黄昏から君を想う

画面に表示されるのはゲームオーバーの文字。何度も見たその画面を流してタイトルへと戻り、先ほど保存した選択肢の場面をロードする。選択肢は、残り2つ。

「分岐が難しすぎる」

思わず頭を抱えてしまった。

「こんなに難しいだなんて聞いてないよ」

「推理ものですからね。頑張ってください」

「スキップ機能搭載とはいえ、何度もゲームオーバーするのは精神的によくない」

「がんばれがんばれ」

突き放す声だ。慣れているとはいえ、今この状態で浴びせられるときつい。

「ちょっとくらい謎解きに協力してほしいなあ……なんて」

あまり期待をせず、彼にそう持ちかける。

「2番ですよ」

「答えがほしいわけじゃないんだけど!?」

言いつつ顔を上げ、彼の言うとおり2番目を選んだ。どうやら合っているようで、先ほどとは違う会話が展開される。

「なんで分かったの? すごいね」

「攻略サイト見ました」

「ろ、ロマンがなかった!」

「でも、そこの答えは簡単じゃないですか? 会話の流れからして見る前に2番だろうなって思ってましたけど」

「私が1回間違える前に言ってよ!?」

「攻略サイトはだめで、人の助言はいいんですか?」

「じ、実況とかでもコメント欄に助けてもらってることあるもん」

「はあそうですか。難儀ですね」

「次は頑張るから!」

「分かりました。それでは続きをどうぞ」

「うん……」

『あくまで私に非があると。きみはそう言いたいわけだね?

『どこまでもまっすぐな瞳だ。好きになってしまいそうだよ。うん? こんな時に冗談を言うなって? 確かにそうだね。では白状しよう

『私はその時間、そこの彼と一緒にバルコニーにいたよ。部屋にずっといると、どうしても気が滅入ってね。夜風に当たっていたんだ。これは本当だ、そうだよね、鮎川くん』

「ずっと思ってたんですけど、聞いていいですか?」

「なに?」

「その台詞読み上げ、恥ずかしくないんですか?」

「読み上げること自体に恥ずかしさはないんだけど、これを小林君に実況するのはちょっと気が引けてる」

「やめません?」

「そうだね。これはそんなに怖くなぎゃああああああ!?」

「うるさっ……先輩、どうしたんですか、大丈夫ですか」

「と……突然血文字で画面がびっしり埋まったからびっくりした」

「話の流れが読めませんね」

「鮎川君が壊れた」

「台詞が神経質そうだった人ですね。この閉鎖空間で、非がある者と認定されてしまったことが堪えたんでしょう」

「みたいだね……とりあえず三田さんが押さえつけてくれたよ」

「三田さんが有能なことはすごく伝わってきます」

「もしかしなくても三田さん、犯人分かってないかな!?」

「むしろ三田さんが犯人なのでは?」

「あっ……ああーーー!!」

「うるさいです」

「う、ごめん、つい」

「分かってます。で、本当に三田さんが犯人なんですか?」

「多分! そうだとしたら、あれもこれも辻褄が合うんだよね!」

「そうですか。さっきのが分からなかったのに、伏線はきちんと覚えてるんですね」

「ふふ。なんたって私は探偵だからね、ワトソンくん」

「……」

「ごめんってば」

「先が分かったことですし、先に進みませんか?」

「そうしたい気持ちは山々なんだけど、時間が時間だから寝ないと」

「……そうですね。おやすみなさい、先輩」

「うん。おやすみ、小林くん」



次の日、彼女は見事三田さんを犯人だと指摘する真相エンディングに辿り着いらしい。

「おめでとうございます」

「ありがとう! ありがとう!」

輝かしい笑顔で笑う彼女が愛おしい。

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