伊津子比売

 夜の貝楼閣をひとりで歩くのはいつも怖くて怖くてたまらなかった。でも今は日高くんを助けたいという一心に突き動かされ、怖がる間もなく階段も廊下も駆け抜けて気が付けば玄関まで来ていた。


「あれ………開かない……?」


 外へ飛び出そうとしたのに、引き戸は左右に引こうとしてもびくとも動かない。いつも朝通学のためにこの戸を開けるときは、なんの苦もなくなめらかにスライドするのに。


「どうして……!?………急いでるのにっ……」


 いつも女中役さんたちの帰宅後、貝楼閣の施錠をしているのは日高くんだ。あたしはすこし考えてから、ぎゅっと目を閉じて意識を集中させて、それからそっと目を開いてみた。


「なに……これ………っ」


 玄関の引き戸には異様なものが絡みついているのが。蒼い光だ。それがまるで固い縄のようにきつく引き戸に巻き付いている。どうやらそれが戸が開くのを阻止しているようだ。


「なにこれ………もしかして日高くん、鍵だけじゃなくて『神力』も使って玄関が開かないように二重にロックしてるの……?」


 この貝楼閣に泥棒なんてまず入り込まないだろうし、なんでここまで厳重に鍵を掛ける必要があるのだろう。


「何かこわいもの……異形とかが入り込まないための結界……?」


 疑問に思ったけれど、今はその答えをじっくり考えている場合じゃない。どうにかこの光の縄を解いてここを開けなきゃいけない。もう一度引き戸を押してみるけれどやっぱり動かなくて、仕方なく引き戸を蹴破ろうとしてもダメ、傘で叩きつけてみても強い力に弾き返されてしまう。引き千切ろうにも、それはことは出来てもあたしにはことは出来ない。


「もう……っ………日高くんが危ないってときに何してるのよ、あたし……!!」


 こうやってぐずぐずしている間にも、日高くんの体からは命が流れ出ているのだ。その光景を思い浮かべただけで、焦りと絶望感と自分の無力さぶりに心がぐちゃぐちゃになって、悔し涙がこぼれそうになってくる。


「………こんな戸の一枚くらい、破ってやるんだからっ」


 もう一度力任せに引き戸を蹴破ろうとすると、あたしの視界にあのちいさなオレンジ色の光が横切る。


「……蛍火………??」


 まるで「こちらにおいで」というように蛍火は廊下の奥へ飛んでいく。あたしが靴を履いたままその後を追いかけていくと蛍火は台所に入っていき、いつも食材を届けに来てくれる『御用聞き役』のおにいさんが出入りするお勝手口まで進んでいく。そして蛍火はお勝手口のドアについているちいさな鍵穴にすぅっと入り込んでいった。その途端鍵穴が蒼く光り、ドアノブに触っていないのにガチャリと音を立ててドアが開いた。その隙間からは夜の真っ暗な海が見える。


「すごい……蛍火、君が開けてくれたの?」


 あたしが聞くと、頭の中に声が突然誰かの声が聞こえてきた。


『…今…この子…開錠を手伝っ…もらっ…んだ……』

「穂高さんっ!?」


 途切れがちのその声は、たしかに穂高さんの声だった。


「ありがとう、穂高さんが開けてくれたんだね、いってきます!」

『待って!!……ののかちゃ……気をつけ………っ……』

「え……なに?ごめんなさい、よく聞き取れなくて………」


 感覚が開ききってないせいなのか、霊体の穂高さんの声は今ははっきりと聞こえないし、姿なんて見ることすら出来ない。


『…聞いてっ……俺は貝楼……から…出られ……………外には伊津………絶対に……っちゃダメだ………っ!!』

「穂高さん?」

『気を付け……だ……っ!!……』


 何かをあたしに警告してくれているみたいだけど、意識を集中させても全部の言葉は聞き取れない。でも今はここで立ち止まってるわけにはいかなかった。


「待っててね、穂高さんっ。とにかくいってきますっ。日高くんは必ず助けるから!」


 あたしは今もおそらくあたしの周囲のどこかに浮かんでいる穂高さんに向かってそう宣言すると、いろんなモノたちが闇に息づく屋外へと飛び出していった。





 お勝手口を出た先は貝楼閣裏手の崖側になっていて、崖越しに夜の海が見える。外灯らしい外灯がないから辺りは今まで経験したこともないくらいの暗さで足が竦んだ。でも震える足をいさめて、壁づたいに歩いて行って玄関先まで周り込む。そこから暗い闇の中に細く長く伸びた参道の先、宮司さんや斎賀家のひとたちが住んでいる社務所がある方向を見定めると、あたしは走り出した。

 貝楼閣は海来神社の境内の中でも本殿や社務所よりかなり奥まった場所にあり、しかも外灯もほとんどない。だからとにかく夜は暗く、目がその闇になかなか慣れてくれない。参道の周りは鎮守の森から続きになっている楠の林で、背の高い古木の枝葉に空は覆われて月すらも見えない。草木も眠るといわれるこんな真夜中に一人でこの暗闇の中を走り続けるのは怖くて怖くてたまらなくて、どうにか必死で前に前に進むけれど足が震えて縺れそうになる。するとそんなあたしに並走するように蛍火がすうっと飛んできた。


「………あたしと一緒に行ってくれるの……?」


 走りながら尋ねると、蛍火は「うん」というように上下に振れる。


「……ほんとに?……ありがとう……!」


 とてもちいさいけれど、蛍火のやさしさが伝わってくるような温かなオレンジ色に励まされてあたしはただひたすら走り続ける。走って走って走って。けれどそのうち、何かがおかしいことに気付いた。それなりの距離を走り続けていると思うのに、社務所の玄関先にあるはずの外灯の明かりがちっとも見えてこないのだ。


(暗くて視界が利かないから、距離感が上手く掴めないだけだよね……?)


 自分が思っているほど進んでいないのだろうと思い込むことにして、さらに走り続ける。けれどどれだけ息を切らせても楠林の景色は全然変わらない。社務所へ続く小道は、入り口は直線だけど途中で山の地形に沿って大きくくねるはずなのに、どれだけ進んでも道は直線のままだ。まるで同じ場所を何度も何度も繰り返し通っているかのように。


(……この感覚、夜の貝楼閣をあたしひとりで歩いているときみたいだ……)


 もしかして貝楼閣だけじゃなくて、夜の海来神社の境内も次元が入り組んで生き物のように変化するのだろうか。だから穂高さんはあんなに『気を付けて』と必死な顔して警告してくれてたんだろうか。


 あたしは一度立ち止まって呼吸を整えると、これから行こうとする細い道をじっと睨む。あいにくあたしは何の力もないただの人だ。だったらとにかく走って走って走りまくってこの迷路みたいになってしまった夜の道を突破するしかない。

 再び走り出そうとあたしは拳をぎゅっと握り締めて気合を入れて、一歩を踏み出そうとしたそのときだった。すぐ傍に浮いていた蛍火が、急に驚いたようにぴくんと小さな体を跳ねさせて、怖がるようにあたしのパジャマの中に入り込んできた。


「きゃっ、どうしたのっ!?」


 蛍火の様子にあたしもちょっと怖くなって辺りを見渡した。そのとき、あたしは声すら出せずにその場に固まった。あたしが行こうとする道の前方、すこし離れたところに誰かがいた。その姿は闇に溶けているからはっきりとは見えない。でもたしかに誰かが。怖いから見たくないのに、まるで魔に引かれるように目が離せないでいると、視線の先、暗闇の中にじわじわと淡い光が滲んできた。瞬きすら出来ずに目を見開いていると、その光は次第に輪郭を結び、やがてはっきりとしたひとつの形になっていく。


 -------人だ。あたしの目の前に現れたのは、幼い女の子だ。


 たぶん歳は小学校の二、三年生くらいで、神社の天井絵に描かれていた天女様みたいなひらひらとした着物のような不思議な服を着ていて、髪の毛は肩口でまっすぐに切り揃えられている。顔立ちはすごく整っているけれど、にっこりと幼く子供らしい笑みをたたえているので、きれいというよりすごく可愛らしい印象だ。でも普通の子供なんかじゃない。女の子の全身は神秘的な白金色に発光している。明らかに人ではないと思われるけれど、異形のあやかしにしては美しすぎる。

 どちらかというと日高くんや穂高さんに似た存在のようだけれど、ふたりからこんなちいさな女の子の存在は今まで聞かされたことがない。だから皆礼家に関わりのある子かどうかわからない。誰なのか気にはなるけれど、今は一刻を争うときでこの子に関わってる時間はなかった。だからあたしは女の子の前まで行くと早口気味に話し掛けた。


「ごめんなさい。今、とても困ったことがあって急いでいるの。だからここを通してっ」


 細い道を塞ぐようにして立っているその子にいうと、その子はクスクスと笑い出す。退いてくれる様子がないから「ごめん」と一言断ってからその子の脇を通り抜けようとすると、すれ違いざまに手を掴まれた。その瞬間、あたしは悲鳴をあげそうになった。あたしの手を握ったその子のちいさな手は、すごくすごく冷たかったのだ。生き物が持つ体温とはあまりにもかけ離れた冷たさに、掴まれた手首から心臓までゾっと怖気が走り抜けた。しかもちいさな子の握力とは思えないくらい、掴む手の力が強い。まるであたしを引き寄せ離すまいとするかのようだ。こんなこと、前にも経験があったような。


(………あれ………っ??)


 今一瞬、あたしは何かイヤなことを思い出しそうになった気がする。けれど、それが何であるのか考えようとしても、その何かは思考からするりと逃げて考えれば考えるほどにうまく思い出せなくなる。


(……ただの思い過ごしだよ、きっと……。忘れるくらいたいしたことじゃないに決まってる)


 背中が粟立つようなイヤな予感には気付かないフリをして両手でそっと女の子のつめたい手を振り解くと、女の子はあたしをじいっと見つめてくる。いや、目を向けているのはあたしの顔ではなく、あたしのお腹だ。なぜかいとおしそうな目をしてそこを見つめると、女の子はうれしそうに口を開いた。


『……おねえさんには、やや子がいるのね』


 幼い女の子らしい、ちょっと甲高いけれど澄んだきれいな声だ。


「………ややこ??」

『とてもとてもちいさくて、なんてかわいらしい子なのでしょう』


 そう囁いた女の子はとても無邪気な顔で喜んでいる。あまりにもその表情が可愛らしくて、すこしこの子のことを警戒していたあたしも、そんなに悪いモノではなさそうだと思えて肩の力がちょっと抜けた。


『それにこのやや子はとてもいい子みたい。……いいな、伊津子いづこもこの子が欲しい』


 どうやら『いづこ』というのがこの女の子の名前らしい。なにを言っているのかいまいち分からないけれど、もしかしたら『ややこ』というのは、あたしのパジャマの奥に隠れてしまっている蛍火のことを言っているのかもしれない。


「いづこちゃん、この子がの?」

『もちろん見えます。この子が生まれてくるときの姿も、大きくなったときの姿も。……とてもやさしくきれいで、すてきな子。……ねえおねえさん、この子をわたくしにちょうだいな』


 言われた途端、蛍火はまるで「ダメ」だと訴えるように突然あたしのパジャマの中で暴れだす。


「ちょっと、蛍火ってば、」


 こんなに必死にならなくても、いつもそばにいて助けてくれる蛍火を会ったばかりの他人になんて渡したりしないのに。


『ねえおねえさん、ちょうだい。伊津子、自分よりちいさな子の面倒をみてみたかったの』

「………ごめんね、この子はいづこちゃんにはあげられないんだ。それにあたしね、先を急いでいるの」


 ちいさな子供らしく無邪気におねだりをしてくるいづこちゃんにはっきりとお断りをすると、いづこちゃんは落胆したような顔になり、でも何かいいことでも思いついたのか、すぐにぱあっと顔色を明るくさせた。


『そうだ。じゃあおねえさんでもいいです。おねえさんを伊津子にちょうだい』

「あ、あたし?」


 いづこちゃんは欲しいおもちゃを前にしたときのように、にっこりほほ笑む。


『だっておねえさん、よく見たらとてもかわいらしい方で、人なのにたましいも濁りがなくてとてもきれいなんだもの』


 いづこちゃんはそう言うと、うっとりした顔であたしを見てくる。


『力はぜんぜん強くないけれど、ずっと見ていたくなるほどすごくあったかい色にかがやいている。………伊津子はおねえさんのやや子もおねえさんのこともとてもすき。これからきっともっとだいすきになるわ』

「……………ありがとう。でもあたし、どうしても行かなきゃならないから」

『どうして?もうすこし伊津子とお話しましょ』

「ほんとにごめんねっ、今晩だけはどうしてもダメなの!」

『いやよ。なんでいっしょにいてくれないの?どうしてなの………?』


 駄々をこねはじめたいづこちゃんは不満げにあたしを見上げてくる。その目がすっと鋭くなった。


『おしえてくれないならもういい。伊津子が勝手にからね?』


 そういってあたしの目に焦点を合わせた瞬間、彼女の目がまるで光を放ったかのように輝きだした。


『……………。貝楼閣……………日高が………倒れている………』


 突然正体不明の女の子の口からその名前を聞かされて、あたしの心臓は痛いくらいに跳ね上がった。


『日高、神力が流れ出てる………狐が二匹、止めようとしてる………でも無駄なこと……あんな下級使役なんかでは………』


 伊津子ちゃんは何もない宙を見つめながら、まるで今その光景が見えているかのように喋り続ける。


『穂高、日高の傍にいる。日高を心配している……だからおねえちゃんに託して外に送り出した………ああ、でもおねえさんは頼まれたからじゃなくて、なによりおねえさん自身の意思で日高を助けようとしている………』


 あまりに的確に状況を言い当ててくるものだから、この子が特別な力を持った子なのだとあたしは確信した。


「ねえいづこちゃん、もしかしていづこちゃんも神力が使えるの?!」

『もちろん使えるわ。……おねえさんは斎賀の潔純きよずみを頼ろうとしてるみたいだけど、日高はだいぶ無茶なことをしたから潔純の力でも処置にかなりてこずるはず。だからこれを使ったほうが手っ取り早いわ』


 そういうといづこちゃんは突然あたしに向かって手を差し出してくる。そのちいさな手のひらがじわりと光りだし、何もなかったはずのそこに皮膚の奥からにゅるりと光の玉が現れた。


「なっ………なにこれっ!?」

『これをおねえさんにあげる。日高に飲ませてあげて。そうしたらもう大丈夫よ』


 手渡されたそれを受け取ると、光の玉は固くも柔らかくもなく不思議な感触であたしの手の中に納まる。これが何であるのか分からないけれど、それに触れているうちにあたしの目は暗闇なのにはっきりと周囲が見えるようになっていき、風で揺れる梢の音や周囲に漂う土や木々の匂いもはっきりと感じられるようになっていく。そしてそこかしこに蠢いている異形の気配までもが、だんだんとはっきりと感じ取れるようになっていった。

 どうやらいづこちゃんの手のひらから生み出されたこの光の玉に、強い力が宿っていることは間違いないようだ。その証拠にこの玉に触れているだけであたしの感覚は鋭く研ぎ澄まされていき、今ならあたしも神力が使えそうだという不思議な万能感まで湧いてくる。この光の玉があればきっと日高くんは助かる。


「ありがとう、いづこちゃん!!あたし、行くね。さっそく日高くんに飲ませてみるっ」

『待って、おねえさん。その“海玉”があれば、そんなに急がなくても日高は助かるわ』

「でも、」

『おねえさんをそんなに心配させるなんて自業自得なんだから、悪い子の日高なんてひと晩くらい苦しませておくといいわ。死にかけたとしても、海玉さえ飲ませれば大丈夫なんだから。だからこれから伊津子と朝までたくさんあそびましょ』


 いづこちゃんはなんの悪意も感じられない笑顔で言ってくる。


「でも……あたし、日高くんを苦しませたままじゃ楽しく遊ぶなんて出来ないよ………」


 でもさすがに手助けしてもらっておいて、このまま何もせずに帰るわけにもいかないだろう。だからあたしは自分からその言葉を言い出してしまった。


「だからね、別の日になら………」


 遊んでもいいよと言いかけた途端、パジャマの中で皮膚がチリッと一瞬痛んだ。びっくりして襟ぐりから中を覗くと、胸元のあたりで蛍火がまるで動揺したかのように忙しく上下に揺れていた。


『うふふ、おねえさん、ほんとう?別の日なら伊津子とあそんでくれるの?』


 動き回る蛍火に気を取られて「うん」と生返事をすると、その途端に喉がキュッと縄で締め付けられたかのようにほんの一瞬だけ苦しくなった。


『おねえさん、“お約束”だよ?』


 いづこちゃんは急に表情を消して静かな声で確認してくる。いづこちゃんは顔立ちが整っているだけに、真顔になると子供なのにひどく酷薄そうに見える。笑っているときとのあまりにも印象の変わりように、また背中がぞくりと粟立つ。


『今、おねえさんに“お印”つけたから、伊津子とのお約束、やぶっちゃいけませんよ?』


 いづこちゃんが『おしるし』と言った途端、またあたしの喉が見えない首輪を絞められたかのように一瞬苦しくなる。まるで光の玉をもらった代償に、なにか絶対に渡してはいけないものを差し出してしまったかのような。なぜかそんな不安があたしの心に重く纏わりついてくる。


『伊津子、ずうぅっとおねえちゃんがほしかったの。だからお約束ね、おねえさん。三日後の夜にかならず伊津子のところにあそびにきてね?』


 なぜなのか。どうしてなのかわからないけれど、ここで返事をしてはいけない気がした。だから口を閉ざしていると、だんだんと息が苦しくなってくる。


『おねえさん、お返事は?お約束してくれないならいますぐ“連れていく”けど、いいの?』


 苦しい。すごく息苦しい。まるで目に見えない首輪でギリギリと喉を締め上げられていってるみたいだ。でも、返事はしちゃいけない。そう思うのに、喉を変形させるような力で圧迫されて、苦しさで目からは涙が、半開きになった唇からは涎が流れ出ていく。

 そのまま気が遠くなっていくのに、気を失う直前の絶妙のタイミングで喉を絞める力を弱められ、咳き込みながら肩を大きく上下にして呼吸を整えていると、また再び喉を見えない何かで締め上げられていく。そして苦しみの限界までくると、また力を緩められる。それを何度も何度も繰り返された。

 何度目かに喉を緩められたとき、ゴホゴホしながらいづこちゃんを見ると、いづこちゃんはとてもたのしそうな顔をして笑っていた。生きている虫の足を一本一本もいで喜ぶ、善悪の区別もつかない子供のような、残酷で無邪気な表情だ。もしかしたらこの子は、うっかりあたしくびってしまっても、なんの罪悪感も感じないのかもしれない。この境内の小道に壊れたおもちゃのように投げ捨てられた自分の体を想像した途端、あたしは恐怖のあまり頷いていた。


「………っ……た………約束、………する……から……っ……!!」


 生理的な苦しみで涙をこぼしながら承諾の言葉を口にすると、その途端につむじ風のような光の流れが巻き起こって、いづこちゃんの体を飲み込んでいく。


『うれしい!!おねえさん。お約束だからね。……お約束を破ったらこわいことがあるのを忘れちゃだめよ?』


 その言葉を最後にいづこちゃんは白金の光とともに闇の中に姿を消し。そしてあたしの意識もそこで途切れた。






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