前のエピソード――伍の戦 ≪ 査定する女㊦

◎ 画図百目鬼夜行【捌】

■ 柔術

　裸絞（はだかじめ）

『壱の戦 ≪ 相対する男』より。

　柔道や総合格闘技やプロレスなどの試合に頻繁に登場するポピュラーな絞め技。

　やり方は、相手の背後を捕り、一方の腕を相手の首に回し、その腕をもう一方の腕で閂（ロック）。場合によっては、対象の背中に負ぶさり、腹部に両脚を絡めることもある。

　ちなみに、この名称は柔道における正式名称であり、他の分野を見渡せば、

・スリーパーホールド

・チョークスリーパー

・バックチョーク

・リアネイキッドチョーク

・フロントストラングルホールド

　など、様様な名称で扱われている。

　気管を絞めて苦痛を与えることを目的とする『チョークスリーパー』と、頸動脈を絞めて脳への血流を遮り、意識を奪取することを目的とする『スリーパーホールド』は、元来は別物である。今節で使用されたのは後者。ただ力任せに絞めあげるのではなく、梃子の原理を利用し、相手に深い頷きの角度を取らせることで、無駄な消耗を招くことなく効率的に意識を断っている。

⊿ 画図

http://img.nanos.jp/upload/l/lioliolio/mtr/0/0/20190508093544.jpg

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◎ 画図百目鬼夜行【玖】

■ 鬼門陰陽流古武術

　抓術（そうじゅつ）

『参の戦 ≪ 最前線の男』より。

　鬼門陰陽流古武術の独自の牽制技。

　子供や老人などの体力的弱者にも可能な、いわゆる皮膚を抓（つね）るという一般所作だが、この技の場合、指の腹と指の腹とで抓るのではなく、爪の先と爪の先とで抓ることのみを良しとしている。もちろん、肉厚に抓るのではなく、わずか１㎜程度の厚みとなるように工夫しなくてはならない。

　試してみればわかる。メチャクチャ痛い。

　しかも、百目鬼歌帆の握力は片手で難なく林檎を潰せるほど。身体のあちこちに次次に画鋲（がびょう）を刺されるようなものである。五十嵐力弥（いがらしりきや）の皮膚は、恐らくは内出血だけでは済まなかっただろう。もしや脱兎と化したのも必然だろうか。

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◎ 画図百目鬼夜行【拾】

■ 八極拳（はっきょくけん）

　裡門頂肘（りもんちょうちゅう）

『伍の戦 ≪ 査定する女』より。

　中国武術の中でも極めて実戦的とされ、また屈指の破壊力を持つとされる八極拳において代表的な技。

　相手の胸部や腹部に向け、身体の内側から掬（すく）いあげるように肘打ちをする。とはいえ、肘で打つという印象ではなく、肘で体当たりをするという印象のほうが強い。小手先の技術ではなく、震脚（しんきゃく）を用いるなどして体現する総合技術といえよう。ちなみに、身体の内側から外側へと、裏拳を放つようにして肘打ちするものを『外門（がいもん）頂肘』という。

　八極拳は「見た目には綺麗だが実用的ではない手」という意味の「花招（huāzhāo）」を持たない、質実剛健な武門といわれている。伝説的な伝承者といえば、やはり李書文（りしょぶん）だろうか。二の打ち要らず、一つあれば事足りる──尾鰭（おひれ）がつけられてしまうのが伝説の宿命ではあるものの、しかし一撃必殺（ロマン）を語る上では絶対に欠かせない、夢のある、物語性の豊かな達人のひとりである。