第20話  天満宮参り

  天神橋を、龍馬を抱いて渡る長兵衛に、幸が付き添う。

絵に描いたような

この世の幸せが、そろり、そろりと歩いている。


 南の潮江から歩いて来た小母さんが、すれ違いざまに覗き込んで言う。


「げに、まっこと、きれいな赤ちゃんじゃあねえ」


長兵衛、これ以上ない笑顔でにっこり微笑む。

幸もつられて微笑む。


鏡川は、静かに二人を見守っている。

空は、真っ青な土佐晴れである。


「女の子じゃろ?」

「いやいや、男ぜよ」

「えーーっ、男の子?」

龍馬は、色が白くて可愛い。

よく女の子に間違われる。


天満宮に着くまでに、何と3人の方が声をかけてくれた。


龍馬は、生まれながらに、周囲に幸せをふりまく好運児であった。


宮地のおんちゃんが相好をくずしながら

「おうおう、よう来た。よう来た。龍馬元気かよ?」


神主の格好のまま、龍馬を抱いてくれる。


「重いのう。この子は、重みが違う。

 なにやら、ずっしりしちゅう」


「見た目より、かなり重いぜ。あしの腕が痺れちゅう」


「そうやろ。この子は、赤子と思えん貫禄があるぜ

 幸さん ようやった!でかした!」


幸は、頬を赤らめながら会釈した。


 この1年ほどの不安が消えて行く、何とも言えぬ

安心感が二人を包んでいた。


龍馬は、生まれながらにして極めて親孝行な赤子であった。




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