第13話 鏡川散歩

「ちっとは、歩かんといかんぜ」

家族の声を尊重して、幸は時々散歩に出るようにした。


 今日は、半里ほど先の産婆さんに行く。

長兵衛が一緒に行ってくれるというので

久しぶりに二人して、鏡川の岸を歩く。


 小春日和の穏やかな日差しが二人を包んでいた。

「どうぜ 按配は?」

「お陰で落ち着いちゅうぜ。有難いことです」

「乙女が、ゆんべ言いよったぜ。弟が出来たら

 任しちょきよ」

「ウフッ」


「男でも女でもどっちでもええ。丈夫で

 産まれてくれたら、それだけで」


「あたしゃあ、やっぱり男の子じゃと思う

 お腹の中で動く時に強さを感じるがよ」


「ま、神さんと、ご先祖さんに頼んじょいたら

 心配は要らんぜよ」


「ほんまや。もう此処まで来たらお任せよ。

帰りに天満宮、お参りして帰ろかね」


「うん、そうしよう」


 産婆さんは、もう20年以上お世話になっている方で

家族皆が信頼を寄せている、東のおばさんである。

枡形に産院を構えているが、いざと言う時は

夜でも来てくれる。

幸の胎教は、順調な経過をたどり、何の心配もなかった。


秋の紅葉を映して、鏡川はさらさらと流れる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る