06:「許せませんっ! 死んでお詫びしてくださいっ!」

 「で、これ下手にぶった切ったら誘爆しそうでさ」

 『……これを見なさい』

 ラウラは、爆弾の内部のイメージを、遠隔交信テレパシーで送ってきた。

 遠隔透視リモートビューイング遠隔交信テレパシーの組み合わせ、のような技らしい。

 「おぉ、分かり易いな」

 『プルトニウムの周りを、爆縮レンズと起爆装置が覆っているのが分かるでしょう?』

 「なるほど」

 核爆弾がたまねぎのような層状構造になっているのを把握し、兄はうなずいた。

 『それを切り離しなさい。核爆弾は、かなり精密な構造よ。切り離してしまえば、臨界状態に達することなく無力化できるわ』

 「オッケー、分かった!」

 『といっても、起爆装置にも火薬が入っている。大雑把に切ったら、よろしくない結果になるわ。丁寧にやることね』

 「お、おう」

 さすがに核爆弾を解体した経験はなく、和也は少々緊張していた。

 「……」

 自分の体を自由落下するにまかせ、爆弾と併走する。

 パラシュートも何もない、スカイダイビングのような感覚――

 充分に集中力が高まった一瞬。オボロミユツを構え、彼は爆弾を薙いだ。

 「……こうだっ!」

 刀の物理力だけで切り刻むのではなく。

 和也は、超能力サイキックを利用した。

 爆弾が、その構造にそって割れるところをイメージすると、

 「よしっ!」

 現実が、その通りに変わる。

 爆弾は割れて、綺麗な断面を見せながらバラバラに落ちていった。兄は、ガッツポーズでそれを見送った。

 

 兄が、爆弾へ向けて急降下していたころ。

 妹は、B-52の背中に着地していた。

 「うぅっ! む、向かい風が……! 立ってられませんねっ」

 猛烈な風に襲われ、妹は四つんばいになって振り落とされまいとしがみついていた。

 「もうっ、まだるっこしいですっ! それっ!」

 妹は、超能力サイキック――身体強化フィジカルエンハンスメントを存分に利用する。

 足先が、硬くなるイメージ。そして、脚力が大きく強化されるイメージを思い描き、

 「やっ!」

 足先を、B-52の外装に突きこんだ。登山用ピッケルのように、B-52に食い込む。

 「まだまだぁっ」

 足場を確保すると、今度は腕をふりかぶる。殴りの連打で外装に大穴を開け、そこからB-52の内部に侵入した。

 「ふぅっ。これで、ゆっくりイジめてあげられますね。……あら?」

 妹が着地したのは、倉庫のようなところだった。既に存在を察知されていたらしく、兵士が二名、妹に銃口を向けている。問答無用で、発砲してきた。

 「きゃっ!?」

 撃たれる前に、敵を殴り飛ばす――という選択肢を排除され、妹は思わず顔を伏せる。

 そんなもので、銃弾が避けれるはずもない。数百発の弾丸が、彼女の体に命中した。

 「うっ、ううぅ……!」

 妹は、嗚咽を上げる。

 体を抱いて、うずくまってしまった。

 「な、何するんですか貴方たちっ! いきなり、女の子の体を突っつきまわすなんて、このヘンタイっ!」

 「――!?」

 兵士たちが、驚愕に目を見開く。

 妹のセリフの中身に、というよりは、妹が無事に生きているということに驚いたのだろう。

 彼女の体には、銃創ひとつない。血が出ている様子もなく、ただ服に穴が開いているだけだ。弾丸はすべてはじき返され、床に散乱している。

 極度に硬化された妹の肉体に、銃弾など通用しない。せいぜい、指でつっつかれた程度の刺激でしかなかったのだ。

 兵士たちは、悪魔でも目にしたかのように、狂乱して射撃を続ける。しかし、やはり妹を傷つけることはできなかった。

 「んっ、あはははっ、くふふふふふふっ! くすぐった、そんなところ突っつかないでくださっ……んんっ、んくぅぅぅっ!」

 顔を真っ赤にして、身をよじる、はじき返された弾丸で、機体は穴だらけだ。肝心の妹には、かすり傷ひとつないというのに。

 弾切れになったらしく、兵士たちは射撃を止める。

 呆然とした彼らに、妹は顔を赤くして怒鳴った。

 「……もう、もぉっ! 私に触れていいのは、兄さんだけですのにっ! 私の体をもてあそぶなんて……許せない、許せませんっ! 死んでお詫びしてくださいっ!」

 最大規模の身体強化フィジカルエンハンスメントをかける。そして妹は、こぶしを突き出しつつ前方に突進した。

 移動速度は瞬間的にマッハ5を超え、強力な衝撃波が妹の体を包み込む。

 鋼鉄よりも硬い妹は無事だったものの、兵士はそうはいかない。盛大に体の中身を撒き散らしながらバラバラになり、原型をとどめない肉の塊となる。さらには、B-52の外装が内部から破壊された。

 こぶしを、どこかに命中させる必要すらなく。

 パンチの風圧だけで、彼女は目標を達した。

 「……うわ~んっ、私、傷モノにされてしまいました! これじゃあ、兄さんのところへお嫁にいけませんっ! 兄さんに慰めてもらいますっ! 」

 涙をぬぐいながら、妹はB-52の床を蹴り破って、飛び降りる。

 落下していく彼女をよそに、しばらく慣性で飛行し続けるB-52。

 が、もはや飛行能力はない。ほどなく爆発し、無数の鉄塊へと変わった。

 

 「兄さん、にいさぁんっ! 私、わたしぃぃぃぃぃぃっ……!」

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!? ど、どうしたんだ。服、穴だらけじゃないか」

 飛び降りてきた妹を上手くキャッチし、再びお姫様抱っこする和也。しかし妹は、それでも機嫌を良くしなかった。

「銃を撃たれてしまって……私、こんなあられもない姿にされてしまったんですぅっ……!」

 「そ、そうか。そりゃ大変だったな」

 肉体は強化されても、服までは手が回らなかったのだろう。穴の開いた服のあちこちから妹の素肌が覗いている。兄は見つめていたい衝動を抑え、目をそらした。

 「あ、あとで、どっかで服とってこよう。それまではガマンしててくれ。でも、そんなになってまでよくやったな。偉いぞ、さすが俺の妹」

 和也は、妹の頭を軽く撫でた。すると、涙さえにじませていた妹は、ようやく笑顔を取り戻した。

 「ふふっ、兄さんに褒めていただいて、嬉しいですっ♡ 兄さんのために、がんばったんですよ? もっとなでなでしてください♡」

 「お、オッケー……」

 「きゃんっ♡ ふふふっ」

 高度約一万メートルを落下しながら、兄妹はイチャイチャを繰り広げる。

 その時、強烈な光と熱が周囲の空間を包み込んだ。

 「「……えっ!?」」

 まるで、目の前に太陽が現れたかのような、強烈な圧迫感。

 地上の人類が持ちうる最大火力の兵器――核爆弾の炎に、兄妹は灼かれた。

 

 時間をさかのぼること、約半日ていど。

 天の川銀河に属し、太陽系からも程近いところにあるオリオン座の恒星、「リゲル」の軌道上。

 軌道要塞施設の中央部、謁見の間に、一人の爬虫類人レプティリアンの男が呼び出されていた。

 彼は(爬虫類人レプティリアンにしては)細身の体を具現化し、優雅な足運びで玉座の方向に相対する。

 『ラザ=ゼユーだな。前へ出よ』

 『はっ』

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