第21話 土佐の夜

 家の前で、乙女が、心細そうな表情をして待ちかねていた。


父も母も龍馬も居なくなり、自分が置いて行かれたことに

腹を立てていたようだ。


しかし、龍馬を見るとすぐに機嫌が直った。


「りょうま りょうま 寒うないかえ」

上の兄弟達とは、ずいぶん齢が離れているので

乙女にすると、龍馬が自分に一番近い存在である。

夜も龍馬と寝る。

長兵衛と幸が二人を挟んで休む。

川の字が四画となる。

実に平和な土佐の夜である。


 徳川幕府の屋台骨は、その頃、既に傾きかけていた。

長い間の太平が、危機感のない権力を擁護していたのだ。


此処、四国の土佐も例外ではなかった。


 土佐藩の関心事は、毎年必ず襲ってくる時化、台風対策であった。

いくら二期作で米を増産しても、必ず大きな被害を受ける。


 長兵衛も時には、海や川の堤防工事の巡視に駆りだされた。

長兵衛の働きぶりは、誰しも認めるところであり

本町界隈でも地元の名士として、名を連ねていた。


 疲れて帰っても、龍馬や乙女に囲まれると

疲れが吹っ飛ぶ感じがした。


この幼子たちが、長兵衛と幸の生き甲斐であった。


 天保七年も大きな時化が三つも土佐を襲った。

秋口には、地震も二度起きた。


お城の石垣に思わぬ被害が出て、藩士総出で修理を行った。

その直後、再び前よりも大きな地震が起き

人々の不安を煽った。


それでも龍馬の満1歳の誕生頃には

小春日和の穏やかな日々が続いた。




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