第2話


「教授」

「なんだね、スフィア君」

「教授の研究費って無くなったんですよね」

「そうだが」

「…なんでこんなに忙しくなってるんですか?」


 決まってるだろ、あの豚のせいだ。ヘリオス副教授、やってくれたな。恩を仇で返すとはいい度胸だ。


「ふん、まぁこの程度のデータ解析なら、私にかかれば仕組みさえ作ってしまえば楽勝だ」


 ドアをノックする音がする。誰だ。


「ヘリオスです。フィッツ教授はいらっしゃいますか」

「ちょうどよかった。解析結果が出たところだ」

「もう出来たんですか!流石ですねフィッツ教授。これなら夏の学会に間に合います」


 ちょっと待って、今6月だよ間に合うの?フランシス君、そこの豚にちょっとスケジュール確認してほしいんだが。


「あとですね、こちらの解析もお願いしたいんですが…こちらはロ…フランシス先生が手間取ってる相関解析なんですが」

「多変量解析か!パラメータどのくらいを考えてる」

「9種類です…」

「疑似相関に引っかかってまともに進まないんです」

「かなり多いな…流石に時間をくれ」

「わかりました。こちらはそこまで急ぎませんので」

「よろしくお願いします」


 2人が帰ったあと、ふと思った。あれ、仕事また増えてないか?というよりリンネル研はどれだけデータ解析抱えてるんだ?私がやらなかったら間に合わなかったんじゃないか?


 ちょっと前にヘリオス副教授と飲んだ時…魔術研究所だったか…どこかで見た顔がいた気もするがまぁいい。あの時調子に乗って研究費のことを喋ったな。…まさか…点と線が繋がってくる。


「あ、の、ぶ、たあ!」


 しかしそうは言っても仕方ない。実際無茶な研究費の取り方をしようとしたのは事実だ。リンネル研は放置しておいたら最悪潰れてたかもしれない。彼は彼なりにやるべきことをやっているのだろう。…被害がこっちに来なければよかったのだが。リンネル研は予算潤沢だし、副業で冒険者やってるし、カネのパワーはある。そしてこちらはカネなしだ。


「…資本主義の豚め!」

「最初っから危ない橋を渡らなければよかったでしょうが!」


 ぐうの音も出ないがぐうとくらいは言うべきだろうか。


 ---


 深夜になってやっと仕事が終わり、うちに戻るとジャックがまだ勉強していた。


「勉強するのはいいのだが、根を詰めすぎるなよ」

「…」


 うちの長男は親バカを差し引いても文武両道にたけているのだが、一点だけ問題を抱えている。リンネル研に行く気満々であると言うことだ。


 ジャックはヘリオス副教授とフランシスくんに傾倒している。確かに彼くらいの若さではあの二人に惹かれるのは仕方ないだろう。バランスの良い有能さのヘリオス副教授、尖った才媛のフランシスくん。性格も穏やかなジャックには合っているのかもしれない。


 しかしだ。


 息子にはせっかくなら私の研究を継いでもらいたいと思っていたのだ。一番有能なジャックに。


 あと、私は息子には嫌われているようだ、若干。

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