ジョウメイはただ笑っていた。

「使われてるのが錬金術だったら、こんなことにはならなかったはずだ」

 ジョウメイははじめ笑って聞いていた。しかしオドヤの顔が真剣そのもので、冗談には思えなかった。

「どうして」

「錬金術は危険を冒して狩りをしなくて良い。何より俺たちだってユイヌシみたいに魔法を使っても良いんだ。エボロスとかじゃ、同じ王制なのに身分の低い連中も魔法を使える。もし俺が魔法を使って良かったんなら、仲間が死ぬような無茶は絶対に避けていた」

 父とオドヤが正反対のことを言っている。どちらも信頼を寄せるに足る男たちだ。どちらに義があるのか判断はつかない。ただ一点、ジンタが死なずに済む方法があったということだけを、ジョウメイは胸に刻み込んだ。

 しかし狩りをしなくても良いということは、自分たちの仕事がなくなることになる。それどころか、父やその前の男たちの築き上げたものが無に帰すのではないか。そんなことを思った瞬間、オドヤを別の男が小突いた。

「口が過ぎるぞ」

「平気だって。こいつは友達を亡くしたんだ。わかってくれる」

 同意を求めるように見たオドヤに、ジョウメイはぎこちなく頷いた。仲間の命の危険がなく、ユイヌシと同じ立場になることさえ可能な、もう一つの魔法。それだけを聞けば良いことずくめだが、父の苦い表情が引っかかる。

 オドヤは別の男に話しかけられたまま、ジョウメイを置き去りにして騒ぎに興じた。今まで使われてきた魔法と、もう一つの魔法と言われる錬金術。自分の信じる男たちはそれぞれ別々の魔法を支持している。どちらを信じたら良いか、熱っぽく揺れる頭ではわからなかった。

 その熱も、祭りが終わりに近づくにつれて冷めていく。いつの間にか踊り狂う女も囃し立てる男もいなくなっていて、それぞれが家路に就く頃であった。

 家に戻るとジョウメイは布団に吸い込まれるように横たわった。酒の熱が程よくジョウメイを温める。その心地よさの中で、父とジケイがオドヤと言い争う夢を見た。何度も錬金術という言葉を聞いた気がしたが、翌朝を迎えるとジョウメイはその夢をほとんど忘れていた。


 ジンタの代わりが現れぬまま時が過ぎ、その間にも田畑の種蒔の準備である《春耕技》の時期が近づいてくる。父が子供だった頃、田畑には季節を問わず水気があるもので、足を踏み入れると音を立てて揺れるほど泥が深かったという。しかしジョウメイはそのような田畑を見たことがない。水落、水上を行う魔法が使われるようになったためだが、そのために田畑の土は固くなり、人が鋤や鍬で太刀打ちできないほどになった。

 そんな土も地響きと共に砕かれていく。乾いた地面が縦に揺らされ、下から突き上げられるように砕かれ、ふわりとした土に変わる。揺れが人家に被害を及ぼすことはない。人の手によって厳格に自然が御されていた。

《春耕技》による地響きと揺れは三日間続く。それが済めば種蒔が始まり、田では苗が植えられる。夏に向かう時期には水が行き来する。《春耕技》と違って行使される時間が決まっていない魔法だ。

 水の行き来が起きる時、村のどこにいても水が湧くような音が聞こえる。そこかしこで折り重なると鉄砲水の襲来のような迫力を持つが、音が収まれば水鏡にはのどかな風景が映る。夕刻であれば音と入れ替わるように蛙が鳴き始める。

 キヨンやアオシシのカモスが多く使われる時期である。フムクリを淡々と運ぶ日々でもあったが、時々生絹の少女が出てくると少し嬉しくなる。最近風と日差しによっては暑くなるせいか、再び生絹を着るようになっていた。

「最近はキヨンが増えているのかしら」

 フムクリを見つめながら、彼女は時々外の世界への関心を呟いた。ジョウメイは不思議とその声に温かみを感じた。

 ジョウメイは布の中身を見定める彼女を見つめるだけだった。下手に話しかけると隣に立っているジケイに怒られる気がしたからだ。

 ふと、ジョウメイは女に触れてみたくなった。ジケイは明後日の方向を向いているし、今なら彼に気づかれない。

 深入りしてはならず、触れてもいけないと言われている人が、本当にそうなのか知りたい。好奇心がジョウメイの手を伸ばしたが、それと重なるように女はこちらに向き直った。

「どうかしましたか」

 手をわずかに伸ばして動きを止めたジョウメイが不自然に見えたのだろう。少女は怪訝そうな顔をする。それが何故か、やけに大きな失敗をしてしまったような気分になる。

「いや、大変なら手伝おうかと思って」

 我ながら下手な言葉だと思った。案の定、ジケイが余計なことを言うなと叱責する。

「用が済んだら帰るぞ」

 何となく未練を感じていると、思いがけず少女が呼び止めた。

「トマラさんは、まだホラクで元気にしています」

 ジケイは足を止めた。肩越しに覗く瞳は険しかった。

「会いたいとは思わない」

「姉さんのことを怒ってるんですか」

「関係ない。会いたくないんだ」

 突き放すように言葉を重ね、ジケイは大股で歩き去る。その背をジョウメイはすぐに追えなかった。二人の間にある事情はうかがい知れないが、少女が傷ついたような顔で立ち尽くしているのが不憫で、一人にできなかった。

「ジョウメイ、行くぞ」

 ジケイの呼びかけには苛立ちが混じっている。泣き出しそうな顔をした少女を放っておけないと思いながら、ジケイの言葉に逆らうこともできない。迷いを見抜いたのかどうか、行ってください、と彼女は言った。

「わたしたちの間に、無理に入ることないんです。関係のないことですから」

「でも、ジケイがあんなに人につらく当たるのを見たことないから」

 女は意外そうな顔を一瞬浮かべ、そして笑った。初めて彼女の笑顔を見たが、あまりに寂しげで全く嬉しくない。

「ここがホラクだから。わたしたちが〈エヒト〉だからじゃ理由にならない?」

 ジョウメイは言葉に詰まった。誰もがホラクに好んで近づこうとせず、〈エヒト〉と呼ばれる人々を突き放して暮らし続ける。

 それは穢れているからだ。だからこそ同じく穢れたフムクリを処理する仕事が与えられている。目に見えない何かを背負っている人々だと思えば納得はできたが、きれいな色を装ったり、傷ついた表情を見せたりするのはひどく人間らしく、穢れを超えて何かが通じたように思えた。

 そんな思いが声になる前に腕を引っ張られた。

「無駄口を叩くな」

 ジケイは押し殺した声を出したが、その苛立った顔は女に向けられていた。強引に引っ張られ、ホラクから遠ざかる間、ジョウメイは胸に残るひどく寂しげな笑顔に後ろ髪を引かれる思いがした。

 次の日からジョウメイはフムクリ処理から外された。そのためにホラクへ向かうことも、少女と会うこともなくなった。

 少女と話しをしたのが気に食わなかったのかと訊くと、

「そうだ。深入りしてはトマラの二の舞になる」

 トマラ。〈エヒト〉に深入りしたがためにホラクで暮らす羽目になった男の名だ。

「お前がホラクに落ちるような不始末をしたら、コウザエさんが悲しむ」

 父親の名を出されると何も言えなくなる。身内の不始末で連座した家族を見たことがある。トマラの家族もそうなったのだろうか。

「俺も、仲間として一生を棒に振るようなことはしてほしくない」

 ジケイは口調を和らげた。共に生きていくのが当たり前の相手に言われると、頬が緩むのが抑えられない。

しかし頷いてジケイの言葉を受け入れてしまえば、スズシの少女を貶めるような気がした。これまで何も感じずに通り過ぎてきたホラクの〈エヒト〉たちだが、彼女の前だけは何気なく行き過ぎることができないのであった。

 従順な素振りを見せなかったのが予想外だったのか、ジケイは寂しげな目を向けてきた。意志の強い眼差ししか宿したことのない瞳が気弱さに揺れていた。

「平気だよ」

 ジョウメイは努めて短く答えた。

 ジケイは返事をしなかった。何が平気なのか、本当にわかっているのか。訊いてほしいことがあるから短い返事を選んだのだ。その曖昧さを放っておくジケイではなかったはずなのに、彼は追及を避けるように下を向いていた。

 仲間の死やすれ違いに苛まれるジケイの辛さを肩代わりすることもできない事実に、ジョウメイの胸は薄暗い何かで塞がれるようだった。


《春耕技》が滞りなく終わると早乙女が田植えをし、《水上技》と《水落技》によって水の出入りが始まる。その頃には木々の梢がまぶしいほど青く茂り、吹き抜ける風も豊かな香りを運んでくるようであった。気温も日増しに上がっていく。川遊びが気持ちよい時期になるまで時間はかからなかった。

 狩りが休みの時、他の班の少年たちと集まって川へ遊びに出かけると爽快な気分になれる。岩の上から水に飛び込むと一時暑さを忘れられる。他の仲間がもっと高い位置へ上ると、対抗意識から更に高みを目指す。川底に体を打ち付けるのも怖れなかった。

 何度も飛び降りる内、ジョウメイはどうしてもジンタがいないことに違和感を覚えてしまう。ジンタとは夏が来るたび川で遊んだ。走るのは遅かったジンタだが、高みから思い切りよく水へ飛び込んでは笑っていた。受け身を取るのが下手なせいでひときわ大きな水しぶきを立てていたが、それを笑われても平気な顔をしていた。いつも鷹揚で優しかったジンタは、誰からも好かれていた。

 そんな少年と会うことはもはや叶わない。そう思うと爽やかさが単なる冷たさとなって隙間の空いた心を取り囲む。

 やがてジンタへの思いは恨みの熱さへ変わっていく。何度も水に飛び込んで鎮めようとしたが効果はない。誰もジンタの死に責任を持ってはくれない。行き場のない気持ちを抱きつづけるしかないようだった。

 ジンタを殺したツキツノを、これからも《時空儀》で使うため継続的に狩ることが決まったのは少し経った頃で、いつもはジケイだけが出席する集会に、ジョウメイとオドヤも呼び出された。

「ユイヌシは今後、《時空儀》にはツキツノのカモスを使うお考えを示された。新春に行った《時空儀》の結果が良好で、充分使うに足るものであったという。お前たちは充分に貢献したのだ。誇りに思えよ」

 自分たちを集めて訓示めいたことを言ったのは、狩りを初めとする村の暮らしを管理するダクワンという役人だ。魔法が必要な状況を見定めて上へ伝える役目もあり、橋渡しの役目も果たしているが、オノニ村を担当するダクワンは下からの突き上げを常に威圧的な振る舞いで潰そうとする男だった。そんな男の言葉を平伏しながら聞いている寅組の少年たちの横顔には、踏みつけられているような圧迫感がにじんでいた。

「ここに集まった寅組は今後、ツキツノ狩りに参加してもらう。危険もあるが、うまく行けばお上から褒美がもらえるやもしれぬ。何よりこれが、王族の発展のためになるのだ。皆頑張るが良い」

 それぞれが返事をする。ジョウメイも周りに倣ったが、気持ちは晴れない。王族は犠牲者が出たことを忘れているのだろうか。それとも自分たちがいくら死のうと構わないと思っているのだろうか。ジンタのことに全く触れないのは、子供一人が死んだことなどどうでも良いと思っているからではないか。

「以前ツキツノの群れを仕留めた時は昼間に狩りをしたが、夜に寝床を襲って狩りをすれば危険を冒さずに済むやもしれぬ。そこで、これからお前たちにはその如何を調べてもらいたい。うまくやれば犠牲に報いることができる。アメヒ王族の力になれるぞ」

 男は朗々と歌い上げるように言ったが、それに合わせて意気が上がるようなことはなかった。それどころか動揺したようなため息が漏れる。夜はただでさえ獣の方が有利なのに、ツキツノが夜行性であったら犠牲は一人や二人では済まないだろう。

「皆の者、静まれ。そんなことで狩人が務まるか」

 叱責に皆が反射的に小さくなる。上の者に逆らってはならないと昔から言われ続けたが、今はその教えが恨めしい。

「それでは皆の者、次の狩りにおけるそれぞれの役目だが」

 少年たちの心情を汲む様子も見せず、ダクワンは順番に少年たちの名を呼んでいった。やがてはジケイの名が呼ばれる。続いてオドヤも呼ばれた。大人が見ていないところでは反抗的なオドヤが、この時ばかりは従順だった。

 今回課されたのは、ツキツノの寝床を探す役目であった。ツキツノは魔法の歴史の中でもずっと敬遠されてきたため、生態がほとんどわかっていない。まして獣の領分である夜へ踏み込んでいくのだ。また誰かがジンタのような犠牲を強いられる危険がある。これ以上仲間を失いたくはない。

「貴様、何故返事をせぬ。不承知か」

 不意に厳しい叱責が飛んだ。わだかまりと向き合っているうちに、呼びかける声が右から左へ抜けてしまったらしい。

「そうではありません……」

 ジョウメイは平伏したまま、震える声で返事をした。

「ジョウメイ返事しろ」

 隣でジケイが早口にささやく。謝って命を承った返事をすれば済むことなのだが、どうしても抑えつけられたまま返事をさせられるのが受け入れられない。

「皆に比べて経験も少ないので、却って足手まといになるのではないかと」

 臆病風に吹かれて言い訳じみたことを言っているようにしか聞こえないだろう。しかし魔法のためと言っては当然のように危険な仕事をさせて、犠牲はほとんど顧みない。そんなユイヌシやダクワンのために命を賭けるのはおかしくないか。自分の命は誰かのためにあるなどと、達観した思いを抱くことはできないし、強いられたくもない。

「戯けたことをぬかすな!」

 ジョウメイの葛藤など知る由もない男は激昂し、苛立ちを隠さずに叱責した。

「お上のために身を捧ぐだけの覚悟も持てず何が狩人か。貴様魔法を支える役目を何と心得る。四の五の言わず即刻お受けいたせ!」

 大上段からの叱責はいっそう激しくなった。従順な返事をしても、このまま黙っていても辛いのは目に見える。だからこそ動きが取れなくなる。

 結局ジケイが、自分の監督不行届を認め、後で罰を加えると言ってその場を収めた。ジケイに感謝しろと男に言われたが、それも素直に受け入れることはできなかった。

 集まりが解散してから、説教部屋と呼ばれている四畳間でジケイとジョウメイは向き合った。彼は感情の読めない静かな目で見つめてくる。ジケイに損をさせた負い目が今更のしかかってきた。

「どうしてあんなことを言ったんだ」

 眼差しと同じく静かな問いかけであった。ジョウメイは目を伏せて黙りこくる。ジケイも沈黙した。

 言葉が思い浮かぶまで長くかかって、それからようやく口を開いた。

「足手まといになると思ったのは本当だ。俺が参加したって」

「ジンタの二の舞になると思ったのか」

 見抜かれていることに意外さは感じなかった。

「それだけじゃない」

 口を衝いた言葉にこそジケイは表情を変えた。先を促す眼差しで、急いでジョウメイは言葉をまとめる。

「錬金術と競争したいからツキツノを狩ると言っても、危険なことをするのは俺たちで、ユイヌシたちは当然みたいにそれをさせて、ジンタが死んだことだって気にしてないじゃないか。そんな奴らの下で働くなんて嫌だ」

「オドヤに吹き込まれたのか」

 静かだったジケイの表情が険しくなった。

「あいつが錬金術を支持して、ミギョウ系魔法を陰で非難しているのは知っている。それはジンタが死んでからいっそう激しくなった。俺もジンタが死んで悲しいし、錬金術への対抗意識がなければ死ななかったとも思った。お前やオドヤの気持ちはわかる」

 耳慣れない単語が含まれる言葉だったが、気持ちの上ではジケイとの間に大きな隔たりはないことに気づくが、共感はできない。声音は突き放すように冷たいからだ。

「それでも、お前たちの気持ちを全て認めることはできない」

 ジケイの声に感情はほとんど宿っていなかった。その短い言葉は深い溝を浮かび上がらせた。

「俺たちは狩人だ。狩人はミギョウ系魔法を成り立たせるために働くのが役目だ。それはアメヒ王族の存続につながり、俺たちの領国が平和であるために必要なんだ」

「どうして」

「ずっと昔から決まっているからだ」

 ジケイは遙か一二〇〇年前、アメヒ王族初代の王である黒菊王が現れた頃から始まる歴史を語り出した。その頃は多くの豪族が、後にヒムカシとなる大陸の上で覇権を争っており、黒菊王もその一つに過ぎなかった。

 アメヒ王族が使う魔法は、国内が乱れていた頃に海を隔てた隣国であるシーからもたらされたものだ。朝貢関係を結ぶ見返りに得た魔法は、黒菊王に勝利をもたらし、今日のヒムカシの礎となった。

 長く複雑な呪文を正確に詠唱する使い手と多数の労働力を必要とする性質は当時から変わっていない。アメヒ王族の国造りは、魔法を採用している他国がそうであるように、魔法を運用するのに都合が良いように行われている。

魔法を運用する資格は王族とその周辺に限定し、成立に必要な労働力確保のため厳格な身分制度を敷いて分限をそれぞれに定めた。当代の白翁王に至るまで一二一人現れた王の、それぞれの治世下で細かな変化はあったが、魔法を実際に行使するのに必要な呪文を門外不出とすることで王族やその周辺の優位性と権力の根拠は保たれ、狩人らがそれを支えるという図式も今につながっている。

 オドヤは錬金術ならジンタは死なずに済んだと言った。アメヒ王族がずっと守ってきて、自分たちが支え続けたものにジンタは殺されたのではないか。

 ジケイはわずかに表情を和らげた。声にも温かみが戻る。

「ジンタが死んで俺も辛い。だけど魔法がなかったら俺たちは暮らしていけない。ずっと続けてきたことを今更変えてはいけないんだ。錬金術のように誰でも魔法を使えるようになったら国が乱れるかもしれない。わかるだろう」

 いつしかジケイの声は和らぎ、狩りのやり方を教えてくれた時のものになっていた。耳に心地よく、自然と頷きたくなる説得力がある。わかったよと言いかけた時、ジンタの死に顔に生絹の少女が見せた悲しげな顔が脳裏に浮かんだ。

 魔法に苦しむ者は他にもいる。

「それでも、こんなのはおかしいよ」

 ろくに言葉を交わしたこともない少女を思って胸に感じた痛みがその言葉となった。

 同時に禁断の領域へ足を踏み入れたことを感じた。熱くなった気持ちは激しく声を押し出す。勢いに従って言葉がほとばしる。

「そうだろ! 魔法は俺たちの暮らしを立てるためにあるのに、その俺たちが簡単に死んでいいのかよ、ユイヌシとか領主とかが上から当然みたいに危ない橋を渡らせて、それで国が栄えても俺たちが死んだら何にもならないじゃないか! 違うのかよ、ジケイ!」

 勢いに任せてほとばしらせた言葉が終わると、ジョウメイの息はひどく乱れていた。大声を浴びせたのは狩りを初めとする多くの物事を教わった男だ。逆らってはいけない相手だと頭のどこかでずっと警告を聞いていた。それに最後まで抗うと、足が震えるほどの緊張と疲れが残った。

「言いたいことはそれだけか」

 ジケイは無表情のまま、冷淡に言った。上がった息が一瞬止まる。情けない音が喉の奥から飛び出した。

「お前や俺がいくらおかしいと声を上げたところで、何も変わりはしない。周りの迷惑になるだけだ。前にも言っただろう、不始末を起こせばコウザエさんが悲しむと」

 国のために、家や親のために、思うとおりのことが言えない。仲間の死を悲しんでいるはずのジケイまで、その気持ちを抑えて危険へ臨もうとしている。

 初めてジケイが、壁に見えた。

「ジョウメイ、狩りまで間がない。向こうで今のうちに休んでおけ」

 差し出された手を、音が立つほど強く振り払った。

「嫌だ」

「何だと?」

 冷静さから一転、狼狽が露わになった。

「俺はもう、こんな役目、二度とやらない!」

 叫びを叩きつけて、背後で呼ぶ声にも応えずに飛び出した。無我夢中で闇の中を駆け抜ける。ずっと昔から暮らしてきたオノニ村も人通りが絶えた夜は別世界で、人里から離れた場所は全くの未知だ。気がついたら樹影に取り囲まれていた。

 方向感覚が完全に失われているのに気がついた。蒸し暑さのせいではない汗が噴き出してくる。村がどの方向かもわからない。耳を澄ましても聞こえるのは鳥の鳴き声だけだ。

 突然鳥が羽ばたいた。音に振り向いたジョウメイは勢い余って尻餅をつく。

 今度は足音らしき音が聞こえてきた。こちらへ向かってくる。逃げた方が良いとわかっていても体が動かない。相手が獣であれば、こちらが逃げる音や気配に反応して襲ってくるかもしれない。二つの相反する判断に迷っているうちに、足音は遠ざかっていく。

 全身から力が抜けて息が漏れる。頼りにできる仲間はおらず、丸腰で、闇を照らすこともできない。目は闇に慣れてくるが、夜目の利く獣とは比べるべくもないだろう。何に襲われるかわからない恐怖に、ジョウメイは浅はかさを後悔した。

 村に帰りたい。しかし帰れない。自分は果たすべき役目を放棄したのだ。どんな罰が待っているだろう。恐怖心が頭を冷やし、自分がしでかしたことの重大さがわかってくる。ジケイに向かって喚き、考えも無しに飛び出してしまった自分の浅はかさが心底嫌になって、ジョウメイはその場で膝を抱え込んだ。

「どうしよう……」

 心細さに泣きたくなったが、座り込んでいても誰かが助けてくれるはずもない。思い直したジョウメイは とりあえず自分が来たと思われる方を目指してみたが、いくら歩いても樹影に変化はない。

 ジケイやオドヤに助けを求める声がこぼれそうになったのを噛み殺す。自分が浅はかだったがために陥った状況なのだ。自分で抜け出すしかない。

 ふと、水音が聞こえた。

 夜行性の獣がいると思って身を縮めたジョウメイだが、抑えの利いた音に人の理性を感じる。自身がいることを悟られないよう警戒しているように聞こえた。

 ジョウメイは意を決して水音のする方を目指した。慎重に歩みを進め、木の陰から音の出所を覗く。月を映した水面が見えた。水音のたびに揺らぎ、月明かりが乱れる。

 水面の月に人の体が重なった。月を眺めるように仰向けで漂っている。冴えた光に照らされた白い胸や腹、膝頭、そして顔。女の体だった。

 陰から見つめて良いものではないとわかっていても、その整った形から目を離せない。洗い上げた陶磁器のような色に惹きつけられ、風や音が遠ざかっていく。女が人形のように表情一つ動かさないこともあって、この世の情景には思えなくなってくる。

 風が梢を揺らしながら吹き抜けている、と別世界の出来事のように思う。

 音が収まっていく。風もやんでいく。水の上に変わりはない。

 不意に何かが脳天に直撃した。痛みで夢うつつのようだった意識は現実へ引き戻され、反射的に短い悲鳴が口から漏れる。

 同時に女は激しい水音を立てて起き上がった。

 口を押さえて後悔したが手遅れだった。胸元を手で隠し、影を見通すような目つきを向けてくる。樹影に誰かが潜んでいると確信している目だ。

眼差しの強さにとらわれて動けずにいると、相手の方が口を開いた。

「誰、トマラさん?」

 警戒心に満ちた声の主には見覚えがあった。最近ホラクでフムクリ処理のため会うようになった生絹の少女だった。

 黙っていたら相手の方が気味悪がって立ち去ってくれるかもしれない。淡い期待を抱きながら足を動かさずにいると、彼女は水の中で後じさりを始めた。

 そして岸辺に上がり、視線を固定したまま手早く体を拭いていく。その間何度か露わになる、手や腕が隠していた部分からジョウメイは目を逸らした。少女の声を聞き、緊張や困惑から解き放たれた今、魅せられたとはいえ少女の裸に惹きつけられたことがひどく浅ましいことに思えた。

 衣擦れに再び少女へ注目する。既に水色の生絹地の小袖をまとっていた。ホラクで目立つ色が夜の森にあっては溶け込んでいる。月の光と混ざり合い、水絵のように幻想的な情景が出来上がっていた。

 少女は警戒を解かない。水辺と影を隔てて二人は向かい合う。

不意にしゃがみ込んだ少女が次に立ち上がった時、その手には白刃が握られていた。

「立ち去らないと、そっちに行くわ」

 そう告げてにじり寄ってくる。鬼気迫る女の姿に気圧されて後じさりしそうになったが、背中を見せたら刺されるのではないかと怖くなった。姿を見せて説得に賭けることにした。

「待って。俺だよ、ええと」

 互いに名前を知らないことに気づいて口ごもるが、姿を現すと一瞬少女は表情を緩めた。

 しかし次の瞬間には険しい表情を取り戻す。獣に刃で以て立ち向かうのが役目のジョウメイにとって少女の構えはどうにでもいなせそうなほど頼りないものだったが、なだめる言葉が出てこず、立ち尽くすしかなかった。

「何してるの」

 正直に答えて良いものか迷っていると、見たの、と女は声を低くして訊いた。

「いつからあそこにいたの」

「ええと、ついさっきで」

「一人で何してるの。まさかカモス狩りをしてるわけじゃないわよね」

「違うよ。みんなツキツノ狩りに出て行ってる。森にはいない」

 矢継ぎ早に詰問されて思わず口走ってしまった事実に、少女は表情を和らげた。

「俺は、道に迷って」

「皆と一緒にいなくていいの」

「それは、良くないけど」

 課せられた役目から逃げたなどとは言えず口ごもったが、狩人として強いられる諸々のことが嫌になったのも本当のことだ。ジケイやユイヌシたちに反抗するつもりで、ジョウメイは正直に事情を告げた。

「子供のくせに思い切ったことをしたわね。狩人なんて、ユイヌシとか領主に死ねと言われたら死ぬような連中ばかりだと思ってたけど」

 少女の呆れ声は狩人の性質を端的に表しているようだった。狩人の主体性のなさを嘲るようにも聞こえる言葉だったが、自分たちも〈エヒト〉を見下していたことを思えば報いであろう。

「でも、あたしに言うことがあるんじゃないの」

 少女は小刀を鞘にしまった。幾分声は和らぎ、射貫くような眼差しの険しさも影を潜めていたが、好意的な表情とは言いがたい。

「ええと、ごめん。俺は、別にのぞき見するつもりだったわけじゃなくて」

 少女を得心させられる自信はないが、気の利いた言葉などわからない。おもむろに彼女は歩み寄った。小刀を持ったままで近づかれて背筋に冷たいものが流れる。

 一瞬体中がこわばり、頬の鋭い痛みと乾いた音で緊張が解けた。

「これでおあいこ。もう良いわ」

 空いている左の手のひらをさすりながら少女は言った。後を引くほどの痛みだったが、彼女の手にも同じものが残っているようだった。

「それで、あんたはこれからどうするの。役目から逃げて、どこへ行くつもりだったの」

 他人事ながら少女は冷静に事情を把握しているようだった。一時の感情に突き動かされたとはいえ役目から逃げ出した以上、戻ったらきつい罰が待っているだろう。しかし逃げ込む当てがあったわけでもない。その上道に迷ってしまっている。手詰まりに陥ったジョウメイに、明確な答えなど出せるはずはなかった。

 少女は呆れたようにため息をつき、その場に座り込んだ。こころなしかくつろいだように見える。

「馬鹿ね。何も考えてないなんて」

 見上げる顔に少女は笑みを浮かべていた。オドヤやジケイにからかわれた時のような気分になって、

「うるさいな。こんな場所、生絹に全然似合ってない」

 上物の着物に引っかけて思いとは反対のことを言い返す。少女はどういうわけかきょとんとした顔になった。

もしかしたら傷つけたのだろうか。自分の言葉で少女の心がどう動いたのか気になった。

「ジケイさんから聞いたの?」

 しかし少女の言葉は意味のわからないものだった。何のことか思わず訊き返す。

「だから、名前。何で知ってるの。ジケイさんから聞いたの?」

「何のことだよ。俺は知らないけど」

「別にとぼけなくたっていいじゃない。スズシって言ったでしょ」

 服の生地を指して言った自分の声が思い出された。まさかそれが少女の名前でもあるとは思いもよらなかった。

「スズシが生絹を着るなんて、冗談みたいだな」

 はっきり馬鹿と言われたことにやり返すつもりで言ってみたが、スズシは別段心を乱された様子もなく、

「良い着物でしょ」

 静かに言い返すに止めた。相手が乗ってこないと言い合うこともできない。普段接してきた少年たちとは違う距離感に困惑していると、おもむろにスズシが立ち上がった。 

「あんた、ホラクの外で暮らしてるんでしょ」

 今更問いかけることとは思えず、ジョウメイは戸惑いながら頷いた。

「その割にずいぶん素直ね。あたしや〈エヒト〉のこと、知らないわけじゃないでしょ」

 スズシの意図が読めずジョウメイは困惑しきりだった。

「こんな当たり前みたいに口を利いたら穢れるって、教わったことはないの」

 静かだった声に戸惑いが生まれた。ジョウメイが少女の心の動きを読み切れなかったように、スズシも狩人として生きる相手の意図を掴みかねているようだった。

 穢れを身に宿してしまうから、みだりに関わってはならないと教わったことはあるものの、ジョウメイは首を振った。それこそスズシが求める答えだと思ったのだが、

「嘘言わないでよ」

 スズシは低い声で突き放した。

「あたしたちだって、あんたたちが普段何考えてるかぐらいわかる。望んでホラクに生まれたわけでも、好きでフムクリ処理をしてるわけでもない。誰かがやらなくちゃいけないことを押しつけられて、何も言えずに黙って続けて、だけど褒められることも感謝されることもない。それどころか蛆虫みたいに見られて、挙げ句穢れなんてよくわからないことを理由にしてる。あんたは違うの」

 言葉を重ねるごとにスズシの声は熱を強めていった。白かった顔が上気して見える。ジョウメイは返す言葉がないまま立ち尽くす。小刀を手ににじり寄ってきた時とは違う迫力を感じた。

「あたしだって人だよ。好きなことも嫌なことも人並みにあるんだ」

 吐き捨てられた声は、有無を言わさぬ力強さを宿していた。彼女の怒りの前にジョウメイはうつむき、

「ごめん……」

 辛うじて一言を絞り出した。スズシの気持ちを全て汲み取れたわけではない。ただ、彼女の心をかき乱してしまったのは確かで、それが申し訳なかった。

「別にあんたに謝ってほしいわけじゃないのに……。ああ、もう」

 それなのにスズシは短い髪をかき乱して困惑気味の表情を見せる。言葉を重ねるほどわからなくなっていくスズシの心情を前に、ジョウメイはどうしたらいいかわからなくなる。挙げ句彼女は、情けない顔してないでよ、と表情にまで文句をつけはじめた。

「あんたがこんなところに迷い込むのがいけないんだから。早く帰りなさい」

 突拍子もない言葉だったが、自分が置かれた状況を思い出す。

「帰れないよ。どうしたらいいかわからないし」

 自分でも情けない顔をしているのがわかったが、前向きな表情を作る元気もない。帰り道さえわからないのだ。

「あたしがホラクを抜け出したことを告げ口しないなら、道案内してあげても良いけど」

 一瞬光が差したような気がしたものの、それでは根本の解決にはならない。帰ったらやはり痛い目に遭うだろう。

「どうしよう……」

 結局悩みは晴れず、ため息と弱音が漏れる。

「悩むくらいなら逃げなきゃ良かったのに」

 呆れ気味のスズシの声は正論で、言い返せなかった。ジケイが何度も言ったように、国や領国を栄えさせることに務めてさえいれば、悩みを背負い込むことはなかっただろう。

「でも、仲間が死んで、それを皆何でもないことみたいに言うから、それが嫌で」

 悩みが散らしていく自身の気持ちを懸命に掴み取り、言葉に換えていく。理解されるとは思わない。他人に呆れられ、迷惑をかけるようなことをした理由を、自分が見失わないためだ。

「おんなじなんだね、皆」

 スズシの声は覚めていて、間の距離も変わりないが、彼女が近くに寄った気がした。

「思うとおりに生きられなきゃ苦しいし、そういうのを見たら悲しい。あたしもあんたも、おんなじなんだね」

 スズシは座り込んで月を眺めていた。とりあえずその隣に腰を下ろして彼女に倣う。不思議とそれだけで心細さが和らいだ。

「せめて虹が見えたら良いのに」

 何気ない言葉がこぼれ落ちたのを聞いた時、ジョウメイは思わず彼女の横顔を見た。自分の言ったことがどれほど大事か自覚がないらしいスズシは惚けたように月を眺め続ける。

「今、虹って言ったか」

 声が震えるのを止められない。スズシも何かただならぬものを感じたらしい。視線を下げた時には戸惑いがちの顔をしていた。

「うん、言ったけど」

「見たのか、夜虹を」

「うん」

「どこで」

「ちょうどこの辺で。きれいだったからもう一回見たくなって、来てみたんだけど」

 ジョウメイは月を振り仰ぐ。とても高い位置に満月があって、その光はほぼ真上から降り注ぐ。

 月の位置と水、人が立ち入らない森の中。様々な条件が重なり合った時稀に現れるとい

うのが夜(よる)虹(にじ)だと聞いたことがある。それだけなら単にきれいなもので終わるから、狩人と

してのジケイが教えることはなかっただろう。ジケイは夜虹のことを教えた後、夜虹を見

たらその根元の水辺を探せと言った。

「何なの。そりゃ朝虹ならともかく、夜虹なんて滅多に見られないのはわかるけど」

「夜虹が大事なんじゃない。根元にはオソコ石があるんだ」

「何それ。宝石にでもなるの」

 そう訊かれてもジョウメイは詳しく話せない。ただ、オソコ石が珊瑚のように小さな虫によって作られる物質で、魔法において貴重なものだということしか知らない。狩人としての経験が長い父でさえ夜虹を見たことはないのだ。それを持ち帰れば、役目を放棄した科を減らしてもらえるかもしれない。

 オソコ石のことを語ると、スズシは少し寂しげな顔をした。

「帰るつもりなの。嫌なことがあったんでしょ」

「そうだけど……」

 できることならこのまま逃げてしまいたい。けれど本来の居場所と仲間、家族が引き寄せる力は強く、ジョウメイには振り切れない。それぞれの感情を露わにした近しい者たちを思い浮かべた時、やはり帰らなければならないと思った。

「スズシだって朝になったら帰るんだろ」

「そうだけど……」

 二人で同じ返事になった。それが少しおかしかった。

「あたしたち、トマラさんや姉さんみたいになれたら良いのにね」

 スズシは物憂い表情になって月を見上げた。その眼差しは夢を見るようでもあった。

「あたしもできるなら、このまま帰りたくない。夜虹が見えなかったら見えるまで。見たら次も、その次もって、いつまでもここにいたい」

「でも、そんなに簡単に夜虹は見えないよ」

 だからオソコ石を持ち帰ろうというもくろみは限りなく夢に近い。きっと日が昇ったら誰かが探しに来て、あっさり捕まってしまうのだ。

「わかってる。でも、この前は見えたんだよ。今度ももしかしたらってあるじゃない」

「もし見えたら運を使っちゃうな」

 ジョウメイは冗談めかして言ったが、

「それでも良いよ。嫌な暮らしがずっと続くなら、今だけきれいなものを見て、それを覚えておいた方がよっぽどまし。あの夜虹は本当にきれいだったから」

 語る間もスズシは月を眺め続けた。視線は全く動いていない。

「スズシ……」

 夢や希望を渇望する研ぎ澄まされた横顔は夜空の一点を見つめていた。

ジョウメイは両手を合わせ、虹が見えるように願う。自分の力だけでは彼女の望みを叶えられないなら、同じ気持ちを抱いて時を過ごすしかなかった。

 そして会話は途絶え、現れるかどうかわからない虹を待つ時間となった。梢が風で揺れる音を時々聞いたが、生き物の気配は月を見つめ続けるスズシ以外に感じない。

 スズシを改めて見遣ると頼りなげな気分にさせられる。年は上かもしれないが、腕も足も、体つきも細くて、獣に襲われたら自分が守ってやらなければならないだろう。それでも傍にいるだけで心細くならないのは不思議だった。

 言葉もなく待ち続けていると次第に眠くなってくる。何度か舟を漕ぎながら耐えたジョウメイだったが、やがて闇の中へ落ちる。

 そう思った途端、激しく体を揺さぶられた。

「起きて、起きて!」

 目を覚ました瞬間は景色が揺れていた。声の出所もわからず、ジョウメイは周りを見回してそれを探した。

「見えたよ!」

 嬉しがる声だった。喜色だけではない。安堵感や興奮が入り混じる。今まで聞いていた、どこか疲れた声とは違う、同じ年頃の人間らしいはつらつとした声であった。

「夜虹だよ!」

 夢現のジョウメイは、その声でスズシの指し示す先を見た。虹が満月を背にしてかかっている。それが現のものだとは最初信じられなかったが、喜色満面のスズシと一緒に眺めている。二人で同じものを見ているなら、決して夢や幻ではない。

 頭が覚めていく中、ジョウメイはスズシと顔を見合わせた。どんな顔をしたら良いかと考えているうちに笑えてきた。

「本当に、虹なんだな」

「うん、夢とかじゃないよ。まさか二回も見られるなんて」

 月のように足下を照らしてくれるわけではない。色合いは淡く、空が白んだら紛れてしまうだろう。しかしこの夢か現かわからないほど儚い虹にスズシは心惹かれてきたのだ。

 しばらく虹を眺めているうちに、元々薄かった色が闇に溶けつつあるのに気づく。月の位置が出現の決め手になる夜虹は、月のわずかな動きで消えてしまう。

「ごめん、あの虹を消すよ」

「どうせ日が昇ったら消えちゃうんだ。気にしないで」

 虹の根元を見定めたジョウメイは、スズシの言葉に送り出される。昼間に見える虹に比べると非常に小さく、池の端から端までの長さしかない。ジケイから聞いたことがあるが、昼間の虹は虚空に残る水気と日差しが重なり合うことで光の色が変わる。

対する夜虹は、オソコ石を作る虫が大量の水と極小の透明な石らしきものを発散することで、昼間の虹と似たような条件を作り出す。虹が見えるほど大量の水を発散するには相応のオソコ虫が集まらないといけないが、それは稀なことで、何十年か前に一度見つかって以来セキナンカでは確認されていないという。

 そして虹の根元には、虹を形作るオソコ虫の群体、オソコ石がある。ジョウメイは池を回り込んで虹の根元を目指した。

「虹って七色じゃないんだ」

 スズシは心底から意外そうだった。すぐ近くで見る夜虹は、せいぜい五色といったところだろう。感動が止まらない様子のスズシを尻目に、ジョウメイはおもむろに上衣を脱ぎ捨てて下着姿になった。スズシは何故かちょっとちょっとと言いながら後じさった。

「服を見ててくれよ。オソコ石は水の底にあるんだ」

 オソコ虫は限りなくきれいな水にしか棲まない。水質は心配ないだろうが、月の形がはっきり映し出されるほどの暗さはどうだ。まっすぐ沈まなければ方向を見失うだろう。

 ジョウメイは三回、虹の根元がどこであるのかを見定めた。あとはそこからまっすぐに沈んでいけばいい。視界は全く利かないだろうが、手で探れば虹の根元である水底がどこかわかるはずだ。きっとそれで充分だろう。

「命綱もなしに、大丈夫なの?」

 スズシは真っ暗な水とジョウメイを見比べて不安げな顔をしていた。オソコ石を採りにいくのが初めてなら、月明かりの下で水に飛び込むのも経験がないことだ。夏の水浴びは好きだが、それは川魚と水中で対面できるほど明るい日差しの下でやるものだ。自分から暗闇へ飛び込んでいくのは怖い。

 それでもジョウメイは笑顔を返した。馬鹿正直に内心を晒したら、スズシをいっそう不安がらせてしまう。

「大丈夫だ、心配するな」

 そう言い残してジョウメイは水へ飛び込んでいった。蒸し暑さのせいで水に濡れるのは心地よいが、思った通り視界は全く利かない。目の前にかざした手さえ見えないほどだ。

 ジョウメイは真下へ沈んでいくことだけを考えた。手を真下へ伸ばし、やがて水底へつく。そこにオソコ石らしきものはない。息も苦しくなってきて焦ったが、手を動かしているうちに何かが指先に触れた。それがオソコ石であることを願って掴み取り、浮上する。水面へ上がると、虹はいっそう淡くなっていた。

 そして虹の根元はジョウメイの胸元に移動していた。ジョウメイの手のひらから淡い光が伸びている。

「それがオソコ石なの」

 水面を覗くようにしてスズシが訊いた。

「ああ。間違いない。見たのは初めてだけど、虹が出てるのがその証拠だ」

 言いながら水から上がり、スズシから渡された手ぬぐいで体を拭いて服を着る。水の外は相変わらずの蒸し暑さで、吹き抜ける風が心地よいほどであった。

 虹はほどなくして消えていった。オソコ石と月の位置が変わってしまったせいもあるが、空の色が変わり始めている。夜虹は夜にしか見えないから夜虹なのだ。

「朝、来ちゃったね」

 スズシは惜しむような声で明けていく空を見上げた。

「あんたはもう帰るんだよね」

「オソコ石があれば、五十敲きが二十敲きぐらいにはなるかな」

「良かったね」

 スズシは虹がかかっていた空を見上げた。二度も恵まれた幸運に未練を感じているようだった。

「ホラクに帰るのか」

 スズシは頷き、池の向こうを眺めた。

「あたしにも迷惑をかけたくない人がいる。一人じゃないもん」

 そう言ってスズシは水辺を回りこんで歩き出した。

「何してるの、帰るんでしょ」

 スズシに促されてその後を追う。歩いている内に罰が怖くなってきた。スズシもそこまではついてきてくれない。足がすくんだが、覚悟を決めるしかないだろう。

 やがて整えられた道へ出る。その途中に人影が見えた。スズシを呼んで近づいてくる。その男にジョウメイは警戒したが、スズシは自分から近づいていった。

「やはりここに来ていたのか」

 男は優しい笑顔でスズシを迎え入れた。

「夜虹が見えたよ」

「良かったな。二度も見るなんて。君は強運の持ち主だよ」

 スズシは嬉しそうな顔で頷いた。簡単にスズシの笑顔を引き出す男が少しうらやましくなった。

 その男がふとこちらを見た。そして顔色を変える。見覚えのない男の表情の変化に、ジョウメイは戸惑った。

「君は、もしかしてジョウメイか」

「どうして俺のことを」

「ジケイから聞いたんだ。ジョウメイを不幸にするなとも言われたけどね」

「じゃあ、もしかしてあなたはトマラさん」

「それもジケイから聞いたのか。そう、俺がトマラだ。元カモス狩人で、今は〈エヒト〉に落とされている。それも聞いたかな」

 ぎこちなく頷くと、事実だから気にするな、とトマラは笑った。背は高く引き締まった体つきで、馬にでも乗って颯爽と現れたら絵になりそうな男は、あの汚穢を絵に描いたようなホラクに似つかわしくないほど爽やかだった。

「ジケイはどうしている。オドヤは元気か」

 今の班の内情を表す言葉を探しているうちに、スズシがトマラの袖を引いた。

「もう行かなくちゃ」

 空の色は更に薄くなっていた。スズシとトマラは惜しむような顔をした。

「仕方ないか。ジョウメイ、また会おう。ジケイやオドヤにもよろしくな」

 未練を感じさせる顔を見せて二人は立ち去り、やがて木立に紛れて見えなくなった。

 思いがけず会うことになった二人は、生きる場所も生い立ちも違う。けれど手立てがあるなら何とか再会したいと願う。朝に向けて暑くなっていく中で、二人への思いは別の熱を持ちはじめた。

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