第9話 誘拐

 痙攣をおこした子供は死んだ


 いつまでたっても呼吸している様子がなかった

 

それから、かすかな人の足音を聞きつけて隠れた


昼間見た若い男が、入って来た

 

男は、ランプをかざして周りを見て、泡を吹いている子どもを見つけた 


 

近寄って、脈を診て抱き上げ運び出した


子供の首がガクンと垂れて、吹いた泡が着物に着いた。

 

男は忌々しそうに舌打ちして懐の手拭いで泡をぬぐった


そして表情も変えずに小屋から出て行った。

 なぜだか凄惨な光景に映った

 それからあの、少年のそばを通るときに着物に手を入れた。

 

心臓の音を確かめたのだろうが、それが真に自分でも意外な行動をさせた


きっかけとなった


侍の姿が消えると同時に少年の体を抱えて走っていた


秋の終わりだったような記憶があるが、少年は額に汗を浮かべていた。

 

それが一層、真を焦らせ、闇の中を懸命に走った


 隠れ家についても目を覚まさなかった


真は長いことその顔を眺めていた。顔は端正でまだ子供のようなすべらかな

 

肌をしている。

 

抱いて来た時に気づいたが、着物をめくると片足は足首の手前で切断されて

いた。

 

着物を戻し顔を見た。


 唇、頬のくぼみ、のどに指を滑らせる、どこにも傷はなかったが腕に注射の跡が


いくつかあった、それがどういうことなのかわからなかったが、その寝顔を何時間


も見ていた。


  体をとうしての律動の脆弱さ、片足を失っていることを差し引いても美しい

と思った。

 

やがて少年が目を覚まし、自分を見る

 

真は、何とか怖がらせないようにする前に、少年が生きていること、これからも


生きてはゆかねばならぬことを詫びているような目をを真に向けた


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る