伝えたい思い


 お祓いの儀式の後響ちゃんを神社の社務所まで送り届けて貝楼閣に戻ると、時刻はもう夕飯どきになっていた。梅さんが用意してくれていたお夕飯を食べていつものように食後のお茶を用意しているとき、あたしは疲労のせいかさっきからずっと黙り込んだままの日高くんに思い切って話し掛けてみた。


「あ、あの。お祓いの儀式、お疲れ様でしたっ!!」


 あたしがぺこっと勢いよく頭を下げると、日高くんはすこし驚いたように目を見張る。


「………ああ…」

「お茶、どうぞっ」


 あたしが湯呑を差し出すと、日高くんはさっそく淹れたてのお茶に口を付けた。


「今日は緑茶じゃなんだ」

「あ、もしかして日高くんほうじ茶ダメだった?」

「いや。……ありがとう、おいしい。けどお茶くらい自分で淹れるようにするから、ののかはお腹の子のためにも無理せずにいてくれ」


 あたしのお腹を見ながらそんな気遣いをしてくれるから、うれしくて胸がきゅんってなった。


「ののか?どうかしたのか?」

「……あっ、ううん。ただ正直、あまり実感があるようなないようなキモチだったけど……日高くんはこの子のパパなんだなぁって、なんかじわじわ実感がわいてきて………」


 お腹越しに我が子を撫でながらそんなことを言うと、お茶を飲んでいた日高くんはきれいな形の耳朶を急激に赤く染め上げて、ゴフゴフと盛大にむせ始めた。


「日高くん、大丈夫っ!?」

「……………大丈夫だ。…………ただすごく今更だけど、ののかのお腹に俺の子供がいるのかとあらためて思うと、すごいことだと思って……なんか冷静でいられなくなるな……」


 日高くんは照れたように俯く。こみあげてくるうれしさをこらえているようなその姿を見ているうちにたまらなくいとおしくなってきて、あたしは座っている日高くんの背中に抱き付いていた。


「ののか……っ!?」

「疲れてるのにごめんなさいっ。今だけでいいの。ちょっとでいいから、こうさせてくれませんか……?だめ?」

「………俺がののかにダメとか言うと思うのか?」


 日高くんはあたしがひっつくのを無抵抗で受け入れてくれる。あたしの頬や額に、日高くんのやわらかい髪が触れていた。日高くんの体に巻き付けた腕には服越しにあたたかな体温が、鼻にはかすかに若木のような瑞々しい匂いを感じる。日高くんに触れてその存在を直に感じることにすごくしあわせを感じているのに、鼓動は苦しくなるくらい駆け足だ。


(お願い、日高くん……もうちょっとだけ……)


 自分からオトコノコに抱き付くなんてすごく恥ずかしいことなのに、今はどうしても日高くんとくっついていたかった。ホントは今日は早く日高くんを休ませてあげたいのに、あたしの体はなかなか日高くんから離れてくれない。あたしは日高くんをぎゅってしながらもう一度「ごめんなさい」と謝る。


「なんで“ごめん”なんだ?」

「だって日高くん、儀式の後からずっと難しい顔して黙り込んでいたから、よっぽど疲れてしんどいんだろうなって思って……。早く寝てぐっすり休んでもらわなきゃいけないのに、今引き留めちゃってるから……だからごめん」

「そんなに俺は疲れた顔していたか?」

「うん。なんか怒ってるように見えるくらい、さっきまでずっと固い表情してたよ」

「………悪い、気を遣わせたみたいだな」


 日高くんは考え込むように一度黙ったあと、不意に何かを思いついたように言った。


「ののか。もしかして………お茶をいつもの緑茶にしなかったのも、俺のためだったりするのか?」

「えっ……あ、えっと」


 あっさり見抜かれてしまったことが恥ずかしくて、あたしは黙り込んでしまった。今日の日高くんはほんとうにすごく疲れているように見えたから、カフェインが少ない飲み物のほうが夜寝付きやすかなと思って緑茶を避けたのだ。今のあたしに出来る、ささやかすぎる気遣い。得意げになって「日高くんのためにした」と申告するほどのことじゃないからあえて言ったりしなかったけど、日高くんはこんなちいさなことに気付いてくれた。

 うれしいけど、あたしが日高くんを好きだという証拠を本人に見付けられてしまったようでなんだか照れくさい。照れくさいけどなんだかそのこそばゆさに顔がにやけてきてしまうから、あたしはますます腕に力を込めてきゅっと日高くんに抱き付く。するとそんな浮かれたあたしとは対照的に、日高くんは固い声で告げてきた。


「………ののか。それ以上密着するのは勘弁してくれ。そろそろ離れてくれないか」

「あっ……そうだよね、ごめんなさい……」


 日高くんに振り解かれなかったからって、ちょっと調子に乗り過ぎたみたいだ。そりゃ疲れてるときにまとわりつかれても迷惑なだけだろう。反射的にぱっと手を解いてしまったけど、腕に感じていた日高くんの体温を自分から手放すのは結構さびしいもので、それが態度にも表れてしまっていたから日高くんは困ったように苦笑する。


「すまないが俺はののかほど無邪気で純粋な気持ちではいられないんだ。……好きな相手に触れられて冷静でいられるほどまだ大人じゃない」

「そんなの、あたしだって全然冷静なんかじゃないよ……っ!!」


 日高くんに触れたり触れられたりすると、胸がどきどきしてしあわせな気持ちが後から後から湧いてきて、どうにかなってしまいそうになる。ぜんぜんフツーじゃなくなる。そう思った途端に気が付いた。

 そういえば日高くんに「好き」と言ってもらったけど、あたしは自分の気持ちはまだ日高くんに伝えていなかった。いろいろなことがあったし気恥ずかしさもあって、あたしは“いつか”日高くんに気持ちを伝えることが出来ればいいなって、なんとなく思っていた。けれど“いつか”っていったいいつなんだろう。


 あたしの胸に、唐突にさっき情景が思い浮かんできた。お互いに思い合いながらも、気持ちを伝えあうことが出来なくなってしまった穂高くんと響ちゃんたちの姿。響ちゃんたちだって、まさか突然離れ離れになるだなんて思ってもいなかったはずだ。いつだって「好き」だと伝えることが出来ると思っていたはずなのだ。


(あたしは、このまま日高くんに何も伝えないままでいいの……?)


 自分への問いかけに、あたしは心の中でいいわけがないと強く思う。


(あたしも伝えたいことは“いつか”じゃなくて、“今”伝えたほうがいい。ちゃんと言っておきたい)


 これから言おうとしていることを思うと胸がどきどきしてくる。それでも伝えたい。ちょっと恥ずかしいから、あたしは日高くんの背後に立ったまま、その後頭部を見つめて口を開いた。


「日高くん。今日はほんとうに助けてくれてありがとう。日高くんはヒーローだね。いつもあたしのピンチのときに助けてくれる」

「ヒーロー?そんないいものじゃないよ、俺は。今日だって穂高と響の助けがあったから儀式は成功したんだ」

「そうかもしれないけど、日高くんがいなかったらあたし助からなかったよ。今日も、七歳のときも」


 日高くんがぱっと振り返ってくる。日高くんの視線を感じる顔面に熱いものを感じながらもあたしは話し続ける。


「あたしね、七歳のときも一度日高くんに助けてもらったことがあるの。海に引き込まれて溺れそうになったとき、海から引き揚げてもらって助けられたの。日高くんは覚えている?……あの時日高くんが助けた子はあたしなんだよ?」


 恥ずかしさと緊張で手が震えそうになりながらも、あたしはどうにか顔を上げて日高くんの目を見つめた。


「日高くん。あたしね、ほんとはその時からずっとずっと日高くんのことが好きだったの。今も好き。だいすき。……いろいろあってパニックにもなったけど、でもね、日高くんのお嫁さん役に選んでもらえたこと、うれしいよ。高校でせっかく再会できたのに、日高くんのことすぐに気付けなかったことがすごく悔しい」


 人生初の告白で、思った以上の緊張で頭の中は真っ白だった。何を言っているのか言えてないのか、それすらもうまく把握出来ないままあたしは話し続ける。


「あのね、それであたし……もうすこしオトナになったら、お役目じゃなくてちゃんとホンモノの日高くんのお嫁さんになりたい。日高くんにも日高くんの家族にもちゃんと認めてもらって、お腹のこの子と一緒に日高くんの家族になりたい。あっ、でも出来たら、お嫁さんになる前に、日高くんのカノジョにもなりたいの。……だからその、いろいろがんばろうと思ってマス」


 とにかく思った以上に告白っていっぱいいっぱいで、頭の中がふわふわして自分で言ってることが自分でもよく分からない。正直かなりパニックになってるみたいだからあまり見ないでほしいのに、日高くんはさっきから黙ってあたしのことを凝視している。


「あ、あのっ。以上です!う、と、あたし、お風呂の支度してきますねっ」


 なんだか恥ずかしさのあまりいたたまれなくなって急いでこの場を離れようとすると。


「………それって、俺が『結婚してくれ』って言ったことに対する、Yesの返事だと思えばいいのか?」


 あたしはもはや喋ることも出来ずにこくこく頷く。するとその途端、突然日高くんが両手で自分の顔を覆ったまま椅子から勢いよく転げ落ちた。


「きゃあっ、日高くんっ!?」


 床にどさっと身体を投げ出した日高くんに駆け寄るけれど、日高くんは顔を隠すように手を置いたままぴくりとも動かない。


「日高くん、日高くん!?どこか打った?痛くない?大丈夫っ??」

「…………ああ……痛いな……………」


 床に身体を打ち付けたらしくそんなことを日高くんは呟く。でもそれはまるで痛いからこそこれが夢ではなくまぎれもなく現実であるんだってことを確認して喜ぶような、どこか熱っぽい響きがあった。


「日高くん、起き上がれる?」

「平気だから。………もう一度ちゃんと言ってくれないか。俺のことどう思ってるのか」

「えっ」


 もう一度言わなきゃならないなんてそんなのはずかしすぎる。でも下から覗き込まれるように日高くんに見つめられると、そのどこか色っぽくていつもよりもオトコっぽい視線に思わずうっとりして口を開いていた。


「あたし、日高くんのことが好き。出会ったときからずっと好きで…………きゃっ」


 言い切った途端、強引に腕を引かれてあたしは日高くんの体に乗り上げて抱き付く姿勢になってしまう。


「ひゃっ、日高くん離してっ」


 自分からくっついたときはどきどきしてときめいたのに、日高くんの方から強引にくっつかされるとどきどきしすぎて苦しい。あたしはどうにか離れようともがくけれど、日高くんはいつもより強引にあたしの動きを抱き締める腕の強さで封じてしまう。


「ののか。状況ちゃんとわかってるのか」

「………わかってますっ、あたし重いでしょ、離してっ」

「そういうことじゃなくて。………今日も明日も明後日も、この家に親はいない。ずっとふたりきりだ。そんな状況で俺に告白なんてして、無事でいられるだなんて思うのか」


 耳元でささやく日高くんの声が低くて甘くて、吐息が熱っぽくて。まだ十六歳のくせに、ピンク色に染まっていくあたしの頭はとんでもないことを考えそうになってしまう。


「ののかは自分がどれだけあやうい状況にあるのか、自覚がある?」

「ひゃあっ」


 日高くんはあたしの動きを腕で封じつつも、あたしの背中を撫でてくる。皮膚の下に隠してあるスイッチを探り当てるようなその蠱惑的な指の動きに、何か甘い感覚が込み上げて来てあたしはぞくぞくしてしまう。


「ひ日高くん、それ、やめて……っそんなふうに触らないでっ」

「いいよ。けど今日俺をやり過ごしたとしても、明日は逃げられるかわからないんだぞ」

「………そ、そんなのいいの。……だってあたし、日高くんには何されたってかまわないから」


 あたしが言った途端、日高くんは怒ったようにあたしの体を抱いたまま体を反転させて上下を入れ替え、あたしを床に押し付ける。組み敷くかたちになったあたしをすごい目付きで見下ろしながら日高くんは言ってくる。


「馬鹿。…………だからののかは男をなめすぎだ。自分がどういう目に遭うのかわかっててそういうこと言ってるのか」


 日高くんは突然あたしの首筋に顔を埋めてきた。すぐに熱くぬめった感触が首筋に走る。


「あっ…ひぇっ…なにするのっ!?」


 それが日高くんの舌だと気付いてあたしは悲鳴をあげるけれど、日高くんはやめてくれない。それどころか甘いアイスクリームでも味わうように熱い舌で何度も何度もあたしの肌をなぞってくる。あまりのくすぐったさにたえきれなくなって身をよじって逃げようとするけれど、上から日高くんに伸し掛かられて体を押さえつけられているから動くことすら出来ない。それをいいことに、日高くんはしつこく舌であたしをイジメてくる。


「…やっ……おねがっ………やめて……っ」


 自分が耐えられる許容範囲を超えた刺激は、たとえ舌でくすぐられることであっても叩かれるのとおなじくらいつらいことで息があがってしまう。あえいでしまうほど苦しいのに、くすぐったさの向こうからだんだんと未知の感覚が近付いてきて、ざあっと鳥肌が立ってくる。頭の芯がとろけて、あたしのお腹の奥はじぃんと熱く痺れてきた。


「……日高くん、もう許してよ…………」


 あたしの声にはもう完全に泣きが入っていた。


「ダメ」

「…でもっ……やだ………なんかへんな感じなの……っ」

「ののかは俺には何をされてもよかったんじゃないのか?」


 日高くんはしれっと言い放つ。日高くんがこんな意地悪な人だとは思わなかった。ひどいと思うのに、同じくらいあたしは日高くんの仕打ちにうっとりしてしまっていた。好きなオトコノコに有無を言わさず自分の体をイジられるのは、想像以上にはずかしくてこわくて。………うしろめたくなるくらい気持ちがよかったのだ。

 日高くんはもだえるあたしを舐めるのをやめると、今度は首筋に唇を押し当ててちゅっと音を立てて強く吸ってくる。すこし痛みを感じるその刺激にすらあたしの口からは「ふあっ」とヘンな声が漏れてしまう。


(これって………もしかしてキスマークつけられたの……?)


 自分じゃ見ることが出来ない位置だけど、想像しただけでますます体が熱くなってしまう。


「隠さないと、これ丸見えだな」


 日高くんが付けたくせに、たった今唇を当てていた場所に指で触れながら日高くんは苦笑する。


「クラスの奴らに見られたら、間違いなく俺は木原たちに囲まれてボコられるんだろうな」


 物騒なことをなぜか愉快そうに日高くんが言うから、あたしはそんなのイヤだと首を振る。


「か、隠すもん。ちゃんと誰にも見つからないように隠しますっ、先生にも響ちゃんにも梅さんにもみんなに見つからないようにっ」

「ああ。けどあまり俺を煽ると、ののかの体じゅう隠しきれないくらい俺の印だらけになるよ?」


 まるで悪い子を叱るように日高くんに言われて、胸が勝手にきゅんとしてしまう。そんな自分がちょっと情けないけど、それも惚れた弱みだからどうしようもない。


「ののかのお腹の子が無事に生まれるまでは、キスもそれ以上のことも出来ないけれど……でもののか。俺が男だってことには変わりないんだ。それを忘れないでくれ」


 そういって日高くんは逆側の首すじにもちゅって吸い付いてきた。左右どちらにも絆創膏を貼ったらさすがに不自然すぎるから、痕をつけるのはやめてもらったほうがいいってわかってるのに、戸惑う心とは裏腹に日高くんのモノだと印をつけてもらった体は素直によろこんでどきどきしてしまっている。

 もしかしたら体の隅々まで日高くんに暴かれて見られて吸われて印を付けられてしまうことは、フツーにエッチをすることよりもずっとはずかしいことなのかもしれないのに、これじゃ本気で日高くんがあたしを印だらけにしようとしても、きっとあたしは抵抗できない。


(……あたしって、いつからこんなスケベな子になっちゃったんだろ……)


 そんなことを思った途端、はずかしさで目が潤んできてしまう。すると日高くんは自分のふるまいであたしが涙ぐんでしまったと思い込んだようで、急に強気な表情を崩してうろたえはじめた。


「ごめん、怖がらせた」


 日高くんはなだめるようにあたしの頬を撫でてくる。怖かった。日高くんに触れられると、今までの自分とは全然違う自分に変わっていってしまいそうで。


「…………俺、今全然ののかを大事にしてやれてないな。………ののかのことが好きなのに。ののかに好きだと言われてうれしいのに。……うれしいを通り越すと、なんかどうしようもなく乱暴な気持ちになってしまって………」


 自分の気持ちを扱いかねているかのように日高くんが悩ましげに呟くから、あたしはそんな日高くんも受け止めたくて自分からきゅっとその体を抱き締める。と、日高くんはすこしかなしげにため息をついた。


「ののか、話ちゃんと聞いていたか?………このままだと大事にしたくとも、ののかの純潔を十八歳まで守り通してやれる自信がない」


 ジュンケツっていうさいきんではあまり聞くことがない古風な言葉に、あたしの胸が反応する。それはたしか処女って意味の言葉だ。ちょっと前までは自分がそういうことを経験するなんてもっとずっと先のことになるだろうって思ってたし、好きな人と結ばれるロマンチックなシチュエーションに憧れつつも、痛いだろうなはずかしいだろうなって、ちょっとこわく思っていたはずなのに。今のあたしはこれから近いうちに日高くんの赤ちゃんを産んでパパとママになるのに、まだしばらくはそのハジメテの経験を日高くんと分かち合えないことにちょっとがっかりしてしまってる。


「ののか。たとえののかが結婚に応じてくれるのだとしても、正式に入籍出来る歳になるまでは手を出さないのが筋だと思っていたけれど………正直目の前にののかがいたら、自分がそこまで聖人君子でい続けられるとは思えない。どうしようか?」


 困り切った言葉とは裏腹に、日高くんはやさしくあたしの右手をとって、まるでお姫さまにするように恭しくその甲にキスをしてくる。まるでまだ唇にはできない代わりだとでもいうように、何度も何度も甲に唇を押し当ててくれる。あたしのことがとても大切なのだと訴えるようにやさしく触れてくれる。込み上げてくる甘い気持ちをどうしようもなく抑えられなくてあたしは言った。


「………日高くん、好きだよ」

「まったくののかは。……そんな顔して結構鬼だよな………」

「鬼?……そんなことないもん……」

「だったら俺に理性と我慢比べさせるようなことを言うな。本気で道踏み外しそうになるから。………今日ほど自分の身に皆礼の血が流れていることが呪わしくて有難く思ったことはないな」


 どういう意味なんだろうと疑問に思っていると。


「海来玉をののかに授けたから、今はののかと深く触れ合えないけど。……でもそれがあるからこそ、どうにか今の俺は暴走せずにいられているから。……ののかを無理やり襲うなんてせめて最初だけはしたくないから、我が子っていう抑止力があって助かったとか、思ってる……」


 日高くんは湧き上がってくるいろんな感情に翻弄されているらしく複雑な顔をするけれど、あたしとおでこをくっつけて目を合わせると言った。


「俺もののかが好きだ。………ののかと、早くキスがしたい」


 その一言だけですべてが伝わってくるような熱烈さに、あたしも日高くんを見つめ返してキスのかわりに強く頷いた。






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