第8話 チビ

 幸は、寝不足であった。

ゆうべの雨で子猫は・・・。


 いつもよりも早めに家を出て

二人して昨日の楠の根元に近づくと・・・。

籠の中に、黒の子猫が1匹だけ残されていた。

そっと両手で抱き上げると、かすかに、ニャーっと鳴いた。

長兵衛は、もう何も言わなかった。


籠に子猫を戻し、お腹の子供と同じように

大事に大事に連れ帰った。


 子猫は、幸が名付け親となり、チビと呼ばれるようになった。

かなり弱ってはいたが、女中頭が猫好きだったこともあり

日を追うごとに元気になって行った。


「げにまっこと、子猫と言うものは可愛いもので」

猫嫌いの長兵衛でさえ思わず微笑む愛らしさをチビは

家内中に振りまいてくれた。


幸も、離れの部屋にチビを連れて行き

一緒に寝るようになった。


大家族の坂本家にまた新しい家族が増えた。


赤ん坊の誕生は、11月の予定である。


土佐の猛暑が迫っていた。



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